7
引き続きハニービィ達に男達を監視してもらい、彼等の狙いは何なのか探ろうと思う。
クイーンに頼んで、監視しているハニービィを男達に近付けさせ会話を拾ってもらうと、
――なぁ、本当にこの辺りなのか?――
――ああ、あのガキはこの先にいるはずだ。間違いねぇ……――
――そうか……しかし、気味の悪いガキだぜ。いつもフードを被ってるし、言葉も丁寧で気色わりぃ。あいつは本当にガキなのか?――
――んなことはどうでもいいんだよ、とっととアイツを締め上げて、必要なもん聞き出したらぶっ殺せばいいんだ――
――ああ、そうだな。よそ者が調子に乗りやがって……――
はぁ……これは確実に俺が目当てか……
「ほら! わたしの言った通りじゃん!」
一緒に男達の会話を聞いていたアンネが得意気な顔で言ってきた。
――敵確定、殺す?――
「いいね! 返り討ちにしてやんよ!」
クイーンとアンネは殺る気満々のようだな、あの様子では話し合いも無理そうだ。
「少し予定は早いけど、ここを離れて別の村か町を探そう」
「逃げるの?」
「逃げれる時は逃げるさ、無理に戦おうなんて思わない」
正直に言えば、嫌なんだ、人を殺すのは……まだそこまで割り切れない。 だから逃げられる内は逃げる、いつか逃げ場を失うその時まで……
アンネはまるで俺の心を見透かしているように、見つめながら大きな溜め息をついた。
「はぁぁ~、まったく仕方ないね……怖がりなんだから」
怖がり……か、確かにそうかもな。
――移動する?――
クイーンから聞かれたので、
『ああ、そうだよ……だから、殺すのは無しだ』
――了解――
俺は外に出て、家全体を魔力で包むと収納した。ふぅ、結構魔力を使うから疲れるんだよな。
「そんじゃ、見つかる前に行こっか」
「そうだな、次はどこへ行こうか……」
また、宛のない旅か……男達とは反対方向に足を進め、この場から離れた。
・
・
・
・
あれからどのくらい移動しただろうか……ひたすら森の中を突き進み数日が経過した頃、不思議なものを捉えた。
それは大きな魔力の固まりが目の前を塞いでいた。肉眼で見てみると、目の前が霧で覆われている。この霧は魔力で出来ているのか?
「結界だね、それもとても強力な……」
「結界? じゃあ、ここから先は進めないのか?」
「そうだね、行ってみればわかるよ」
はぁ? この霧の中を行けと? 大丈夫か?
「なに? 怖いの? ウププ……」
アンネがからかって嗤ってくる。
「危険は無いんだろうな?」
「大丈夫! 命の危険はないよ」
まあ、それなら行ってみるか。霧の中へ入り、まっすぐ進んだ。中は真っ白でなにも見えない。それでも足を動かし前に歩いていると、霧の中から抜け出す事が出来た。
「おかえり~」
そこにはアンネが笑顔で待っていた。
「え?……どうして……」
俺はアンネより先に霧の中へ入ったはず、何時の間に抜かれたんだ?
「お? 驚いてるね~、わたしはずっとここにいたよ。ライルが戻ってきただけ」
「戻ってきた? 俺はずっと前を進んでいたはずだけど……」
「それがこの結界の効果だよ。必ず入った場所に戻されちゃうの」
へ~、そうなのか……でも、これでは先に行けないな。
「戻るしかないか……」
「なに言ってんの? ライルのスキルでこの結界に穴を開ければいいんだよ」
この結界は大きな魔力の固まりのようなもの、なら魔力支配で操り、通り道を作るということか。
「でも、そんな事をして大丈夫なのか?」
何が起こるか分からないからな。
「心配無用! 一時的に穴が空くだけだから、すぐに元に戻るよ」
「本当に? それならいいんだけど……やけに詳しいな、この先に何があるのか知っているのか?」
「わたしの知り合いが住んでるよ」
おいおい、そういうのは早く言ってもらいたいな……
「まあ、四百年ぐらい会ってないけどね」
「人間か?」
「いんや、エルフだよ」
なに!? エルフだって! それってもしかして、
「なぁ、エルフというのは……あの、耳が長いっていうあのエルフ?」
「ん? 確かに人間と比べると少し長いかな……それがどうかしたの?」
おう……何気に初めてだな、人間以外の種族に会うのは……
「知り合いがエルフで、この先に住んでいるんだよな?」
「さっきからそう言ってんじゃん! で、行くの? 行かないの?」
勝手に入ったら駄目だろうけど、アンネの知り合いがいるなら大丈夫かな?
「じゃあ、行ってみるか」
「いや~、久しぶりだな~。まだ、元気かな?」
俺は自分の魔力を結界の魔力に同調させ、人ひとり通れる程のトンネルをイメージして、結界に穴を開けた。
「よし! そんじゃ、行ってみよ~」
アンネが先に入って行ったので、俺も後を追う。するとすぐに視界は開け、先には森が広がっていた。
「この先にエルフ達の村があるんだよ」
エルフの村か……楽しみだな、どんな容姿をしているのだろうか? やっぱり美男美女ばかりなのかな?
そんな風にワクワクしながら進んでいると、木の上に人の形をした白い影を視た。どうやらこの先に人がいるようだ。そう思っていたら、風を切る音が聞こえ矢が飛んできていた。
その矢は俺の足元に突き刺さり、思わず尻もちをついてしまった。
あぶね~、なんだ? なにが起きた? 突然の事で混乱していたら、
「止まれ!! そこから動くな! どうやってここまで来た!」
少し前にある木の上に弓を構え、此方を狙っている人がいる。
アンネ……知り合いがいるんだろ? 大丈夫なんだよな?……何だか不安になってきた。




