223話 援軍依頼
漫画版 信長Take3『6話』は暫くお待ちください。
10月は単行本作成でお休みでしたが、次見られる時には……言えぬ! 言えぬのだ! ( ノ;_ _)ノ
ハードルは上げも下げもしない!
漫画版5話をよーく予習して楽しみにお待ち下さい!
5話収録単行本→https://x.gd/v2dgM
または↓からアプリ『マンガBANG!』をダウンロードして『信長Take3』と検索してください。
AppStore→https://x.gd/iHUit
GooglePlayStore→https://x.gd/sL3h8
または、各種電子書籍サイトでお買い求めください。
作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)先生です!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)
八坂先生の作品一覧→https://x.gd/Gj9zO
よろしくお願いします!!
【別件】
宣伝としては望ましい形では無いのですが、母がクモ膜下出血で倒れました。
入院費を負担する為にも、お買い求め頂けると大変助かります! ( ノ;_ _)ノ
【近江国/比叡山延暦寺 坂本南門】
結局延暦寺は織田家に援軍を頼む事になった。
「良くぞ決断なさった」
信長は、今度は甲冑姿で覚恕を出迎えた。
いつでも臨戦態勢だ。
いつでも延暦寺を守れる様に
そして、いつでも延暦寺を攻められる様に。
信長は覚恕の判断を褒めた。
もちろん本心だ。
ここで見栄を張るようでは、存続価値はない。
それに先の会見から1日しか経過していない。
その間に、反対派の僧を説得したのだろうが、並大抵の労力ではないだろう。
何せ『天下布武法度』の受け入れなのだから。
それだけ本気で危機を感じ取ったのだ。
「ありがとうございます。そう言って頂けると苦労が報われます」
本当に苦労したのだろう。
疲労感がにじみ出ていた。
「それで戦況はどんな状況ですかな?」
「一応、防備のお陰で防いでおりますが、どうも三好軍が背後に控えている模様なのです。三好が押しよせたら流石に、今のままでは防御能わず比叡山は焼かれるでしょう……」
「三好ですか。一応、三好と織田は同盟の間柄。ただ救援依頼は来ておりませぬ故に、こちらの判断で自由に動きます。勿論延暦寺を守る為に。こんな場合は先着順。素早い判断のお陰です」
信長は長慶と同じ事を言った。
援軍は早い者勝ちだ。
「ありがたい。ではさっそく参りましょう」
こうして、覚恕に招かれ坂本の町に入る織田軍。
歴史を知る者にとっては、違和感しかない文字列だ。
ただし、道中で見かける僧兵は、納得できない者もいたのか苦虫を嚙み潰した顔だ。
そもそも延暦寺が困っているのは、足利義輝と共に戦った僧兵が皆殺しにされたのが原因だ。(149-1話参照)
ただし、その時の僧兵は還俗兵という事になっているので、織田としても文句を言われる筋合いはない。
対外的には一般兵を倒したと変わらないのだから。
今の危機は、延暦寺の自業自得。
ただし、破戒僧に頭を痛めていた覚恕の判断でもあるので、本当は織田を恨むのもお門違いだ。
【比叡山頂上】
「よし! 一旦休息だ!」
その言葉を待って居たかの様に、兵士は一斉に尻餅をついて、水を飲みほした。
それでも足りず、湧き水に殺到する兵士たち。
《この瞬間だけ見ると略奪の最中に見えますね》
ファラージャが呆れながら言った。
確かに今は水の争奪戦だ。
金品を奪ってないだけ理性があるのが織田軍の真骨頂――だと良いなと信長は思う。
《まぁ気持ちは分かるがな。正直ワシも混ざって飲みたい。さぞかし旨い水なんだろうな》
現代ではケーブルカーで快適に頂上まで登れる要害比叡山。
湧き水も透き通って奇麗で気持ちがいい。
だが戦国時代ではそうはいかない。
無論、水質の変化は無いどころか、今より旨いかもしれない。
しかし、この歴史では要塞と化した事で登山道は整備されているが、それでも何人か脱落者もでた極めて危険な山なのだ。
《しかし……ワシも初めて登るが、そりゃ坂本の町に下山するわけよ。修行にはなるだろうが、暮らしには不向き過ぎる!! 『山に帰って修行しろ』は言い過ぎだったかもしれんな? まぁ平地に寺を建立した所で比叡山の威を借るキツネとして遊んだのだろうが》
