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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 教会へ着いた俺達は、一人の神官にエドウィン司祭の部屋へと案内され、中へ入るとそこには司祭とオルトンが待っていた。


「お待ちしておりました。私共に気を使って頂き、感謝致します」


「いえ、お世話になりましたので挨拶も無しでは流石に失礼に当たります。この度は色々とありがとうございました」


 感謝を込めて深く頭を下げて顔を上げると、エドウィン司祭はとても嬉しそうな笑顔を浮かべいた。


「此方こそ、貴方様と出会えた奇跡に感謝を…… しかし、事のあらましをオルトンからお聞き致しましたが、随分とご無理をなされたようですな? 」


 うっ、さっきまで笑顔だったのが急に神妙な顔付きになってしまった。オルトンめ、余計な事を…… 恨めしげな目線をオルトンに送るが、本人はいたって冷静に言葉を返す。


「じぶんには司祭への報告義務が御座いますので」


 少しは忖度してくれても良いんだよ? まったく、真面目過ぎるのも考えものだな。


「ライル様はご自分の価値をもっと理解すべきです」


「自分の価値、ですか? 」


 はて? 俺はそんなに価値ある人物なのだろうか? インファネースにもたらしたものは大きいと自負してはいるけど、世界に影響を及ぼすような偉業はしていないよな?


「この世界に新たな調停者が生まれただけでも大事件なのです。しかも他種族ではなく人間の中から選ばれたのですよ? それが我々にとってどんなに重要な意味を為すか…… ライル様、貴方は人類にとって希望の光なのです。どうかご自愛くださりますようお願い致します」


 とは言われてもねぇ? 気持ちは察しますけど、ただ与えられた役職にふんぞり返れるほど厚顔無恥な人間ではないからね。


「エドウィン司祭、御忠告痛み入ります。ですが、また同じような事があれば、迷わず無理をしてでも助けますよ? 申し訳ありませんが、それだけは譲れません」


「分かっております。そんな貴方様だからこそ、我々は命を賭してお守りするのです。こんな老い耄れでは何も役には立てませんが、もうひとつ忠告を…… アダルバート枢機卿にはご用心ください」


「はぁ……? そのアダルバート枢機卿とはどんな人物なのですか? 」


「彼は、何と言いましょうか…… 少し過激な思想の持ち主でして。今の教会の在り方に疑問を呈し、よく教皇様に反発しておられます。ライル様の事を知った彼は、その力を教会で管理して世界の為に有効に活用すべきだと申したのです。勿論、教皇様はそれを許さずアダルバート枢機卿を抑えてはおりますが、彼に賛同する信者も少なくはありません。教会に属する者として非常にお恥ずかしい話です」


 目を伏せるエドウィン司祭から哀愁な気配が漂ってくる。長い歴史のある組織なだけに、色々な思惑や思想があるもんだ。そう思うと、俺がこうして自由に暮らしていけるのも教皇様が色々と手を尽くしてくれているお陰でもあるんだな。


「ご安心を、ライル様。そんな者達からもお守りすべく我々がいるのです! 」


 それまで大人しくしていたオルトンが、堂々と胸を張る。


「え? オルトンさん達はこの後聖教国へ戻るのでは? 」


「何を仰いますか! ライル様の盾となる誓いをお忘れで? 何処までもついていく所存であります!! 」


 え~…… 有り難くはあるけど、そんな大勢の面倒は見きれないよ。


「心配ご無用。普段はじぶん一人がライル様の側につき、他の者達はインファネースの教会に常駐するつもりです。ご用の際は遠慮なく申し付け下さい。何時でもお力になりましょうぞ!! 」


 あ、オルトンは常にいるんだね。また魔力収納に新しい住人が増えたな。




「えっと、これからの世界はどうなっていくんでしょうか? 」


「そうですね…… 教会としては、既に魔王の出現を全ての国へ伝える準備をしております。それと、これから出てくる勇者候補達を補佐していく形になりますかと」


 そうか、魔王が誕生したのだから勇者も出てくる訳だよな。いったいどんな人物が勇者に選ばれるのか…… 今期の魔王はたぶん今までの中で一番最悪の部類に入るだろう。並大抵の人物では相手にもならない。


「私に出来る事はありますか? 」


「残念ですが、調停者であるライル様では魔王を倒す事は不可能でしょう。魔物の進行を食い止め、勇者の補佐としてなら出来ることはあるかも知れませんが…… 」


 あくまでも補助的な立場でって訳だね。普段から積極的に前に出る方じゃないし、こちらとしても都合が良い。


 いくらあの魔王でも一人で戦争は出来ない。本格的に魔物を集め動き出す前に、せめてインファネースだけでも守りを固めておきたいところ。


 この先、国との連携が重要になるだろうし、都市結界の強度強化もしたい。まだまだしなくてはならない事が沢山ある。先ずはインファネースに帰って領主に報告と対策の考案だ。今回協力してくれた神官騎士の皆さんが来てくれるのは本当に心強い。これで都市の守りがぐんと上がる。


 ふぅ、これから世界は荒れて相当忙しくなるぞ。出来るだけ早く勇者が決まればいいのだけど…… まぁそう簡単にはいかないよな?


 神官騎士やガストールは助ける事ができたけど、これから先、俺ではどうにもならない程の命が失われていくだろう。その全てが神による予定調和だと言うのだから尚更たちが悪い。


 あぁ、神よ…… 願わくばどうか、今から始まる試練で悲しみ嘆く者が一人でも多く救われますように……


 俺は柄にもなく神にそう祈ってしまう。

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