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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
19-3.5章 永禄6年(1563年) 弘治9年(1563年) 
428/447

217話 上杉謙信と七里頼周の交渉

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

漫画版『信長Take3』の連載が明日(6/10 火)から始まります。

作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)先生です!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)

八坂先生の作品一覧→https://note.com/yasaka_takanori/n/n9db476b12138


非常に頼もしい先生で、私の素人投稿時期の分かりにくい個所を丁寧に修正してくれました。

絵のおかげでイメージが一新すると思いますので、是非漫画版と小説版を見比べてみてください!


マンガBANG!様からの電子書籍となります。

アプリをダウンロードしてご覧ください。

AppStore⇒ https://x.gd/G1nwL

GooglePlayStore⇒ https://x.gd/ZOZQ9


友達、親族、歴史好きはもちろん、歴史苦手な人にも勧めて読んでみてください!

それでもって、老若男女に拡散お願いします!

【越中国/黒部川岸 上杉武田軍/一向一揆軍】


(こ奴! どうする!?)


 いつもは判断が早い謙信が迷いに迷う。


「最善の結果を探っているのかな?」


 盲目の瞳で笑っている能登守頼周。

 盲目の分、健常者より圧を感じるのは気のせいでは無い。


「……! (見破られている! ……見破る? 見えないのに? この場合は何というのだ? あっ! 気取られるか!?)」


 謙信が一瞬くだらない事で悩んで答えを出した。

 だが、まさにその通りで、目が見えない分、気配には敏感なのだろう。


「ここで引くなら最初に言った通り、黒部川より東を進呈する。それに加え、我らから現状の領地外への侵略は行わないと約束しよう」


 悩む謙信に対して、能登守頼周による助け舟だ。

 これは『面目を保たせてやろう』と言う気遣いだ。

 だがこの気遣いは的外れである。


(いかに能登守でも、やはり人か。人の英傑に過ぎぬな。イケシャアシャアと助け舟のつもりか?)


 やはり、武士と宗教は水と油だと謙信は思い知った。


(善意だとしても、それは最悪の結果を招く、助け舟ではなく泥船だ!)


 謙信の懸念とは、外から見れば『敵総大将が現われた途端、引き返した上杉軍』にしか見えないのだ。

 別に謙信はそう見えても一向に構わない性格だ。

 何なら、その悪評を利用する悪質な戦略を立てる。

 大名相手なら、十分通用する作戦に仕立て上げられる自信がある。


(いや、能登守にとって武士の都合など関係ない。だから提案できるのだ。それを理解しての提案か! 小賢しいがイヤらしい! 三好長慶とは別種の圧力だ!)


 しかし宗教相手だと話は変わる。

 大名や武士にはセオリーが通用するが、一向宗相手には何が起きるか予測がつかない。


 特に北陸一向一揆は、導火線が短すぎる爆弾同様だ。

 一揆発生の事情が事情だけに、対応一つ間違えたら即爆発だ。

 

 しかも能登守頼周は、己と同格の七里頼周を量産している。

 量産型七里頼周でさえ強敵なのに、本物は明らかに格上の(たたず)まい。

 その上、目も見えず足も不自由で、斎藤帰蝶を倒してきたとなると、厄介極まりない敵、と言うより、もはや偉人だ。


「まだ悩むなら、今一度越中全域を返してもらう事になる。いいのかね?」


 さほどドスの利いた声では無い脅しだが、その声は謙信の心臓を掴み、負け戦を明確にイメージさせた。

 謙信は、戦を無鉄砲の様に戦うヤンチャ坊主のように見えて、実際は勝ち負けをちゃんと計算している。

 いわゆる神算鬼謀と言うヤツだ。

 調略や作戦で、緻密で精密に勝ちを計算して戦う。


 ただし、絶対に家臣には言わない。

 勘で動いている様にしか見えないからだが、謙信には明確な勝算があって動いている。

 クセの強すぎる家臣を束ねるには、自分が苦労して頭を働かせているのだ。


 もしここに家臣や武田軍がいなければ、さっさと提案を受け入れ引き上げただろうが、軍勢の目がそれを許さない。


 しかも、結果はどうあれ2年連続越中攻略失敗の可能性もあるのは、上杉家の威信に関わる致命傷だ。


 これが大名の悩みどころだ。

 弱気は下剋上を許す。

 上杉家は長尾家の時代から謀反が多く、その全てを力で鎮圧してきた。

 面倒臭いが、言っても聞かないなら実力でねじ伏せる。

 しかし、どうやら能登守頼周は本当に危険だと、謙信のセンサーが感じ取っている。


 だが、ここでアッサリ下がっては沽券にかかわる。

 今引けば、一向宗を調子付かせる事になる。

 前門の虎、後門の狼と言った所だ。


(後門が味方なのが非常に厄介なのだがな……。仕方ない)

