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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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5

 

 今日も店番をしつつ、工事現場に料理の材料を届ける。そんな日々を暫く続け、時間は過ぎていく。


 その間にも魔物の群勢は確実に帝国方面へと行進している。


 途中で新たな魔物も加わり、堕天使が遠目でざっと確認しただけでも、優に十万は超える大軍勢だと言う。


 食糧とかどうやって確保しているのか疑問ではあるが、魔物達の歩みは衰える事を知らず、年内には帝国領へ侵入していくと見越している。


 今年の年明けは穏やかにはいかないようだ。黒騎士の話では迎え撃つ準備をしているらしいが、そう上手くいくだろうか?


 魔王だけならともかく、その後ろには恐らくカーミラが関与している筈だ。インセクトキングの巣穴で奴は、彼女を魔王となるのに利用していたに過ぎないと言っていたが、向こうもそれは折り込み済みなのではないだろうか。何せあのカーミラの事だ、きっと様々な事態を想定して動いている事だろう。


 この戦争に乗じて何を仕掛けてくるのか…… それも警戒しなくてはならないので、厄介極まりない。


 ギルがレオポルドの残骸から手に入れた転移魔術の施された魔石だが、今もリリィが解析中である。それによって転移場所に設定されている座標を知る事が出来れば、カーミラがいる空に浮かぶ山に行けるかも知れない。もしくはその手掛りが掴めるかも。


 国々は魔王の脅威とこれから始まる戦争で手一杯だ。ならばせめて俺達がカーミラの企みを阻止すべく動かなければ、取り返しのつかない事態に陥る可能性は十分にある。


 だけど目的も居場所も分からない相手に、どう対処すべきなのか全く検討がつかないのも事実。頭を悩ませている間に、時間はただ悪戯に過ぎていくだけ。


 あぁ…… こんなときにレイチェルがいてくれたなら、何か良い考えでも出してくれていたのかな?


 今現在、インファネースにある別荘にレイチェルの姿はない。俺の今世での父親、ハロトライン伯爵に呼ばれて急遽領地へと戻っていったのだ。


 何でも伯爵の息子アランが勇者候補に撰ばれたのだとか。国内で二人目の勇者候補が実の弟と言うのだから、複雑な気分だよ。因みにレイチェルは勇者候補ではない。闇魔法がかなり上達しているからもしやと心配したが、そうじゃないと知って安心したよ。妹まで危険な戦場へ向かわせる事にならなくて良かった。


 しかし、弟のアランは撰ばれてしまった。本人や周りの人達には栄誉な事なのだろうが、俺としては貧乏クジを引かされる気分だ。勇者候補に選ばれたばっかりに、戦いを余儀無くされたのだから。

 アランの心境を思うと、手放しで喜べはしない。クレスは全てを知ったうえで覚悟しているから問題ないけど、突然選ばれた者達は一体どんな想いで戦いに身を置くのだろう?



 ハロトライン伯爵との約束で、此方からアランに接触を図る事は難しい。しかし向こうから此方に来てくれるのなら、それは約束外であるので俺も惜しみ無く支援が出来る訳なんだけど、レイチェルが伯爵の領地に戻ってしまった今では手も足も出せない。


 今頃アランは王城でクレスと会っているのだろうな。まだ少ししか喋った事はないけど、態度はデカイが意外と責任感が強い印象を受けた。たぶんクレスとは上手くやっていけると思う。


 心配なのはハロトライン伯爵だ。彼は己の領地の為ならばどんな物も利用しようとする。実の息子が勇者候補になったのだから、それを利用しないなんて考えにくい。余計な策略でも講じて場を乱すような事をしなければいいけど…… 。


 ふぅ…… 考えれば考える程に不安要素が増え、どこから手をつけて良いか分からなくなる。


『何でも一人でやろうとするから見えなくなるのだ。先ずは落ち着いて視野を広げ、そして遠慮なく頼るが良い』


『ギルの言う通りです、我が主よ。遠慮為さらずに何なりとお申し付けください』


 そうか…… そうだよな。前世ではずっと一人で悩むのが当たり前だったから、変な癖がついてしまったようだ。俺の周りにはこんなにも頼りになる者達がいるというのに。


『ライル様。魔物である私達はこの魔力収納から出る事が出来ませんが、精一杯お力になれるよう務めてまいります』


 アルラウネ達が神妙な表情を浮かべる。一歩でも外へ出てしまえば魔王に支配される状況に、少し気が咎めているようにも見える。


『アルラウネの皆さんには何時も感謝していますよ。これからも畑や田んぼ、鶏達の世話をよろしくお願いします』


 そう、何も戦ったり守ったりするだけが助けとなる訳ではない。アルラウネ達には生活面でかなり助けてもらっている。彼女達がいなければ俺一人で魔力収納内を管理しなくてはならないからね。それだけで一日の半分以上の時間が無くなってしまうのだから、もう彼女達は魔力収納に無くてはならない存在だよ。


 俺の想いが魔力を通じて伝わったのか、アルラウネ達は嬉しそうに微笑み、こんな事を言い出した。


『私達は幸運です。こうして支配されず戦いに身を投じる事を回避出来たのですから…… きっと、自分の意思とは反対に戦いを強いられている魔物もいる事でしょう。そんな者達と出会ったなら、どうか救っては頂けないでしょうか? きっと、ライル様のお力になってくれる筈です』


 ん? それって魔王の支配から魔物を解放して仲間に引き入れるって事か? それは考えてもみなかった。アルラウネの様に争いを好まない魔物もいる。


 う~ん…… これは一考する余地はありそうだな。

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