《何事も体験しないと裏側は見えませんね。所で……》
史実で岐阜城を拠点にしていた時は、毎日下山と登山を繰り返した信長をして、息を切らさずには居られない比叡山。
ファラージャはある疑問が浮かんでいた。
《何じゃ?》
《岐阜城には家臣の皆さんを毎日登城させていたんですよね?》
突然、ファラージャが意地悪そうに言った。
岐阜城は稲葉山、あるいは金華山。
こちらも現在はロープウェイがあるが、ハイキングコースもある。
《なッ!? いや! 足腰の鍛錬に登山は欠かせん! 岐阜城如き登れないならもう戦闘指揮官としては引退だ!!》
ちょっと家臣に『可哀想な事をさせたかも?』と思ったが、思い直す信長であった。
なお、現在でもハイキングコースをお年寄りが登っているので、鍛え抜かれた戦国武将が登れぬでは確かに武将失格だ。
なお、本来の登城ルートは判明していないので、『城』という拠点の意味を考えれば難関コースだったかもしれない。
「織田殿、こちらです」
なお、覚恕は輿で登ったので疲れはゼロだ。
担いだ僧は疲労困憊だったが。
先の滲み出ていた疲労感は、どちらかというと『信長との交渉』のプレッシャーが正解か。
《そうか。こいつら、この山を神輿を担いで登って降って強訴を繰り返したのか。そりゃ強いわけよな!》
強訴に使う神輿は今も現存するが、説明の立て看板には『重量2t』と書かれていた。
私の見間違いじゃないかと、今は少し疑っているので、いずれもう一度訪れて再確認したいが、そんな物を本当に担いで、あの山を上り下りしたとは本当に考えにくいので、強訴専用の軽いモノがあるか、麓に用意していたのかもしれない。
「麓をご覧ください」
「うむ。今のところは問題なさそうだな。遠くに見えるのが三好軍か?」
「はい。あの場所に現れたは良いのですが、不気味な事にそのままです。興福寺らに合力するでもなく、我らの助けに入るのでも無し。立場が鮮明でないだけに不気味です」
「我ら織田を待っているのかもしれんな?」
「ッ!! 蠱毒が用済みとなった今、最後の敵である織田を片付ける機会を伺っていると?」
(ほう?)
覚恕の戦略眼を信長は褒めた。
京の都を滅ぼす蠱毒計。
真の最終目標が織田家と見抜いていた。
「伺ってるかもしれませんな。また、待っている、と言うのも可能性の話だが……正面を迂回して下山できる道はありますかな? 一応同盟軍として、確認はしておきましょう」
「はい。案内人を用意します。あと……」
さっき鋭い戦略眼を見せた覚恕が急に歯切れが悪くなった。
「あの、その……一応お渡ししておきます。内容を読んでも良いと言われたので目を通してしまっておりますが、織田殿宛の書状です」
覚恕は非常に困っていた。
書状を渡すかどうか扱いに困っていた。
渡したら何が起こるか分からない、いや分かる気がする、爆弾の様な書状だからだ。
「そんなに悩む問題か? どれ……ッ!?」
書状には要約するとこう書かれていた。
『将兵が足りないなら私も参戦しますので、遠慮なく仰ってください。朽木城で待機しています。帰蝶』
「あ、あの戯けが!! 妊婦の身で何を考えておるんじゃ!?」
援軍なのかトラブルの来襲なのか。
「やはりそうでしたか。この書状は拙僧が坂本北門で直接受け取ったのですが、斎藤様がどう見ても妊婦にしかみえないのにこの内容です。『これは太ったのだ』と己を納得させましたが……違いましたか……!」
覚恕の言う通り『太った』じゃないと説明がつかない援軍の申し出だ。
「周りに他の女武将を従えておらんかったか!?」
信長が青筋を立てながら覚恕に問うた。
覚恕は何の罪も無いのに、可哀想に、さっきから恐れっぱなしだ。
「あっはい。皆様……その……大変困惑していた……と思います。いえ、諦めた様子でした……」
覚恕の返事に、額の青筋が何本か増えた。
「権六!!(柴田勝家) 十兵衛!!(明智光秀)」
「はっ!」
「何事でしょう?」
信長の怒声に反応する2人
只の兵とは違い、もう2人は息を整え終えていた。
駆け足で信長の下へ馳せ参じる。
「朽木に於の……斎藤殿が控えておる。聞いておるか!?」
