222話 永禄弘治の法難の始まり
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作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)先生です!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)
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よろしくお願いします!!
こちらは八坂先生によるファンアートならぬ本人アート(?)
嬉しいです!
【山城国/京の都……だった所の東 延暦寺西門】
「門を突破せよ!」
もう何の為にこの地で戦っていたのか忘れた蠱毒生き残り残党軍が、興福寺、東大寺、大和国残党軍と共に、延暦寺攻略を始めた。
蠱毒生き残り残党軍は興福寺らに導かれ、死に歩むに躊躇もない死兵となった。
「この天台宗総本山を! 霊山比叡山に邪教徒を近づけさせるな! 弓兵! 鉄砲兵! 狙い撃て!!」
この9年間、お隣で行われている蠱毒実験場に絶対に近寄らず、静観を決め込んでいたのに、最後の最後で、運悪く巻き込まれた延暦寺。
強訴だ、強欲だ、堕落だ、享楽だ、酒池肉林だ、悪質暴利貸しだと(事実だけに)酷い言われ様の延暦寺だが、蠱毒に関しては本当に無関係で、関わらない様に常に正しい選択を選んできたのに、この土壇場で巻き込まれ酷いトバッチリである。
「門の外側へ回り込め!!」
門を正攻法で攻める部隊とは別に、頭の回る指揮官でもいるのか、迂回戦略を指示する。
「僧兵長! 敵が回り込みます! 如何致しますか!?」
その報告は延暦寺側にも聞こえてしまっており、対処するのも楽だが僧兵長は敢えて言った。
「回り込む部隊は全て無視していい」
比叡山は天然の要害である。
道なき道を登るのも、やれば出来るだろうが、少なくとも戦の最中にやるのは至難の技。
もし登り切って迂回しても、疲れ果てた戦えない兵になるだけだ。
戦国時代の登山装備で、場所によってはクライミングも必要な比叡山で、生きて辿り着くだけでもマシだ。
仮に登れるルートがあったとしても、戦時中のそれは罠。
石でも砂でも、何か落とせば命ごと落下する仕組みになっている。
「要害の上に本当に回り込むなら、1日で回って来られる距離ではない。遭難するか熊の餌となるのがオチだ。それよりも、この道として整えられている門の突破は許されん! ここは何としても死守する。それに集中せよ!」
僧兵長は極めて正しい判断をした。
強訴だ、強欲だ(以下略)と言われた延暦寺の僧兵とは思えぬ統率力。
それもこれも『織田信長が油断させてくれない歴史改変』が生み出した賜物だ。
つい昨日までは戦っていなかっただけで、兵士数は本願寺に大きく引き離されても、兵士の質として仏教界最強は、本願寺と互角を張れるかもしれない。
そんな正規僧兵(?)として統率の取れた延暦寺と、敗残兵残党の興福寺、東大寺、大和国他連合軍。
城攻めに3倍の兵力がいるなら、要塞攻めには何倍の兵力が必要なのか?
そんな検証も兼ねた戦いが繰り広げられている中で、三好長慶と織田信長は動いていた。
【三好拠点/三好長慶】
「よく来た。ご苦労」
「ハッ!」
4人の武将の声が同時に響く。
和睦を結んだ尼子義久、尼子を裏切った毛利隆元、陶晴賢、三好に取り込まれた長曾我部元親らだ。
取り込まれた長曾我部はともかく、和睦の尼子と、尼子を裏切った毛利と陶は、別に家臣の様に振る舞う必要などない。
和睦を結んだ尼子、尼子をピンチに陥れた毛利と陶は、立場上、三好と同格大名だ。
長慶も同格だと言葉で明確に認めている。
ただ、態度で認めていないだけで、実力差を明確に眼光だけで知らしめている。
要するに蛇ににらまれた蛙なのだ。
「では三郎四郎殿(尼子義久)に総大将を頼もう。貴殿の采配は実に興味深い。総大将に不足はあるまい。軍艦にはこの孫六郎(十河一存)と北条殿(氏輝)を付ける」
長慶は褒める。
正直な感想だ。
義久の強さを長慶は認めている。
「はッ! (クソッ!)」
だが、義久はまだ若かった。
「ん? 総大将が不満かな? これ以上の立場は無いのだ。すまんな」
「え? と、とんでもない。せっかく和睦を結んだ間柄。危機を救ってくれた御恩もございます!(心中を読まれた?)」
「それは良かった」
長慶はニッコリ笑った。
悍ましい笑顔があるなら、これを言うのだろう。
あふれる覇気と殺気と瘴気が、極めて顔を認識しづらくしており『口調からして多分笑顔』としか判断できない。
もちろん、その推測通り笑顔であるが、三好に対する負い目や、格の違いが、そう勘違いさせているのだ。
それに義久は順調に育ち、尼子経久の再来とも言われたがまだ若い。
長慶に対抗できる胆力はまだ育っていなかった。
「それで戦況じゃが、大和国残党軍は延暦寺を攻めておる」
長慶が地図を指揮棒で指し示し、テキパキと敵軍の様子を知らせる。
「延暦寺を? 残党には興福寺ら寺院も含まれているのですよね? 一体なぜ……?」
義久らは状況を全く知らない。
また長慶も彼らに手に入れた情報を教えていない。
駒は駒らしく動いてくれないと困る。
余計な情報を元に動かれても困るのだ。
まぁ、困った所で死んでも構わないと思っている。
今している説明は慈悲だ。
言う通りにしていれば生き残れる、という慈悲だ。
「一応、大和敗残兵の背後を突けるが、本当に突く必要は無い。ギリギリまで接近し、その場で静観せよ」
「はっ! (戦わないならそれに越した事は……!)」
義久は、そこまで考えて、考察を止めた。
また心を読まれると思ったのだ。
「フフフ。それでよい」
(ッ!)
