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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 レイスとスケルトンは危なげもなく、順調に数を減らしていっている。問題はヴァンパイアだ。


「おりゃおりゃぁ!! どうだ、こぬやろー! 」


「あぶなっ!? このドチビがぁ! ちょこまかと鬱陶しいんだよ!! 」


 小さなアンネが空中を縦横無尽に飛び回りながら、精霊魔法で光の矢を短剣を持つヴァンパイアに放ちまくっている。ヴァンパイアもそれをいなしつつ反撃に出るが、どれもアンネには掠りもしない。だんだんと苛立つ様子が簡単に見て取れる。


「あいつの魔力は底無しか? 俺の知ってる妖精ならあんな高威力の精霊魔法はそう連発は出来ない筈だが」


「随分と余裕ね? 」


「そう見えるか? だとしたら、お前のその目は欠陥品だな」


 アンネの戦いに思わず言葉が漏れる赤い腕のヴァンパイアに、エレミアは蛇腹剣を伸ばすが、難なく弾かれてしまう。しかし、迫る剣先を弾いたほんの僅かに意識を逸らしたその時、エレミアが思いっきり床を蹴って赤い腕のヴァンパイアの懐へ飛び込まんと突進する。


「遅い! そんな動きで俺の懐に入ろうなどと―― っ!? 」


 赤い腕のヴァンパイアは最後に言葉を詰まらせる。何故なら、床と足が凍らされていて身動きが取れなくなっていたからだ。


 蛇腹剣は目眩ましで、本命は水魔法でヴァンパイアの足を床ごと凍らせる事だった。力ずくで氷を破壊するが、その僅かな時間でエレミアの接近を許してしまう。


 見事相手の懐へ飛び込んだエレミアは、避けようしているヴァンパイアの脇腹に掌打を食らわせる。それもただの掌打ではない、相手に接触する瞬間に電撃も一緒に放っていた。雷魔法との合わせ技だ。あれは痛いだろうな。


「がぁっは!! 」


 これにはさしものヴァンパイアも堪えられず、口から血を吐いて床に膝を付く。苦々しく睨み上げるヴァンパイアに、エレミアは剣身を戻した蛇腹剣で胸を貫いた。


「ぐっ! や、やるな…… だがこの程度、なんてことはない」


「そう? なら、これでどう? 」


「何言ってや―― アガガガガ!! 」


 ヴァンパイアにとって、胸を貫かれたぐらいでは動じない。だけど剣身を通じて体の中から電撃を流し込まれてしまえば話は別だ。

 しかし初めは苦しんでいたヴァンパイアだったが、驚くことに立ち上り、エレミアに腕を伸ばしてきた。本当にヴァンパイアってのは、恐ろしいくらいにタフである。


 あわやその手がエレミアに届くかと思いきや、咄嗟に蛇腹剣を伸ばし、後ろへ退避して難を逃れた。しかもまだ電撃は流したまま。


 バチバチと激しい音と眩い程の輝きがその威力を物語っていた。体の内側から破壊され、ヴァンパイアの高速再生のスキルで治っていく。殺すに殺せない、死ぬに死ねない状況が続く。これは先に魔力が尽きた方が負けるな。だけど、エレミアには俺が自分の魔力を供給しているので、半日は余裕で電撃を流し続けることも可能。もう勝負はついたも当然だった。


「くそ!! 待ってろ、今助ける! 」


 仲間のピンチに、赤い短剣を持つヴァンパイアが急いでエレミアに向かおうとするが、そこにアンネが待ったをかける。


「おっと、そうはさせないよ! 」


 アンネの周囲から光の筋がヴァンパイアへと伸び、体を締め上げた。全身をぐるぐる巻きにしている様子は、正に光の縄のよう。


 光魔法にも弱いアンデッドであるヴァンパイアは、巻き付かれた光の縄に焼かれ、体から焦げた匂いを周囲に漂わせ床に倒れ込んだ。顔には苦悶の表情を浮かべ、その口からは怨嗟が籠った呻きが溢れる。


 そこへ、止めと言わんばかりに光の矢を打ち込むアンネ。頭から足にかけて何本も受けたヴァンパイアは、悲痛の叫びと共に体が灰になって崩れてしまった。これがヴァンパイアの死か。


「よっしゃあ! いっちょあがり!! 」


 服を残し灰になったヴァンパイアの亡き骸の上空で、アンネは勝利のVサインを掲げた。嬉しいのは解るけど、仏さんの上ではしゃぐんじゃないよ。


 一方、エレミアの電撃を受けていたヴァンパイアも遂に魔力が底をついたのか、力なく膝から崩れ落ち、同じ様に灰になっていった。どうやら向こうも決着が着いたようだ。


 ふぅ…… 多少は手こずったけど、ヴァンパイアを倒すことは出来た。彼等は魔物であって、もう人間ではない。それでも、姿と思考は人間の時と変わらない。そう思うと素直には喜べないな。


「終わったみたいだね」


「うむ、残りは上にいるようであるな? 」


 スケルトンを倒し終わったクレスが颯爽と歩いてくるのを見て、レイシアも剣を収めて一息つく。


「ライル様、此方も終わりました」


「へっ! 雑魚ばっかりだったぜ! 」


 アグネーゼとテオドアも、ここにいたレイスを全員片付けたようだ。


「クレスさん、お疲れ様です。初めてヴァンパイアを見ましたけど、かなりタフなんですね」


「あぁ、ライル君はこれが初めてだったのかい? そうだね、しぶとさで言えば、世界一だと思うよ? 」


 殺したと思ったら死んでいない、何てのは良くある事だとクレスは言う。きちんと灰になるのを見届けないと安心は出来ないって訳か。


「一人、上の階に行ったのを見ました。まだアンデッドが残っていると見て良いでしょう」


「そうだね、ここを仕切っているヴァンパイアがいると考えられる。心して向かおう」


 円い塔の壁に沿って付いている階段を上ろうとした時、ガシャガシャと音を立てながら武器を持ったスケルトン達が下りてくる。


「ふぅ、どうやら大人しく上がらせて貰えそうもないわね」


「別に良いじゃん? どのみち全部倒す予定だったんでしょ? 」


 多少うんざりしているエレミアに、アンネは事も無げに言う。


「アンネさんの言う通りです。この世の穢れは全て浄化する。それが私達の使命」


「うむ! 敵は完膚なきまで殲滅する。それが基本だ! 」


 レイシアを先頭にして、迫り来るスケルトンを盾で押し返しつつ、クレスの光魔法とアンネの精霊魔法、アグネーゼの浄化魔法で倒しながら階段を上って行く。途中の階層に多数のレイスとスケルトンが待ち構えていたがこれも問題なく撃破し、魔道具が設置されているであろう最上階付近へと辿り着く。


「なっ!? てめぇら、ここまで来たと言うことは…… あいつらはやられちまったのか? 」


 あれは一階にいたヴァンパイアだな? だとすると、彼処にいるヴァンパイアの二人の内一人がこの塔を守るアンデッド達の親玉か?


「あら? 良くここまで来たわね、歓迎するわよ」


「あぁん? なんでぇ、ガキばっかりじゃねぇか! ワシらも舐められたもんじゃのう」


 そこにいたのは、スレンダーで耳の尖った女性と、背の小さい筋骨隆々の長い髭を生やした男性のヴァンパイアだった。


 ていうかヴァンパイア特有の青白い皮膚をしているけど、あれってどう見ても…… エルフとドワーフだよな? え? ヴァンパイアって元人間だけじゃなかったのか?

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