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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
19-3.5章 永禄6年(1563年) 弘治9年(1563年) 
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218話 七里流双杖術(しちりりゅうそうじょうじゅつ) 聖将vs猛将

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

漫画版信長Take3が連載開始しました!

『マンガBANG!』のアプリからどうぞ!

AppStore→https://x.gd/iHUit

GooglePlayStore→https://x.gd/sL3h8

web版→https://x.gd/w9WAY


作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)先生です!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)

八坂先生の作品一覧→https://note.com/yasaka_takanori/n/n9db476b12138


そこの君!

こんな小説版なんか読んでないで、さっさと上記リンクから漫画版を見に行きたまえ!(ꐦ°᷄д°᷅)

(訳:小説版も併せてお願いします ( ノ;_ _)ノ )

【越中国/黒部川岸 上杉武田軍/一向一揆軍】


「では……七里流(しちりりゅう)双杖術(そうじょうじゅつ)! 参る!」


 七里流双杖術――

 修羅の国北陸。

 七里能登守頼周はそこで戦い続けた末の、拷問による右足の喪失と失明。

 しかし不屈の魂と歎異抄に導かれ、盲目なのに開眼した、杖と実戦体術を融合させた全く新しい格闘技――


 戦国時代は武術の黎明期。

 武器や体術を極め、尚且つ生き残った者が流派を立ち上げ、名を売る時代でもある。

 まさに雨後の竹の子の如く。

 当然、流派を立ち上げたは良いが、戦場で討ち取られたり、名声を落とす流派が後を絶たないのも事実。

 勃興と淘汰の時代でもある。


 しかし、どれだけ有効な武術であっても、使い手が弱くては流派の恥である。

 故に門外不出であったり、真に実力を持つ者だけに奥義は授けられる。


 七里流双杖術も竹の子の如く発生した流派の一つだが、見掛け倒しのポンコツ流派が多い中、七里流双杖術はとんでもなく強かった。


 ちなみに、七里流双杖術が強いのではない。

 七里能登守頼周が強いのだ。

 こんな杖は誰も扱えない、一代限りの武術。

 量産型七里頼周も真似など全く考えておらず、一番自分に適した武器を使う。


 一方、上杉武田連合軍は戸惑った。


しつ里るう(七里流)()ぞう()ずちゅ()!?」


 後光が射している様に見える能登守頼周よりも、その流派名に戸惑った。

 余りにも言い難い、早口言葉みたいな流派名で、謙信含めた上杉軍、義信含めた武田軍の誰一人正確に発音できなかった。

 ただでさえ『七里(しちり)(※1)』も言い難いのに『七里流+双杖術(※2)』は他人には過酷すぎるネーミングだが、事実の上に他に無いので仕方ない。


 役者、声優、ナレーター殺しの流派名であり、ぜひ皆様も挑戦してもらいたい。

 ついでに量産型七里頼周達も、活舌と発音に困っているのは別の話だ。

 さらに斎藤帰蝶も対決前に舌を噛み、戦う前からダメージを負ったのも別の話だ。


「フフフ。言い難い流派名なのは申し訳ない。コレだけは心より謝罪しますぞ! 我が配下の者や信徒も困っておりますからな。しかし他に無いのですよ。申し訳ありません」


 能登守が笑いながら謝罪した。

 大きな余談を挟んだが、発音はともかく、謝罪の言葉が終わると共に発せられる圧力と闘気に、強さが別格なのは見ただけで理解させられる殺気ならぬ神秘性。


 杖2本と左足だけの3本の足で立つ頼周。

 それなのに極めて自然体だ。

 強いて不自然な所を上げるとすれば、左杖が半歩前、右杖が半歩後ろ、中央の左足は軽く曲げ、3本足での戦闘準備だ。

 宙ぶらりんの右足には紐が結び付けられている。

 袴の余った部分が地面に付かないように、折り畳まれているのだろう。


(当たり前だが、見慣れぬにも程がある構え。攻撃の為か防御の為か? 移動か? 分からん!)


