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皇帝との非公式な対談は、この世界の減少傾向にあるマナについてと俺の本来の目的についての話となった。それを聞いた皇帝は眉間に皺を寄せ、右手の親指と人差し指で軽く両目を揉む。
「むぅ、そんな話をしていた者が前にいたような気もするが、その時は誰も相手にしてなかったな。まさかこれ程迄に緊迫した状態に差し迫っているとは…… それでお前はエルフの里からマナの若木を空間収納で持ち出し、大陸中に植えているのか。だからそこのエルフを連れている訳だな? 」
悪いけど、エレミアを理由にマナの若木はエルフの里から持ってきているという事にさせて貰った。
「えぇ、でも私がライルの側にいるのはそれだけが理由じゃないわ」
皇帝が相手でも相変わらずエレミアは平常運転だ。その胆力が羨ましいよ。
「ほぅ? 成る程ね。中々やるじゃないか、お前は初代様と違って孤独ではないようだな」
俺とエレミアを交互に見た皇帝は、ニヤニヤと笑いながらそんな事を言ってくる。少しイラッときたのは言わないでおこう。
「それでですね、もし宜しければ此処にもマナの若木を植えたいと考えているのですが、何処か良い場所はありますか? 」
「それなら俺の庭に植えればいい。まぁ俺のと言うか皇帝の為だけに用意された庭だかな。そこは専属の庭師と皇帝が連れてきた者しか入る事は許されていない。安心してマナの木を育てられるぞ」
俺の代で城にマナの木を植えるなんて、これで皇帝として更に箔が付いたな―― と機嫌が良い皇帝に連れられて一階にある専用の庭にやって来た。
「おい! ガーランドはいるか!! 」
「はい! 此処に、皇帝陛下」
急いで走ってきたのは、あの時俺を皇帝の私室に案内してくれた庭師のガーランドだった。皇帝はガーランドにマナの若木を植える旨を伝えると、それはもう少年のように瞳を輝かせてガーランドは喜んでいる。
ガーランドの指示で庭のほぼ中央にマナの若木を植える。若木と言っても優に己の身長を越える木を見上げては、皇帝もガーランドも言葉を失っていた。
「なんと見事なものだな。これでまだ若木なのか…… ガーランド、このマナの木を無事に大樹へと育ててほしい」
「はい。一族で引き継ぎ、立派に育てて見せましょう。この様な栄誉を我が一族に与えて下さった皇帝陛下に、それとマナの木を運んでくれたライル様に感謝を…… 」
恭しく頭を下げるガーランドに若干戸惑いを覚える俺の横で、皇帝は満足気に頷いた。
これで帝国にもマナの木を植える事が出来た。皇帝専用の庭なら伐採される心配はないだろう。皇帝はこれからも代わっていくけど、庭師は代々引き継いでいくみたいだし、ガーランドの一族に任せておけば何時の日かエルフの里にも負けない位の立派な大樹へと成長するかも知れない。
お互いに用事を済ませた後、皇帝に泊まっていかないかと誘われたが、丁寧に断りを入れる。流石にそこまで俺の胆は大きくはない。
「今度俺と会うときはガーランドに頼むと良い。城にはそのエンブレムを見せれば入れるようにしておこう。その時はそこのエルフとの試合を所望する。中々に強そうな気配がするのからな。楽しめそうだ。ではまた会おう! 」
そう笑みを浮かべ颯爽と去っていく皇帝の後ろ姿を見送った後、俺も城を出て宿へと戻ってきた。
あぁ…… 疲れた。まだ昼過ぎだけど終始緊張しっぱなしで酒も入った俺は、もう動く気もしなくベッドに倒れ込みぐったりとしている。
『よしよし、順調だね。この調子でどんどん植えて行こう! 』
ごめん、アンネ。今ちょっとそのテンションについていけそうもない。頼むから少し休ませてくれ。
この後酔いを覚ます為に仮眠を取り、夕食を宿で頂いてから約束してあった明日のデットゥール商会の商談に向けて早めに休む事にした。
◇
「あの、約束していたライルと申しますが、店主はいらっしゃいますか? 」
翌日の午前、店が続々と開いていく時間にデットゥール商会へと訪れた俺はカウンターにいる店員に声を掛けた。
「はい、お待ちしておりました。店主は上の階におりますのでご案内致します」
俺を覚えていたのか、店員はすぐに店主がいるという部屋まで案内してくれた。
店員が扉をノックして一緒に中に入ると、書類とにらみ合うようにデスク仕事をしている男性が此方に目を向ける。
「うん? あぁ、君が私に会いたいと言っていた者だね? お待たせして申し訳ない。さ、そこのソファへ座って寛いでいてください」
紳士風な見た目の男性は、仕立ての良い服装でその口にはガイゼル髭を蓄え、少しふっくらとした体型は富を象徴しているかのようだ。
「いやぁ、インファネースからおいでなさったと聞いております。遠路遙々さぞ大変でしたでしょう? 私はこのデットゥール商会の会長をしております、マシラ・デットゥールと申します。以後お見知りおきを」
へ? 店長じゃなくて会長!? 思わない大物の登場で軽く呆気に取られながも、此方も慌てて挨拶をする。
「い、いえ! まさか会長様がお会いして下さるとは…… あ、私はインファネースで小さな雑貨店を営んでいるライルと申します。此方こそ本日は宜しくお願い致します」
まさかの会長様だよ。事前に皇帝と会っていて良かった。そうじゃなければもっと混乱して変な事を口走っていたかも知れない。




