221話 究極の歴史改変と9年間じっくりたっぷり熟成した毒
投稿が大変遅くなりまして申し訳ありません。
単行本作業と宣伝行脚に労力を使い、更に不運な事に、全てを記録したUSBメモリーのクラッシュと復旧、パソコンの不調の改善と、要らん所で死力を尽くしておりました。
なおUSBメモリーは完全復旧とは行きませんでした。
一所懸命作った資料や貴重なデータが完全消失しました。
どうでもいい資料や何だったのか思い出せないデータ、不要と判断し捨てたデータが復旧しました。
電子単行本発売という幸福と対をなす、数々の不幸を乗り越えてできた話です。
お楽しみください……(´;ω;`)
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【山城国/京の都……だった所】
弘治2年(1556年)から永禄7年(1564年)弘治10年(1564年)の9年間かけて煮込んだ(?)毒虫達の饗宴ならぬ狂宴。
ついに、漫画の失敗料理の如く、爆発に至る事となった。
爆発。
つまり、ついに毒虫による最後の生存競争が始まったのである。
今までの小競り合いではない、正真正銘生き残りをかけた戦争。
その決戦場が運の悪い事に京の都だった。
そこに大和国から逃げ込んだ興福寺と東大寺、その他大和国の武家勢力と、延暦寺が戦い始めたのである。
【山城国/三好家拠点】
尼子家に従属していた毛利家と陶家が離反し、尼子はやむを得ず三好と和睦した。
このままでは三好と毛利、陶の挟み撃ちに合う。
本来なら三好は、そんな提案など蹴って、そのまま尼子を挟撃してしまえば良いが、残念ながら中国地方は優先順位が一番ではない。
一番は京の再制圧。
昨年、更なる追加の毒虫を投入した。
それは、京の都にとって致命傷の毒のはずだ。
もう京の器はひび割れだらけ。
決壊するなら今しかない。
「殿!!」
(そら来た)
精神的病で、兄弟の死がうやむやになって、死んだ事を無かった事にする程の精神的摩耗が、神懸かり的な読みと策を導き出す。
史実での『精神病による凋落とはなんだったのか?』と疑いたくなる『心眼』ならぬ『神眼』だ。
「殿! 都より報告です! ついに始まりました!!」
予想通りの報告だった。
そうなる様に仕向けたのだから当然だ。
「そうか分かった。で、どの様な戦況だ?」
一応念の為に尋ねる。
この策には達成目標がいくつもある。
天皇家の消失。
六角家への罪のなすりつけ。
寺社勢力の衰退。
応仁の乱より酷い結果を残し京の都を更地に帰す。
ちなみに将軍はどうでもいい。
この、後に『永禄弘治の法難』と呼ばれる争いにて『天皇を守れない最悪の将軍』とレッテルを張られるのだから。
もう殆ど9割は達成見込みである。
だが油断しない。
家に帰るまでが遠足との名格言(?)がある様に、息の根が止まったのをこの目で確認してこその完遂だ。
「はっ! 只今、興福寺、東大寺が京の残党をまとめ、延暦寺に攻撃を仕掛けているとの事!」
「延暦寺? ほう?」
延暦寺も邪魔には違いないが、蠱毒にはまだ入れていない。
(いずれ滅するつもりだったが、これは幸運か?)
本来は六角家と残党軍を衝突させるのが、最後の戦いであり目標だった。
そこで上記目標をすべて達成する。
だが幾つか取りこぼしがあるのも計算内。
その時は、どさくさに紛れてしまえばいい。
(その場合、決戦場所が都か東にズレるな。延暦寺が押し返せば都共々道連れだが……これも六角次第か)
六角ではなく延暦寺となると話が違う。
延暦寺が共倒れなら幸運だが、六角ではない違和感を違和感で片付けられないのが今の神眼三好長慶だ。
「六角はどうした?」
今の情報に六角が無い。
無いのは絶対におかしい。
だから何かあるはずだ。
「はっ! 帝や有力公家と共に比叡山に逃げ込んだとの事です!」
その言葉を聞いて、長慶はようやく違和感が拭えた。
「成程。そう言う事か。比叡山は要衝。それに帝の弟が天台座主でもあったな。ならば帝を伴い避難し立て籠るには最適。六角はこの9年毒壺の中で鍛えられておったか。流石生き残った毒虫よ。強かだ」
六角の毒虫としての強さ。
これが違和感だったのだ。
長慶は本気で六角を褒めた。
何せ延暦寺の天台座主覚恕は天皇の実弟。
しかも延暦寺は比叡山という要塞である。(この歴史では超武装要塞 140-2話参照)
立て籠るには最適である。
利用しない手は無い。
史実でも、朝倉浅井連合軍が織田軍から逃げて、籠城した規模の山寺である。
誰がどう考えたってソコしかないのだ。
むしろ9年間も逃げ込まなかった六角の根性が凄いぐらいだ。
(さて、良い意味で想定外となったか。六角が延暦寺まで巻き込んでくれおったわ)
延暦寺は唯一の逃げ場に相応しい。
何か交渉を行い、立て籠ったのだろう。
恐らくは帝の詔勅でも引き出し避難と籠城を選んだのだ。
(フッ。神仏を滅ぼそうとしておるのに、神仏が味方してくれておるのか?)
