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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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4

 

「ところで話は変わるが、この街で購入した別荘でささやかではあるがパーティを催そうと思っている。是非ともライル君にも参加してもらいたい」


 へ? いきなりパーティに誘われたぞ? でも貴族が集まる場に俺なんかが行っても悪目立ちするだけだし、出来ればお断りしたい。


「ご招待頂き大変恐縮なのですが、私なんかが参加しても場がしらけてしまうかも知れません。なのでここは辞退させて頂きたいのですが…… 」


「まぁ、聞きたまえ。これは君の為でもあるのだ。先程言ったように、君の存在に気付く者が出てくるのも時間の問題。そこで実力と信頼のある中立派の貴族を何名か呼んで、インファネースへの支援を大々的に行おうと思う。今までも私個人でレインバーク卿との協力体制を敷いてきたが公にはしていなかった。これを機に中立派の何名かでインファネースを贔屓にしていると奴等に知らしめる必要がある」


 公爵がここで言う奴等とは貴族派の連中の事だろう。成る程、そのパーティで支援者を募るだけでなく、貴族派への牽制も兼ねている訳か。


「しかし領主様は王族派ですので、中立派としては問題にならないのですか? 」


「何も問題はない。そもそも私達中立派は、自分の領地と領民が健やかであれば、国を治めるのが王でも貴族でもどちらでも構わんのだ。国が衰退するような事でもない限り、自分の領地の利益だけを求め、好きに生きている。インファネースの支援も自分が治める領地に益をもたらすからであって国の為ではない。よって、街の支援はするが政治に関しての協力は今まで通り手は貸さない。我々中立派は、自分に有益であれば派閥に関係なく利用するのだよ」


 なにげに恐ろしい事をさらっと言ったな。要は味方にも敵にもなるって事だよな。中立派にとってインファネースは余程支援のしがいがあるようだ。


「貴族社会で後手に回るのは可能な限り避けたい。常に先手を取り続ければ最悪の結果は防げるだろう。ここで言う最悪とは、君とシャロット嬢を失う事だ」


「わ、わたくしもですの? 」


 突然名前を呼ばれたシャロットは、俺に目を向けた後で公爵を見詰める。


「勿論だとも。インファネースがここまで発展する土台を築いたのがシャロット嬢だと言うのも調べはついているよ。ウスターソースという新たな調味料とそれを使った料理の開発の他に、道の舗装や建築に使われているコンクリート、漁師組合の立ち上げ、雇用形態の見直し、法律の改正案の提出と可決、そして何より独自の理論に基づくゴーレムの作成と術式によって、これまでの常識を覆してしまった。今や君達はインファネースにとってなくてはならない存在、どちらかが欠けてしまったらこの街は成り立たなくなってしまう。これは大袈裟に言っているのではない。街が一人立ちするにはまだ君らが必要なのだよ」


 へぇ、ゴーレムだけじゃなかったのか。俺がインファネースに来たときには既にソースがあり、焼そばやお好み焼の屋台が出ていた。コンクリートの外壁や道路はシャロットが関わっているのは知っていたけど、雇用形態にまで口を出していたとはね。領主の娘として色々と着手してたんだな。


「まぁ、その…… 領地をある程度安定させませんと、ゴーレム研究に落ち着いて取り組めなかったものですから」


 感心の眼差しでシャロットを見ていたら、恥ずかしそうに俯いてモゴモゴと話し出す。何の憂いもなくゴーレムの研究をしたいから街の発展に尽力したとは、如何にもシャロットらしい。


「今はお父様とライルさんのお陰で、研究に没頭できていますわ。感謝しておりますのよ」


「それは良かった。面倒を押し付けていないかと心配でしたよ」


「ブフ、確かに面倒ではあったが、それ以上の恩恵があったので何も気にする事はない。で、どうだね? グラトニス卿のパーティに出席してもらえたら吾輩も助かるのだがな」


 貴族達のパーティか…… はっきり言って行きたくはないけど、インファネースの為だ。それと自分や家族の安全も考慮すれば参加した方が良いのかもな。


「グラトニス公爵様。慎んでパーティへと参加致します」


「おぉ、そうか! なに、心配せずとも皆私が信頼する者達で、口は堅い。彼等から君の情報が漏れる事はないから安心してくれ」


 言葉を交わし、公爵が満足した所で領主の館で一緒に夕食を頂く事になったので、マナフォンで母さんに連絡する。


「そう、分かったわ。あ、今アンネちゃんが帰ってきてるから代わるわね」


「ちょっとー! 今何処にいんのよ。領主んとこでご飯食べんの? あたしもすぐ行くから待ってなさいよね!! 」


 たぶんアンネの事だから、自分の知らない所で俺達が何か美味しい物を食べるのが気に入らないのだろう。アンネは言葉通りすぐにやって来た。やっぱり精霊魔法は便利でいいな。だけどアンネがいなければ今日のようにしんどい思いをしてしまう。


 俺もカーミラのように転移魔術を活用してみるか? でもあれは一々転移場所を登録しておかないと移動出来ないから、アンネの精霊魔法より不便なんだよな。しかも俺自身には魔術を刻めないから魔石か魔核を使用するのだが、その膨大な術式に耐えられず一回発動してしまうと弾けて壊れてしまう。まぁ緊急避難用に幾つか用意しておくのも悪くはないかも。


「おまたせ! クラリスの料理も旨いけど、金持ちの豪勢な料理も良いよね!! 」


「領主様と公爵様もいるんだから、あまり失礼な事はしないでくれよ? 」


「だいじょぶだって! ほら、あたしってチャーミングじゃない? きっと大目に見てくれるよ」


 何でそんなに自信満々なんだよ…… 不安しかない。頼むから大人しくしてと言っても無駄なんだろうな。

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