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「次はお前さんらの寸法を計らせて貰うぞ、そんな鎧ではすぐに壊れてしまう。ワシが一から作った方が良い。素材はそうじゃな…… ミスリルとアダマンタイトでいいじゃろう」
「ア、アダマンタイト!? 凄い! 存在事態は知っていたけど、実物を見るのは初めてだ」
クレスは、ドルムが取り出したアダマンタイトのインゴットを見て、興奮が冷めやらないみたいだ。
「むぅ…… ドルム殿、有り難い申し出なのだが、アダマンタイトとなれば恐ろしく値が張るのではないか? 生憎と私達はその様な持ち合わせが無いのだ」
クレスが先に興奮を露にしたので、逆にレイシアは冷静になれたようで、料金の心配をしていた。
「あ? 金は要らん。お前さんらが頑張ってくれんと、この世界は終わっちまうかもしれんからの」
ドルムはそう言ってくれるが、レイシアは納得出来ずに眉を寄せて唸っている。貴重な金属をタダで貰うのは気が引けるらしい。仕方ない、お金が欲しくないなら物を贈れば良い。ドワーフは無類の酒好きだからな。ブランデーとウイスキーをお礼として贈ろう。
「ドルムさん、やっぱり無料では申し訳がありませんので、こちらをお礼としてお受け取りください」
魔力収納から、俺が作ったブランデーとウイスキーを一樽ずつ取り出した。
「ん? 気を使わせてしまって悪いの、これはなんじゃ? ……っ!? これはいかん! はよ仕舞うのじゃ! 」
ドルムが慌てた様子で促してくるので、急いでブランデーとウイスキーを収納する。
「ふぅ~、危ないとこじゃったわい。ライルよ、あの樽の中身は酒じゃな? しかもとびきり上等な代物じゃ。ワシらはな、酒が無くては生きてはいけないと言うほどの酒好きじゃ。だからこそ、こんな上物の酒なんか表に出してみろ。匂いを嗅ぎ付けて、周りのドワーフ達が押し寄せてくるぞ。そうなりゃ、あれっぽっちの酒なんかあっちゅうまに無くなってしまう。ドワーフは酒の匂いに敏感での、匂いが漏れない地下に保管する必要がある。じゃから、そのお礼の品は後で貰おう」
う~ん、ドワーフの酒好きは想像以上だ。そんなに好きなら自分達でも作ってそうだな。どんな酒を造っているのか興味がある。
「そうでしたか、分かりました。後で運んでおきますね。それと、ドワーフはお酒を造ったりはしていないのですか? もし造っていたのなら、参考にしたいのですが」
「あ~、ワシらは呑むのは好きじゃが、造るのは駄目じゃな。さっきお前さんが出してくれた酒を大昔に一度造ろうとした事があったんじゃが、あの酒は樽の中で熟成させなければならんじゃろ? 美味しく飲めるようになるまで最低でも二、三年は待たねばならん。ワシらがそんなに待てると思うか? 半年も待たずに全部呑んじまう。旨い酒は飲みたいが、目の前に酒があれば我慢など出来ん。なら、人間やエルフが造っている酒を買った方が良いという事になっての。今では酒を造る者はおらんよ」
極度の酒好きは、酒を造るのには向いていないようだ。好きすぎて熟成するまで我慢が出来ないって、流石はドワーフだね。
「おし! あんな上物の酒が貰えるんじゃ、もとより手を抜くつもりは無かったが、俄然やる気が漲ってきたぞい! 」
おぉ! 酒を見せたらドルムが異様に張り切り出した。世界の為とか言っていたけど、やっぱり目に見える報酬があると違ってくるよな。
「あの、俺も何か作りたいので、マナトライトを幾つか譲って頂いてもいいですか? 」
「そうじゃな、さっきの酒をもう一樽ずつくれるんなら良いぞ」
俺はドルムとの取り引きを成立させ、マナトライトのインゴットを幾つか貰った。これでエレミアに新しい剣でも作ろうかと思っている。当のエレミアは外には出たくはないみたいで、まだ少しご機嫌斜めなアンネの相手をしていた。
慣れた手つきでドルムは二人の採寸を終らせると、それを基に鎧の設計図を描き始める。
「ふぅ、やはり人前で鎧を脱ぐのは恥ずかしいものだな」
採寸の為、脱いでいた鎧を装着しているレイシアが、少し顔を赤らめて呟く。鎧を脱いだレイシアは、黒い全身タイツのようなインナーを着ていた。ピッタリと体にフィットしたインナー姿は、レイシアのグラマーと言える体型を如実に表している。着痩せするタイプなんだね。
『へ~、ライルはああいう体型が好みなんだ』
じっとレイシアのインナー姿を見ていたので、魔力収納の中から、俺の目を通して外を確認していたエレミアに、目線の先がバレバレだった。
『にゃにぃ! ライル!! デカけりゃ良いってもんじゃないよ! あんなの、どうせ歳をとれば垂れてみっともなくなるだけなんだから、小さい方が正義だよ! 』
『私もアンネ様と同意見だわ。見た目に騙されては駄目よ』
どうやら二人の地雷を踏んでしまったようだ。今も俺への口撃が止まらない。二人とも元気になったのは良いけど、そろそろ許して欲しい。ギル様、どうか俺にこの場を上手く治める知恵をお授けください。
『無理だ、諦めろ。この世の中どうにもならない事もある』
なんて残酷な答えなんだ。俺は余計な事を言わず、時には謝罪の言葉を交えながら、二人が飽きるまで口撃を受け続けた。
これからは女性の体を凝視するのは控えよう。え? 完全に止める? 健全な男子なので、それは不可能です。