 貞興も警戒するが、どれだけ警戒しても無駄だと悟った。


 能登守頼周は、富田勢源と同等の盲目にして戦場地系の完全把握能力を有する。

 勢源が眼病からの失明で、戦いに復帰できるまでにはそれなりの期間が必要だった。


 しかし、能登守頼周は北陸に赴任して10年。

 その中で敵に捕まり拷問で失明した。


 つまり最低でも10年未満で、盲目右足喪失で一揆軍最強の男になったのだ。

 救出され治療の後、ボーっと静養していた訳でも無い。

 不自由なまま、できる事をやってきたのだ。


 史実の記録にある様な、傲慢な態度は一切ない。


 周囲が止めても辞めない、強烈な意思と覚悟に突き動かされていた。

 やはり、吉崎御坊で歎異抄を見つけた歴史変化が大きいのだろう。


「むんッ!」


 一方、貞興は大身槍の石突を地面に叩きつける。

 地震かと思う地響きが周囲の未届け人の体に叩きつけられる。


(ッ!? 流石、鬼小島の異名を持つ者か。斎藤帰蝶より手強いと想定しなければなるまい!)


 能登守頼周は警戒段階を引き上げた。


「すぃちでぃりうそーぞーじちゅ! 心で喋っても舌を噛む! なんと迷惑な流派名だ! これも戦術かね? ならば効果は抜群だ! 某は小島弥太郎貞興! 流派名は無いが、作るなら舌に優しい流派名にするだろう!」


 貞興は槍を構えなおす。

 とりあえずは、セオリー通りの構えだ。

 だが、セオリー通りは無策ではない。

 予測不能の全局面に対応するための、考え抜かれたセオリーなのだ。


「ここでお主を倒し、その迷惑な流派名をこの世から消し去ってくれる! さあ参る! ハァッ!!」


 そんな頼周に向かって小島貞興が喉を狙って槍を繰り出した。

 リーチはどう考えても貞興の槍が長い。

 仮に松葉杖を連結させれば互角の長さになるかもしれないが、戦いに耐えられる強度は無いだろう。


 さらに両手杖とは言え、機敏に動くのは難しい。

 特に松葉杖に限らず、杖は前に進むのはともかく、横移動に難がある杖だ。

 そんな松葉杖で、頼周は槍の突きを、体を()じり仰け反って交わした。

 3本の足は全く動いていない。

 左足を中心に、左右の杖で『X』を描いて体を沈めたのだ。


 身体操作だけで貞興の死の槍を躱し――その頼周の動きを想定し――貞興は横薙ぎに槍を払った。

 仰け反った体勢からでは避けられない――


 ドカァッ!!


 捩じった体を戻す勢いで、両の杖で薙ぎ払いを防御した。

 普通の武将なら、防いだとしてもブッ飛ばされる貞興の剛槍フルスイングが完全に止められた。


(馬鹿な!? ワシの槍を片足で!? 誰もがたたらを踏む今の威力を防いだのか!? ……違う! 杖か!)