長慶の神眼にして強運にして日本の副王の力。
想定外も良い方向に動いてしまう。
これが覇者の運勢だ。
(或いは神仏の命乞いか? ククク! 無駄な事! 貴様らはワシの下で『神仏ごっこ』でもしているのがお似合いだ!)
長慶の心がドス黒く邪悪に晴れ渡る。
「よし。それならば些細な事だな」
多少の計算違いは、流石の三好長慶でも制御できないし、計算違いも計算内だ。
何故なら何事にも計画には『遊び』が必要だ。
全てが計算通りでないと成立しない策は、一つ何か崩れただけで全てが崩壊する。
その為に、車のハンドル操作の様に『遊び』、つまり『ゆとり』『隙間』を持たせる事が肝要だ。
いつでも修正が出来る様に。
「だがそうなると興福寺、東大寺残党軍には、相当頑張って貰わねばならんが、比叡山を攻略するには、ちと荷が重いか?」
六角家に敵対する陣営は、その殆どが何らかの残党兵。
まともに戦える軍では無いかもしれない。
それに比叡山は史実と違い要塞化している。
「だれぞ、尼子義久と、毛利一族、陶、あと長曾我部も呼んで参れ」
長慶は『遊び』を使って計画の修正を計るのであった。
【近江国/岐阜城(史実名:安土城)】
「殿! 始まった様です!」
信長直臣となった秀吉が信長に報告した。
小姓を通す暇などない。
待ちに待った緊急事態に備え、この報告に限り、無礼OK、しきたり全無視OKだ。
「ついに来たか! 六角はどうなった!?」
「はッ! それについては某から!」
斎藤家から来た竹中重治が答えた。
「殿から『策通り』と言伝を預かりました!」
長慶が蠱毒計で企んでいる様に、信長も企みがある。
蠱毒計が無事終われば、織田家、斎藤家は走狗になるかもしれない。
ある意味、長慶の蠱毒計を密かに良い具合に妨害し、思い通りに決着させてはならないのだ。
「そうか! よし! すぐに延暦寺に行くぞ! ワシ、十兵衛(明智光秀)藤吉郎(小芝秀吉(羽柴秀吉))、半兵衛(竹中重治)、あと権六(柴田勝家)を連れていく! 武装も必要ない! 即出立じゃ!」
織田も京の様子は逐一探っており、次の行動の為の準備は済んでいる。
秀吉と重治の頭脳、勝家と光秀の威圧、それを束ねる信長。
最高最悪の布陣だ。
「所で、於濃、いや斎藤殿はどうしておる?」
不確定要素は帰蝶だけだ。
本来なら同行して貰いたいが、今は出来ない。
出来てはならない。
信長の正妻でありながら、同盟を結ぶ同格大名。
要請は出来るが命令はできない。
そもそも今は無茶できる体ではない筈なのだ。
「はッ! 『流石に今回は無理です』との事です」
「そ、そうか。それは良かった……」
「『それは良かった何て言ったら、絶対行く』とも仰られておりましたが……」
「ッ!? ワシは何も言っていない!! そうだな!?」
「も、勿論です!」
信長と重治は慌てつつ口裏合わせをした。
帰蝶は今、妊娠しているのだ。
お腹も大きくなり始めた。
散歩ならともかく、戦にならずとも遠出は遠慮してもらいたい。
そう。
帰蝶は妊娠した。
話は2年遡る。
『この初陣、成功したら褒美を下さいね!』
『うん? まぁ良かろう。褒美でやる気が出るなら安いものよ』
『はい!』(170-4話参照)
これは沢彦宗恩を伴い、真の浄土真宗を説きに飛騨へ向かった時の話。
それから2年。
真の七里頼周に負けたものの、戦果としては申し分ない結果を残した帰蝶は、信長に褒美を求めた。
『大丈夫です。茶器も土地も米も銭もいりません。何ならタダで手に入るものですので! 『子種』を下さい!』
『ッ!? そう来たか……! ある意味一番怖いが……分かった。望むなら与えよう!』(220話参照)
2年前に帰蝶はついに決心した。
