外伝67話 六角『覚悟』義賢
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作画の八坂先生に編集者さん、私を取ってくれたAmazia様には感謝しきれません!
【山城国/京の都……だった所の北部 六角軍】
集められた毒虫の中では一番勢力が強い六角家。
京の都に押し込められ、帝の御所らしき建物も含め北側をほぼ制している、最古参にして7年も壺の中に閉じ込められ、それでもなお、他の毒虫を食い続けた非常にしぶとい毒虫だ。
「御所の壁が崩壊した?」
「はい。……元々修繕もままならない状態でしたが、昨夜ついに寿命が尽きた様です」
「ま、そりゃ崩れるわな。童が殴ったのが原因だとて信じてしまうわ。寿命だ寿命。帝に害が無ければ良い」
本当は違う。
武田信玄が蹴ったら、連鎖的に崩れてしまったからだ。( 外伝65話参照)
もう御所の修繕どころでは無いので、帝に害が及ばなければ良い事となった。
「それよりもだ。興福寺に東大寺、あと大和勢力か。長慶の奴、更に新たな毒虫を放り込んで来るとは。まだ足りんというのか?」
義賢が大きくため息をついた。
別に悲観に暮れている訳ではない。
もう慣れてしまったのだ。
外国人だったら、両手を広げ、肩をすくめていただろう。
そんな程度の感想だ。
「奴はワシを最強の毒虫にしたいのか? 新たな毒虫の餌になって欲しいのか? どっちだと思う?」
まるで『朝はパンかご飯か?』と聞く程度の気さくさだ。
やはり苦境に慣れてしまって、危機感覚が麻痺している様だ。
「ど、どちらと申されましても……」
健気にもここまで付き従ってきた山内為俊が、聞かれても答えが無い問いかけだからだ。
どう答えても、虫扱いか、死ぬかだ。
「フフフ。最後まで生き残った毒虫か、死ぬかで答えに迷ったか? まぁそれも目的じゃろうが、奴の明確な目的は、もう流石に分かったぞ」
「……何でしょう」
為俊が何となく察しつつ聞いた。
「どさくさに紛れて『帝を殺せ』そう言っているのだよ。奴は日本の副王から王を目指したのだ。しかし自ら手を汚せば誰も認めてくれぬ。だから他人、つまりこの場合ワシらじゃが、何かの拍子に帝が死ぬ事を望んでいるのだ」
「そうですか。ですよね……」
察していた内容だったが故に、特に驚く事は無かった。
帝の死を望むなど、本当はメチャクチャ驚かなければならないし、考えるだけでも不敬にして大罪。
だが、ここまで生かさず殺さずでは、もう理由など限られている。
現将軍は六角が確保しているのだから、もう考えるまでも無い。
この蠱毒の壺で唯一特に保護(?)されている帝こそがターゲットなのは明白だ。
「戦のどさくさでもいい。どっかの勢力が御所に雪崩込んでもいい。ワシらが手にかけてもいい。ワシが日本の副王の立場ならそうするぞ?」
流石は蠱毒計の前から、京の伏魔殿で謀略を駆使して戦ってきた六角一族である。
さらに確保している切り札の将軍も、病気がちで先が長くないのは見て取れる。
そうなると16代将軍確定候補を抱えている織田軍が、大義名分をかざして京に侵入するだろう。
その瞬間、京に居る全ての勢力が不法滞在者となる。
「当然、織田に命令している三好も満を持して京に侵入するだろう。本当の蠱毒は生き残った最後の虫を活用するが、今回の場合だと、毒虫がさっさと帝を殺す事を願っておる。運の悪い事に尼子で内紛が起きて三好は殆ど自由の身になった。帝が没したら京に入らぬ理由がない」
「今度は本当の意味で三好の天下になり、織田が忠臣として仕えるのでしょうか?」
「どうかな? 織田も走狗になると思うがな。いや……?」
走狗、つまり『狡兎死して走狗烹らる』で、要するに『使い捨て』の意だが、義賢は違う使い道を考え出した。
「織田は東日本最強の勢力ではあるものの、斎藤家以外は利害関係で繋がっているだけだ。三好の傘下に入るとなると話が違う。従うならともかく、拒むならば各個撃破すれば済む話だが、東北の端までとなると、信長を簡単に殺すには長慶にとっても惜しい。それが済むまでは生かされるだろうな」
仮に斎藤家以外が全部敵に回れば、今川、武田、北条、朝倉、浅井、上杉――
勢力として織田より劣っても、反三好連合を組まれたら簡単に逆転する。
ただし、義賢が、上記すべての勢力が、信長と帰蝶には、最低でも比較的好意的だ。
何なら、一部の狂人達が勝手に隷属したり、忠誠を誓ったり、嫁に欲したりしている。
義賢は家の関係はともかく、人の関係を知らないので、そう予想した。
「そうですか……。そうですな……」
「織田が使い捨てか、認められるかは、その働き次第だろう」
信長の野望など知らないので仕方ないが、本心を知らない諸大名の嗅覚は、おおむね義賢と同じだった。
