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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
19-3.5章 永禄6年(1563年) 弘治9年(1563年) 
431/447

220話 あん畜生ッ! 脳筋h、濃姫様ご乱心!!

挿絵(By みてみん)

漫画版『信長Take3』が『マンガBANG!』で連載中!

AppStore→https://x.gd/iHUit

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web版→https://x.gd/w9WAY


作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)先生です!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)

八坂先生の作品一覧→https://note.com/yasaka_takanori/n/n9db476b12138


|д・) <漫画のファンレターマッテマース! |)彡サッ

よろしくお願いします!!

【近江国/岐阜城 織田家】


 ズカズカズカ、ズバン、スパン、ドスン!!


「殿、斎藤帰蝶、帰還いたしましたッ!」


 帰蝶が信長の横に乱暴に座った。

 先の音は足音+障子の開け閉め+着席の、無作法を極めた動きだった。


「う、うむ」


 織田信長と斎藤帰蝶。

 大名同士の夫婦だが、今は夫婦を優先させた関係で寛いでいる。

 それでもコレは叱責モノだが、信長はそうしなかった。

 夫婦なのもあるが、お互い何より転生の使命を帯びた者なので、この時代に有るまじき遠慮の無さも許した。

 帰蝶の機嫌が極めて悪いのが、一番の原因ではあったが。


「あー……。ご苦労だったな。失敗に終わった事は仕方ない。だが収穫が無い分けでもない。加賀国の大部分を制圧したのは、むしろ十分過ぎる手柄だ」


 朝倉斎藤軍は、もう能登国目前まで占領し、従う民を保護し、あくまで七里頼周に随う者は能登に追放し、なるべく武力行使をせず進軍していった。

 故に軍の損耗も軽微。

 それでいて、難敵である北陸一向一揆相手に、加賀国の9割は奪取したのだから大戦果といってもいい。


「ありがとうございますッ!」


 そんな大戦果を挙げた帰蝶が不機嫌を隠そうともしない。

 相手が気心知れた信長である事も関係しているが、それにしてもの憤慨ブリだった。

 お陰で、信長は何も悪くないのに委縮している。

 覇気や殺気の類が出せない程に、もう蛇に睨まれた蛙だ。


「う……。それはそれとしてだ。……しかしまぁ、何と言うべきか? あ! そうそう! お主は怪我が絶えんのう? 痛覚が無いのか? ハハハ……はは。あっ!? 頑張った証じゃな!?」


 信長は軽い冗談を交えつつ、褒めた、つもりだった。

 信長の視線は帰蝶の左手に向かって上下に動く。

 帰蝶が手を上下に動かすからだ。


「あぁああ゛あ゛ッ!」

 

 帰蝶は信長に背を向けて叫んだ。

 背けたのは信長に対する、雀の涙程の配慮だ。


 大名同士の面談では無礼でも、夫婦ならストレスを発散しても大丈夫(?)。


「ぐぬぬッ! あん畜生ッ! 今度こそ倒して見せますッ! 七里能登守ィィ痛いぃぃぃッ!!」


(何か義龍に似てきたか? 聖徳寺を思い出すわ。さすが兄妹か)(9話参照)


 帰蝶は骨折した左手の小指と薬指の事を忘れ、拳をを作ろうとして、悲鳴をあげた。

 信長は左耳を抑え爆音声をガードつつ居住まいを正した。

 いい加減、己の威厳も見せないと、夫としての沽券にも関わる。

 

「ごほん。怪我をしないのも才能と言いたいが、お主が相手してきた傑物の顔ぶれを見れば、今回はその程度で済んでいるのも奇跡か。七里能登守とはそれ程か?」


 北陸一向一揆に関わって、信長だけが本物の七里頼周を見ていない。

 量産型は見たが、よくある予算度外視試作型(?)の本物を知らない。


「それ程です! 能登守は全盲、右足喪失。だからと言って戦いにおいて油断はしてません! 富田勢源殿も全盲であの強さなのですから、絶対に油断などしません。不自由が故に最大級警戒したつもりです! でも強すぎます! 不利がまるで不利になってません! 予測不能にて変幻自在! アレで目と足が不自由な人間なら、我らは何なんでしょう!?」


