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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第二幕】マナの大樹と眼なしのエルフ
32/812

16

 

「相も変わらず、口喧しい羽虫だ…… このような身でなければ、踏み潰してやれたものを……」


 ドラゴンは悔しそうに喉を鳴らした。良く見れば所々、鱗が剥がれ、爪も欠けている。 蒼白く光っている鎖のような物で身動きがとれないみたいだ。

 だからアンネは強気でいられるのかな? だとしたら、ちょっとカッコ悪いぞ。


「おうおう! やれるもんなら、やってみろ! 逆にボッコボコにしてやんよ!!」


 アンネはドラゴンに向かって何度もパンチを繰り返し放っている――シャドウボクシングかよ。


 しかし、このままでは話が進まない。 かなり恐いが俺から話し掛けるしかなさそうだ。 まぁ動けないみたいだし、何かあればすぐに逃げ出そう。


「は、はじめまして…… じ、自分は、ライルと言います…… 突然の訪問、失礼致します。誠に恐縮ではございますが、貴方様にお願いがあって伺わせて頂きました。 何卒、知恵をお貸し頂けないでしょうか?」


 な、何とか言いきったぞ…… 失礼な物言いは無かったと思うけど、気難しそうだからな……大丈夫か?


「……おい、羽虫…… この人間の小僧の方が余程礼儀正しいではないか、貴様も見習ったらどうだ?」


「ふふん! ライルならこれぐらい当然でしょ! それと、てめえに正す礼儀なんかねぇ!!」


 ドラゴンはアンネを意図的に無視して、俺の方へ金色の眼を向けてきた。


「お前は最低限の教養は持ち合わせているようだ。人間にしてはな…… 良いだろう、話は聞いてやる。 協力するかはまた別だ」


「にゃにおー! おとなし――」


「――はい!! それで結構です! ありがとうございます!」


 アンネがまた余計な事を言い出す前に言葉を被せてやった。ふぅ~、 危なかった…… ここはアンネに大人しくしてもらうよう頼むしかない。


「アンネ…… ここからは俺が話すから、頼む……」


「む~、わかった…… 」


 渋々だけど、大人しく引き下がってくれた。さて、ここからが勝負だな。どうやって協力にこぎ着けるか…… そこが問題だ。


 まず嘘は無しだ。 今、俺が必要としている事を正直に話すしかない。 そこからやっと交渉が始まる。


「おお、忘れる所だった。 其方が名乗ったのだから、我も名乗らなければ礼を失する。 我の名は“ギルディエンテ”…… さあ、話を聞こう」


 ドラゴン――ギルディエンテはそう言って眼を細めた。


 俺は嘘偽りなく話した……エレミアの眼の事を、俺が考えた義眼の魔道具の事を、知識不足でそれが作れるかどうか分からない事を…… 上手く伝えられたか心配だが、ギルディエンテはじっと話を聴いていた。


「うむ…… なかなか面白い事を考えるな、眼の代わりに魔道具を――か」


「それは不可能なのでしょうか?」


 ギルディエンテはそのまま暫く思案に耽っていたが、やがてゆっくりと喋りだした。


「…… 結論から言ってそれは可能だ。 似たような仕組みの魔道具を我は知っている」


「本当ですか!? 良かった。 これでエレミアの眼が見えるように……」


「ただし、我は知っているだけで作ることは出来んぞ。 それに、あくまでも似ているだけであって術式に手を加えなければならない。 知恵を授けるにしても我はここから動く事が叶わない、どうするのだ?」


 作るのは俺がやるから問題はないけど、それを教えてくれる者がいないとどうしようもない…… この鎖が原因で動けないのか?


「この鎖のせいで動けないのですか? 一体なんですか? これは……」

 

 ギルディエンテは不機嫌そうに喉を鳴らし、顔を顰めた。


「これは封印の魔術だ。 愚かな人間共のな…… 忌々しい奴等め。一人残らず嬲り殺してやりたいが、もう誰も生き残ってはいないだろう……残念だ」


 この鎖には魔術が施されているのか。 ドラゴンを封じる程の魔術を人間が…… そんな魔術は聞いたことがない。俺が知らないだけかもしれないけど。


「残念でした~…… まぁ、千年前の事だからね、生き残ってる筈がないよ」


 千年前? なら、これは古代の魔術?


「あの滅んだと言われる文明のものなのか……」


 ギルディエンテは千年以上もこんな暗い場所にいたのか…… 俺だったら二日も持たず発狂する自信がある。


「何故、封印を?」


「それはね~、千年前の文明が滅んだのは、こいつが原因だからさ!」


 なに!? 神の怒りに触れたからじゃないのか? もう何が真実が分からなくなってきた。 俺が頭を抱えていると、


「いい加減なことを言うな! 確かに、我は滅びの要因のひとつではあるが原因ではない!」


「では、なんなのですか? 古代の人達が神を召喚しようとして神の怒りに触れたと教会で伝わっていますが、本当なんですか?」


 ギルディエンテは大きく鼻を鳴らし、落ち着きを取り戻した。


「概ね間違ってはいない…… が、その後が問題なのだ。 召喚自体は成功した。 だが、そこから出てきたのは神ではなく“化物”だった…… こことは違う世界のな」


 異世界の化物? 神を召喚しようとしてそんなのを呼び出したのか……


「その化物は強大な力で暴れだしてな…… このままでは、この世界が奴に食い尽くされてしまう。 そう危惧した神の命令で我が化物と戦ったのだ。 その熾烈な戦いは三日三晩続き、その余波で主要な都市や国が滅んだ…… 人間共の自業自得よ」


 ということは、ギルディエンテは世界を救った事になる。 なのになぜ封印されたのだろうか?


「しかし、人間共は事もあろうに、戦いで弱った我と化物を封じたのだ! おのれ…… 我は奴等の尻拭いをしてやったというのに……」


 成る程、臭いものには蓋をしろ、と言ったところか。 自分達が世界を滅ぼしかけたなんて伝えたくはないよな…… それとも、ギルディエンテと化物の戦いの被害を抑える為だったのか…… 今となっては誰も分からない。


「ダッサいよね~、一生懸命戦ってたのにこんな所に閉じ込められちゃって…… でも、正直に言って助かったんじゃない? 結構あぶなかったじゃん」


「馬鹿を言うな! あのままやっていれば我の勝利で終わっていた!」


「え~? どう見ても劣勢だったじゃ~ん」


「黙れ! 貴様等は見ているだけで何もしていなかったではないか!」


「わたし達はマナの管理という大切な使命があるんです~! てめぇみたいに、暴れるだけの簡単なお仕事じゃないんです~!!」


「……!! この…… くそ虫…… が!」

 

 ああ! もう!! なんでこんなに仲が悪いんだ…… 面倒くさい!


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