そんな心中も長慶は見抜いていた。
「それでだ。大和敗残兵は我らの敵だが、もし、万が一救援依頼が来たら、共に延暦寺を攻略せよ」
「分かりました……ッ!」
「恐れる必要はない。恨まれているのは我ら三好軍。其方らは比較的安全だ。そして、延暦寺こそ日ノ本に病を振りまく元凶だ。遠慮する事は無い」
義久の恐怖を己に対する恐怖と知りながら、あえて神仏に対する恐怖と勘違いして見せる長慶は、果たして、配慮のできるジェントルマンなのだろうか。
「そ、そうですか。確かに酷い噂はこちらにも届いてはおります」
これは本心だ。
延暦寺系列が領地でデカい顔をしているのを知っているだけに、その総本山ともなれば『言わずもがな』なのだと思った。
「ただしだ。延暦寺から救援依頼が来たら、大和敗残兵を延暦寺と共に挟み撃ちにせよ。つまり我らは中立。先に救援を求めた陣営に付け。まぁ無いとは思うが、仮に同時の救援依頼なら優先順位は敗残兵だ」
「し、承知しました……!」
「他の者も承知はしたかな?」
長慶が元親、隆元、晴賢に確認をとる。
これは当然の確認だ。
信長みたいに慣れ親しんだ仏教施設への攻撃ではない。
初めて行う仏教勢力に対する攻撃が、宗教界の総本山の一つ、延暦寺なのだ。
枝寺院を焼き払うのも恐れ多いのに、総本山を攻め落とせとは荷が重すぎる。
だが『承知できかねます』と、ここで言えれば今の立場には無い。
格下は格上に逆らう事など許されないのが武士の、戦国時代の力関係だ。
(我らに死ねと、地獄に落ちろと言うのだな!?)
3人の心情だ。
苦渋の表情すぎるので長慶でなくとも読める顔だ。
「フフフ。迷いが見えるな? 知っているかもしれんが一応言っておこう。織田信長は本願寺の枝寺院である強大な願証寺と、その妻で大名の斎藤帰蝶は信長と共に北陸の一向一揆総本山、吉崎御坊を攻め落としたぞ、と言っておこうか。お陰で民は大変助かっているとか」
「ッ!!」
この言葉は色んな意味が込められている。
神仏を恐れる常識を捨てよ。
正義の行使に神仏も人間も上下は無い。
これは民に対する救いだ。
言うまでもなく、日本の副王の命令は絶対だ。
そして少しでも心の負担を和らげる、慈悲の気遣いだ。
「承知しました!」
3人は覚悟を決めた。
出来れば延暦寺の救援を願いつつ。
【近江国/延暦寺領南門 天台座主覚恕】
「では、この通りよろしくお願いします」
「うむ。承った。この者らは元の場所に送り返す事を約束する。安心せよ。無理に徴兵もせぬ」
「織田殿は専門兵士でしたな……。彼らの顔を見て再度兵として用いるのは、悪名高い我らでも躊躇します」
(ほう。己を『悪名高い』と評するか。意外な発見だ。前々世もそうだったのか?)
