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翌朝、新しく作った武器“魔動式丸ノコ”を試すため狩りにでた。
『それじゃ、頼むよ』
そうクイーンに思念を送ると
――了解――
と返事が送られてきたと同時に、ハニービィ達が魔力収納から飛び出し、森の中へ散開していく。
ハニービィ達が来てから狩りがしやすくなった。今までは獲物を見つけるため、森の中を闇雲に歩いて探していたが、今ではハニービィ達に広範囲で偵察してもらい、獲物を見つけたら思念伝達で報せてもらっている。
このお陰で狩りの効率が大分上がった。
暫く歩いていると、クイーンから
――獲物発見――
と報告があった。
『映像を頼む』
クイーンにお願いすると、ある映像が頭に浮かんできた。それは森の中でビッグボアが一本の木に体を擦り付けている姿だった。
俺やハニービィ達が使っている思念伝達は何も心の中で会話するだけではなく、頭で思い描いたイメージや記憶なども相手に送る事ができる。
つまり今、俺が視ているのは獲物を見つけたハニービィが実際に見ている映像をクイーン経由で俺に送っているのだ。
「ん? なんかいたの?」
アンネは辺りを見回しながら聞いてきた。
「ああ、ハニービィがビッグボアを見つけたみたいだ」
「いや~、だいぶ楽になったね! こっちは何もしなくても勝手に獲物を見つけてくれるから」
「その後は俺達の仕事だぞ」
「わかってるよ、でも今回はライルの新しい武器のお披露目だからね」
その通りだ、この“魔動式丸ノコ”がちゃんと使えるのか試すにはビッグボアは丁度いい相手かもしれないな。
俺達はクイーンの誘導で森を進み、ビッグボアの下へ辿り着いた。
「いたいた、まだこっちに気づいてないみたいだよ」
アンネの言う通り、ビッグボアは地面に鼻先を付け、何かを食べている――どうやら食事中のようだ。
魔力収納から魔動式丸ノコを取り出し、中の刃を思いっきり回すと、刃の振動で甲高い音が森中に響き渡る。
「うわ! なにこの音!」
近くにいたアンネは慌てて耳を塞ぎ、ビッグボアは驚き此方に顔を向けたその時、俺とビッグボアの目が合ってしまった。
「あっ…………」
気付いた時にはもう遅く、ビッグボアは俺に目掛けて突進してきていた。
「ちょっと、ライル! こっちきたよ!」
そう言ってアンネは上に飛んで待避した。
俺は魔動式丸ノコを縦に構え、ビッグボアを正面から迎え撃つ――奴は走り出したら、途中で曲がる事は出来ないので正面からの攻撃が当たりやすい。
魔動式丸ノコの高速で回転する刃がビッグボアの顔に触れた瞬間、甲高った音が一オクターブ低くなり、血液を撒き散らしながら、ビッグボアの顔から体の中心ほどまで切り裂いた所で動きが止まった。
「「…………」」
俺とアンネはお互いに声が出なかった。グロい……なんていうスプラッターだ! こんなの絶対あとで夢に出てくるよ!!
これは酷い……強力だけど、人や動物には向けたく無いな。
「ライル。見てよこれ……ズタズタだよ、これじゃせっかくの肉も毛皮も殆ど使いものにならないよ?……えげつないわね~」
アンネがビッグボアの惨状みて、ドン引きしている。
「音は大きいし、獲物はズタズタ……狩りには向かないね、この武器」
確かに、音がでかくて奇襲が出来ない――これは狩りをするには致命的な欠点だ。
今回は偶々ビッグボアがこっちに向かって来たから良かったけど、逃げられてもおかしくはなかった。
「まあ、強力な武器には変わりないんだから、いいんじゃない?」
「そうだな、今はそれでいいか」
ちゃんと武器として使える事が分かっただけでも良しとするか。
ビッグボアを回収して、次の獲物を探そうかと思っていたら、数人の人間を発見したとクイーンから思念が送られてきた。
クイーンに頼み映像を視せてもらうと、四人の男達が森の中を歩いていた。あれは、確か村でよく俺に絡んでくる奴らだな。こんな森の奥まで狩りをしにきたのか? それとも何か別の用事か……何だか嫌な予感がする。
狩りは一旦やめて、家に戻る事にした。
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「それで、どうすんの?」
家に着くと、アンネは眉間に皺を寄せ、いかにも不機嫌ですと言いたげな顔で聞いてきた。
「どうするって言っても、彼等の目的が分からない以上、どうする事も出来ないよ……ただ狩りをしているだけかもしれないだろ?」
「こんな所まで? わたしは違うと思うな、きっとライルを力付くで言うことを聞かせようとしてるんだよ!」
「その可能性もあるかもしれないけど、まだそうと決まってはないだろ?」
「いいや! 絶対そうだよ! やられる前にやろうよ!!」
その自信はどこから来るのか? アンネは自信満々に言いきった。
――殺そう――
クイーンもアンネに同調して、思念を送ってくる。
「いやいや、ちょっと待て……早まるなよ。とりあえず様子を見よう」
まったく、なんでこんなに血の気が多いんだ? こいつらは……