「さ、さぁ?」


 帰蝶は余りにも悔しかったのか、猛烈に激高している。

 いや、お菓子売り場の子供とでも言うべきか。


「いつも健常者の格上と戦ってきたのに、目と足が不自由な者に、油断なく戦って負けるなんてッ……!! でもですよッ!?」


「……うん」


 もう前々世の覇王もお手上げだ。


「卑劣ですッ! あんな卑劣な男は見た事ありませんッ!!」


「卑劣て……。お主がソレを言うか? そう言う手段はお主だって必要なら躊躇(ためら)わんだろうに」


 帰蝶は自分の教え子に『卑怯と感じる手段こそが有効』だと常々教えているのに、どの口が『卑劣』などというのか?


「えぇ躊躇いませんけどッ!? でも、してぃりるー(七里流)そーぞーじつ(双杖術)は酷すぎですッ!!」


「ふむ……何だって?」


「だからッ! あっ! じゃあこれなら……《七里るう双杖じゅちゅ! ウガァッ! テレパシーでも舌をかむぅぅぐぐぐッ!! 勝負が始まる前から負傷させられるなんてッ!!》」


 要するに舌を噛んで、勝負前に流血させられたのだ。

 大きな声でやり取りしている最中だった。

 思いっきり噛んでしまい、勝手に自爆し赤っ恥もかいた。

 別に能登守の責任でもないし、流派名もそれが1番普通なので仕方ない。


「(うるさいのう)えーと? 言いたいのは、七里流双杖術か?」


「なッ!? 何で一発で言えるんですかッ!?」


 帰蝶が片方しかない目を限界まで広げて抗議する。

 驚くではなく抗議。

 何度挑戦してもスムーズに喋れないのが、余程悔しいのだろう。


「そりゃ、人前に立つたる者なら、活舌悪ければ配下も不安がるだろう?」


 活舌の悪さが緊張を解くのなら良いが、ここで決めたい時に噛むと一気に不安感が広がる。

 聞かせる相手が1人ならまだいいが、大軍勢相手の演説で噛んだら格好悪いにも程がある上に、1人が将を不安に思ったら、必ずその不安は伝播する。

 たかが活舌、されど活舌だ。

 ちなみに『活舌』も言いにくい。


 なお、信長も普段から活舌の訓練をしている訳では無いが、そうそう噛む事は無い。

 強いて言うなら、溢れんばかりの『自尊心』と人前に立つ年季の違いか。


「グググッ!! ……すーはー……今ッ! 七でぃ流しょうぞうじゅちゅ! 何でよッ!! ギィッ!?」


 帰蝶が、両手で太ももを叩いて、左手の激痛に右手で抑えて膝立ちで悶える。


「まぁ何と言うか……活舌は褒められたモノではないが、今回に限り一騎討ちで良かったなぁ。で、お主の管薙刀は防御も兼ねているのに、その肝心な管を持つ左手を狙われた訳か。相手は全盲なのに」


「はいッ! そうですッ! 全盲なのにッ!!」


 管薙刀の管は上下自由自在に動くのだ。

 それなのに、正確に帰蝶の左指を砕いて見せた七里頼周。

 もう見えているとしか思えないが、頼周の顔の、真一文字に斬り裂かれた両目を見たなら、全盲も疑い様がない。


「杖にやられたと言っておったな? しかも上手く説明が出来んとも。じゃあ図で説明できるか?」


 松葉杖など未来の道具だが、七里頼周が自分の為に独自に編み出したサポート道具であり、信頼する武器でもある。


「ふぅふぅハァァ……ッ! ……わかりました」


 帰蝶は筆を取って紙に描く。

 下手クソだが何とか特徴は捉えているように見えるので、信長は黙って見ていた。

 あと、何か言って、これ以上機嫌を悪くされてはたまらない。


(それより能登守頼周は、加賀で於濃達朝倉斎藤軍の侵略を止め、返す刀で上杉武田軍も止めたか。あと武田軍が上杉と同行しているのも歴史変化か? こんな時期に武田軍と同盟? ちょっと歴史変化が激しすぎんか? ワシと三好の大仏放火が霞んでおらんか?)


