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「さぁ、此方も始めようか!! 」
レオポルドが自分の肋骨を一本外して高々と掲げた。よく見れば小さな魔石のような物がはめ込まれている。
『ライル様、お気をつけて。何か仕掛けてきます』
魔力収納にいるアグネーゼから警戒するように言われて身構える。ここからだと距離があって妨害は間に合いそうもない。
掲げた肋骨に魔力が送られ魔石と共に弾けた瞬間、レオポルドの足下から巨大な魔術陣が展開された。
あれには見覚えがある。カーミラやダールグリフが使っていた召喚魔術だ。今回のはかなり規模が大きく発動時間が長い、転移魔術のように魔力支配で解析をするチャンスだな。
魔力を魔術陣へ伸ばして解析している最中にも、その中から無数の骸骨達が這い出てくる。アンデッドの魔力とは違うからスケルトンではないな。
「思う存分暴れなさい、私の誇らしき作品達よ! 」
召喚された骸骨達は右腕の肘から先を刃物の形状に変化させ、一斉に走り出す。
「ここは我等にお任せを!! 」
オルトンと神官騎士達が盾を構えて整列し、結界魔法で骸骨達の強襲に備える。
結界に衝突する骸骨達、どうやら頭はそんなに良くないようだ。しかし、結界への衝撃はかなりのもので、オルトン達神官騎士は軽く動揺しているのが見えた。
あのスカスカな見た目でかなり力が強い。恐らく魔術で強化されているな? 加えて怯みも疲れもしないので攻撃の手が弱まる様子がない。そしてとうとう神官騎士達の結界に罅が入ってしまう。このままでは結界が持たない。
「ほね、ガリガリでたべごたえない。でもムウナ、すききらいしない! 」
結界から勢いよく飛び出したムウナの小さな体が大きく肥大していき、男の子から巨大な肉塊へと変貌した。
その巨体で骸骨共を押し潰し、触手で絡み取っては体中にある口へと運び噛み砕く。ボリボリと煎餅でも食べているような音を立てるムウナに、神官騎士達は鎧の上からでも容易に分かるほど、驚きと恐怖で体が硬直していた。
「ラ、ライル様…… ムウナ殿のあの姿は、まさか千年前の? 」
流石にここまでしたらオルトン達にムウナの正体がバレてしまったか。でも、今戦力を出し惜しみしている余裕はないんだよ。さっさとレオポルドを仕留めてクレス達へ加勢したいからね。だから詳しい説明は後でするよ。
「よっしゃあい!! あたしも行ってくんね。ムウナばかりに任せてらんない」
「ようはあの骨共は魔術で動いてる訳だろ? なら俺様が魔力を奪っちまえば止まるんじゃねぇか? 」
気合いの入ったアンネが風の精霊魔法で骸骨をバラバラに、そこをテオドアが魔力を吸収して無力化させていく。
「わたし達は結界の中から魔法で応戦するわ…… 兄様は神官騎士達に魔力を送って結界の修復と強化をお願い…… 」
「そうね、ライルは結界から絶対に出ないように」
エレミアの雷魔法が敵を粉砕し、レイチェルの闇魔法が容赦なく飲み込み、後に残るのは地面に散らばった骨の欠片だけ。
俺は言い付け通りオルトンと神官騎士達の魔力を補充して、結界の修復と強化に集中する。数は多いが此方もインセクトキングの配下である虫の魔物達がいるので負けてはいない。
ポイズンピルバグズが体を丸めて大岩のようになって突進し、グラコックローチが骸骨の体にまとわりついては齧り、ジャイアントセンチピードルがその長い胴体を鞭のように払って敵を殴り飛ばす。
アリ達が全滅したのは痛いが、その分他の虫達が奮闘してくれている。これまで苦戦を強いられてきたからこそ、あの魔物達の力を良く理解している。それが今共通の敵を前にして一緒に戦っているとは、なんとも心強いね。
だがグラコックローチ、お前は別だ。いくら味方になろうとも気持ち悪いものは気持ちは悪い。見ろよ、グラコックローチが骸骨に群がっている様は、まるで安物のホラー映画のようだ。
一方、オークキングを相手にしているクレス達はというと、人数的には有利な筈なのに、それを感じさせない程にオークキングの力は凄まじく、次々にインセクトキングの配下達は拳で砕かれていく様子を、魔力で繋がったクレスの目と耳を通して確認出来る。
〈こんな弱い奴等をいくら集めても無駄だ。来いよ、インセクトキング。お前の体をぶち破って魔核をほじくり出してやる〉
〈私の配下では数の内に入らないか…… 〉
表情こそ変わらないインセクトキングだが、悔しそうな雰囲気は見ていて伝わってくる。
〈ならばここにいる配下は全てライル君達の方へ送り、オークキングは僕らだけで相手をしよう〉
〈言われずともそうするさ。人間共、精々私の邪魔だけはするなよ? 〉
遂にオークキングとインセクトキングの対決が始まる。キング種同士の戦いか…… 不謹慎だけど、少し気分が高揚してしまう。
〈やっと出てきたか、今ぶっ殺してやるからな〉
〈ほざけ、化け物。私の体は貴様の拳でも砕くことは出来ん〉
〈へぇ…… なら試してみるか? 〉
オークキングが軽く踏み込むだけでインセクトキングとの距離を瞬時に詰めてくる。コボルトキングの俊敏さには目を見張るものがあるな。
そしてオーガキングの腕で繰り出す重い一撃を、インセクトキングは真正面から受けてしまう。コボルトキングのスピードとオーガキングのパワーを兼ね備えてるオークキング相手に、インセクトキングは避ける余裕もない。
〈ちっ、やっぱり堅いな〉
〈だから言っただろ? 私の堅牢な肉体は、オーガキングの力があろうとも砕けぬと〉
すかさず四本の腕の先に生えている昆虫特有の鍵爪で反撃をするインセクトキングだったが、コボルトキングの下半身からなる軽快な動きで避けられてしまう。
〈あの素早さは厄介だな。私の攻撃が届かない〉
〈インセクトキング、一対一では不利だ。ここにはギルディエンテもいるし、皆で力を会わせよう。僕の光魔法なら奴を捉える事ができるかも知れない。何とか隙を作ってみせるから、追撃の用意をしておいてくれ〉
〈光魔法か…… 良いだろう、やっみろ〉
う~ん、向こうは向こうで大変そうだけど、まだ始まったばかり。ここからどうなるか、目が離せないな。
いやぁ、それにしてもインセクトキングの頑丈さは予想以上だね。オークキングが欲しがるのも頷けるよ。




