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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
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 両足を治した為、今までに鍛え上げた肉体が急激に衰えてしまったユリウス殿下だが、肉を中心とした食事と筋力トレーニング、そしてマリアンヌの献身的なサポートによって何とか一人でも動けるようになっていった。

 元々偉丈夫だった事もあり、両足が治った時には一般の成人男性よりもやや劣るぐらいの肉体で済んでいたので、そんなに時間を要する必要もなかった。


 その間、クレスはこのオアシスにいるミスリル級とゴールド級の冒険者を地下室に集め、港町奪還計画の細やかな打ち合わせを始める。屈強な男達と勝ち気な女性達がいるそんな中で、俺だけが浮いているような…… 時々、何だあいつは? っていう冒険者達の視線が刺さり、どうにも居心地が悪い。


「僕の呼び掛けに集まってくれてありがとう。こうして今まで持ちこたえて来れたのは、偏に君達の協力があってこそ。だけどもう隠れる必要は無くなりました。今度は此方から仕掛ける番です。これより、港町奪還作戦の概要を説明します」


 クレスが説明する内容は俺とユリウス殿下とで話し合ったものと大差はなかった。しかし、初めて聞かされる冒険者達は皆真剣に耳を傾けている。同じ等級の冒険者もいるのに、異議を唱える者もいない。これだけで如何にクレスが信頼されているのかが伺える。


「そして、この計画の要である者を紹介します。遙々インファネースから来てくれた妖精のアンネリッテだ! 」


「やっほー! どうも、あたしがアンネリッテだよ! アンネって呼んでね♪ あたしの精霊魔法で皆をちょちょいっと送っちゃうよ~」


 本物の妖精の登場に、冒険者達は色めき立つ。


「おい、ありゃ本物の妖精じゃねぇか」

「噂で聞いた事がある。インファネースには他種族に加えて妖精まで普通に暮らしているとか」

「あぁ、その噂なら俺も知ってる。本当だったんだな」

「ちっちゃくて可愛い…… あんなのが沢山いるんなら、私もインファネースに行ってみようかな? 」


 ざわざわとしているなか、アンネは冒険者達の悪くない反応を受け、得意気にポーズを決めていた。あ~あ、調子に乗っちゃって。


「そして、そのアンネの友人であるライル君だ。彼はインファネースでも名の通っている商人で、空間収納のスキルを持っています。その力を借りて、ユリウス殿下が密かに持ち出した古代の術式をリリィが解読して再現した魔道具を、奪還した港町とここオアシスに設置してもらいます。その魔道具は転移門と言って、空間を繋ぎ瞬時に町の行来が可能となる。これを利用して人と物資をオアシスの町に送る予定です」


「ど、どうも、ライルと申します」


 アンネの後じゃ反応は宜しくないだろうと思っていたが、以外にも友好的な感じに受け入れて貰えた。きっと空間収納持ちだからだろう。それと転移門については、遺跡から発掘された術式を元に作ったと言うことにしている。


「それでは、アンネの精霊魔法で港町に到着したら、ミスリル級の皆さんは殿下の指示に従い速やかに行動を願います。それとガストールさん達には、等級の低い冒険者達を引き連れ、町の四隅に結界の魔道具を設置して貰います。良いですか? 無理にレイスを倒そうとはせずに神官達に任せ、憑依されている兵士達から神官を守るのが主な役割です。なるべく殺さないよう注意してください。兵士達は取り憑かれているだけで、殺してしまえばそれだけ王都へと攻める戦力が減ると考えて貰いたい」


 港町にはレイスによって体の自由を奪われた兵士達が守りを固めている。今回の作戦ではあくまでも冒険者は補助的なもので、メインは神官の浄化魔法である。そしてガストール達が魔道具で結界を張り、外からの侵入を防げるようになったのなら、町の隅々まで調べ上げ、レイスを一人残らず追い出す。


 その時にはもう、この国を覆っている魔力阻害の結界は解除されている予定だ。その後、俺はアンネの精霊魔法でオアシスと港町に転移門を設置、その門を通ってレストンが港町の商工ギルドにある通信魔道具でインファネースに連絡し、ユリウス殿下がリラグンドへの支援要請を行う。各冒険者ギルドにもアンデッド討伐として依頼を出すのも忘れず、アグネーゼにもマナフォンでカルネラ司教に報告してサンドレアに神官を集めて貰う。


 戦力が整うまでにアンデッドによる襲撃が予測されるので、オアシスの町と港町の守護を強化しておく必要もある。


「さあ、ここからが反撃開始だ! 今まで好き勝手してくれたアンデッド達を懲らしめてやろう! 」


 地下なので大きな声は上げれないが、ここに集まった誰もが闘気を漲らせ、静かな怒りを貯めていた。これまでいいようにやられていた分、かなりの鬱憤が蓄積されているようだ。恐ろしいが頼もしくもある。



  ◇



 それから三日後、遂にその時は来た。オアシスの町にある広場には大勢の冒険者と神官が集り、出撃の合図を今かと待ちわびている。


 そこにクレスとレイシアを伴ったユリウス殿下が、完治した両足でしっかりとした歩みで彼等の前に現れた。


「皆の者、待たせてしまってすまない。漸くだ…… 漸く、あの忌まわしきアンデッドから、この国を取り戻す時が来た! 愛する者、大切な友や家族を失った者は数知れず。我々から多くのものを奪ったアンデッド達に、今こそ報いを受けさせてやらねばならぬ!! 正義は我等にあり! さぁ、共に剣を取り、戦いに参ろうではないか!! 」


 ユリウス殿下が腰に差してある剣を引き抜き、高らかに天へと掲げた。朝日が剣身に反射して輝き、神官達は静かに祷りを捧げ、冒険者達による怒号の叫びが空気を震わせる。


 今ここから、国を取り戻す為の戦いが始まった。

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