 一応、世間的には三好織田連合軍の大暴挙(興福寺、東大寺焼き討ち)が話題ではある。

 ただ、信長にとっては、大仏殿消失は史実でもあった出来事なので、そこまで驚く事ではない。

 先の胸中の様に、北陸一向一揆関連の方が特ダネ事件である。 


 信長は東大寺に畠山高政が逃げ込んだ(と言う理由で)三好長慶と共に東大寺に乗り込み、難癖付けて燃やすつもりだったが、本当に高政が逃げ込んでおり、先に高政に東大寺を燃やされてしまった。(203-2話参照)

 一応、その後、信長と長慶も火事場泥棒の如く、急いで燃えやすい物を積んで逃げたが、過程はどうあれ目標は達成した。


 その裏では朝倉斎藤連合軍は、加賀国の大部分を制圧し、七里能登守の襲撃を受けた。

 そんな中、味方に付いた七里加賀守が必死の説得で、一旦の休戦と、話し合いの席が設けられた。


 その際に、両者の言い分に歩み寄りができなかったので、要望を賭けての一騎討になったのだが、代表者の帰蝶は見事にやられてしまった。

 頼周の()()()()が決まり手だった。


「できました!」


「杖? これが? 随分特殊な形じゃな? 杖の隣にいる棒は人……かな?」


 信長が尋ねたが、『人』は、いわゆる、〇に線を描いただけの棒人間だ。

 杖も特殊だが、もともとこの時代では完全量産品などないから厳密に言えば全て特注品。

 杖であれば、手ごろな倒木を利用したり、適度に加工したり、仙人が持つ様な杖(アガサという植物の根の杖)が精いっぱいだ。

 だが帰蝶の描く松葉杖は脇まで届く。

 比較の為の縮尺比較の棒人間が、脇まで届く長尺杖だと教えてくれる。

 杖としては異様な、特注中の特注品だ。


「ふぅむ? 形も特殊じゃが脇まである杖か。中々便利そうではあるな。足の不自由な者は領地にも多い。片手杖より楽かも知れんし、疲れた時、脇で杖を挟めば多少は楽になるか? ……杖の先端の丸は何じゃ?」


 松葉杖の生活上での利点は直ぐに思いついた。

 両足でも弱った老人は、杖がプルプルと安定しない。

 現在では、先端が四つに分かれた安定性を上げた杖もあるが、若くしての障碍者なら、移動だけなら両手杖の方が安定感があるのは当たり前だ。


 そんな杖を、あくまで生活の利便性向上の為に、作ってみようと信長は思った。


 だが、七里頼周は歩行補助器具だけではなく、武器としても杖を使う。

 それが、杖の先に描かれた『〇』だ。


「馬の蹄の如き鉄の足です」


「(こ奴には馬の蹄がこんな風に見えておるのか!?)成程。だから移動の補助器具でもあり、武器でもあるのか。で、その鉄の蹄で指をやられたと」


「武器も弾き飛ばされてしまいましたからね! 顔に鉄の蹄を突き付けられて勝負ありです! あのまま踏みつぶされていたら、顔面が陥没して討ち死にしていたでしょうッ!」


 ドカッ!

