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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
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28

 

「いや~、涼しいね~、快適快適」


「冒険者ギルドにも置いて貰いたいね」


「全くだ。騎士たるもの、鎧を脱ぐ訳にはいかぬのでな。暑くてたまらん」


 店の中はひんやりとした空気に満ちていて、ガンテ、デイジー、クレス、レイシア、リリィの五人が何も買わずにまったりと居すわっている。


「あのですね、クレス達は宿暮らしなので仕方ないとは思いますが、ガンテさんとデイジーさんはご自分の店で涼んで下さいよ。何の為に購入したんですか? 」


「魔石の消費が激しいのよ。ここならタダだし、お昼休憩だけなんだから大目に見てくれても良いんじゃなぁい」


 こっちだって魔石や魔核はタダじゃねぇんだよ! 涼んだ分だけ金払え!


 ま、こうなったのも自業自得なんだけどさ。俺はこの暑さに耐えきれず、新しい魔道具を作った。その名も “マジッククーラー” という。前世にあった部屋に取り付けるクーラーとは違い、業務用のような大きい箱型に近い形をしている。見た目と大きさで言えば、冷蔵庫に似ているとも言えなくはない。


 魔術には、水と風の術式を用いて、クーラーの内部に水の術式で冷気を発生させ、風の術式でクーラーの正面と側面から冷気を外に出させる仕組みになっいる。動力には魔石と魔核を使用しているが、これが結構消費が激しいのだ。しかし、魔力消費量を抑えるとあまり涼しくならないので意味がない。


 俺とアンネだけで過ごしていた頃は、魔力支配のスキルで周りの空気を支配して温度を下げていたのだが、ここでは人目が多いのでそんな事は出来ない。そして、暑さに負けた俺はこのマジッククーラーの作製に取り掛かってしまったのである。


 当然の如くカラミアには真似をされて、貴族連中に売り捌いているらしいけど、俺にとっては面倒な人達の相手をせずに済んでいるので有り難いかぎりだ。魔石や魔核を大量に使用するので、貴族や金持ちには売れるが一般市民にはあまり売れない。まぁ今回は自分の為に作ったようなものだから、別に良いんだけどね。


 ティリアはこのマジッククーラーをいち早く買っていき、喫茶店に置いている。そのお陰で客足も伸びて大層儲けていると、お礼という名の自慢をしていったのが、つい先日の事だった。


 ◇


「うわぁ~…… 綺麗ですね。見たことのない花ばかりです。これはガーベラ? にしては大きいし、あれもコスモスにしては形が少し違うような…… 」


 思いのほか花に詳しいキッカは庭一面に咲く花達に感激したみたいで、目をキラキラと輝かせていた。


 この花達は、俺の魔力収納で育った花ばかりだ。数が多くなったので庭に植え直したのである。魔力収納内で育ち変化した花が交配を繰り返し出来たのがこの花達で、蜜の摂取量が格段に上がっているだけではなく、環境の変化に強くて花が咲いている期間も長いという、化け物花に進化してしまっている。


 こんな花を庭一面に植えたもうひとつの理由は、ハニービィにある。実はクイーンが子供を産んだのだ。いや、それだけなら普通の事なのだが、その子供にクイーンが作る特別な蜂蜜を与え続けて育てるとクイーンにまで成長するらしい。さしずめクイーン二世といった所か。普通なら数年かけてクイーンへとなる所、魔力収納内だと僅か数ヵ月で成長してしまう。


 どうしてクイーン二世を産んだのかと尋ねてみたら、


『店を護るのに必要。それと、蜂蜜をもっと多く取れれば主は喜んでくれるでしょ? 』


 との事。お気づきだろうか? 実はクイーンは魔力収納で長年過ごしていた結果、体が逞しくなった以外にも知能が向上したようで、俺達の言葉を完全に理解出来るようになったのだ。なので、これ迄魔力念話では感情のようなものしか伝えられなかったが、今ではちゃんと言語として伝えられるようになっている。これも魔力濃度による生物の魔物化に伴うものなのか? それはまだ分からないけど、アルクス先生は大いにテンションが上がっていたのは確かだ。こりゃまた暫くは外に出て来ないだろうな。


 店の護りの為にとクイーンはクイーン二世を産み、店の屋根裏に、子育て用の巣とクイーン二世専用の巣、そして商品にする蜂蜜を集める巣の三つを作りだした。最初はクイーンのハニービィ達を貸しているが、後々クイーン二世が産んだハニービィ達が店を護っていくことになるらしい。


 採取する蜂蜜も魔力収納で育った花から採るので品質はそんなに変わらない。これなら長く店を留守にする場合でも、定期的に商工ギルドに卸す蜂蜜は確保出来そうだ。


 今も庭で咲き誇る花達から、あくせくと蜜を集めているハニービィ達を見ながら、クイーンとその二世に感謝の念を送った。


 ◇


 夏も其なりに過ごせるようになり、商店街も安定してきている。人魚達とエルフ達との交易も、今の所これといった問題はない。

 のんびりとカウンター奥で椅子に腰を掛けて一息つく。こんな穏やかな日常が長く続いて欲しい…… そんな願いもむなしく、一時の平穏は一人の来訪者によって脆くも崩れ去ってしまった。


「…… ライル、もう街は大丈夫なはず。私との約束を果して欲しい」


 どうやらリリィの言っていた時とやらが迫っているようだな。世界にどんな危機があるのか分からないけど、ついて行くしか無さそうだ。

 完全に信じている訳ではないが、もし本当なら捨て置けない案件であり、それが嘘だとしても世界の危機なんてなかったんだと安心出来るので、俺はリリィに協力する事を選んだ。

 要はハッキリとさせたいだけなんだよ。思わせぶりな事を言われて、気になってゆっくりと眠れやしない。


「分かったよ。それで、何処に行くんだ? 」


「…… ドワーフの国に行く。そこに目的地への入り口がある」


 ドワーフの国か…… 珍しい鉱石や古代の技術なんかがあるかも。それだけでも行ってみる価値はあるな。

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