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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十三幕】砂の王国と堕落せし王
323/812

15

 

「見えてきましたよ、ライルさん。あれがサンドレアの港町です」


 そう言ってレストンが指を指す先には、大きな港と町並みが見え始めていた。だが魔力を視ようとすると、白い霧のようなものに包まれていて何も見えなくなる。かなり巨大な結界だ、魔力の供給源は中に入らない事には分かりそうもない。


「結構立派な町なのですね? 」


「えぇ、貿易を主としている町ですから、各国からの船が集まってくるんです。まぁインファネースのようなものだと思って頂ければ良いでしょう」


 成る程ね。しかし、そんな言うほど船が見当たらないのだけど?


「予想していたよりもずっと船の数が少ないです。規制を強めた結果でしょうか? これではこの港町が機能しているのか心配です」


 あの貿易商が言っていたように、仕事が極端に減ってしまい廃業する者達が多く出ているという話しも頷ける。


「あの…… 着替えたのですが、これでよろしいでしょうか? 」


 甲板に出てきたアグネーゼがどこかそわそわした様子で歩いてくる。普段着ている修道服から着なれない服に着替えて戸惑っているようだ。


「よく似合っていますよ、アグネーゼさん」


「そ、そうですか? このような服を着るのは久しぶりでして、何だか落ち着かないです」


 今のアグネーゼは何処から見てもスタイルの良い町娘って感じだ。これならレイス達に教会の者だと見た目では分からないだろう。アンデッドが溢れる場所に修道服なんか着て行ったら、真正面から喧嘩を売っているようなもの。なので、アグネーゼにはサンドレアに着く前に着替えて貰った。


 港へと船をつけ、降りた先には兵士を連れた役人と思われる男性が出迎えてくれた。


「ようこそ、サンドレアへ。何処の商会の者ですか? 」


 挨拶もそこそこに用件だけを聞いてくる様子は、あまり歓迎はされていないと見える。レストンは商工ギルドからと伝え、ギルドカードを提示した。それを確認した役人に許可を貰い、ここの商工ギルドに運ぶ荷物を船から降ろし始める。その間も兵士と役人は監視するかのようにこちらを窺っていた。


 お世辞にも活気に溢れているとは言い難い。インファネースとはだいぶ違うな。


「前はもっと賑やかな町だったのですが…… これもアンデッド達の影響なのでしょうか? 」


 レストンは物静かな町を見て、寂しそうに呟いた。


『相棒、あいつらもレイスに憑かれてるぜ? それに倉庫や建物の影にも潜んでこっちを監視している奴もいる。気を付けねぇとヤバイな』


 ふぅ、どうやら予想は当たっていたようだ。もう既にこの町はレイスによって占領されているのと同じ、俺達は今敵の腹中にいるって訳か。


 この事を魔力念話でレストンやガストール達に伝える。


『それでは迂闊な事を言わないよう心がけますね』


『常に監視されていると思って行動した方が良さそうだな。ったく、めんどうだぜ』


 荷物を降ろすのはサラステア商会の人達に任せ、俺達は報告と挨拶の為、商工ギルドへ向かうと役人に断りを入れてからこの場を離れた。勿論それはただの建前で、今のギルドがどういう状況なのか確認する為でもある。


 ガストール達も冒険者ギルドがどうなっているか早く知りたいだろうけど、俺達の護衛という立場だから勝手な行動は出来ない。後で冒険者ギルドにも寄らないとな。


「これは…… 何だか町の人達に元気が無いように見えます」


 アグネーゼがそう思うのも無理はない。皆俯き気味で外を歩き、町中で会話をしている人達も見当たらないのだ。これがインファネースなら、子供の笑い声や妖精達の元気な声が聞こえてくるのにな。


『テオドア、町の人達にもレイスは取り憑いているのか? 』


『いや、全員じゃねえけど、ちらほらといるな』


 日中はレイスも自由に動けないから、誰かの中に入って監視しているのだろうか? この町に入ってからずっと見られている感覚がする。はぁ、これは疲れる。町の人達に元気が無くなるのも分かる気がするよ。



 暫く歩いて行き、目的の商工ギルドへと到着した。



「着きましたね、外から見る限りは普通なのですが…… 」


 レストンがギルドの外観だけを見て思わず言葉を漏らすが、問題は中の様子なんだよな。はてさて、どうなっているのやら。意を決して中に入ると、驚く程に普通だった。客こそ少ないけれど、見る限り職員は何事も無かったかのように業務をこなしている。


 これには少し拍子抜けしたが、すぐに気を取り直してカウンターへと向かった。


「お疲れ様です。私はインファネースのギルドから商品を届けにきました、レストンと申します。荷物の運搬の為の馬車を用意して頂きたいのですが、担当の者はおりますでしょうか? 」


 ギルドカードを提示しながら挨拶をするレストンを、受付の女性はほんの一瞬だけ目を見開いたが、すぐに表情を戻した。そして淡々と手続きを済ましているように見えるけど、時折すがるような目で此方を見てくる。


『テオドア、どうだ? 』


『こりゃやべぇな…… 殆どの奴らが憑かれてるぜ。まぁ意識までは乗っ取られていないようだけどよ』


 これには心の中で頭を抱える。これも予想はしていたけど当たって欲しく無かった。ギルドの職員達は、レイスに取り憑かれてずっと見張られている状態にあるって事か。


 だからこの受付の女性も何も言えずに目で訴えることしか出来ない。今すぐにでも助けてあげたいけど、他の人達に危害が及ぶ可能性もある。悪いけど、あと少しだけ耐えてもらいたい。

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