外伝68話 毛利『一応、謀反反対派』隆元
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作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)先生です!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)
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【安芸国/吉田郡山城 毛利家】
「さて諸君。言いたい事はあるかね?」
毛利家当主、毛利隆元が威厳を発揮して尋ねる。
一度は没収された安芸国は吉田郡山城が、実によく似合うようにも見える。
極めて自己評価の低い男なのに。
『ワシの命懸けの策を……!!』
隆元の背後には、故毛利元就が憤怒の形相で、背後霊になって立っているように見える。
「……ありません」
武闘派筆頭の吉川元春が、小さく小さくなって、頭を下げた。
「……お、同じく」
智略で戦場を操る小早川隆景が、より小さくなって頭を下げた。
「……あ、う、申し訳ござらん」
西国一の侍大将から、西国一の反乱者になった陶晴賢が、青い顔で頭を下げた。
立場としては、今は同じ裏切り同格大名の立場なのだが、頭を下げずにはいられなかった。
唯一隆元だけが『反乱は時期尚早』と訴えていたが、他の3人に押し切られた結果、中途半端な反乱になってしまった。
ただ、隆元も決めたからには全力で役割を果たした。
誰も手を抜かなかった。
ただ、尼子の壁は思った以上に高かっただけだ。
「予感だけでも言霊になるのかのう?」
自己評価の低すぎる隆元の悪い癖だけが、それでも何かまだ時期では無いと思っていたのが当たってしまった。
常々『真に絶好の機会まで待たんか?』と言っていたが、本当は『嫌な予感がするので先送り』としたかったが『嫌な予感』を正しく説明出来なかったのも問題であった。
「……ふぅ。いや、すまない。ワシも最終的には承認したのだ。ならば責任者はワシでもある。故に罪は一緒だ。申し訳ありません父上」
毛利兄弟と陶晴賢は、隆元の背後にある毛利家の家紋、と一緒に居る気がしてならない元就に謝罪した。
隆元は、本来1563年に不慮の原因で死ぬハズだったが、今も実にエネルギッシュに動いている。
元就が先に死んで頼れない分、嫌々ながらやる気をだし『不慮の死』を跳ね返す歴史改変が起きていた。
だが歴史改変と言うよりは、陶家との共同反乱が隆元の言う『罪』。
尼子に対する反乱が、中途半端な形になってしまった事だ。
謀反の鉄則は、短時間で終わらせる事。
根回しに根回しを重ね、これ以上ないタイミングで鮮やかに決める。
決めたなら、反抗勢力を一気に黙らせる。
長引かせれば、双方共倒れなのは目に見えている。
古今東西、戦争には目標があり、経費に見合う結果が伴うかが最重要である。
結果が伴えば、必要なら、負けも許される。
そこで丁度良い例題と言ってはU共和国に失礼だが、現実世界にも、3日で終わると豪語し始めた戦争が、現在3年目に突入し、しかも終わりが見えないと言う、情けない戦いを晒したR連邦国のお陰で、世界中の誰も得をしない泥沼を極めた消耗戦になってしまっている。
3日の予定が3年経っても攻略出来なければ、仮にU国全土制圧しても軍事的大失敗は確定している。
後々結果が出たとしても、もう歴史に残る世紀の特大失敗が確定し、しかも成果ゼロどころか現在マイナスの上、戦後の労働力さえもが激減してしまった。
目標未達成、経費に見合わない上に、将来も潰れた。
もう、破滅するか、挽回を狙うなら、死なば諸共として核兵器を使うしか無いだろう。
対して、毛利と陶は、旧領は回復し尼子の領地の一部を手に入れた。
成果としては、決して、どうにもならない失敗ではない。
成功の部類ともいえる。
それは、目標が『あくまで天下』と定めているからであって、途中経過がどうあれ『この目標』は失敗も許される。
しかし、元就に『天下を目指せ』と言われたからには、ただ反乱を起こせば良い訳でもない。(137話参照)
必ず天下を辿り寄せる反乱であるべきで、次に繋げて然るべきであり『反乱して領地拡大して、ハイ終了!』ではない。
これでは毛利もR連邦国と同じになりかねない。
領地の大半を取り返したのは良い結果だし、尼子の領地にも食い込んだが、尼子は急場しのぎに三好と和睦した。
しかも、三好家は大和国攻略に掛かりっきりで、尼子はその隙を伺う隙を、毛利と陶に見せてしまった。
誰がどう考えても、反乱には最高のタイミングだった。
だが、上手く行かない時は、何をやっても裏目に出るのは、誰もが経験した事があるだろう。
『よりによって、このタイミングでトラブル!?』
そんな記憶を持つ読者も多いだろう。
作者の私も、漫画連載が始まったタイミングで、信長Take3データが入ったPCがウィルス感染した。(正確には感染では無くサポート詐欺で、一命を取り留めた!! 本当に良かった……!)
