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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
154/812

17

 

 王城から出ると、そこには魔動車が用意されていた。俺達は運転をドルムに任せて乗り込む。魔動車は城門を抜けて、整備された道をひた走る。


 勢いよく過ぎ去っていく景色を、クレスとレイシアは窓に張り付くように眺めている中、俺はドワーフの技術力の高さについて考えていた。


 列車に自動車、構造も仕組みも前世とよく似ている。それは別に良い、俺と同じ世界の記憶持ちがいたという事なんだろう。だけど、それが千年前というのが問題なんだ。俺が前世で命を落としたのが、二千二十五年だった筈だ。その千年前なら日本では平安時代か? 確か自動車が最初に作られたのが千七百年頃だったよな。もし、前世の世界とこの世界が同じ時間軸なら説明がつかない。


 五百年前の勇者と呼ばれた人物も、俺と同じ日本の記憶を持っていたとアンネから聞いている。これも五百年前だったら、戦国時代になるのかな? しかしアンネから聞かされる勇者の話は、俺が死んだ時代と大差がないと感じる。テレビや飛行機、携帯電話の話があったからな。


 だとすれば、俺とシャロットと五百年前の勇者、もしかしたら千年前にいたかもしれない記憶持ちは、共に前世で死んだ時期は近いのかも知れない。そしてこの世界で産まれた時代は違う、俺とシャロットは偶然同じだったけど。いや、偶然なのかも怪しい。転生する魂の管理は “生と死を司る神” がしている。なら、転生する時期をずらす事も可能な筈だ。これは偶然ではなく、何か目的があって各時代に記憶持ちとして、転生させている可能性があるな。


 確証はないが、千年前は技術の発展が目的だったのではないか? 五百年は魔王の討伐、そして今は化け物の復活とマナの枯渇問題。そういった、世界に大きな変化や危機が起こっている。神は直接この世界に干渉が出来ない決まりになっているらしいから、そういう事に俺達記憶持ちを利用しているのか?


 だからといって、神に対して何かを企てるつもりはないし、俺がどうこう出来る問題ではない。ただ、神の掌でいいように転がされている感じがして、少しだけ面白くないというだけだ。


 そんな益体もない事を考えていると、魔動車は一軒の建物の前に止まった。レンガ造りのよく見る一軒家だ。隣には鍛冶設備が備えられている建物がある。俺達は魔動車から降りて、その場で立ち尽くした。その間に、ドルムはその家の敷地内に魔動車を停めて此方に近づいてくる。


「何時までそこに突っ立っておるんじゃ。ほれ、お前さんらの装備を見繕ってやるから、ついてこい」


「あの、ここはどなたの家なのですか? 」


 俺達の疑問をクレスが代表して聞いてくれた。すると、ドルムは一端足を止めて振り返りニヤリと笑う。


「ワシの家じゃ」


 そしてまた歩き出し、作業場になっている建物に向かって行った。俺達もその後をついていき、作業場の中に入る。


「どこじゃったかの…… お! こんなとこにあったわい」


 ドルムの作業場には様々な剣や鎧といった武具が壁や床に置かれていた。その中から逆三角盾を持ち出して、此方へ持ってくる。


「ワシらから見りゃあ、人間が作る武具は何れも粗悪品じゃ。お前さんらが今持っとる物も、一応ミスリルが使われておるようじゃが、余計なもんが混ざっとる。それでは数十年で使いもんにならなくなるぞ。ま、五百年前に比べれば大分ましにはなったがの」


 そんな事を言いながら、ドルムはレイシアに盾を渡した。レイシアは自分の大きな盾を壁に立て掛け、ドルムから逆三角盾を受け取り、左腕に装着する。


「む? 頑丈そうな良い盾かと思うが、私には些か小さいのではないか? 」


 確かに、厚さはあるが大きさはバックラー程しかない。レイシアの腕に装着すると、その小ささがより際立つ。


「お主、魔力操作は出来るか? なら魔力を盾に込めて、その魔力を拡げるよう操作するんじゃ」


「魔力を? 承知した。やってみよう」


 レイシアが盾に魔力を込める。それだけではまだ変化は何も起こらず、盾にこめた魔力を均等に拡げようとした時、逆三角盾の中心に円を描くように亀裂が入った。その円の亀裂から新たに三つ、それぞれ角に向かって亀裂が伸び、中から薄緑色の物体が姿を現せながら盾は大きく広がっていく。そして、レイシアの体とほぼ同じ大きさ迄になると動きが止まった。


 先程までの逆三角盾が、今ではレイシアの身長程のタワーシールドに変貌している。その盾の大半は謎の薄緑色をした物体が占めていた。


 なんだあれ? 金属のようだけど、あんなのは初めて見るな。


「問題はないようじゃな。魔力を込めるのを止めれば元に戻るぞ」


 レイシアはドルムに言われた通り魔力を止めると、薄緑色の物体はみるみる萎んでいき、元の逆三角盾に戻った。


「ドルム殿、この盾は一体なんであろうか? 」


 呆気に取られたレイシアの質問に、ドルムは得意気な顔で説明を始める。


「こいつはミスリルとマナトライトっちゅう金属で出来ておる。ミスリルは勿論混じりっけなしの純度の高いもんをつこうとる。その中身にマナトライトを使っておるんじゃよ。この千年で人間達はマナトライトの存在を忘れてしもうたから、お主らが知らぬのは仕方ない事じゃ。この金属はの、硬度は鉄とミスリルの丁度中間じゃな。加工はミスリルよりは簡単に出来て、ミスリルより魔力が伝わりやすい。そしてこの金属の一番の特徴が、魔力による変形じゃ。マナトライトに魔力を注ぎ、魔力操作で操ると自由に形を変える事が出来るのじゃよ。どんな形に変えようが、魔力を注ぐのを止めてしまえば、加工された形に戻るという特質を持っておる金属なんじゃ」


 凄いな。魔力伝導率が高く、形状記憶効果を持つ金属ってことか。これは面白い。硬度も鉄よりはあるみたいだし、武具に組み込んだら色々と出来そうだ。いいね、それ欲しいな。

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