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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十幕】宗教都市と原初の罪
223/812

9

 

「馬車と馬は此方でお預かり致しますので、どうぞ中へお入りください」


 エイブル助祭は馬車とルーサを奥へと牽いて行く。残された俺はエレミアと家の中へと入ると、数人の神官達とカルネラ司教が出迎えてくれた。


「ようこそ、ライル君。お待ちしていました」


「ご無沙汰してます、カルネラ司教様。突然の来訪、失礼致します」


「いえいえ、どうぞお気に為さらず。此方は何時でも歓迎ですよ。長旅でお疲れでしょう。夕食をご用意しましたので、是非ご一緒に」


 食堂へ案内され、一緒に食事をすることになった。テーブルの上にはパンに豆と野菜のスープ、それとサラダという慎ましいものだ。


「お若い貴方には物足りないと存じますが、何卒ご了承下さい」


「いえ、とても美味しそうです。ありがとうございます」


 パンは柔らかく、スープの味は濃すぎずさっぱりしたものだ。サラダには柑橘系ドレッシングが掛けられていて、爽やかな口当たり。お年であるカルネラ司教への心遣いが見られる優しい食事だ。


「とても美味しいです」


「それは良かった。食事を用意してくれた神官達も喜びます。彼等は年老いた私なんかの為に、本当に良くしてくれています。日々感謝の思いが募るばかりですよ」


 その言葉を聞いていた神官達は皆一様に微笑みを浮かべる。結構慕われているようだ。


 食事を済ませた後、神官達が食器を下げ、ワインとグラスを持ってきた。


「食後のワインを飲みながらお話を伺ってもよろしいですか? それと、ギルディエンテ様とアンネリッテ様もご一緒にどうです? なに、大丈夫ですよ。この者達は口が固く信用できますので」


 魔力収納からギルとアンネが出てきて席に着く。


「おっす、おひさ~、元気してた? 悪いけどわたし蜂蜜酒にするから」


「息災であったか? ライネル―― あぁ、今はカルネラだったか。こうして酒を酌み交わすのは何千年振りだろうか。懐かしいな」


 自分サイズのグラスと蜂蜜酒が入った酒瓶で手酌するアンネと、カルネラ司教のグラスにワインを注ぐギル。


 俺は聖教国に訪れた理由をカルネラ司教に話した。カーミラの事を聞いた司教は眉を下げ、悲しい顔を浮かべる。


「そうですか…… カーミラさんが生きていたとは驚きです。それに、クロトさんの願いですか。彼女は昔からクロトさんに心酔していましたから」


「そうなの? ちっとも気付かんかったよ」


「アンネリッテ様は人間の心には疎いですからね。気付かないのも仕方ありません」


 五百年前、ケルンとして勇者クロトと共にいた事を思い出してるのか、カルネラ司教は遠くを見詰めていた。


「確かに、クロトさんはこの世界に―― いえ、人間達に失望してしまったのでしょう。牢獄とは的を射た表現ですね。その牢獄を望んだのは我々なのに…… 」


「全く愚かとしか言えんな。自ら望んだ世界を彼の方がお創りになったと言うのに、今度は出ていきたいと言う」


 ん? カルネラ司教とギルの言葉を聞くに、こういう世界を人間達が望んだということなのか?


「ライル君。勇者と魔王が誕生する仕組みはご存知ですか? 」


「え? はい、人間と魔物、どちらかの数が多くなってしまった場合、属性神達から選ばれると聞きました」


「その通りです。この仕組みは世界が創られた時からずっと続いています。今から四千年前は魔物が支配する世界だったのですよ。あの時代は酷いものでした。魔物が国を造り、人間は家畜や奴隷として飼われていた時代。その時は先に勇者が誕生して、ある程度魔物の数が減ると魔王が誕生しました」


 そんな時代があったのか。魔物にとっては黄金期、人間にとっては暗黒期だな。


「あの時のお前の姿をライルに見せてやりたい。ライネルだったお前は魔物共を尽く駆逐していった。怒り狂う姿から、憤怒の化身とまで呼ばれていたな」


「酷い有り様でしたからね、我慢出来ませんでした。若気の至りというものです」


 ギルに前世の自分を暴露されて、カルネラ司教は恥ずかしそうに頭を掻く。


「まぁ、その時も選ばれた勇者と共に人間達を開放して回っていました。二千年前は逆に人間達の数が多くなり、魔王から誕生しましたね。沢山の人達が魔王率いる魔物達の犠牲になりました。そして今から約五百年前、人間達から勇者が誕生しました。千年前の大災害により人間の数は大幅に減り、好機と見た魔物達が攻めてきて、益々人の数が減ったのです」


 千年前の大災害というと、ムウナが召喚されて暴れだした事件だな。それを起こした張本人が俺の魔力収納内でアルラウネ達と踊っていると知ったら、カルネラ司教はどう思うだろうか。


「ライル君、勇者は直ぐに選ばれる訳ではないのですよ。七柱の属性神が一人ずつ勇者候補を選定して、その中から勇者を選ぶのです」


「ということは、先ず七人の勇者候補が出てくるんですね? どういう基準で選ばれるのですか? 」


「属性神達の好みですね。光の神は真面目な者を、闇の神は気まぐれな者を、炎の神は理性的な者を、風の神はとらえ所のない自由な者を、水の神はおおらかで優しい者を、土の神は頼もしく威厳のある者を、雷の神は好戦的な者をと、どうやらご自分の性格に似ている者を選ぶ傾向があるようです。ただ、勇者は必ず人間の中から選ばれます。そして、この七人の行動を見守り、勇者として相応しいと属性神達から認められた一人だけが勇者となり、特別な力を授かれるのです。それ以外にも最後の一人だけとなった場合も勇者に選ばれる事もあります。クロトさんは光の神に勇者候補として選ばれたのです」


 へぇ、いきなり選ばれる訳ではないのか。ん? 最後の一人だけになった場合も?


「あの、どんな理由でも最後の一人になった者は勇者になれるんですか? 」


 カルネラ司教は苦い顔をして答えた。


「はい、どんな理由でもです。最初に気付いたのは雷の神に選ばれた者でした。その者は他の勇者候補を殺してしまえば確実に勇者になれると思い、水の神に選ばれた勇者候補を殺害してしまったのです。魔物と戦わなければならないのに、勇者候補同士で争いが始まってしまった。そして最後に残ったのが、クロトさんでした。その時からもう、この世界の人間の有り様に疑問を持っていたのだと思います」


 それで良いのか神様。まぁ神達にとっては双方の数さえ減らせればそれでいいのかも知れないけど、とんでもない奴が勇者になったら後で此方が困るんだよね。そこんとこ、良く考えて欲しいものだよ。

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