毛利も陶も同じ目にあっただけだ。
ここまでアッサリと尼子と三好が和睦するとは、考えが及んでいなかったのだ。
これが本当に計算外だった。
また、尼子義久と山中幸盛が思った以上に手強いのも誤算だった。
これは専門兵士の力による、僅かな差であるが、しかし大きな差となって、失敗の決定打になってしまった。
尼子の準備が機能した形だ。
これで勢力の合算は、陶、毛利側が不利になってしまったが、三好が反乱に積極的に干渉してこないので、何とか互角に争えている。
だが、そうなると待っているのは不毛な消耗戦だ。
石見銀山を抱える尼子と、堺と昵懇の三好。
対して、陶、毛利で当てに出来るのは、九州の大友ぐらいしかない。
四国は三好に制圧されてしまっている。
八方塞がりである。
こうなると不思議なモノである――
「……。『これが八方塞がりと言う奴だな』と言うと、大体、何か手が思いつくのは何なのだろうな?」
隆元がポツリと呟いた。
無能を自覚している己が、案を思いついたのだ。
若かりし頃、毛利がまだ大内や尼子に使われて居た頃、何度も絶体絶命になったのを元就の気転で覆してきた。
毛利は、決して鮮やかに中国地方に現れた勢力ではない。
泥臭く戦い、戦況を見極め、最善のタイミングと計算で独立を果たしたのだ。
それを間近で見てきたのが隆元である。
「えっ!? 兄上、何か手があると!?」
隆景が驚いて声を上げた。
家督には興味がないが、智で劣るのは、例え兄と言えど譲れない。
自分に思いつかない事を、兄が思い当たるのは許せない。
「いや、そんなに期待されても困るし、絶対の策でもないが……。何とかして長曾我部を動かせんか?」
本当に思い付きで言った言葉だったが、春元、隆景、陶晴賢は虚を突かれた顔をした。
「ッ!?」
「それは……! 確かに……!?」
「な、成程! い、いや、長曾我部に目を付けたのは良い判断ですが、三好が前当主を人質に取っていると聞きます!」
隆景が指摘する通りで、長曾我部が三好に降伏した時、当主の国親が引退して人質となり、今は元親が四国の西端で細々と長曾我部家を運営している。
なお、元親に子供が生まれた場合、その子も人質として差し出す約定になっている。
「まぁそうだろうな。だが前当主国親は病気がちとも聞く。長くはなかろう。ならば没した瞬間が狙い目じゃないか? 現当主元親に子が生まれたとも聞いておらん」
史実の国親は1560年に病没しているが、この歴史では、何かを狙ってか、頑張って生きている。
元親の長男、信親が史実通りで生まれるなら1565年。
元親の子供が人質に差し出されたら、更に長曾我部は動けなくなる。
この人質交代の隙間を利用したい訳だが、言わば、これは長曾我部に『親の死を最大限利用しろ』との侮辱に等しい反逆アドバイス。
しかし、幸か不幸か、実は国親本人も最初から元親に伝えている、親公認の、親見殺し反逆プランでもあった。
そんな計画が進んでいる事を陶、毛利が掴んでいる訳では無いが、天の采配なのか、絶好のタイミングであるのは間違いない。
ただ、協力関係が築けるかどうかだけだ。
「ならばお任せを!」
「某に!」
陶晴賢と小早川隆景が同時に名乗りでた。
「ふむ。いいんじゃないか? 毛利家と陶家代表が赴くのだ。真実味も増すだろう。次郎(吉川元春)が向かえば一瞬で破断どころか敵対してるだろうよ」
「兄上ぇッ!? そ、それは余りにヒドイですぞッ!?」
武勇で鳴らす者は、頭脳がイマイチだ、と言うのは勿論、偏見であるが、偏見通りの人がいるのも事実。
