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「では、ギルさんとアンネさんのお力を貸して頂けると言うのですね」
『おうよ! ゴブリンキングなんてちょちょいのちょいよ! 』
『うむ、ライルの為に力を貸そう。だが、ゴブリンキングを倒すだけだ。後の事は貴様らが何とかするのだぞ』
「ええ、それだけで十分です。お二方の力添えがあれば、勝ったも当然ですわ! 」
シャロット達と魔力を繋いでギルとアンネが、ゴブリンキングの討伐に協力すると報告した所、安心したように喜んだ。
『ムウナ! ムウナも! きょうりょく、する! 』
「ムウナ君も、ありがとうございます。とっても心強いですわ」
沢山肉が食えると思ったのか、ムウナは張り切っている。まぁ今回はゴブリン達を食べて貰うんだけどね。
「しかし、ライル君達だけで村を攻めるのですか? 」
『いくらゴブリンといえど、流石にあの数が相手では骨が折れる。ザコ共を村の外に誘き出して貰い、手薄になった所を我等が空から侵入し、ゴブリンキングを討つのが良いだろう』
アルクス先生の疑問をギルが答えたが、それを聞いたシャロットは眉間の皺を深くした。
「そうなると、冒険者や兵士達の協力が必要です。彼等を動かすにはお父様の許可が必要ですわ」
そうか、どうやって領主に説明すればいいんだろう? 何か上手い言い訳は無いものか。頭を捻ってはみるが良い考えが浮かばない。
「…… あの、まだお父様は信用できませんか? 」
真剣な表情でシャロットは俺を見詰める。そうだな、領主は性格は悪くない。他種族も受け入れ良い関係を築こうと働いてくれている。俺のスキルを知ったとしても、此方の意向を汲んでくれるだろう。
「分かった。領主様に俺のスキルを話して、協力して貰おう」
「っ!? ありがとうございます! 決して、ライルさんの不利ににはならないよう、精一杯努めますわ! 」
俺達は領主の部屋を訪ねて魔力支配のスキルを説明し、アンネとギルを紹介した。領主は俺達の話が終わるまで、口を挟まずに耳を傾け、説明が終わると深く息を吐く。
「ブフゥ~…… 成る程、魔力支配…… それに、妖精とドラゴン。ライル君には何かあるとは思っていたが、まさかここまでとはな。隠すのは当然か…… ライル君、吾輩の領地と領民達の為に秘密を打ち明けてくれて感謝する。今やライル君も吾輩の守るべき領民の一人、君の覚悟と信用に全力で応えよう」
「それでは…… 」
「ブフッ、勿論その案に乗らせて貰おう。早速詳細を詰めていこうではないか」
俺達と領主は夜遅くまで計画を練るため話し合った。ゴブリン達を村から誘き出す為に、ゴーレムを中心に街の兵士達と冒険者で村を囲う。
ドワーフとエルフには街の守りを担当して貰う。これ以上他種族に迷惑はかけられないと領主は言っていた。
「すまない、吾輩も戦場に赴ければ良いのだが」
「お父様は領主ですのよ。街にいて頂かないと困りますわ。後の事はわたくし達にお任せください」
シャロットはゴーレムを指示する為に戦いに出るのに、父親である領主は街に残るのを申し訳なく思っているようだ。
「今回は僕もついていきます。ライル君には僕の未来に希望をくれた恩がありますからね。なに、こう見えても魔術の腕には自信があるんですよ」
おお! アルクス先生もついてきてくれるとは頼もしいね。アルクス先生には魔力収納の中に待機して、一緒に村の中に潜入して貰おう。
他の商店街の代表達には、領主が上手く説得してくれると言うので任せる事にした。当然、俺のスキルは話さない方向で。
翌日、多少怪しまれたりもしたが、何とか代表達に納得して貰い、ギルドを通して冒険者達を募った。
エルフの戦士達とドワーフの兵士達は渋い顔をしながらも、街の守りに徹する事を了承する。初めは共に戦うと言ってくれたけど、街の守りが手薄になるのを理由に説得したら応じてくれた。
ここからゴブリン達がいる村までは馬車で半日程の距離がある。村にいるゴブリン達の様子はシャロットのドローン型ゴーレムで窺い、まだ余裕があると踏んで二日の準備期間を設けた。
この二日で他領から冒険者が集り、他の貴族からも食料や日用品の救援物資が届く。ゴブリン達との戦いが終わっても復興作業があるので、こういった物資の支援は有り難い。
でも一番驚いたのは、大陸の中央に位置するサンクラッド聖教国から神官と神官騎士の救援が来た事だ。白と青の神官服に身を包んだ人達と、それを守るように追従する清楚な鎧を着た騎士達、総勢二十名がインファネースにやって来た。
少ないと思うだろうが、聖教国は身を守る事以外は基本的に戦いをしてはいけないとされている。その為、完全な中立国として戦争にも、魔物の被害があったとしても、回復魔法による支援以外はしてくれないのだ。
それでも、こうして救援に来てくれて素直に嬉しく思う。難民達の心のケアに怪我の回復など、やって貰いたい事は沢山ある。それに、これから行うゴブリンキングの討伐作戦にも回復要員として、是非とも同行して頂きたい。
領主と挨拶を交わす祭服を着た老人が、この神官達を率いている人なのかな? しかしあの老人、何処かで見たことがあるような、そんな気がする。何処だったかな…… もう少しで思い出せそうな時、その老人が此方を見て優しく微笑んだ。
あっ、思い出した。俺が十才の時、魔法を授かる為に向かった王都の教会で、お世話してくれたカルネラ司教だ。




