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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第三幕】鉱山町の夢追う坑夫
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11

 

「緑が少なくて、何だか寂しい感じね」


 窓から外の景色を見ているエレミアがぽつりと言った。


「まぁ、森の中と比べれば大分少ないと感じるでしょうね。でも見晴らしはいいでしょ?」


「そうだけど、隠れる所がないわね。周りからまる見えじゃない」


 荒野を走る馬車の中でエレミアとサーシャは他愛のない話をしている。町から出発したての頃はお互いの事を質問しあっていたので会話に困ることは無かったのだが、流石に何時間もいると聞くことが無くなってしまう。


 道中、サンドリザードとか言う茶色の大きい蜥蜴に遭遇したが、エレミアとグラントが難なく仕留めた事以外、特に何事もなく時間が過ぎて夜になった。


 適当な場所に馬車を停めて、テントを張り火を起こすとエレミアは夕食の準備を始める。


「いやー、お前達がいると便利だな。ライルの収納スキルで食材を運んで、嬢ちゃんが料理をする。俺とサーシャだったら保存食だけの食事だったな」


「悪かったわね! 料理が下手で!」


 フンッと顔を逸らすサーシャにグラントはガハハと笑う。そこにはお互いの蟠りはとけて、家族本来の姿があった。


 夕食は仕留めたばかりのサンドリザードの肉を塩と胡椒で味付けをして焼いたものと、味噌を使った野菜スープだ。

 サンドリザードの肉はなかなかの弾力で噛むと肉汁が溢れて口の中が一杯になる。味は悪くないのだが、顎が疲れてしまうな。

 俺が一生懸命に肉を噛んでいると、


「なんだ? これぐらいで苦戦しているのか? ちゃんと鍛えないからそうなるんだ」


 グラントは自慢気にサンドリザードの肉を豪快に肉汁を撒き散らしながら噛み千切った。


「ちょっと! 汚ないわね! ライルは父さんみたいに筋肉だけの人じゃないんだから、仕方ないでしょ」


「筋肉だけって……」


 サーシャの辛辣な言葉にグラントは少し落ち込んだように肩を落とす。


 火の番と見張りを交代で、最初はグラントに任せて休む事にした。テントは女性二人に譲り俺は外で休んでいたけど、ふとした拍子に目を覚ます。 何だか眠れそうに無いのでグラントの元に向かうと、火を見詰めながらブランデーを飲んでいる姿が見えた。


「おっ、ライルか? まだ交代の時間にはもう少しあるが、どうした?」


「いや、何だか目が冴えてしまいまして」


 俺はグラントの横に座ってブランデーと林檎のドライフルーツを取り出して飲み始める。


「そいつは干し果実か? 俺にも貰えないか」


 グラントにもドライフルーツを渡して、二人して無言で呑んでいる。 周りに遮る物は無く、満天の星の下で飲む酒というのも悪くない。


「ここら辺は夜だと冷えるから、強い酒は体が温まって丁度いいぜ。 しかし、最初は二人で旅をしていると聞いて正気を疑っちまったが、あのエルフの嬢ちゃんは凄かったな。魔法もだけど剣の腕がまたすげぇのなんのって」


「いえ、グラントさんのツルハシ捌きも素晴らしかったですよ」


 サンドリザードの頭を上から突き刺す姿は圧巻だったな。あの筋肉から繰り出すツルハシの一撃、思い出すだけで身震いしてしまう。


「明日には町に着くんですよね? その後はどうするんですか?」


「先ずは商工ギルドに行って、手紙を手配して貰うのさ。後は王都からの使者が来るまでミスリル鉱石を出来るだけ掘る」


 成る程、商工ギルドは手紙の配達もしているのか。


「他の連絡手段はないのですか?」


「ああ、通信の魔道具があるにはあるんだが、使うには大量の魔力が必要らしくてな。高品質の魔石か魔核を消費しちまうんで、余程の事がない限り使っちゃくれねぇよ」


 通信の魔道具か、あるとかなり便利だ。後でギルに聞いて作ってみよう。


「後は冒険者ギルドで冒険者を派遣して貰う事ぐらいだな」


「冒険者を?」


「ジャイアントセンチピードの巣があるんだろ? 俺達は鉱石を掘るのに忙しいから冒険者に任せるのさ。ライルは商工ギルドに登録した後はどうするんだ?」


 う~ん、まだ決まってないんだよな。これから行く町が住みやすそうだったら、そのまま住んでもいいけど。


「まだ決まってねぇんなら、レインバーク領の港湾都市に行く事を奨めるぜ。 あそこは様々な物や人が行き交う所で、珍しい物もある。お前の味噌と醤油もそこなら売れるんじゃねぇか?」


 港湾都市なら海に面しているから漁業も盛んなはず、魚介類には醤油が一番だ! これはいけるかもしれないぞ。なにより海魚で一杯やりたい。フライに刺身、煮付けもいいな、くそ! 米酒がほしくなる。


「ありがとうございます。 その港湾都市という所に行ってみようと思います」


「そうか、頑張れよ。 それじゃ、そろそろ休ませて貰うとするか」


「はい、お疲れ様でした。 後は任せてください」


 グラントは少し離れて横になると、直ぐに寝息を立て始めた。


『次は港湾都市か、久方ぶりの海の幸が味わえるな。楽しみだ』


『お魚か~、果実酒やハチミツ酒に合う料理ってある?』


 ギルとアンネはもう次の酒の肴に思いを馳せていた。今ある酒に合う魚介料理ね…… 日本酒でしか飲んだ事ないから想像がつかない。まぁ、これも冒険だと思って色々と試してみよう。

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