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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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30

 

 一晩明けると、あれほど降り頻っていた大雨もすっかり止み、晴れた空に朝日が昇る。


 澄んだ空気の中、濡れた木々が日の光に照らされてキラキラと輝いていて、朝から爽快な気分だ。


 それはレイチェルも同じようで、目一杯伸びをしてこの爽やかな空気で肺を満たそうと深呼吸していた。


「おい、そろそろ行くぞ。あの雨でだいぶ予定が押しちまった。クレス達が待ってんだろ? 」


 ガストールの言葉にハッと思い出す。そうだ、クレスと合流してインセクトキングの巣に向かっている途中だった。急がないとカーミラ達に先を越されるかも知れない。


 俺達は朝食を食べた後、急いで馬車を出発させる。林を抜け、何もない草原を道なりに進み、幾つかの村を通り越して約二日。俺達の眼前には何処までも広がる広大な湿地帯がある。ここがカルカス湿原か…… これでもまだ入り口部分だと言うのだから驚きだ。レイチェルの話ではこの湿原はヴェルーシ公国の国境まで続いているそうだ。


 二日前の大雨による影響なのか川は激しい濁流になり、湿原全体が俺の膝下まで水に溢れていた。これではとても馬車では進めそうないので、馬車とルーサを収納して徒歩でクレス達が待っているという駐屯地へ向かう。


「くそっ、こうも水が増えてっと動きづらいぜ。こりゃリザードマン共が有利だな」


「状態は最悪っすね。今からでも戻るっすか? 」


「いや、せっかくここまで来たのに手ぶらじゃ帰れねぇ。不安はあるが暫く様子を見るしかねぇな」


 馬を引きながら歩くガストール達の顔色は良くない。こんなコンディションが最低の中でリザードマン達と戦わなければならないのだから仕方ないか。


 水嵩が増した湖沼から水が溢れ、もう境界がほぼ無くなった湿原を四苦八苦しながらも、今も見えている頑丈そうな木造の防壁に向かって歩いていく。きっと彼処にクレス達冒険者が集まっているのだろう。


 しかし、馬車が通るのも難しいこの状況では、物資の運搬は厳しいだろうな。食料とかちゃんと足りているのかね?



「おい、止まれ。ここはリラグンド王国兵の駐屯地だ。何の用があってここへ来た? 」


 入り口に佇む門兵がガストールの顔を見て、警戒心を露にしながら聞いてくる。盗賊顔だから変に警戒されてるよ、紛らわしくてすいませんね。


「お勤めお疲れ様です。私はインファネースで商人をしておりますライルと言います。近々ここで大規模な討伐作戦を国と冒険者ギルドの共同で行われると聞きまして、こうして参った次第です。彼等はこんな見た目ですが歴とした冒険者で、この旅の護衛として私が雇った者達です」


 軽く紹介を交えながら、ギルドカードを門兵に見せる。カードを確認して納得したのか、強張っていた顔が幾分か軟化した。


「インファネースから態々来たのか。にしては荷物が少ない気がするが? 」


「マジックバッグと空間収納のお陰ですよ」


「成る程、流石はインファネースで店を出しているだけのことはある。見て分かるようにこの間降った大雨の影響でこの有り様でね。食料や酒、薬等があったら助かるんだが…… 」


 やはり運搬に支障が出ていたか。急いではいるけど、ここで無視する訳にはいかないよな。


「初級と中級の回復薬に、小麦等の食料と各種調味料、それとエールにワインもありますよ」


「おぉ! それは有り難い。この門を抜けて道なりに真っ直ぐいけば一際大きい建物が見えてくる筈だ。そこに経理の者がいるのであるだけ売って貰いたい。案内をつけたい所だが、今は人手が余っていなくてね、すまない」


「いえいえ、状況は察しておりますので、お気に為さらずに」


 門兵との会話を切り上げて門を抜けると、高床式の建物が目に入る。へぇ、高床式にする事で床が浸水するのを防いでいる訳か。


 ここにいるのは国の兵士と冒険者、それと俺のように商売をしに来た商人がちらほらと見える。思ったより混乱はしてなさそうだな。


「元々雨が降ったら足首まで水が上がるらしいから、対処には慣れている筈よ…… それでも、ここまで水が溢れるのは珍しいわ…… リザードマンは水辺に棲息する魔物だから、この状況はかなり不味いわね…… 」


 スカートの端が水に浸かるのを一切気にする素振りも見せずに歩くレイチェルが、これは想定外だわ―― と眉間に皺を寄せていた。


「まぁ、ここにいる人達に頑張ってもらうしかないわね。ところで、クレス達とは何処で待ち合わせしているの? 」


 エレミアが他人事のように言う。本当に身内以外は途端に薄情になるよね。


「着いたらマナフォンで連絡する事になってるから、今してみるよ。あれ? ガストールさんには渡しましたっけ? 」


「あ? その金属の板みてぇな奴か? いや、貰ってねぇが?」


「なら一つ渡しておきますね。使い方は、これからクレスさん達と連絡するのでその時に説明します。もしもの時はそれを使って連絡してきて下さい。アンネの精霊魔法で直ぐに駆け付けますので」


「おぅ…… しっかし、これがあの通信魔道具か? ギルドにあるのとは違ってえらく小さくて平べってぇな」


 渡されたマナフォンをガストールは物珍しげに眺めている。頑丈に作ってあるし、防水性能も高くしてあるから大丈夫だと思うけど、壊さないでくれよ?



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