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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
119/812

10

 

 最後の足掻き? と店主達はざわざわとしている。俺はそのざわめきを止めずに自然に収まるまで待ち、静かになった所で話始めた。


「ご存知の方もいると思いますが、味噌と醤油をギルドに卸しているのは俺です。その他にも、ワインやブランデーといったお酒も用意しています」


 俺の話を聞いた店主達は、


「は? あいつがあの調味料をこの街に持ち込んだのか? 」

「俺は知っていたぜ。ここに来るまでは行商人をやっていたらしい」

「そうだったのか、でもそれがなんだってんだ? 」


 またもやざわめく店主達を無視して、俺はハッキリと言った。


「俺はこの調味料やお酒をギルドに卸す事を止めます。そして、南商店街で店を構えている皆さんにだけに売って行こうと思っています。俺には独自の流通経路がありまして、その中には野菜や魚介も含まれています。それらも皆さんに提供する準備は既に出来ています。全てを賄う事は難しいですが、それでも今よりはましになる筈。味噌と醤油を使った料理を南商店街ならではの味にしてみませんか? 皆で協力してこの商店街を盛り上げていきましょう」


 各店の店主達は、誰一人言葉を発しようとせず、静寂がこの場を支配する。やはり最近来たばかりの子供の言うことは信用されないのか…… 少しだけ落胆していると、一人の男性がこの静寂を破った。


「なぁ、それってお前が俺達の食材等の流通経路を纏めて確保するってことだよな? つまりだ、お前がこの商店街を管理するって言うんだな? リアンキール、マーマル、サラステアと同じようによ…… 」


 そう俺に問い掛けてきたのは、この街でお世話になった “猫の尻尾亭” 店主の猫耳のおっさんだ。


 何でそんな話に…… 俺が南商店街の代表になる? 流石にそこまでは考えてはいなかったな、しかしまとめ役がいないのは確かに問題だ。一時的でもいいので、今はそういった存在が必要なのかも知れない。


「…… それが必要と言うのなら、俺がこの商店街の代表になります。だから、協力してください! 皆で一丸となって南商店街を守りましょう! 」


 もうここまで来たら行くとこまで行くしかない! 後は野となれ山となれだ。無責任だと思われるだろうが、取り合えず今の状況を何とか出来ればそれでいい。


「…… ク、クク…… クァハハハハ! 」


 猫耳のおっさんは俯き、肩を震わせていたかと思ったら、いきなり笑いだした。


「おい! お前ら、いいのか? こんな子供にここまで言わせちまってよ! いい大人が恥ずかしいったらありゃしねぇ!! 俺はこいつの案に乗るぜ。どうせ状況は悪くなる一方だしな…… エールの仕入れは俺に任せてくれ、冒険者やってた時に何かと世話してやった村があるんだが、そこがエールの生産地としてちっとばかし名が売れててな、知り合いの商人に頼んで持ってきて貰ってんだ。これからは可能な限り仕入れ量を増やしてもらうように頼んどくから、必要な奴は俺んとこに来い! 」


 この言葉を聞いた他の店主達からもポツポツと手が挙がり始める。


「そ、それじゃあ俺は、ミルクやチーズ、バター等の乳製品を頼んでおくよ。実はさ、従兄弟が農場を経営してんだ。他領だけど、近いから何とかなると思う」

「知り合いがここで漁師やってんだけど、どうにか南商店街にも卸してもらえるよう説得してみるか」

「妹夫婦が隣町で野菜作ってんだけど、もう一度ここにも卸してくれと頼んでみるよ」


 店主達は自領、他領関わらず自分の親族や知り合いに掛け合ってみると提案してきた。助かる、俺だけで十分とは言えなかったからな。


 誰が何を仕入れられるかをメモしながら話し合いを進めていく。ここで出た提案はまだ不確定で不明瞭なものが多いけど、動き出さなければ何も始まらない。商店街代表の件は一先ず置いといて、この計画のまとめ役を俺がする事となった。


 それからは、相変わらず客は少ないものの忙しい日々を過ごしている。店主達の知り合いの商人やギルドを利用して、必要な物資の流通経路を確保していった。


 商工ギルドに出向き、ギルドマスターに蜂蜜以外の商品はこれから卸せないと申告した時は、緊張で心臓が口から出てくるんじゃないかと思うほど鳴り響いてたな。

 だけど南商店街を盛り上げたいと伝えたところ、案外すんなりと了承を得られたので拍子抜けだった。もっと嫌味とか言われるかと思ったんだけど、蜂蜜を残しておいたからかな?


 ◇


「ここが人間の店なのですね…… 懐かしい、木の香りがします」


 転移門を設置して数日後、初めて人魚達が魚介や魔物の素材を持って店にやって来た。驚く事に女王も一緒だ。

 水のない所でどうやって移動するのかと疑問に思っていたのだが、今日それが分かった。人魚の腰辺りに、浮き輪のように水が輪っかになってくっついているのだ。魔法で海水を操って腰に纏い、自身の体を持ち上げ地面から浮かせて移動しているらしい。人間よりも魔力保有量が多いから出来る芸当だな。


 マジックバッグ一杯に詰められた魚介を査定していると、母さんと女王が何やら話しているようだ。少し気になったので聞き耳を立てると、


「貴女様が人魚族の女王様で御座いますか? お初にお目にかかります。私はライルの母のクラリスと申します。息子が大変お世話になっているようで、誠に有り難う御座います」


「ライル君のお母様でしたか、此方こそ随分とお世話になっております。良い息子さんを持ちましたね」


「はい、自慢の息子です! 」


 自分の息子を褒められて嬉しいのか、母さんの元気が良い返事を受けて女王は愉しそうに微笑んだ。

 他の人魚達は、持ち込んだ物を売った代金で何を買おうかと店の品物を物色中。転移門を設置している店の地下にも一階と同じようにカウンターと棚を配置して商品を並べている。こうすれば、人目に触れる事なく買い物が出来るという訳だ。


 地下の部屋は購入した敷地内以上は拡げられないので、空間魔術で部屋の空間を拡張している。そうする事によって、小さな地下室も広く活用出来るのようになる。因みに、部屋の拡張には魔力結晶に術式を刻み、壁に取り付ける事でも術式の効果を得られる。


 女王を含め人魚達は一通り商品を見て楽しんだ後、調味料と酒と野菜を買っていった。

 母さんと女王は仲良く会話を交わしていたので、これなら問題はないようだね。ただ、仲良くなりすぎて余計な事まで言わなければ良いんだけど、女王にまでからかわれては堪らないよ。

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