 貞興は今の防御を理解した。


「成程! 左足1本ではなく、杖も含めた3本足だから防げたのか! その杖の両端の工夫だな!?」


 杖の先端は馬蹄並だ。

 しっかりと大地を掴み衝撃を分散させる。

 また脇の部分に当たる先端も特徴的だった。


「その通り。この杖の上部脇部分は防御盾にもなるし、下部部分は実質的に3本足。右足が無い某を健常者より頑丈な体にしてくれるのだよ」


 松葉杖の木材部分は全て姥目樫(うばめがし)で出来ておりとにかく固い。

 年齢を重ねた姥目樫は水にも沈む密度となるが、決して我々に馴染みの無い木材ではなく、『備長炭』の材料と聞けば納得するだろう。

 そんな姥目樫松葉杖に追加装甲を加えて完成させた杖である。

 例え猛将の一撃とて、この杖と3本足で耐えて見せる。


「驚いたよ。さすが北陸最強と言うだけある! (信じられん! 本当に目が見えない者の動きか!?)」


 もし健常者なら、今の動きに対して何も驚かない。

 しかし頼周は盲目だ。

 完全に殺気で軌道を読んで避けて受け止めた。

 もうこれだけで称賛に値する。


「今度はこちらの番だな!」


 横移動も難しく、頼周は驚きの方法で克服した。

 だが、本来は横からの衝撃にも弱い欠点の多い杖だが、じつは利点も多い。


「さぁ! 行くぞッ!」


 頼周が言うや否や、瞬間移動とは言わないが、想像を絶するダッシュ力で飛び込み、左足での飛び蹴りを見舞った。

 槍で防ぐ間もなく、避ける間もなく、喉輪の下部を蹴り飛ばした。


「グッ!? (早い!? 何だあの身のこなしは!?)」


 貞興が驚くのも無理はない。

 実は松葉杖は普通に走る分には全く問題ない。

 何なら、健常者より速く走るのも可能だ。

 杖のお陰で一歩の幅が猛烈に広くなり、体を振り子にして勢い良く飛び込みながら、また杖の大きいスライドで距離を稼ぐ。

 直線において松葉杖は最強の補助器具だ。


「狙いがずれたか。だが、この間合いで槍が役に立つかな!?」


 頼周が左足1本で立ち、両の拳で脇を締めた。

 まるで空手の正拳中段突きを放つ姿だが、拳には松葉杖が握られている。


「ホレ!」


 左の杖で地面を突いて体を安定させる――左足で体が回転し――右手の杖が放たれる――

 馬の蹄と同等の大きさの先端を持つ杖の、鉄棍中段突きだ。


 グシャッ!


「グッ!」


 貞興の甲冑の一部が破壊された。


「もう一発!」


 バカンッ!


「ヌゥッ!?」


 たった2発の突きで貞興の甲冑の胸板が破壊された。

 一応、繋がってはいるが、次同じ所に攻撃を受けたら、人体が破壊されるだろう。


「威力は体感して頂けたかな? 次、無防備な所に食らったら、只では済まぬぞ? 10日間苦しんで死んだ者も居る。負けを認めるかね?」


 10日間の苦しみ。

 つまり内臓破裂による地獄の苦しみで死んだのだ。

 外科手術など、矢か銃弾を取り出す程度の技術しかない時代である。

 内臓を負傷したら助からない。

 故に、どんな雑兵でも、最低限胴丸は身に着けている。(稀に装備無しの勇者も居たらしい)


「負けは……まだ認めぬ。そして告げよう」


 貞興は数歩飛び退いて自信たっぷりに言った。


「次、攻撃を繰り出したら、拙者が勝つ。それでも良いなら掛かって来るがいい!!」

 

「ほう? 面白い! その挑発に乗ってやろう! そして告げよう! 次の攻撃は今までの比では無いぞ?」


 そう言うや否や、松葉杖特有のガバっと長いストロークで一挙に貞興の間合い内に飛び込むと、右手の杖で地面を付き、左足で踏み込みその左足で回転し、左手の杖で貞興の鎧を砕いた。


