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エドヒルの案内で、エルフの里を見て回る事になった。木から木へ吊り橋を渡り、移動している訳だが……高い! 怖い! 高所恐怖症の俺には橋を渡るだけでも時間が掛かり、そこから見える壮観な景色を充分に堪能する暇がなく、エドヒルの後をついていくので精一杯だった。
「高い所が苦手か、そんな奴は初めてだ。お前にとって、この里は住みにくいだろうな」
確かに、エドヒルの言うように俺が住むには適さないかもしれない。大体この橋も悪い、作りが甘いのか分からないけど、一歩進む毎に凄く揺れるのだ。それに、足場となる板と板の間隔が広く下が丸見えで、それが更に俺の恐怖心を掻き立てる。
……ん? 待てよ……下が見えたり、揺れるのが駄目ならば“魔力飛行”で浮いて移動すればいいんじゃないか?
そう考えた俺は早速、魔力を全身に纏い体を浮かせて移動した。
おお! これはいいな、かなり恐怖心を軽減できたと思う。怖い事には変わりないが……
「それは妖精と同じ原理で飛んでいるのか?」
「え? あっはい、そうみたいです」
「人間にそんな事が可能なのか?」
エドヒルが疑問に思うのも無理はない、人間には真似できない芸当らしいからな。
「アンネが言うには、俺が持っているスキルの影響らしいですよ」
「ほう、そんなスキルもあるのだな……さぁ着いたぞ、見てみろ」
吊り橋を幾つか渡り、里の奥へと進んだ先に案内された場所で見下ろしてみれば、そこには木は生えてなく、ぽっかりと空いた空間に白い景色が一面に広がっていた。
「ここは、綿花畑だ。ここで取れた綿を使い、衣類や寝具などに使っている」
「凄いですね。ここのような場所は他にも?」
「ああ、野菜畑やブドウ畑などがある。管理は狩りに向かない者や子供達に任せている」
成る程、個人ではなく、みんなの畑って事か。それにしても、狩りをするのか……弓が得意そうだもんな、狩りも上手そうだ。
「狩りの獲物は何ですか?」
「主に、食肉になる動物と魔核を集める為に魔物や魔獣を狩っている」
え!? エルフって肉食べるんだ……野菜しか食べないかと思ってた。そんな思いが顔に出ていたのか、エドヒルは軽く溜め息をつき、
「俺達だって肉は食べる。そうしないと筋肉がつかないからな。まあ、なかには菜食主義者もいるが……そもそも俺達エルフは鉄の臭いが苦手なんだ」
「鉄の臭いが苦手?」
「ああ、だから争いも好まない奴が多い。戦えば血が流れる。血は鉄の臭いがしてな……それと同じ理由で、血生臭い肉も好きではない。そこからエルフは肉を食べないと言う俗説が広まったのだろう」
へぇ~、確かに、栄養バランスを考えると、野菜ばかりじゃきびしいかもな。
「でも、矢じりやナイフ、鍋などの鉄製品はどうなんですか?」
「別に苦手と言うだけで、使えない訳では無いのだが……極力使うのは避けている。これを見てみろ」
エドヒルは背中に担いでいる矢筒から一本の矢を取り出して見せてきた。よく見てみると全て木で出来ていて、矢じりの部分が黒く変色している。エドヒルがその部分を指で叩くと、まるで金属を叩いたかのような音が鳴った。
「それは?」
「特殊な薬液を矢の先端に染み込ませ、乾燥させると鉄のように硬くなり火にも強くなる。それを鉄の代わりに使ってはいるが、さすがにナイフや剣は鉄製品を使用している」
その特殊な薬液と言うのを使えば、鉄の強度に火の耐性が付いた木材が出来るのか、便利な物があるんだな。
俺達は綿花畑を後にして、一件の家の前に着いた。全体的に丸い形状をしていて、なんだか可愛らしい感じがする家だ。
「ここが俺の家だ。長老からお前の世話を任されているのでな……暫くここに住んでもらう」
エドヒルの家だったのか……
「暫くとは、どのくらいですか?」
「さぁ? 分からん……少なくとも、アンネリッテ様への頼み事が済むまでだろうな」
そうか、アンネは一体、どんな頼み事をされているんだろう。危険な事では無ければいいんだけど……
「すいません、お世話になります」
「気にするな、ちょうど部屋も余っているし、仕事だからな」
そう言ってエドヒルは家の中に入っていったので俺も後を追った。
「帰ったぞ」
「お、おじゃまします……」
家の中に入ると、少し前に二階に続く階段があり、左にはダイニングルームにキッチンがある。全て木造だ……造りは全然違うのに、何故か前世の実家を思い出し懐かしい気持ちになった。
「お帰りなさい、兄さん……? お客様?」
二階から声が聴こえ、下りてきたのは若い姿をしたエルフの女性だった。




