外伝64話 斎藤『ぷろじぇくとK 私は―― 諦めない――』帰蝶
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よろしくお願いします!!
なお、今回の内容は叱られたら変更します。
これは18.5章 永禄5年(1562年) 弘治8年(1562年)の飛騨一向一揆解体道中の話である――
【美濃国北端、飛騨国南端/宿儺村への行軍中 斎藤軍】
パカッパカッ、パカッパカッ、パカッパカッ、パカッパカッ、バカラッ! ヒヒーン!
快調に馬の足跡が響く――
風の中で泳ぐ様だ――
まるで楽曲の様にリズムを取るかの様な、不自然な安定感だが、絶対にまごう事なき蹄の音である――
他の何かと勘違いしない様に――
だが、そんなリズムを乱すべく、突如の突風が砂埃を舞い上げる――
「風に砂粒が紛れ、ギッ、んがっ!」
風で舞い上がった砂に、唯一残った左目を塞ぐ女――
馬に騎乗する彼女の名は斎藤帰蝶――
戦国時代に真っ向から挑む、常軌を逸した猛者――
「と、殿、大丈夫ですか?」
こちらの偉丈夫は遠藤直経――
かつて斎藤帰蝶と様々な形で3度戦い、2勝1分の猛者――
1分は合戦の指揮での対決だったが、2勝は殺し合いの一騎討ちと、訓練の一騎討ち――
浅井家に属していたが、紆余曲折あって斎藤家に属し、訓練で帰蝶を倒す者は居ても、本気の殺し合いで帰蝶を倒した者は現状の味方では唯一の存在であり、羨望の眼差しを集めている――
「殿には、もう眼は一つしか無いのですぞ?」
そんな遠藤直経が、帰蝶の汚い声での悲鳴に反応した――
悲鳴は汚くて当然で、綺麗な悲鳴など聞いた事が無いが、それでも『変で妙』な悲鳴だった――
「だ、大丈夫よ。何とか凌いだわ」
「砂を? ……何も無ければ良いですが、殿らしからぬ悲鳴でしたな」
何か表現も変だったが、直経は何か危険を察知し、それ以上の具体的な表現は避けた――
「何故か、そうしなければいけない気がしてね? いえ、何でもないわ。気の迷いよ。気の迷いと言えば……」
帰蝶はこの話題を切り替えるべく、話題を変えた――
これ以上は『色々な方面で危険』だ――
何故かそう思ったのだ――
ぷろじぇくとK――
「喜右衛門(遠藤直経)は、槍を使っていて不便に思う事は無い?」
「不便? 不便……例えば刃が欠けたりですが、聞きたい答えではないですね?」
「そうね。それは困る事だけど、私が薙刀を使って困るのは突きなのよね」
「つ、突き?」
一体、どんな不便があるかと思ったら『突き』と言った――
手入れとか、取り回しとか、もっと複雑な難問かと思ったら、とんだ肩透かしだった――
「某は……特に思い当たる節は無いですが……」
長物を扱う上で、基本の『突き』に不便を感じるのだと言う――
直経は今までの合戦経験を思い出しながら、突きを放った時を思い起こすが、特に不便に思った記憶は無い――
「斬ったり、払ったり、殴りつけるのは別に良いのよ。ただ突くのに不便な時があるのよ」
「不便な時がある? 不便じゃ無い時もあると?」
「えぇ。開戦時は良いのよ。ただ前線に出ると、途中から急に突きが引っかかって繰り出しにくいのよ。喜右衛門も特に前線に行くでしょう? 突きの狙いを外したりした事は無い?」
「そう言われると、百発百中とは行きませんし外した事はあります。相手も人間ですからな。死に物狂いです。手強い相手は避けたり弾いたりしますな。思い通りとは行きません。ただ、それも織り込み済みでの戦場であり戦いです」
「そうよね……」
帰蝶は納得しつつ、難しい顔をした――