 帰蝶と形は違うが――地面から力を増幅させ――震脚の反作用で加速し――一本足で回転し――左手の杖――腕と根を捻じ込みながら――突き出す――

 右足が無い分、コークスクリューブローを混ぜた、紛う事無き『発勁』の破壊力が繰り出され――()()()()砕かれた――


「ッ!?」


 鉄棍の手応えがおかしい。

 とても人体を破壊した手応えではない。

 ペラペラな板1枚を破壊したかの様な手応えだ。

 これは貞興が、予め鎧が壊れやすい様に、甲冑の紐で接合された部分に切れ込みを入れておいたのだ。


「『この間合いで槍が役に立つかな』とヌかしたな? 役に立つんだな。コレがッ!」


 鎧を捨て大身槍を握ったままの拳で、超接近戦で頼周の左肩口を殴った。


「ウグッ!?」


 頼周は杖を後ろに倒して耐えたが、それが不味かった。

 衝撃を全て受け止めてしまったのだ。


「それ、もう一発!」


 今度は右肩口を殴った。

 もちろん、槍を握ったままの手だ。

 たまらず頼周は吹っ飛ばされた。


 拳に重量物を握りこんで殴ると、威力は跳ね上がる。

 石や乾電池程度でも、握りこめば衝撃は高まる。

 ならば、大身槍を握った拳は、砲丸や巨石同様の破壊力を生み出すだろう。


 肩口への攻撃は人体の弱点で、腕の動きを封じてしまう。

 当分腕への力が入らないだろう。


 貞興は止めを刺すべく槍を構えなおし――頼周と同じ様に吹っ飛ばされた――


「ッ!?」


 未届け人は戸惑った。

 頼周が吹き飛ばされたのは理解できる。

 (ヒグマ)の如き貞興のパンチを、2発も貰って立っていられる上杉軍武将はない。

 片足では猶更だ。


 問題は貞興だ。

 何で吹き飛ばされたのかわからない。

 足も杖も届かない距離だ――と思ったら長い布らしきモノが貞興の近くまで伸びて落ちていた――


「奥の手を使わされるとは……!」


 頼周が周囲を手で探り杖をつかんだ。

 だが立ち上がれない。

 両肩に力が入らず、立ち上がれなかった。


「グッ!? 何をした!?」


 一方貞興も、口から流血しながらも何とか膝立ちまで持っていったが、槍を杖にしようとしても足が言う事を聞かなかった。

 頼周の攻撃で脳を揺らされたのだ。

 頼周が吹き飛ばされながら、貞興の顎を狙い攻撃が直撃しダウンを奪ったのだ。


 理屈としては上記なのだが、頼周の攻撃方法が分からなかった。


 ズズズ――


「?」


 地面を引きずる音がする。

 杖でも足でも無い。

 頼周が袴の右足を回収する音だ。

 超重量物ではないが、決して軽くはない、石か粘土かその程度の重さを引きずる音。


 それは異様に長い右足の袴だった。


「……!? それは……!?」


 貞興は正体を掴んだが、答えが出ない。

 名前も知らないが、だが、似たような武器を見た事がある。

 帰蝶の流星圏だ。

 鎖鎌や分銅の様に、先端に重量物を付けて振り回せば、一撃で命を奪いかねない必殺の武器。

 現代でもスラッパーという名称で使われる凶器の一種だ。


 そんな兵器を、使い物にならないと油断させていた右足に仕込んでいたのだ。

 吹っ飛ばされると同時に、右足の脹脛に結ばれていた紐を解き、蹴りの動作で高速スイングをし、貞興の顎を捉えたのだ。


「本当に盲目か!? 吹き飛ばされながらそんな芸当を見せるとは!!」


 本当にその通りで、立っている状態で当てるのならともかく、吹き飛ばされながら命中させるのは、盲目がどうこうと騒いでいる場合ではない神技だ。


 貞興が槍を杖に、腕力で無理やり立ち上がる。

 一目で効かされているのが分かる、痙攣した足を引きずり立つが、生まれたての動物としか言い様が無いダメージを受けていた。


 頼周も杖を頼りに片膝立ちになる。

 だが、それ以上ができない。

 腕がマヒして、杖を持ったは良いが、力が入らないので、立ち上がろうとしてもフラついてしまう。


「上杉殿!」


「越中守殿!」


 両軍から同時に声が上がった。

 両者とも敗北を認める声であった――

※1:サ行、ラ行、イ段、拗音(きゃきゅきょ等の小さい字が入る言葉)は活舌の難敵。『七里』は全てイ段。

※2:濁音(がぎぐげご等)単品はともかく、サ行、ラ行、イ段、拗音、追加濁音等に絡むと、途端に難易度が増す。

両方共に、マ行が混ざると最悪難度と変貌するぞ!


【あれだけ派手な前書きを忘れたか読み飛ばした人用】

ついに漫画版『信長Take3』の連載が今日から始まります。

記念すべき漫画版信長Take3連載開始なのに信長帰蝶不在の話ですが、詳細は下記『マンガBANG!』のアプリからどうぞ!!

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挿絵(By みてみん)

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