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季節は秋から冬になり、年の瀬が迫るこの時期。今年の終わりももうすぐだと言うのに、最後に大きな混乱で世界を騒がせた。
「ねぇ、聞いた? 魔王だって…… 嫌よねぇ~。こんなこと言うのも何だけど、別の時代に現れたらって思っちゃうわよ」
「確かにそう思いますけど、もうどうしようもありませんよね? 」
店の片隅にあるテーブル席で、デイジーとリタが何時ものように紅茶を片手に世間話をしている。内容を聞いて分かるように、聖教国は正式に魔王の出現を各国に宣言した。その情報は瞬く間に広がり、今や魔王の存在を知らない者はいない。
それと配達員をしながら国内を飛び回っている堕天使達から、魔物が活発化し被害が増えたとの報告があり、同時に魔物の大群が同じ方角へ移動しているとも聞いている。
レイチェルは魔王が魔物達を集めているのでは? という推測をしているが、俺も同じ考えだ。
魔力収納にいるアルラウネ達が心配だったが、この中にいる限り魔王に支配される事はないようで、ホッと胸を撫で下ろす。
ヴェルーシ公国からインファネースに戻った俺達はすぐに領主との面会を求め、魔王の存在を伝えた。それを聞いた領主は慌てて各商店街の代表とまだ街にいたグラトニス公爵を呼び出し、緊急会議が開かれる。
皆最初は懐疑的ではあったが、俺に付いてきた神官騎士であるオルトンがハッキリと断言した事で一応は信じてくれた。
数時間にも及ぶ話し合いをしたが、殆ど何も決まってはいない。魔王に対してどの様な対策を講じれば良いのか皆目検討もつかず、各々に頭を捻るが結局は聖教国の発表を待たずに国王へ報告し判断を仰ぐ事に決まり、領主とグラトニス公爵は王都へと向かった。
国の判断を待つ間、シャロットは研究しているゴーレムを防衛に実用出来るよう調整し、商店街の代表達は戦時に食料が足りなくならないよう備蓄を増やしたり、これから出てくるであろう難民の受け入れ体制を整える準備を始める。
肝心の魔王の所在だが、今は不明だ。ドワーフの国、ガイゼンアルブのギムルッド王の話によれば、既に魔王は封印の遺跡から抜け出し、何処かへと飛んでいったらしい。
「ワシ等が管理しとる遺跡になんちゅうバケモンを連れて来るんじゃ!! 」
と、マナフォンから大層ご立腹な怒声が響く。その後、ギムルッド王に会いに行き、正式な謝罪と酒等の贈り物をして漸く許して貰った所で、聖教国からの魔王誕生宣言での混乱。
そんなこんなで気付けば今年もあと僅か。無事に年が越せるのを願うばかりだよ。
でも、インファネースの教会に神官騎士達が来てくれたのは大きい。それと街を守る為ならばと、人魚、エルフ、ドワーフが力を貸すと申し出てくれたのも有り難かった。天使達はまだちょっと様子見している感じかな? 都市に張ってある結界もアルクス先生とリリィの協力でかなり強化出来たし、着々と防衛準備は進んでいる。
「よぉ、何か変わった事はねぇか? 」
「いらっしゃい、ガストールさん。お務めご苦労様です。店は至って何時も通りですよ」
店に兵士の鎧に身を包んだガストールが訪ねてくる。なんと、ガストールだけでなくルベルトとグリム、三人揃ってあの大規模討伐の報酬を受け取ると、冒険者を止めて領主の私兵として雇って貰っている。つまり定職に就いたということだ。
あの三人がねぇ…… 驚いたけど、危険に飛び込んでいく冒険者よりかは安全で安定した収入が得られるから喜ばしい事だ。しかし――
「やっぱりその鎧、似合ってませんね」
「うるせぇ、俺だってそう思ってんだ。いちいち言葉にすんじゃねぇよ」
そう、ガストールの悪党染みた風貌に兵士の鎧がまぁ似合わないと言ったら…… あ、駄目だ。思わずプッと吹き出してしまう俺を見て、ガストールは面倒くさそうに髪の無い頭を乱暴に掻きながら店を出ていった。
怪我の後遺症もなく、元気そうで何よりだよ。
さて、肝心なのはここからだ。魔王出現に伴い、人間の中から勇者が決まる訳だが、その前に勇者候補というのが出てくる。
七柱の属性神に選ばれた七人の勇者候補の中から真の勇者が現れる。全くもって面倒且つややこしいとは思うけど、そういう仕組みなのだから仕方ない。
で、その勇者候補達は何時出てくるのかというと、今まさに聖教国がその存在を確認している最中だ。
聖教国の発表によれば、帝国、公国、王国と各々の国、農民から貴族と言った様々な立場の者から勇者候補が選ばれているらしい。
その中で、俺が暮らしているこのリラグンド王国に、何と二人の勇者候補が現れた。しかも、その二人は俺と密接な関係があるというのだから、意図的な何かを感じざるを得ない。
ギルが言うには、
『ライルの動向には、彼の方だけではなく属性神達も気にしておられる。そうなると必然的に周りにいる者達も目に入る機会もあるだろう』
という事らしい。ふぅん、俺は神様達に頻繁に見られている訳か。なんだかな…… 神に見守られていて喜ぶべきなんだろうけど、監視されている感も否めない。変に意識して動きづらくなりそうだよ。
「何やら難しい顔をしているね? もしかして魔王について悩んでいるのかな? それなら僕も力になるよ」
おっと、いけない。意識が明後日の方向に行っていて、客が来たのにも気付かないとは…… しかも、今話題の勇者候補の一人だ。
「いらっしゃいませ、クレスさん。少し考え事をしていただけなのでご心配なく」
そう、クレスは光の属性神に勇者候補として選ばれたのだ。




