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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
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21

 

「あ~…… 戻りたくねぇ~、何で王都なんかに戻らなくちゃならねぇんだよ。あ~、嫌だ嫌だ」


 二階の応接室で文句を垂れるコルタス殿下。いきなり店に来たと思ったら、ずっとこの調子だ。はっきり言って面倒くさい。そんなにこの街が気に入っているのか、それともシャロットと離れたくないのか。どちらにせよ面倒なのには変わりない。


「殿下、これ以上ライル君に迷惑は掛けられませんよ。観念して戻りましょう。結婚すれば此処にいられるようになるんですから、それまでの辛抱ですよ」


「そうだな、アレクシスの言う通りだ。婚姻さえ結んでしまえば、あの胸糞悪い城から抜け出せる。それに、爺共も何とかしなければな。このままでは国が内側から食い潰されてしまう。今じゃ王族派の貴族も信用出来なくなってきている。ふぅ、何処を向いても敵だらけだ。心から休める場所といったら、この街しかない」


「なら、此処を守る為にも、王都に戻って頂かなくてはなりませんね。第二王子である貴方にしか出来ない事があるのですから」


「分かってる…… 分かってはいるが、気が進まないだけだ」


 何やら重苦しい空気。王位継承権を放棄したと言っても、第二王子なんだ。背負っている物が俺とは違う。気が沈んでいるコルタス殿下を見ていると、シャロットが言っていた――根は真面目で繊細―― という言葉を思い出す。


「突然訪ねてすまなかったな。明日には王都に戻る為、この街を出る。良いか、目立つような事は極力するな、作るな。分かったな」


「はい、分かりました。その、色々と大変そうですけど、俺に出来る事なら力になりますよ」


「フッ、そいつは心強い。その時は当てにさせてもらおう。それじゃ、邪魔したな」


「私も失礼します。妹に会ったら伝言よろしくお願いしますね」


 店を出ていく二人を見送り、店番に戻る。結界の魔道具はそれなりに売れたけど、未だに通ってくれる客は少ない。まぁ、客が少なくても、商工ギルドに蜂蜜を、街の飲食店や酒場には味噌と醤油を卸しているので赤字にはなっていない。だけど客が少ないのは寂しいものだ。


 デイジー達なんか、客が少なくて落ち着いてのんびり出来るわぁ~、なんて言っているが冗談じゃない! 何度も言うが俺の店はあんたらの休憩所じゃないんだぞ!

 コルタス殿下に釘を刺されたけど、ようは目立つ物を作らなければ良いんだろ? それなら他所から仕入れた物を商品として売れば良い。


 ドワーフの王城で飲んだ紅茶を仕入れにアスタリク帝国に行くも良し、クレス達の様子も気になるのでレグラス王国で売れそうな物を探すのも有りだ。砂漠の国でもあるサンドレア王国にも行きたいし、有翼人にも会ってみたい。行きたい所が沢山あって迷ってしまうな。


 取り合えず近場から攻めてみようかな? なんて考えていると、店の扉が開き、スキンヘッドに不精髭、こめかみから頬にかけて切り傷がある如何にも悪人面の男性が、凶悪な笑みを浮かべて入ってきた。


「よう、調子はどうだ? 繁盛している…… ようには見えないな」


「丁度客足が落ち着いているだけです。それにしても、何時戻って来てたんですか? ガストールさん」


 ガストールはカウンターに片方の肘を着き、軽く溜め息をついた。


「ついさっき街に着いたばかりだ。レグラス王国で大規模なオーク討伐があったのは知っているよな? 報酬が良かったんでな、俺達もレグラス王国に行ったのさ。そしたらあいつらもいて驚いたぜ。何のためにこの街から離れたと思ってんだ」


 ガストールが嫌そうな顔をして言うあいつらとは、クレス達の事かな?


「ガストールさん達もオーク討伐に参加していたんですね。それで今此処にいるということは、討伐は成功したんですか? 」


「まぁ、オーク達は仕留めたんだが、オークキングには逃げられちまった。今回は流石に死ぬかと思ったぜ、オークとガイアウルフの群れが統率された動きをしやがる。さながら軍隊のようだった。それを指揮するのは三体のオークジェネラル、その奥にはオークキングときたもんだ。あれほど後悔したのは初めてだぜ、ほんと、良く生きて帰ってこれたな。それもこれもクレス達様々だよ。レグラス王国の騎士達と指揮系統の問題で揉めたりもしたが、どうにか双方納得の出来る形に収めて、オークジェネラルを討ち取る事に成功した。だけど気付いたらオークキングの姿が無くてな、消化不良って感じだったな。しかし、クレス達は装備も一新していて益々強くなっていやがった。どうにも癪だが、あいつらがいなかったら俺達は多分死んでいたと思う」


 オークキングに逃げられたのは残念だけど、無事なようで安心したよ。話を聞くにクレス達は大活躍だったみたいだ。また一つ有名になったな。


「それでよ、街に戻ると言ったら伝言を頼まれてな。えっと…… オークによる被害も激しく、オークキングの捜索も請け負ったんで、暫くレグラス王国に留まる事にしたらしいぜ。三人共、大した怪我もなく無事だから安心してくれだとよ。お前、何時の間に仲良くなったんだ? だったらよ、もう俺の顔を見るなり変ないちゃもんをつけないでくれと説得してくれねぇか? 何時までも過去の事をグチグチと鬱陶しくてたまんねぇんだよ」


 え? まぁ一応話してはみるけど、確約は出来ませんよ? 日頃の行いもあるし、期待はしないで頂きたい。

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