ぷろじぇくとK――
「これも欲しい答えと違いましたか?」
帰蝶の表情を察して、直経が聞いてみた――
どうも帰蝶は、そう言う答えを知りたいと言うより、同じ悩みや理解者が欲しい様であった――
「……えぇ。これは男と女の差なのかしら?」
「差? 男女の差で言うなら腕力ですか?」
直経は、己と帰蝶に差はあっても、限りなく微差まで迫られている現在『腕力差』は無いと思いつつ聞いた――
一応、普通の男女なら『力』こそが(帰蝶を除くが)最大の差だ――
余談だが帰蝶は来年、朝倉家の庭木を殴ってへし折る事になる――(186-1話参照)
「えぇ。腕力の差な気がするわ。どうしても狙いが外れる時があるのよ」
「狙いが外れるのは理解できますが、わ、腕力ですか……?」
腕力が悩みだった事に戸惑う直経――
帰蝶はそこらの男を文字通り千切っては投げ――
一振りで集団を薙ぎ倒す帰蝶が『腕力』を原因に上げる――
直経は、突っ込み待ちのボケかと思ったが、何とかこらえた――
「そんなに頻繁に発生しますか?」
「いいえ。ただ、激戦に限って起きる事が多いのよ。激戦で狙いを外して、今を生きているのは奇跡じゃない?」
「確かに。危険な時に外しては命が幾つあっても足りません。ならば具体的な合戦は覚えていますか?」
「一番ソレを感じたのは父上が戦死した、飛騨での戦いね」(125話参照)
「あの話に聞く、武田信繁と戦い目を失い大打撃を受け、大殿や織田殿の先代まで討ち取られた、あの戦いですか」(122-2話~125話参照)
「えぇ。それはもう、散々な撤退戦の上に飛騨一向一揆で『泣きっ面に蜂』を、身をもって体験したわね……」
《そうじゃったのう。我ながら、よく戦い抜いたわ》
5次元の斎藤道三が自慢げに答えた――
《父上! 結局は討ち取られているのでしょう!?》
義龍が抗議する――
何か思い出の改竄をしている様なので釘を刺した――
だが、そうではなかった――
《あぁ分かっとる。じゃが、娘にカッコいい父の勇士を見せつけてなァ! 最高に男らしい死に様よッ! カカカ!》
道三の顔は異様に邪悪だ――
前世と前々世の記憶が混ざっているので、義龍に対する憎しみを少しだけ出して揶揄った――
《グッ! ウヌヌ……ッ!》
《義龍殿。貴方も病を隠しての謀略は見事でしたわよ》
母の深芳野が一応のフォローを入れた――
ぷろじぇくとK――
「槍を振り回すのはともかく、突けない。それでもって、最大に困ったのが例の戦い。殿も血達磨で相手も滅多切りで大暴れした伝説の突破戦ですな。なら理由は分かります」
以外にもアッサリ直経が答えに当たりを付けた――
「えっ!? 何!?」
「血ですよ。血が粘り気を帯びたり、粘着質になって左手が滑らない。きっとコレでしょう。後は汗も多少ありますな。逆に雨は血や汗を洗い流してくれるので、そんな事は起きません。更に雨は血を溶かし、逆に滑りがよくなります。そうそうある事では無いですが……」
「!」
帰蝶は突如、記憶のフラッシュバックに襲われた――
血まみれの手――
逸れる軌道――
命中しない薙刀――
思い起こせば全てに関係するのは『血』であった――
「な、なら、それを解決すれば、もう命中精度に悩まされる事は無いって事ね!?」
「ま、まぁそうなります。解決すればですが、何か妙案があるのですか?」
「あるわ!」
帰蝶は自信たっぷりに言った――
ぷろじぇくとK――
「織田家の天下布武法度でね? 創意工夫が奨励されているのよ。殿から農民まで領内の万人にね。実際、殿や吉乃ちゃんが独創性溢れる道具を作り発見をしたわ」(58話参照)