斎藤家の家長であると同時に信長の妻でもある。
そしてこの歴史では健康体だ。
妊娠に不都合は無い。
28歳と言う肉体年齢が、この時代にしては遅すぎる妊活ではあるが、女性は産める限り産める。
年齢で早いはともかく、遅いを懸念しているのは人間だけだ。
ただ、信長の歴改改変の都合、どうしても妊活が遅れた。
帰蝶は戦力として、歴史改変の同志として、どうしても必要な人材であった。(あと、帰蝶が妊娠に対し無知でもあったせいでもあるが。 90-3話参照)
だが、ついに究極の歴史改変に帰蝶と信長は挑んだ。
史実に存在しない子を作る。
もちろん、歴史改変のあおりを受けて、既に史実に登場しなかった子も誕生しているだろう。
ただ、それは今の歴史の流れに沿っただけの自然な行為。
信長と帰蝶だけは『史実に無い』と認識して子を作る。
蠱毒計も歴史改変として大事だが、こちらも大事、いや蠱毒計以上に大事なのだ。
腹も大きくなった、と言う事は、少なくとも石女では無い。
流石の帰蝶も、そんな体で戦場には出ないだろう。
大人しく朽木城で控えているはずだろう。
腹を大きくしたまま戦った女性の称号が欲しい訳でもないだろう。
全て『だろう』で終わるのが、帰蝶の不安要素であり恐ろしさでもあるのが、信長と斎藤家家臣の悩みの種なのは内緒の話だ。
そもそも、この時代の出産は命がけ。
現代なら対処可能でも、赤子を諦めなければならぬ場合どころか、母体の命も危険な出産もある。
斎藤帰蝶が歴史に登場しないのは、出産に失敗した説もあるぐらいだ。
歴史改変に際し、出産を決意したと言う事は、ここでリタイアをも覚悟したと言う事だ。
一応、信長の側室と子供を全員朽木城に待機させ、いつ産気づいても良い様にはしてある、と言うか、男の信長には、それ位しか手配してやれない。
帰蝶に『やれやれ、私が居ないとダメですねぇ』なんて出陣させないためにも、今から行う延暦寺との交渉は絶対に成功させなければならないのだ。
ある意味、信長は信長で帰蝶を守る(?)為に必死だ。
「よし。行くぞ!」
そんな覚悟を胸に秘め、信長達は延暦寺に向かうのであった。
【山城国/延暦寺 京方面櫓門】
「何度言えば理解できるのだッ! ここには帝も六角も居らんと言っておるだろうッ!」
櫓門の上で、僧兵が声を大にして叫ぶ。
僧兵の言う通り、何度も何度も『居ない!』『出せ!』の押し問答で、声は枯れかけている。
「何度も言わせるな! そんな見え透いた嘘が通じると思うてか! 帝との面会をさせよと言っておるのだッ!!」
「だ か ら ッ! ここには居らんと言っておろうッ!!」
口から血を吐き出す櫓門の僧兵。
喉の何処かが切れたのだろう。
「じゃあどこに行ったのだ!?」
「知っているなら教えておるわッ!!」
お前等の様な面倒くさい奴を追っ払うなら、知っている事は全部教える――
門番の僧は半分泣きそうだった。
戦国時代のモンスタークレーマーは現代とは比較にならない。
何せ、簡単に流血沙汰になる。
「じゃあココだな!」
「だから……ッ!! ええい! 追い払え!!」
こうして延暦寺vs東大寺、興福寺、大和国敗残兵連合軍の戦いが始まった。
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作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)先生です!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)
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