 

 引くなら引くで、デッカイ釘を刺しておかねばならない。


「……書状は確認した。()()()()()であろう」


 謙信が妙な事を言い出した。


「恐らく?」


 今度は能登守頼周が疑問を呈した。


「何、そう難しい話ではない。その書状が本物であると海路を使った連絡があるはずなのだ。予期せぬ事態になった場合に備えていな」


 これはハッタリだ。

 書状が本物なのは、字を見れば判別できる。

 ただ、簡単には引き下がれぬポーズを見せねばならぬ、自分でも『ツマラナイ』と感じるプライドだが、戦国大名だけにやむを得ない苦肉の策だ。


「そう言う事か。確かに。偽書状を疑わない訳にはいかないな」


 偽書状を使った計略など当たり前の時代である。

 現代でも偽メールが飛び交って、とんでもない被害額が出ている。

 戦国時代で偽書状を疑うのは、本物と確信していても何の不思議でもない。

 何なら、本当に本物なのに偽物扱いする策もある。


 そこは如何に優れた才能を発揮する能登守頼周も見抜けなかった。

 下級武士出身故の、やむを得ない判断であるし、確かに、一向宗が持ってきた書状を『鵜吞みにしろ』とは無茶があると思い直したのであろう。


「何日程で来る予定かな?」


「海の状態にもよるが、上陸までに2,3日、この場に到着するのに1、2日と言った所でしょう」


「最大5日か。待っても構わんが、手っ取り早く決着を付けると言う手もある。我らはどちらでも構いませんぞ?」


(強気だな。万全な防御布陣だからこそ故の自信か。……カマしてみるか)


 謙信の思う通り、能登守頼周、越中守頼周は異常に冷静だった。

 いや、越中守頼周は動揺を隠しているのが感じられるが、能登守頼周は全く動じていない。

 まるで『たった2人で敵陣に来ているのを忘れているのか?』と思うほどだ。


「決着をつける……それも良いですな。ですが、だとすれば……まさか、このまま船橋を生きて撤退出来るとお思いで? 戦を選択しておいて?」


「ッ!!」


 この言葉には能登守頼周も驚いた。

 ただ『堂々と驚く』と言う、矛盾しているとしか思えない驚き方だった。

 それには理由があった。

 他の大名の提案なら驚かない。

 上杉謙信の提案だから驚いたのだ。

 そもそも、上杉軍以外だったら能登守頼周が直接姿を現す事も無い。

 謙信を、ある意味信頼していたからだ。


「そう来たか。それは困るな。しかし上杉殿がそんな卑怯な手を使う御仁だとは知りませんでした。義に篤いと聞いておりましたのでな」


 能登守頼周が初めて見せた困惑と焦りだった。

 計算違いを自覚したのだ。


「残念ながら、今回の件に義は関係ない、と言うより我は常に我の信じる道を征くのみ。畠山親子の要請と、朝倉斎藤と一向一揆を滅する機が重なったに過ぎぬ。それを勝手に義に篤いと勘違いしてくれる輩が、我に妙な信頼感を持ってくれる方が多いのですよ」 


(え? そうなの!?)


