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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 はぁ、はぁ…… ウェッ…… 疲れすぎて嗚咽が溢れる。魔力がいくら多くても体力には繋がらないと身をもって思い知ったよ。


「ライル様、お疲れ様です。見事な立ち回りで御座いました! 」


 地面に座り込んでグッタリしているところに、まだまだ元気なオルトンが近寄ってくる。息切れ一つしてないとは、どんな体力してんだよ。良く見ればここまで疲れているのは俺だけのようだ。もしかして、これがこの世界での平均的な人間の体力なのか?


『安心して、彼等が異常なだけよ…… でもそれを差し引いても兄様はもっと体力をつけないとこの先危険かも…… 』


 そうか、レイチェルがそう言うのなら本当に危ないのだろう。魔力支配の力と、自分より遥かに強い仲間達に頼ってサボってきたつけが回ってきたようだ。人間、楽を覚えるとどうしてもそれに依存してしまう。仲間と能力に甘えた結果がこの有り様で、もう言い訳のしようがないね。


 周囲に持て囃されて、俺は自分でも気付かない内に調子に乗っていたのかも知れない。


「お疲れ、ライル。結構疲れているみたいだし、今日はここまでにして戻りましょ? 」


 今さっき反省してた所に、エレミアが甘美な言葉で誘惑してくる。うおぉ…… 入れ直した筈の心が激しく揺れてしまう。


『ライル様、無理をすれば良いという訳ではありません。きちんとした休息も必要で御座いますよ? 』


『今回の長は十分動いたからな。これ以上は体を壊すだけだ』


『アンネさんの精霊魔法で何時でもここから進められます。今我が主に必要なのは心身共に休む時間です』


 う~ん、俺の勝手な都合でそんな事を決めて良いのだろうか? 恐る恐るクレスやオルトン達に聞いてみると、


「ならば今日はここまでとして戻りましょう」


「そうだね。この調子なら明日には地図に書かれていない所まで行けそうだし、良いんじゃないかな? まだまだ先は長そうだからね。ライル君の体力を作りながら、確実に進んで行こう」


 どうして俺の周りの人達はこうも優しいのだろうか? 有り難いやら申し訳ないやらで自分が情けなく思えてくる。


「申し訳ありせんが、皆さんのご厚意に甘えさせて頂きます。ありがとうございます」


 少し潤んだ瞳を隠すように頭を下げる。そんな俺にオルトンは焦り狼狽えている様子が頭越しに感じた。





 で、仕留めたジャイアントセンチピードルを魔力収納に仕舞って、野営地に戻るわけなんだけど…… ここでちょっとした問題が発覚した。


「だから~、こんな何もなくて似たり寄ったりの場所なんて覚えらんないんだって! 」


 またこの場所からスタート出来るようにとアンネに頼んだけど、無茶言わないでよ! と怒られてしまった。アンネの精霊魔法による空間移動は、その場所を特定する何かを覚える必要ある。それは周りの風景だったり建物だったりと様々だが、見事にここには何もなく、しかも前の空洞とそっくりそのまま同じ構造をしているので、精霊魔法での移動が出来ないと言う。


「何か目印になるものが必要って事? 」


「そうね。それも強く印象に残るもんじゃなきゃ無理だかんね」


 アンネに強く印象づける物か…… じゃあ、あれにするかな。


 俺は魔力収納からデザートワインが入った樽を一つ取り出しては、魔力支配のスキルで壁の一部を操り、半分見えるように埋め込んだ。


「ち、ちょっと!? それはあたしのデザートワインじゃないのさ! なんでこんな所に埋めちゃうのよ!! 」


「これなら印象的だし、アンネも忘れないと思ってさ」


「そりゃ、こんな事すれば忘れらんないよ! 」


 流石のアンネもこれには焦っているようだ。甘いものとお酒が好きな妖精にとって、両方を兼ね備えているこのデザートワインは特別な物。それをこんな敵地に置いていこうってなもんだから無理もない。


「せめて、せめて結界だけは張らせて、お願い! 」


 というアンネの必死のお願いにより、一日分の魔力を込めた結界の魔道具も一緒に置いておく。これで魔物に樽が壊される心配はない。


「うぅ…… 一日だけの辛抱だからね。戻ったら沢山飲んであげるから、それまで待ってて、あたしのデザートワインちゃん! 」


 半泣きになりつつも精霊魔法で野営地との空間を繋ぐアンネ。いや、別に戻ったからといって一樽全部飲んで良いとは言ってないけど?


 空間の歪みを通って野営地へ戻ると、異変に気付いた他の神官騎士達が出迎えてくれた。この場所の安全を守ってくれていた彼等に礼を言い、用意したマジックテントに向かっている途中、見慣れないテントが幾つか張られているのが見える。


 はて? あんなのは持ってきてないよな? 首を傾げる俺に、神官騎士の一人が教えてくれた内容よると、どうやら俺達が巣穴に向かっている時に出会った冒険者達が、マーダーマンティスとの戦闘で傷を負ってしまい、俺の言う通りに此処を訪ねてきたらしい。


 最初は訝しっていた神官騎士達も、俺の事を持ち出されては中に入れない訳にはいかず、彼等に回復魔法を掛けたのだが、その様子を他の冒険者にも見られてしまい、あれよあれよと回復を求められる始末。


 終いには態々町まで戻るのは面倒だからと、結界が張ってあるこの野営地を拠点にしたいと言ってきたのだとか。


 図々しいお願いだとは思ったが、彼等も命懸けで魔物と戦っている訳で、森から近くて安全な場所があれば誰だって利用しようとしてくるだろう。そう思った神官騎士達は冒険者を無下に出来ずに隅の空いているスペースを貸し与えている状況になっている。


「勝手な事をして申し訳ありません。ライル様が嫌だと仰るのなら、すぐにでも退去させます」


「いえ、何もそこまでしなくとも。彼等も生活がかかっていますから。でも、此方が用意した野営地をタダで使用させるというのは虫の良すぎる話ではありますね。商人としても見過ごせないですし、ここは使用料を払って貰う形にしましょうか」


「使用料、ですか? 」


「そうです。支払いは何も現金じゃなくても良いんです。冒険者達の中には巣穴に潜って戻ってきている者達もいると思いますので、この地図に書かれていない箇所に到達していたら、その情報を提供して貰いたい。あとは現物で魔物の素材なんかでも結構です。巣穴の調査、攻略は冒険者も行っていますので、いっそのこと巻き込んでしまえば時間の短縮にも繋がり、更に儲けられる。一石二鳥ではありませんか? 」


 何も俺達だけでインセクトキングを討たなければならない決まりなんてない。ここは人海戦術で一気に方をつけるのもありだな。そして安全な拠点場所としてこの野営地の一部を有料で貸し与えれば、今回に使った費用もチャラになるどころか上手くいけばプラスになるかも。


「またライルのサボり癖が始まったわね」


 横でエレミアが呆れた様子を見せているけど、これはサボってる訳ではなくて、効率を重視したうえでの考えなんです。

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