31
「分かった。僕達も本部の方に向かうとするよ」
「では、そこで合流してヴェルーシ公国へ行くという事で…… よろしくお願いします」
「あぁ、此方こそよろしく」
マナフォンでクレスに到着した事とこれから持ってきた商品を買い取ってもらう旨を伝えた。
「とまぁ、こんな感じです。今のところそのマナフォンでは俺としか通信出来ませんが問題ないですよね? 此方からも状況を確認するために掛けると思います」
「おぅ、大体分かったから大丈夫だ」
「ガストールの兄貴だけ何かズルイッす。オレッちにはないんすか? 」
羨ましそうに見ていたルベルトが自分も欲しいと強請ってくる。
「残念だけど、数に限りがあるから我慢してもらうしかないね」
それは本当に残念っす…… と、気落ちするルベルトの肩に手を置いて無言で慰めるグリムであった。
そんなこんなで足下の悪い中を進んでいけば、門兵が言っていたように大きな建物が見えてきた。周りとは違って高床式ではないけど、これだけ大きくて床部分が分厚ければ浸水する心配はないだろう。
「俺達はここで別れるとするぜ。あの女に会ったらまたいちゃもんでもつけられそうで面倒だからな」
そんなにレイシアとは会いたくないのか、途中でガストール達は立ち止まる。
「分かりました。では依頼料を今払いますね。報告はどうします? ここにギルドってあるんですか? 」
「たぶん臨時にギルドとして使っている建物がある筈だ。報告は俺達がしておくから気にすんな」
ここでガストール達とはお別れか……
「くれぐれも無理だけはしないで下さいね。お互いに生きてまた会いましょう」
「当たり前だ、お前こそ死ぬんじゃねぇぞ。良い金づるがいなくなると困るからな」
「オレッちも、何がなんでも生き延びるっす! 」
「あたしがいるんだから大丈~夫! しっかりと完璧に守ってやんよ!! 」
「…… 」
妖精であるパッケがいるなら安心かな? 結局グリムとはこの旅で一言も交わさなかったけど、別にいいか。
本部前でガストール達と別れ、中に入って経理の人と繋いでもらう。食料に調味料、それに酒類がそこそこの値段で売れた。粘ればもっと値段を引き上げられたのだが、こんな時にまで利益を求めなくてもいいし、何より時間が惜しいので向こうの言い値で了承する。どれも適性価格より極端に安くされてはいなかったからいいだろう。
ここへ売りに来る商人の大半が、この状況に託けて値段をつり上げてきていたから助かったと経理の人が感謝していた。俺も急いでいなければ他の商人と同じ様に出来るだけ高値で売り込んでいたかもしれないので何とも言えない気持ちになる。
若干の気不味さを覚え、取り引きは終了した。さて、クレス達をこれ以上待たせる訳にもいかないから足早に本部から出な先で、入り口の階段付近にクレス、レイシア、リリィの三人が俺達を見て軽く手を上げてくる。
「やぁ、急な大雨でお互いに大変だったね」
「ライル殿! 久し振りだな!! 討伐作戦が行われない内に、さっさとインセクトキングとオークキングを倒そうではないか! 」
レイシアはどんな時でも元気だな。ん? リリィはどうした? と思ったら少し離れた場所でレイチェルと向かい合っていた。
「はじめまして、レイチェルよ…… 」
「…… リリィ。あなた、歳はいくつ? 」
「今年で十三になるわ…… 」
「…… 私は十四。つまり年上、お姉さんよ」
なにやってんだ? あの二人。気が合ってんだか合ってないんだか分からんね。
「ところでクレスさん。大規模討伐は何時頃開始されるのですか? 」
「この大雨で延びたとは聞いたけど、それでもインセクトキングの巣穴に行って戻る程の時間はなさそうだね。アンネさんの精霊魔法で戻ったとして、結構ギリギリなんじゃないかな? 」
そこに二体のキングを倒さなきゃならない時間も考えれば、大規模討伐が始まる前には確実に間に合わない。
「それは大した問題ではないわ…… リザードマンキングを討ち取るまでそれなりの時間を要するだろうし、多少遅れても誤差の範囲よ…… 」
「…… それにここには私達の他にもミスリル級やアダマンタイト級の冒険者もいる。私達が抜けても戦力的に支障はない」
レイチェルとリリィは言い終わるとまたお互いに顔を向け、リリィの眠そうな半目とレイチェルの鷹のような鋭い目が交差する。だから何なのそれ? 仲が良いのか悪のか、どっちなの?
「うむ! レイチェルとリリィは既に仲良しだな! 人見知りのリリィにしては珍しい」
レイシアの目には二人は仲良しに見えているらしい。あれで? ほんとに? まぁ、それならそれで良いんだけどさ。
「それじゃ、早速出発しようか。確かインセクトキングの巣穴は、ヴェルーシ公国にある森の中で発見されたんだよね? 」
「はい。クレスさんの言う通り、ヴェルーシ公国に入らなければなりません。ですので、そちらは俺達が雇った護衛の冒険者という事にしますが、良いですか? 」
「あぁ、問題はない。しっかりと君達を守らせてもらうよ」
そういう設定で行こうと言っているだけなのに、真面目に俺達を護衛する気でいるようだ。レイシアも鼻息を荒くしてやる気満々だし、頼もしいね。




