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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
5章 天文18年(1549年)勝つ為の力
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38話 南伊勢侵攻 大河内城の攻防

【伊勢国/長野城 織田家】


 北畠が織田に対する策を懸命に実施している頃、信長は北伊勢に対する政策を実施し、尾張の那古野に通じる街道と美濃の大垣に通じる街道の整備を行い始めた。

 平行して楽市楽座の施行と関所の撤廃をし流通の促進に努めた。

 それは、伊勢湾を活用した海運の活用である。

 以前、那古野で商人達に宣言した計画の実行である。(23話参照)

 信長は、とうとう『王手飛車角金銀』に続き『銭』まで奪いに掛かり、北畠に対し銭での締め付けを図った。


 織田家が伊勢全域を支配した訳ではないが、海で力を持つ九鬼を味方に付けたので、伊勢湾を利用する事に対し邪魔がほぼ無くなった。

 それに伊勢の商人達も閉塞感のある南伊勢よりも、北伊勢で活発な活動を行うようになった。

 陸から海から津島や熱田、美濃、大垣に出向き活発に活動をし、尾張や美濃からも伊勢の物産を求め人が行き来した結果、南伊勢の商人も噂を聞きつけ伊勢は北と南で銭の格差が起きつつあった。


 しかし北畠は動かなかった。

 一心不乱に防御を固めて閉じこもっている。


 信長にとっては、攻めてこないなら他の事をやるだけなので困る事は無いが、予想では停戦の申し出くらいはあっても良さそうであったが、何も動きが無かった。

 もっとも2年で伊勢を制圧する予定である以上、停戦に応じるつもりは無かったが。

 ただ北畠から引き抜いた木造具政経由で情報を得ようとしても、晴具と具教だけで動いているらしく何も情報が降りてこない。


《前々世では信雄を送り込んで乗っ取ったが、こうも大人しいと不気味だな》


《まだ子供はいませんしね。弟の誰かを代わりに送り込みますか?》


 帰蝶が信長に提案した。

 まだ信長には子供がいないので送り込むなら弟である

 ただし信行は謹慎は解けたが、信用は回復していないし他の兄弟は全員幼児である。


《それでも良いが、兄弟は全員親衛隊に放り込むつもりであるしな。戦死した兄弟達に、もう少し先の人生を歩ませてみたい気もある》


《じゃあ、北畠は乗っ取りはしないで伊勢は完全に支配化に置くんですね? でも南伊勢は農繁期になるまで攻め込まない。2年の期限に間に合いますかね?》


《どんなに時間が掛かっても、あと1年あれば南伊勢は手に入る。だから今は兵を失わずに済む謀略でやれる所までやる。もう大部分を奪ったも同然だが、『銭』を奪えば今度は『人』になるだろうな》