「えっ? ひか……え?」
「妊婦……でしたよね?」
光秀も勝家も意味が分からず困惑する。
「そう! 妊婦じゃ! そのクセに気を利かしおったわ!! どこまでワシの予測を外す気じゃ! あ奴はッ!!」
転生直後から破天荒を貫き通した帰蝶だが、さすがに今回の事で驚愕するとは信長も思わなかった。
「これは最初から狙って居ったな!? 権六はともかく十兵衛にも知らせておらんとは!! ……すまん。お主らを責めても仕方ない話。あの戯け……いや同盟大名に戯けはダメか。何かいい言葉は無いか?」
「えっ……その……半兵衛! ちょっと来てくれ!」
光秀は全てを諦めた。
呼ばれた(まだ疲労困憊の)竹中重治と、ついでに来た(まだ息が切れている)小芝秀吉(羽柴秀吉)が、事情を聞いて光秀を恨むのは別の話であり、これが本能寺に繋がる事は無いと明記しておく。
結局、散々悩むも帰蝶を失礼のない範囲で罵倒する言葉が見つからなかった。
その時、学識ある覚恕が閃いた。
「褒め殺しては如何でしょう?」
「ッ! それじゃ!!」
褒め殺し。
褒めて褒めて褒めている様で馬鹿にする手法。
「そ、そうかもしれませんが、その場合は殿しか褒められませんし我々は、戦は当然、戦後も領地に戻りますので、我らに書状を託すのも、ご勘弁を……ッ!!」
帰蝶が真意に気が付いたら、別の書状を持たされて夫婦間を往復する事になると決まっている。
それは今以上に最悪だ。
「そ、そんな事より!」
重治が勇気を振り絞って間に割って入った。
「そんな事!?」
当然の反応をする信長。
「そそそ、そんな事は弾正忠様(信長)の一言で、きっとどうとでもなるハズです! 朽木には戦略だけ伝えます! それは某が責任もって伝えます! 当然、殿には朽木に居残って貰うよう命がけで知恵を絞って説得します!」
必死に両家の間を取り持つ重治。
この5人の中で、斎藤家関係者で、一番若輩は己だ。
朽木の援軍を使うなら己が最適だとの自負もある。
こんな時の為に貯め込んだ知恵ではないが、この場から逃げたいのも正直な気持ちだ。
「今一番考えねばならないのは三好です!」
「そうだな。忘れてはおらんよ」
重治は『本当か!?』と思いつつ議題を正しい方向に戻した。
一方で、勝家、光秀、秀吉は心の中で拍手喝采であったのは内緒だ。
「藤吉郎」
「はッ!」
秀吉が『はっ!?』と疑問形で返事をしなかったのは、さすが打てば響く史実の豊臣秀吉。
ファインプレーの返事だった。
「お主、迂回の下山道を使って、三好軍に接触せよ。我らが延暦寺の援軍に入っている事と、特に『これで蠱毒計が完遂する』と念入りに伝えよ。さらにすっとぼけて伝えよ『興福寺らが全滅するのを見張っているでしょうが、間違いなく全滅させます』と伝えるのだ。書状も持たせる。その上で反応を見極め、感じ取って来い。それが推測でも構わん。間違っていてもいい。お主の感性で感じたまま伝えよ」
「しょ、承知しました!」
誰しも空気は読めるものだ。
読めない人と言われる人も、特定の分野では読めるモノだ。
だが秀吉は、全方向で完璧に空気を感じ取る。
だから信長が重宝し、氏素性の分からぬ者を、織田軍の軍団長の地位まで与えたのだ。
この歴史は少々違う形で出世し、今、信長の側近となった。
ならば、鍛えるのは今だ。
その最初の任務が三好相手というのが厳しいが、今、この程度やれなくして織田の軍団長には据え置けない。
任務であり、期待の表れであり、この歴史での使い勝手のテストでもある。
「座主殿、馬を5頭、いや、6頭お借りしたい」
「承知しました」
武装要塞と化してはいるが、騎馬を押し上げるには無理がある登山道の為、全員徒歩だ。
山の反対側に馬が用意してあるのは間違いないだろうから、それを借りて三好軍に秀吉ら5人側近をつけていく。
あとの一頭は重治が朽木に行く為の騎馬だ。
「よし。そろそろ休憩も良いだろう。全員弓の用意。今の戦況なら撃ち下ろしの弓攻撃となろう。ならば甲冑の着脱は自由とする! 他の武器は槍だけ持て! これは登山用の杖だ!」
登りでも役立った槍という名の登山杖。
興福寺ら残党軍を片付けたら、また登って帰るのだ。
ある意味弓より重要な武器だ。
兵達は信長のありがたい配慮に感謝しつつ、今度は下山道を行くのであった。