南門では信長に引き連れられた、柴田勝家、明智光秀、竹中重治、小芝秀吉(羽柴秀吉)が随伴している。
前者が、威圧担当、後者が知恵担当で、信長は恐怖と慈悲の担当だ。
覚恕と信長は史実の比叡山焼き討ちの際に対峙していない。
覚恕は焼き討ち当日、織田対策の為に朝廷に行っていた。
お陰で焼き討ちは免れたが、帰る場所は失った。
(前の歴史は『比叡山を焼きはしないはず』とタカを括っておる、と思っていたが、案外、朝倉、浅井軍と織田軍の板挟みに困り果てて居たのかもしれんな)
信長は新たな発見なのか歴史改変なのかは分からないが、この歴史でしか会った事の無い覚恕に対し、認識を改めた。
「さて、ここからは交渉です。率直に聞きましょう。我らの助けが必要ですか? 攻撃を受けているのは把握しております」
「……。正直、困っているし驚いております。あの約定から随分時が経った気がしますが、織田家は約束を破らなかった。個人的には信頼しても良いと思っております」
約定とは相互不可侵の約束だ。(140-2話参照)
六角を追い出した後も、延暦寺の領地、即ち比叡山や坂本の街を襲撃しない約束である。
もちろん、延暦寺側からの織田領への襲撃も禁止とした約束だ。
この約束は約5年間守られ続け、何なら信長は延暦寺を無視できる理を最大限利用した。
あの面倒な延暦寺を気にしなくて良いのは、あの紙約束にしては最大限の成果でもあり、それによって今がある。
「しかし、見返りを求めない御仁でもありますまい。戦国大名なのですから」
「勿論! この天下布武法度を受け入れてくれれば、無償で延暦寺を守って見せましょう」
「法度の受け入れ、ですか……」
天下布武法度の受け入れ。
即ち修行に専念し、収益をもたらす行為を諦め、武力の放棄と坂本の街を含めた寺領の全没収。
その代わり、寺院の修繕費、生活費、儀式の費用を用立てられ、俗世の争いから全力で守られる。
正直、堕落僧侶に頭を痛めていた覚恕に取っては、何も困らない約定だ。
受け入れられれば、信長の野望も達成される。
坂本の街の奪取と、延暦寺の無力化。
だいぶ遠回りしたが、計画通りとなる。
「そう簡単に決断は出来ぬでしょう」
「えぇ。正直拙僧も命がけの説得となりましょう。受け入れるなら、ですが」
「でしょうな。しかし刻は少ない。永遠ではない。三好殿から援軍の要請が来たら動かぬ訳には行きませぬ」
「……共に延暦寺を焼き払うと!?」
「断言はしませんが、蠱毒計は延暦寺が一番間近で見てきたはず。興福寺、東大寺、大和国敗残兵との共倒れを狙っているのは承知しておりましょう? まぁ、この要塞の規模です。興福寺ら残党程度に破られる防御ではありませぬが、そこに三好軍が後押ししたら? 我らに加わる様に要請が来たら? 今の所、何も要請を受けていないので、これこの通り甲冑も付けておりませぬ」
信長は手を広げて見せた。
お供の家臣も全員平服だ。
だが、次会う時は、全員甲冑姿の可能性が高い。
「……。即答は出来ませぬが、前向きに善処しましょう。その為にも確認したい事がございます」
「何かな?」
「織田殿は天下を取るおつもりか?」
「勿論」
「ッ!!」
信長が余りにもアッサリと断言してしまったので、覚恕は面食らってしまった。
「あの三好を倒すと!?」
「倒します。ここに居る者と今この場にいない者達とで!」
「!!」
「邪魔する物は全て倒します。そこに例外はありません。大名から天魔鬼神まで立ちふさがるなら屠るのみ。後は座主殿の判断ですな」
信長が少々顔を歪めた。
ほんの僅かの歪みで瞬間的であったので覚恕は気が付かなかった。
信長が何に苦しんでいるのか?
覚恕の判断に今後が委ねられるからだ。
自分の判断ではこれ以上動けない。
三好と戦うには延暦寺に援軍要請をしてもらわなくてはならない。
自分たちからは絶対に裏切らない。
前々世からの己に課した厳しい掟。
どんなに強力な勢力になろうとも、所詮は斯波家の家臣の家臣の家格。
せめて約束だけは守らねば、誰からも信用も得られない。
「今ここに居る者はすぐに動ける豪傑に切れ者、そして、策謀に、弱点を見抜く達人。助けを求めるなら必ず助けましょう。それでは近くに待機していますので、救援依頼はお早めに」
信長は覚恕が折れる事を、そして延暦寺との共闘と言う歴史改変を願うのであった。