 そんなテレパシーをしつつ、着実に北畠の力を削ぎに行く信長であったが、北畠が攻めに転じる気配が無いまま農閑期が終わりつつあった。

 伊勢の田には水が張り稲がすくすくと育ち、猛烈な勢いで伸びる雑草に農民がてんてこ舞いになる時期になった。


 その頃になると北畠親子が篭る城だけで無く、他の城も農民達が田の管理の為に城から離脱していったと報告が入った。

 北畠は兵よりも兵糧の確保を優先した事になる。

 信長は何の交渉も無いまま北畠が農兵を解放した事に疑問を感じ、諸将と共に軍議を開いた。


「北畠はどうやら兵よりも兵糧を優先したようだ。つまり北畠に攻め入るは今をおいて他に無い事になる」


「その様ですな。我等の様に専門兵士を確保している事も無い様子。北畠の城は攻め寄せれば容易に落とす事ができましょう」


「多少は防備を整えておるらしいが、肝心の兵が足りぬ。もはや勝負にすらならんじゃろう」


 塙直政が信長に同意し城を落とす事を提案したが、勇ましい言葉とは裏腹に二人とも、また、集まった諸将もその顔は曇っている。


 北畠の対応は明らかに常軌を逸している。


 北畠の勝ち筋は農閑期にもう一度兵を整え織田を北伊勢より追い出すしかない。

 伊賀と志摩の対応は誤ったが、地力が無い訳ではない。

 長野城は無理でも他の城に行く事も可能なのに、それをしない所か、農閑期に引きこもって城の防備を固めて篭っていた。


 臨戦態勢の国が隣にあるので城を改修し防備を固めるのは分かるが、農繁期に入ったら兵糧を惜しんでか農兵を解放してしまった。


 城の防備だけなら大軍は必要は無いので農地から全農民を徴兵する必要も無い。

 兵と兵糧問題の折衷安としては悪くない配分ではあるが、城からは全農兵が出て行ったという情報が入って来ている。

 北畠の対応は『いつでも攻めかかって来い。即座に負けてやる』と言っている様なものであり、全く理解できない動きであった。


「具政からは何も無い……のでしょうね。困りましたな」


 飯岡尚清が内通者の具政からの情報を確認するが、もし有益な情報があれば最初から言っているだろうし、皆がここままで迷う必要は無い。


「止むを得ん。出陣し反応を確かめる。ただ、長野城へ攻め寄せた北畠の二の舞を演じる訳にはいかん。細心の注意を払って情報を集めながら進軍する。10日後に出陣する故に持ち場に戻って準備をせよ」


「はッ!」


 こうして南伊勢への本格的な侵攻を決定し、信長率いる6000の兵が進軍を開始した。

 北伊勢を攻略した時と同様、碌な抵抗も無く、具政も寝返って城を提供し、北畠は最早風前の灯となりつつあった。


 信長軍は南伊勢の北部の城を破竹の勢いで攻略して行き、南伊勢の中心にある大河内城にたどり着く。

 この城には北畠親子が篭っているとの情報もあるが、信長はあえて城を包囲する事をしなかった。

 逃げるならそれで構わないし、寡兵の北畠が勝つには本陣一点突破しかありえないので、万が一兵を隠していても包囲して兵の厚みを薄くしなければ対処は可能だ。


 ただ、北畠が『専門兵士の計』を実施していない以上、兵を隠している可能性は万が一よりも低いので、降伏勧告の使者を送る事にし、使者には具政が選ばれた。

 使者が斬られると言う話は良くあるが、何よりも北畠の動向が全くわからないので、仮に斬られても差ほど問題ない具政が選ばれた。


「具政よ。この説得工作がお主の今後を左右する事になる。それは解っていような?」


 強烈な圧力を発する信長に年上の具政は萎縮してしまっている。

 織田軍の大将が信長でまだ若いと言う事は知っていたが、それでも年下であり具政は舐めていた。

 しかし寝返った後、実際に信長の前に来た時、言い様の無い恐怖を感じ、恥じも外聞なく平伏し忠誠を誓った。

 本能的に逆らってはいけないと判断したのである。


「はっ! 必ずや父と兄を説得し開城して見せます!」


 具政は木造城で大軍に囲まれ已む無く降伏した、と言う体になっている。

 だから問答無用で裏切り者呼ばわりされる事は無いはずである。

 当初の計画では野戦で北畠と相対した時、あるいは攻城戦で内側から城内に導いてもらったり、戦局を決定付けるタイミングで裏切ってもらう予定であったが、何の戦も起きなかった為、仕方なく木造城を囲み開城してもらう茶番を演じたのであった。


 そんな訳で具政には情報を流してもらっていたが、かと言って北畠攻略の決定的な功績は無かった。

 目立った戦が無かった以上この説得が具政の戦場である。


「殿、具政殿は任を果たすと思いますか?」


 従軍している帰蝶が信長に尋ねた。

 親衛隊も殆ど出番が無い為、暇でしょうがない。


「期待はしておらん。と言うより奴を斬って貰った方が北畠の意思が分かって都合が良いのだがな」


 信長の言うとおり北畠の動向は謎過ぎたのである。

 待つ事一刻が経過した頃、具政が戻ってきて報告をする。


「条件を飲んでくれれば臣従しても良い、との事です。その条件の一つとして殿と側近の皆様を城に招きたいと申しております。武装も解除しており城に兵を入れて構わないとの事です」


 何と北畠は完全降伏の準備をしていたのであった。

 城内でどんな話があったのかは解らないが、具政の酷く狼狽する表情からして予想外の事があったのだと信長は察した。


「分かった。皆の者行くぞ!」


 信長は以前の歴史で経験した事の無い何かが起きるのを期待し、大河内城に向かうのであった。

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