その点、晴賢と隆景なら問題ないだろう。
「冗談じゃ。ただお主まで行かれては、コチラの戦力的に困るだけだ。別に深い意味は無いぞ? これが適切な人選だと思ったまでじゃぞ?」
「…………。承知しました。確かに仰る通りです」
元春は承知したが、極めて訝しんだのは言うまでもないだろう。
【伊予国/湯築城 長曾我部家】
かつての河野家の居城を現在の居城にしている長曾我部家。
河野家は毛利との連携が崩れ、長曾我部と三好に押し潰された。
今では長曾我部家の家臣として働いている。
故に『毛利からの使者!?』と憤慨しているが、そこは大人の対応で心の内に収めている。
一応、毛利も一旦は滅ぼされた家の故の、事情も理解しているからだ。
「内容は分かった。ワシも三好には煮え湯を桶何杯も飲まされたからな。前向きに検討したい所だ」
この言葉は第一関門突破だ。
いや、この場に入室出来ただけでも成果がある。
その上で検討してくれるのは、実にありがたいが、隆景が疑念を率直に言った。
「おお! と喜びたい所ですが……表情からは懸念の感情しか感じられませぬ。力になれるかもしれませぬ。お話頂けませぬか?」
「困りごとは山程あるでしょうが、そこは我が陶家と毛利家で援助を約束いたします」
元親の反応が前向きなのは良いが、陶、毛利の来訪を、今の窮状からの天の助けと元親は見ていない。
かと言って、邪魔とも言わないが『厄介な困りごと』と捉えている節がある。
「困りごとか。確かに山程ある。だが、数ではなくたった一点のみの問題が大問題の巨山なのだ。毛利の当主殿も陶殿も、三好長慶の実物を見た事はあるかね?」
元親が思い出すのも悍ましい感情を隠さず言った。
「ッ! 無いハズです」
「そ、某もありませぬ……」
会える立場に無かったのもあるが、元就を策とは言え殺害されている。
どの面下げて会いに行けばよいのか?
だが、その問題は元親があっさり提案してくれた。
「ならば、一度会って見よ。元就公が惨殺された怒りはあろうが、遺体の返還を求める位なら会える可能性はあろう。それに一応、尼子の邪魔をした立役者なのだから無碍にはされんだろうし、その様な器の小さき男でもない。それでもなお三好に挑むのであれば……」
元親はその先を言わなかった。
もちろん、陶晴賢も小早川隆景も、その先の言葉を理解した。
元親の覚悟を込めた言葉を正確に受け取ったのだ。
それでも挑むなら、命を預けると。
「では、一旦、今回の件は持ち帰り検討します。前向きに」
隆景が遊び心と嫌味を込めていった。
「フッ。意趣返しか。そうでなくては成功の可能性は無い。しかし行くと決めたなら、棺持参で行くが良かろう。万が一もあるからな。これは皮肉でも何でもなく、本当に命がけになる可能性があるのをワシは親切心で言っている。無論伝わったと思うが、それでも念の為に言わずにはおれんと、それ程だと言っておこう」
「承知しました。戒めとして胸に刻みましょう」
「長慶には連絡しておく。『面会を望みたいそうです』とだけ書いて、余計な事はかかん。とりあえず、長慶が興味を示せば尼子は一旦抑えられるだろう」
こうして、多少の成果を得て晴賢と隆景は帰還した。
当然、隆元は『絶対に嫌! 行かんぞ!』と柱にしがみ付いて散々駄々をこねたが、長慶からの了承の返事も届き、押し切られ凄く嫌々ながら三好長慶の元へ向かうのであった。
今度は毛利隆元、吉川元春、小早川隆景、陶晴賢全員で。
結果は後々明らかになる――




