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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
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20

 

 ドワーフの国の宰相であるエギルから、魔力結晶を造り出す魔道具を譲り受け、店の地下にある大魔力結晶の傍に設置してマナトライトを加工したコードで繋ぐ。

 元々は街ひとつ分のエネルギー源として使用されていた大魔力結晶だが、今では家一軒分しか使用されていないので、結晶内のエネルギーが余っている状態だ。


 ムウナから魔核を生み出してもらい、箱形の魔道具の中に入れて術式を発動させると、パイプから抽出された魔力が円柱状の硝子容器に流れ込み、眩い光を放ちながら圧縮され固まっていく。

 光が収まった先には、白い八面体の魔力結晶が出来ていた。大魔力結晶もそうだけど、魔道具で造り出した結晶は白色になるようだ。

 これで自分の魔力を大量に使わずとも魔力結晶を作る事が出来るようになった。後はこれを魔力支配で加工して、小型化した通信の魔道具を作製するだけ。


 魔力結晶を薄い長方形に加工して、ミスリルと鉄でフレームを作る。そこに術式を刻めば通信の魔道具の端末が完成する。だが、これはあくまで端末なので、本体は別にある。

 大魔力結晶に術式を刻み、通信の魔道具の本体にすることで、端末を軽量化して持ち運べるようにしたのだ。端末には持ち主の魔力を登録して、他の人には使えないようするロック機能をつけた。これなら落としたり、盗まれたりしても悪用される心配は無い。

 それと不足の事態に備えて、無線機のように端末だけで送信出来る術式も加えておく。ただしこの無線機能は範囲が限られているので注意が必要である。


 使い方は簡単だ。登録された魔力を流すと魔力結晶で出来た画面に、本体に登録してある他の端末の名前が黒い文字として浮かび、それをタッチすることで任意の端末と通信が出来る仕組みになっている。

 動力は、魔力結晶が周囲のマナを取り込み魔力へと変換して溜め込む性質を利用している。その魔力が空気中に漂うマナを伝い、大魔力結晶へ、そして大魔力結晶から目的の端末へと繋ぐ事で通信を可能にする。その早さは光と同等とギルが言っていた。マナを伝って魔力を送るので基地局は必要としなく、基本的に魔力は物質を透過するので何処にいても通信が可能である。


 今はまだ通話が出来るだけだが、ゆくゆくは文字を送ったり、写真や動画が撮れる機能を追加したいと思っている。


「ブフゥ~、これは、何と言えば良いのか。とんでもない物であるな」


 通信の魔道具を作製した俺は、端末の一台を母さんに渡し、シャロットや領主にも渡そうと館を訪ねていた。シャロットは懐かしそうに弄っているのに、説明を受けた領主はただ苦い顔をするだけであった。一緒に説明を聞いていたコルタス殿下も何やら難しい顔をして考え込んでいるし、一体どうしたのだろうか?


「とんでもない物を作ってくれたな。成る程、送信と受信を端末に、管理は本体にと分担させる事により、個人で持ち運べる通信道具を可能にした訳か。一応聞くが、まさかお前の店で売り出すつもりじゃないだろうな? 」


「出来ればそうしたいのですが、魔力結晶の加工が大変ですので難しいですね。量産体制が取れないですから」


 それを聞いたコルタス殿下はホッとしたように息を吐いた。


「そいつは良かった。これを販売するなんて言い出したら、力ずくでも止めていたぞ。こんな物を表に出せる訳ないだろ。従来の通信の魔道具は謂わば据え置き型だ。ギルド、教会、国での通信で情報の伝達をしていた。それが何時でも何処でも個人での情報の伝達を可能にしたんだぞ。この技術を一つの国が有したら、各国の均衡が崩れてしまう。情報を征するものは世界を征すると言われている。特出した国は周りから叩かれるのが常だ。周辺国家と戦争になる可能性もある。今は時期が悪い、この技術は秘匿して個人で使用した方が良いだろうな。魔物も活発化しているし、跡目争いでこの国の情勢も良くない。せめて次期国王が決まり、国がある程度安定するまで待ってもらいたい」


 携帯電話一つで大袈裟な―― とは思うけど、そういう考えにもなるのか。前世ではあって当たり前だったからな。便利な物が出回れば、その分危険をはらむ事になる。面倒な世の中だよ。


「お前は他にこれを誰に渡す予定だ? 」


「そうですね、母さんには渡しましたし、領主様とシャロット、人魚の女王様にドワーフの王とエルフの里の長老、後は冒険者のクレスさん達と、出来ればガストールさん達にも渡したいですね」


「他種族の長は問題ない。身内も良いだろう。しかし冒険者か…… そいつらは信用できるのか? 」


「はい。俺の力の事も知っていますし、口も固いです。信用出来る方達ですよ」


 まぁ、ガストール達は微妙な所だけどね。


「そうか、それなら別に良いだろう。くれぐれも人前で使用するなよ。何処から情報が漏れるか分からんからな。それにしても、お前の力は予想以上だな。もう少し自重してくれないと、いくら俺でも隠しきれる自信がないぞ」


 すいません。以後、気を付けます。携帯電話はまだ早かったかな? まさかここまで過剰に反応するとは思わなかった。


「コルタス殿下もひとつお持ちになりますか? 」


「ん? 俺にもくれるのか? う~ん、便利なんだが危険もある。出来れば王城には持ち込みたくはないな。兄上に見つかったら上手い言い訳が出来そうにない」


「でも、これさえあれば殿下と何時でもお話しが出来ますわね」


 シャロットの言葉でコルタス殿下の顔色が明らかに変わるのが分かった。


「む? 確かに…… せっかくだし、受け取ろう。どのように使用するんだったか? 」


「わたくしがお教えいたしますわ」


 コルタス殿下に密着して教えているシャロット、そんな二人の姿は仲睦まじく見える。関係が良好で何よりだよ。


「そう言えば、この魔道具の名前は決まってますの? 」


「あぁ、 “マナフォン” て名付けたんだけど、どうかな? 」


「…… マナを利用するからですか? そのままなんですのね」


 駄目ですか? 分かりやすくて良いと思うけどな。

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