信長は焙烙玉を開発したが、前々世からの記憶を利用したので、判定としては少々例外だが、鉄砲の3人運用は前々世において世界的創意工夫となった――
吉乃は全く自覚のない前世と違い、農業方面で様々な成果を出している――
実は帰蝶も成果を挙げてみたくて仕方なかった――
武功とは違う、知力での成果――
法度前の事なら、茜は自身の身の丈に合った短弓を作り出し、法度後でも帰蝶は流星圏を作り出した――
ただ、両者とも工夫を凝らしているが、イマイチインパクトが薄い短弓と、既存の鎖鎌と明から持ち寄られた武器を組み合わせた流星圏――
農業成果と違い、劇的に変化をもたらした訳でもない――
だが、血液のついた槍は、直経の様な豪傑はともかく、足軽や武将の中には『違和感』を感じている者も居るはずだ――
「血で手が滑らない、血で引っかかるなら、そうならなければ良いだけよ! 次の休憩地で実験してみましょう」
半ば成功を確信した表情で帰蝶はニヤリと笑った――
ぷろじぇくとK――
「こうすれば良いのよ!」
帰蝶は左手で雪を手で握りこんで、その手で筒を作った――
槍、薙刀等の長物で突く場合は、ビリヤードと同じ、左手で狙い、右手で突くのだ――
つまり左手が血塗れだと、粘り気で滑らなくて困るのだから、雪を掴んで潤滑材としてしまえばいいのだ――
「い、いや、駄目でしょう!? 年中冬の積雪地帯で戦うなら止めませんが!?」
直経は思いっきり突っ込んだ――
「ただ、そんな事を続ければ凍傷で指が腐り落ちますよ!? そこまで行かなくても、摩擦と手の熱で雪は溶けるでしょう!? その都度雪を掬う御つもりで!? 特大の隙を晒して!?」
「じょ、冗談よ……! そこまで言わなくても良いじゃない? それに完全に冗談って訳でもないのよ?」
「本気だと!?」
「だ、だから違うって……」
ちょっと本気だった帰蝶は否定しつつ内心焦っていた――
直経の突っ込みの切れ味に惨殺された気分だった――
(喜右衛門! いつのまに……やるじゃない! いいツッコミね! ってそうじゃなくて!)
「適当なモノが無かったからソコの雪を使ったけど、とにかく、どんな状況でも滑ればいいのよ。材質は戦に耐えられるなら何でも構わない。そうは思わない?」
「……成程。雪を使った時は乱心かと心配しましたぞ!」
「ウ、ウフフ(乱心!?)。ただまぁ、雪を使った感じ、そう悪くは無いと感じたわ。冷たいとか言っている場合じゃ無い時とかは、覚えていても損はないと思うわ」
「非常事態の時ですか。そうですな。生き残りに綺麗ごとなど存在しませんからな」
「そう。その上で『普段から信頼できる物がないか?』ってとこね」
「完成品までの繋ぎと言う事ですか。……まぁ加工と手っ取り早さでは樹木でしょうな。長物の柄より太く丈夫であれば解決するでしょう」
「それだわ!」
そんなやり取りを、竹中重治が眉間に皺を寄せて聞いていた――
ぷろじぇくとK――
帰蝶は、道中に向かう途中で適当に拾った太めの木を、手のサイズに切り落とし、馬上で一生懸命穴を開けていた――
黒鍬衆が随伴しているので工具に不足は無い――
選んだ木が固い材質だったので、ただひたすら面倒臭く重労働で、やっとの思いで穴を貫通させ、今度は太すぎる握り手を削って調整し、薙刀に通る管を完成させた――
「見て! 喜右衛門! ついに試作品が完成したわ!!」
管を左手に持ち、自在に突きを繰り出す帰蝶――
「使ってみて!」
「おお! これは意外と良いですな! 血の粘りもこれなら無視できるでしょう! フン!」
メシャア!!