 帰朝は負傷していない右手で、顔を陥没させる勢いで、怒りのまま己の太ももを殴った。

 殺して欲しかったのか、生かされたのが悔しいのか、信長にはわからなかった。


「お主は空中殺法で負けたと言うが、上杉の武将は、お主の流星圏の様な物でやられたらしい。また杖による突き技もお主の打撃に匹敵するとか。一撃で甲冑を破壊したらしい」


「えっ!? 片足で!? 杖含めても3本足で!? 信じられません!! しかも流星圏!? 杖で両手塞いでどうやって!?」


 帰蝶が発勁を繰り出すには、全身無駄なく使いきってこそ、素手で甲冑を破壊する威力が出せる。

 それを片足と杖2本で同じ威力を出すなど、どう頭をひねっても方法が思いつかない。

 流星圏も、まさか足でコントロールしたとは夢にも思わない。


「……ん? じゃあッ!? 私の時はその技を見せていなかったとッ!? ならば……手! 加! 減! したんかぁぁぁぁッの野郎ッ!!」


 帰蝶が絶叫し、控えている小姓が逃げ出す寸前だ。


《ファラよ。於濃の情緒乱高下が凄いんじゃが? 病気か?》


 まるで、お菓子を買ってもらえない子供が『あっちで買ってあげる』と諭され、騙されたと気が付いた時の様である。


《病……ま、まぁ一種の病かもしれませんが、気の済むまでそうさせた方が良いでしょう。溜め込むよりは発散させた方が良いと思いますよ……》


《ワシに八つ当たりされんだろうな……》


《保証は出来かねます……》


《『泣く子と地頭には勝てぬ』か。真理だな》


 信長は過去の賢人の言葉に舌を巻いた。


「それで於濃よ。褒美はどうする?」


「……ホービ?」


 突然の意外な言葉に、帰蝶の絶叫がピタリと止んだ。


「何じゃ忘れたのか? 去年言っておったではないか。『この初陣、成功したら褒美を下さいね!』と」( 170-4話参照)


「そんな事、言いましたっけッ!?」


 何とか帰蝶の機嫌を取ろうと思ったら、あんまりな答えが返ってきた。 


「言ったぞ!? 去年、そして今年。お主は十分すぎる成果をあげおったわ。驚嘆に値する! 何がいい? 茶器はまだ集めてないから無理じゃが……」


 信長も必死に言葉を繋ぐが、無情な追撃が入った。


「茶はマズイから要らないです」


 帰蝶は一刀両断で断った。

 前々世でそんな事を言う武将は居なかったので、衝撃的発言である。


「マズイ!? 今回も茶器を政治の一部とするから、公衆の面前では、褒美はありがたく受け取ってくれよ!?」


 かつて信長は茶器を褒美として通用する程に価値を高めた。

 土から無限に作れるのに誰でも欲しがる茶器。

 銭や土地よりも価値が高騰した事もある。

 ソレを道端に捨てられてはたまらない。


「分かりました。しかし、七里には負けましたし……」


 今の帰蝶の気分は、プロ野球で例えるなら『リーグ戦で優勝したのに、クライマックスシリーズで負けた』が一番適切であろうか。

 糠喜びとも違うが、素直に褒美を受け取る気にはなれなかった。


 だが信長は説得した。


「局地的敗北は別に良い。それに上杉が罠を仕掛けてくれたからな。北陸騒乱はまだ終わっておらん」


「えっ」


 それは初耳であった。


「それに、京の蠱毒計も最終段階に入った。北陸も含め数年はとりあえずこのままじゃろう。その上で飛騨と加賀国制圧は大戦果故の褒美じゃ。当分刻はある。年単位でな。だから何でも申してみよ」


「そうですか。……あ!? 大事な願いがあるんでした! すっかり忘れてました! でも言ったからには叶えて頂きますよ!?」


 何か思い出し、帰蝶の眼が獲物を狙うマムシの眼光の如く怪しく輝きだした。

 ゆらりと立ち上がる姿は鎌首をもたげる蛇の如く。

 溢れる瘴気は蝶の羽の如く。


「ッ!? いいい、言ったが、出来る範囲でじゃぞ!? 太政大臣等の高官位は無理じゃし、米銭にも出せる限界はあるからな!?」


 かつての日本の覇王が帰蝶の覇気に押されている。

 何かとんでもない失言をしてしまったのかと、動揺しているからだ。


「大丈夫です。茶器も土地も米も銭もいりません。何ならタダで手に入るものですので! ――を下さい!」


「ッ!? そう来たか……! ある意味一番怖いが……分かった。望むなら与えよう!」


 こうして信長から帰蝶に、褒美が与えられる事になるが、これが後に大騒乱を起こす事になるのは知る由もなかった――



いや、最初から予感はあった――


 19章 永禄6年(1563年) 弘治9年(1563年)完

 20章 永禄7年(1564年) 弘治10年(1564年)に続く。

ヾ(叫゜Д゜)ノ<漫画ファンレターマッテマース!!


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挿絵(By みてみん)

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