それほどまでに三好の勢いと幸運が止まらないのだ。
信長が入る余地など無いと他勢力は見ている。
最終勝者を信長と信じているのは、帰蝶とファラージャと、一部の信長と帰蝶に魅了された狂信者(?)だけだ。
「その時には、我らはあの世からの見物ですか」
「そうなる可能性が高いが、もうこうなったら逃げ切って高みの見物するのも、最後の贅沢としてどうじゃ? 散々利用されたんじゃ。コレくらいの特権はあっても良いじゃろう? 三好と織田が衝突すれば最高の見世物よ」
その時は、最善席で見てやろうと思う義賢であった。
「フフフ。それは楽しそうですな」
そんな今後の楽しみを皮肉交じりに想像していた所に伝令が入ってきた。
「申し上げます! 三好と織田が……だ、大仏殿を大仏ごと燃やした、との情報を得ました! 捉えた東大寺の僧の言葉です! 多数の証言も取れております!」
「なんだとッ!? 失火ではないのかッ!?」
「いえ、放火と断言しています!」
「だ、大仏をも、燃やす? 興福寺と東大寺を燃やしたとは聞いていましたが、大仏まで!? 一体何の為に???」
義賢も為俊も訳が分からなかった。
興福寺や東大寺を攻めて、京に毒虫として追い払うのは理解できる。
仮に東大寺が燃えても、失火で燃えてしまったなら仕方ない話。
しかし、失火と放火は罪の次元が違う。
宗教が絶対の世界で、不可抗力以外の理由で、よりによって大仏を、しかもオーパーツ同然の産物でもある大仏を燃やすなど狂っているとしか思えない。
興福寺と東大寺の建物を燃やしたのも重罪だが、神仏を狙って意図的に燃やすなどもっての外である。
「目的は何だ? 大仏を燃やしてまで京に追放って、追放だけで十分じゃ無いのか?」
充分ではない。
少なくとも信長にとっては、法で宗教を管理する事を狙っている。
大仏だろうが何だろうが、人に逆らう事を許さぬ実績作りの為に燃やされたなど、宗教が絶対の世界で誰も思いつかない発想だろう。
「……帝への直訴……強訴か!?」
義賢が一つの答えに辿り着いた。
信長の野心を知らないが故に正解ではないが、限りなく可能性の高い、ある意味正解にたどり着いた。
「強訴!! 我ら六角軍が守る陣を突破しての帝への強訴ですか!?」
「他に思いつかん! あるなら教えてくれ! 遠慮などいらぬ!」
「……強訴でしょう」
他に思いつかないのは当たり前。
だが、もっとも可能性の高い、理屈的にも間違いない強訴。
今は京の人口勢力では、宗教勢力の比率が6割を超えているだろう。
一致団結して強訴に来る可能性は極めて高い。
むしろ、これで強訴じゃなくて六角軍に襲い掛かったら意味が分からない。
ただの喧嘩で軍に勝つつもりなら、六角を舐め過ぎている。
「……それともう一つ。実は密書が届いております」
「密書? フッ。この体たらくの六角に何を内密に話したいのやら。見せてみよ」
もう自虐しかできない義賢だが、その状態が今の惨状で余裕の佇まいに見えるのが不思議である。
だが、義賢が使い番から密書を受け取ると、まず差出人の名前に驚いた。
「これは!?」
義賢は急いで中身を改めた。
「ッ!! 何たる事だ! これが事実なら! ……いやよく考えれば、我々の役割はソレしかないわな。だがこれは驚くしかない!」
義賢が全身の力が抜けたのか膝から崩れ落ちた。
「殿!? 密書には何が!?」
義賢は無言で密書を差し出した。
言葉には絶対にできない内容なのだ。
「こ、これは!? これが本当なら、確認と覚悟を決めねばなりませぬが……」
「当然、まずは確認だ。正直信じられんし、どうやったのか見当もつかん。……いや? 見当はつく。もうソレしか無いだろう。故にやられたワシらが馬鹿であっただけだ。頭脳まで毒虫になったかという訳か?」
「では、我らが虫ケラかだったかどうか確認に参りますか?」
「そうだな。虫じゃ無い事を願うが、我々が生き残るには虫の方が都合が良いかもしれん」
「それでは、もう宜しいのですか?」
「あぁ。これだけ無能を晒したのだ。フフフ。ワシは講釈師としての道が開けたかもしれんな。日本一悲惨な男としてな」
仮にも大名が講釈師など自虐にもほどがあるが、正直な所、為俊もそうした方が大名よりも財を稼げそうな気がした。
何せ、7年もこの惨状を見てきたのだから、見てきた様に話すなど訳もない。
「さて行くか。まずは第一段階だ。千次郎(長俊)に兵への通達を済ませておこう。もうそうなる未来しか見えんしな。多分御所は密書の通り、我らの予想通りだろう」
「はッ」
こうして御所に向かった2人は帝との面会を願い出て、状況を確認した。
「よし。第二段階だ。行動に移すぞ!」
義賢はついに覚悟を決めたのであった。