「あっ!!」
「あっ!?」
管は直経の握力に耐え切れず、潰されてしまった――
管は帰蝶の手のサイズに合うように制作し、細く削っって形を整えた――
だが、豪傑の握力には耐えられる設計ではなかった――
その手の計算も無い時代であるからして、当然の結果とも言えた――
ぷろじぇくとK――
「も、申し訳ありません!!」
直経は平謝りだ――
帰蝶が道中苦労して作成していたのを見てきたのだ――
それを、ちょっと本気を出したら潰してしまった――
当然の謝罪だが帰蝶は違った――
「ま、まぁ試作品だから失敗は付き物よ。気にしないで。戦場で本気で戦ったら私でも握りつぶしたかもしれないわ。つまり、今は失敗して良かったのよ。この欠陥に気が付かず戦場に行ったら討ち取られていたかもしれないわ」
例えば現実世界の車業界では、完成品として売り出した車のリコールが絶えない――
しかし、実はこれはある意味仕方ない事なのだ――
散々試験を繰り返し、ドライバーがやるであろう想定を超える負荷をかけて試験をして世に出すのだが、それでも、異常が見つかってしまう――
真に完璧な物を作るのは一筋縄では行かない――
故に『失敗は成功の母』とも表現される――
「そうなると思っていました」
「半兵衛!」
現れたのは竹中重治だった――
ぷろじぇくとK――
「木材では殿や喜右衛門殿の様な、豪傑には耐えられないと思っておりました」
「むぅ……では机上の空論か……」
「いえ、そうではありません。殿のお考えは間違っていないと思います。血の粘りを排除するには、やはり管が必要でしょう。問題は材質です。そこで、先ほどコレを伐採して来ました」
「これは……竹?」
重治は10cm程で切った竹の筒を差し出した――
「そうです。竹の耐久力は中々の物で、そう簡単に握力では潰れないでしょう。……潰れませんよね?」
ちょっと自信を無くした重治が、直経に持たせ試しに握ってもらった――
「フンッ! おお! 割れぬぞ!」
「火事場の馬鹿力なんて言う言葉もございますから、戦場ではもっと強い力が入ってしまうかも知れませんが、基本的に左手は添えるだけ。竹を握り潰す事はありますまい」
「確かに! あんなに一生懸命、木を加工していた私が馬鹿みたい!」
「あっ!? け、決してそう言いたい訳ではありませぬ!!」
「あぁ違うわよ。感動したのよ。さすが知恵者の半兵衛ね!」
帰蝶は薙刀に竹を通し、滑りを確認する――
そして、突きを連射し、最後に横薙ぎに払い薙刀は遥か彼方にすっ飛んでいった――
「あっ」
右手には竹だけが残った――
落着場所が、兵の休憩場所で無くてよかった――
「あ……その様な使い方もなさるのですね……」
直経が唖然としながら言葉を絞り出した――
「え、えぇ。こう使えば、敵にとっては薙刀が突然伸びる様に見えるかな~って……」
その言葉を聞いて重治が何か思いついた――
「そ、そうなると、薙刀が飛んで行かぬ様に管を止める加工が必要ですが、行軍中の加工は難しいでしょう。とりあえず案だけ出して、どこか長期滞在できる場所で柄の部分からの大改修が必要かと思います……」
「そ、そうね……。ついでに管も色々試してみましょう。(私は―― 諦めない――)」
重治が困惑しながら方針を考え、帰蝶も直経も同意した――
だが、この案は決して悪くないとの手応えを得て、期待通りの活躍を見せるのは来年の北条綱成との一騎討ちである――(185-6~7話参照)
ぷろじぇくとKUDAYARI――
『ぷろじぇくと帰蝶』の『K』と見せかけて『ぷろじぇくと管槍』の『K』でした。
どうでもいいですね。
また、プロジェクトXに対するオマージュとリスペクトを込めて、ロゴを作したは良いのですが、絶対怒られると確信しましたので、告知のX(旧Twitter)にて供養します。@nobunaga_take3




