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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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「はいは~い! 皆並んで~、慌てず騒がずお願いね。そんじゃライル、魔力供給は頼んだわよ! 」


 これだけの人数を送る訳だから、当然相当な魔力を消費するので、俺の魔力をアンネに供給しながら精霊魔法を発動させる。


 冒険者や神官達の前に、アンネによる精霊魔法で発生させた丸い空間の歪みが出現し、彼等を驚かせる。何時もの人一人分の大きさではなく、その三倍はあろうかと思える程だ。これだけ大きければ、そんなに時間も掛けず全ての兵を港町に送れるだろう。


「これより、港町を奪還する! 私に続けぇー!! 」


 ユリウス殿下が先陣を切るのを切っ掛けに、他の人達も我先にと歪みの中に入って行った。





「良し、これで全員かな? 次は僕達の番だね。さぁ、この国を覆う結界を解除しに行こう! 」


「うむ! あやつらの高くなっている鼻をへし折ってやろうぞ!! 」


 クレスとレイシアが気合いを込めてる間に、アンネは一旦空間の歪みを閉じて、また新たな歪を作り出す。その向こう側には下見で向かったあの石造りの塔が見えていた。


 俺達はその歪を通って目的の場所まで移動し、塔の全容を確認する。


「ぱっと見、周囲にはアンデッド達の姿は見えないけど…… ライル君、何か視えるかい? 」


 クレスにそう言われ、集中して周りを視る。下見の時と同じで外には誰もいなく、中にアンデッドが密集しているようだ。ん? ちょっと待て…… 地面の下に何かいるな。これは、サンドワームか? 複数のサンドワームが塔の周りを囲むように砂中を移動している。


「むぅ…… サンドワームが? では歩いて行くには危険であるな。ライル殿の魔力飛行で近付くのが良いだろうか? 」


 そのレイシアの提案にエレミアが待ったを掛ける。


「サンドワームの動きが不自然だわ。まるで塔を守ってるみたい。もしかたら、レイスに憑依されているのかも」


「でしたら、油断は出来ませんね。サンドワームには目が存在しないと言いましても、レイスが取り憑いているのなら無闇に近付くのは危険です」


 アグネーゼの言うように考えも無しに接近するのは危険か? はぁ、失敗したな。あの時ちゃんと塔の内部だけじゃなくて砂の中まで視ておけば良かった。そうすれば前もって対策が出来たのに。


『ライル、だいじょぶ! ムウナに、おまかせ!! 』


 ムウナが意気揚々と叫び、魔力収納から飛び出して自らの体を大きく変化させた。その姿はガンビット達と倒したあの巨大なサンドワームに似ている。違う所は、体の至る所に剥き出しの目がギョロギョロと忙しなく動き、体から生えた触手が蠢いて、色も黒っぽくなっていた。


 これは…… 何とも凶悪な姿。もうサンドワームに似た別物だよ。これにはクレスとレイシアも言葉を失っている。


「ライル! これでムウナ、すなのなか、じゆうにおよげる! あのウネウネたち、たべていい? 」


 その不気味なサンドワームらしきものから、ムウナの声が聞こえてくるのはかなり違和感があるけど、ここは任せても問題はないだろう。


「あぁ、一匹残らず食べて良いぞ! 」


「やったぁ! うねうね、たべほうだい! 」


 サンドワームらしき物体に変化したムウナは、喜び勇んで砂に潜り、塔の周りを泳いでいるサンドワーム達にを食らいに行った。あの体格差なら、ムウナの独壇場だな。


「いや…… 久々に見たけど、やっぱり強烈だね。まだ胸の動悸が収まらないよ」


「相変わらず恐ろしい。敵で無くて本当に良かった」


 久しぶりのムウナは、クレスとレイシアには少々刺激が強かったようだ。まぁ気を取り直して、塔へと侵入しようか? 今もムウナが砂中から躍り出てはサンドワームを丸呑みしてるのが見えるけど、気にしないでおこう。じゃないと何時までも先に進めそうもないからね。


 俺は皆を魔力収納に入れて、塔まで飛行して近付いていく。魔力収納にある大根を魔力で操り、塔の壁に触れようとしたら弾かれてしまった。やっぱり侵入を阻む結界が張られていたか。


『何故、大根? 』


 いや、クレスさん。適当に目についた物を出しただけだから、そこはスルーして頂けませんか。


『ライル、入り口から入れそうよ。正面から攻め込みましょ? 』


 そうだな、それしか塔の内部に入れそうもないし、堂々と殴り込みと行きますか。


 俺はクレス達を魔力収納に入れたまま、一人で入り口に向かう。扉には鍵が掛かっていたけど、俺の魔力支配の前では無意味。魔力で簡単に開錠して中へ入る。

 そこには丸い部屋の奥に上へ続く階段と、レイスにスケルトンが控え、中央には青白い肌をした見た目は人間と大差ない者達がテーブルを囲い、カードゲームに興じていた。


 何だ、この不健康そうな人達は?


『相棒、あれがヴァンパイアだ。気を付けろ、見た目は病人みてぇだが、力は恐ろしく強いぜ。それに加えて、特殊な術も使って来やがるから注意しな』


 テオドアの警告を受けて、あれがヴァンパイアだと初めて知る。本当に人間と変わらない姿をしているな。それだけでもやりづらいのに、実力も相当だと言う。厄介な相手だよ。


「おい、このガキ…… どうやって入ってきた? 外にはサンドワームがいたはずだが? 」


 ヴァンパイアの一人が訝しげに此方を睨む。やはりあのサンドワームはコイツらが仕込んでいたようだ。


「偶々だろ? 砂漠のど真ん中で迷ったか? でも丁度小腹が空いてたんだ、ここらで食事としようか」


 隣に座るヴァンパイアが、長く鋭い牙を見せ付けるようにニヤリと笑う。


『ライル君、血を吸われないよう注意して。奴等に噛みつかれたら、瞬く間に全身の血を吸われてしまう』


 成る程、前世の世界と同じで、こっちのヴァンパイアも主食は血液な訳だな。


「おい、油断するなよ? ガキが一人でこんな所にいるのは、どう考えたって普通じゃねぇ。何かあるかも知れないだろ? 」


 別のヴァンパイアが俺を睨みながら、仲間を嗜める。こいつは用心深い性格らしい。


「はん! こんなボロボロのガキ一人で何が出来るってんだ? 見ろよ、あの姿。良く今まで生きて来られたな? 」


 俺の見た目で完全に油断しきっているヴァンパイアは、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、此方へ歩いてくる。


 他のヴァンパイアとある程度距離が離れた所で、魔力収納からエレミアが飛び出し、近付いて来ていたヴァンパイアの首を蛇腹剣で刎ねた。


「フン、何がヴァンパイアよ、思ったより弱いじゃない。これならライルの方が断然強いわ」


 首を刎ねられ、倒れるヴァンパイアをゴミでも見るかのような視線で見下ろすエレミア。


 おぅ…… 何か随分と機嫌が宜しくないみたいだね。

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