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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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10

 

 国を落とされた事実に、各国は次々と防衛に励んではいるが、何処も魔王を討ち倒さんとする者が出てこないのは如何なものか。


 先ずは防備を固めてからというのは分かる。しかし冒険者も目立った動きを見せないのはどうだろう?


 ガストールが言うには、明らかに自分より格上の存在がいる所へ、態々殺されに行く馬鹿はいないとの事。せめて魔王に勝てるかもという思いを抱かせてくれる旗印が必要なのだそうだ。


 つまりは勇者候補、もしくは勇者を台頭に勢力を集めるのなら、冒険者もそれに乗っかってくるというところか。それならあのオリハルコン級冒険者でも良いと思うんだけど…… 彼等も今何処で何をしているのやら。


 勇者候補達の力を合わせるというクレスの考えは、あながち間違ってもいないようだ。しかし、その者を抱えている国はそう易々と手放したりするだろうか? どこも自国を守るのを最優先させそうな気がするよ。






 正月が終わって、皆普段通りの日々を過ごし始める。いや、もう戦争は始まっているから、普段通りとはいかないか。


 堕天使達が集めてきた情報では、続々と魔王の下へ魔物達が集まって来ているらしい。これ以上魔王側の戦力を増やさないよう、冒険者や各国の兵士、騎士達が魔物狩りを大々的に行っているが、大した成果は見られない。


 やはりまだ戦力が整っていない内に、全国から有志を募って魔王討伐軍を結成したらとは思うが、そう簡単にいかないのが現実だ。だからこそ勇者の存在が必要だと言うのに、その肝心の勇者様は暫く決まりそうもないし、そりゃ守りを固めるしかないよな。



 あれから防壁の建設は目立ったトラブルもなく順調に進んでいる。完成が見えてきたと同時に、道路や下水道等のインフラ工事にも着手し始めた。後は簡易的な家を建てれば、難民達を受け入れる準備はほぼ完成と言ってもいいだろう。


 しかし、工事も途中だと言うのにちらほらとインファネースに避難してくる人達が出てきた。そんな人達には、住む場所を提供する代わりに工事の手伝い等をしてもらっている。


 シャロットに聞いたところ、本格的に戦火がこの国まで広がる前に、比較的安全だと信用出来るインファネースまで逃げて来たのだそうだ。他にも同じ理由で此処まで来る冒険者も多い。


 その迅速な判断と行動に関心するよ。そこまでインファネースが有名になっているという事なのだろう。こんな世情じゃなければ素直に喜べたんだけどね。はぁ…… と店のカウンターに立ち大きな溜め息を吐くと、それにつられたのか別の溜め息が聞こえてくる。



「そちらも何か悩み事ですか? 」


「まぁ、の…… 魔王の影響なのか分からんが、海の魔物共が異様に攻撃的になりよって、船乗りの被害が増えて来ておってな。漁獲量が例年より大幅に下がっておる。人魚達に護衛を頼んで海に出てはおるが、魔物に邪魔されて魚が思うように獲れんのじゃよ」


 東商店街の代表であるヘバックが、品良く整えられた髭を撫でながら力なく言葉を吐く。心労のせいかちょっと老けたようにも見える。


「仕留めた魔物が食べられるものだったら良いんですけどね」


「まったくじゃよ。魔核や骨、皮等の素材は高く売れるんじゃが、身は固いうえに臭くてとても食用には向かん。こんなのが長く続けば、他国から魚介を仕入れるなんて事にもなりかねん。そんな事になれば恥ずかしくて街から出られんぞい」


 貿易と漁業を営む都市で、魚が獲れないほど恥ずかしい話はないからね。漁師組合もこの事を深刻に捉え、解決に尽力しているらしい。


「それで、私に何か頼みがあって此処に来たのでは? 」


「…… 気付いておったか? 」


 珍しく店に来たと思えば、困っていますとこれ見よがしにテーブル席で居座られたんじゃ嫌でも気付くよ。


「いや、ライル君も忙しいのは重々承知なんじゃが、どうかこの老いぼれに力を貸してくれんかの? 」


 まぁ、俺も暇ではないけど? 特産でもある魚介が獲れなくなるのはインファネース全体の問題だから協力するには吝かでもない。


『む? 正月が過ぎてから一段と店は閑散としていて、我には暇そうに見えるが? 』


『おい! こういう時は余計な事は言わずにそっとしておくもんだぜ? 相棒だって分かってて言ってんだからさ』


 くっ…… テオドアの気遣いが目に染みる。そう、ギルが指摘したように何時もの値段に戻った途端に客が来なくなり、暇すぎてシャルルなんか向こうでこっくりこっくりと船を漕いでいる始末。



「はぁ…… まぁ、受けるかどうかは別として、取り合えず話を聞かせてくれませんか? 」


「すまんの。実は、魔物の被害で多くの船が使い物にならなくなってしもうて、新しいのをこさえるんじゃが…… 従来の魔物避けでは効果が薄くての。船と一緒に新しく、もっと強力な魔物避けの魔道具を作って欲しいのじゃよ」


 え? 新しく魔道具を作るって、何でそれを俺に?


「お前さんの疑問も分かる。じゃが、今この国では魔術師が不足しておるのは知っとるじゃろ? インファネースにいた魔術師もゴーレムを引き連れて町や村を守っとるし、他の国へ輸出する結界魔道具の製作や何やでもう手の空いとる者はおらなんだ。そこでシャロット嬢の顧問魔術師であるアルクス君に無理を承知で相談したところ、お前さんの協力があれば出来なくはないと言われての」


 アルクス先生…… 確実にギルの知識を当てにしているよね? でも、従来よりも強い物に改良すれば良いだけだろ? それならそんなに時間も掛からない筈。


「分かりました。インファネースの未来の為に、微力ながらお手伝い致します」


「おぉ! 受けてくれるか! 」


 嬉しそうに破顔したヘバックは明日、領主の敷地内にあるゴーレム研究施設で、アルクス先生と一緒に細かな打ち合わせをと頼み、年のわりには軽い足取りで店から出ていった。



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