 この言葉には七里頼周達よりも、上杉家臣達の方が驚いた。

 家臣が衝撃の事実に呆然とする中、謙信は無視して続けた。


「お陰で当方は楽ができる場面が多くて助かります。今の様に」


 謙信は自分でも言いながら酷いセリフと感じていたが、勝つ為なら躊躇はしない。

 当初は自分に対する評価を『義ー義ーうるさい!』と思っていたが、裏を返せば、今の様に必殺の言葉になる事もある。


(何事も表裏一体よな。あんな煩わしい評価に助けられるとは)


 黒部川を渡れば自分達は最悪死ぬ。

 だが、今戦えば確実に勝つ。

 謙信だけなら世間の評価など知った事では無い。


「そこで提案だ。真に一番平和的な和睦を申し込む。このまま5日間睨めっこしていても良いが、暇じゃしな」


「和睦はともかく『一番平和的』とは?」


「斎藤帰蝶殿を倒したと聞いた。それを証明してもらいたい」


「証明……? 戦……いや、違いますな。某との一騎討ちをご所望ですかな?」


 ここで全軍衝突では証明もクソも無い。

 最小限の規模での戦い、即ち一騎討ちだ、と言うのは建前。

 いや、この建前も本心だが、盲目片足でどう戦うのか、そしてどう勝ったのか気になって仕方がないのも本心だった。


「そちらが勝てば、先の提案と黒部川より西に侵攻しない事を約束しよう」


「某が負けたら?」


「先の提案に加え、畠山義綱、義続親子の越中帰還を認めてもらいたい。無論、元の居城に戻し手出しも許さぬ」


「……居城? 居城だけ? 領地は良いので?」


 謙信の妙な提案に能登守頼周が訝しむ。

 だが、その理由は単純なモノであった。


「そりゃ領地も戻れば良いがな。越中で畠山親子と七里頼周。民はどちらの命令を聞くかな?」


「フフフ。成程。某への評価として喜んでおきましょう」


 七里頼周の名は北陸では絶大だ。

 だから量産型七里頼周がいるのだ。


「まぁ強いて言うなら、お主らと相容れぬ者の避難先の領地は頂こうか」


「成程。妥当な所でしょう」


(お優しい。やっぱり義に篤いのでは?)


 一方、上杉家臣達は色々迷った。

 勝った場合の城と多少の領地を要求するのは、やはり畠山親子の為としかみえない。

 つまり『義』だ。


「そうじゃ。どうするのも自由。5日間、世間話でも構いませぬぞ」


「……某も暇ではないからな。全軍で戦わないで済むなら、それも良いな」


「能登守様!? 流石にソレは!?」


 少し前まで越中の主役だった越中守頼周が、蚊帳の外感を破るべく間に入る。

 流石に、総大将に一騎射ちをやらせるわけにはいかない。

 

(と言うか、加賀守や他の七里はどうして止めなかった!?)


 帰蝶と能登守頼周の一騎討ちは、加賀守頼周が朝倉斎藤軍と行動を共にしたのが原因だ。

 その報告を越中守頼周は聞いていたが、今は完全に忘れているし、そもそも戦わせるなど論外だ。


「何だ越中守。ワシの戦いを侮っておるのか? 北陸の中で、誰かワシから一本取った者がいたか?」


 七里頼周を名乗るには、相当なレベルの知勇兼備が求められる。

 苦手な部分があっても構わないが、その苦手も、高いレベルで苦手である事が求められる。


 そんな優秀な量産型七里頼周が、本物に勝った事がない。

 量産型七里頼周の中でも武芸最強で、斎藤帰蝶と富田勢源を同時に相手にした加賀守頼周ですら、盲目右足喪失の能登守頼周に勝てないのだ。


「た、確かに居りませんが、しかし! 総大将を守るのが配下の役目です!」


 越中守頼周が食って掛かる。


「確かに。しかし間違ってはならん。信徒を守るのが七里頼周の役目だ。我らは武家では無いのだ」


「ッ!!」


 こう切り返されては反論もできない。

 越中守頼周はもう祈るしか手段が無かった。


「さて、議論も済んだ所で、誰がお相手を?」


 能登守頼周が悠然と前に出た。

 敵陣中で全く怯んでいない。

 全員薙ぎ倒して帰る意思すら感じさせる。


「……弥太郎(小島貞興)。頼めるか?」


「お任せを」


 謙信はアイコンタクトを取りながら喋った。


(日ノ本最強を想定して戦え!)


(承知しております!)


 ここまでの覚悟を伴う相手と認定し、上杉軍個人武芸最強の小島貞興を選んだのだ。

 上杉謙信も小島貞興も昨年、北条家最強の北条綱成と帰蝶の激闘を見ている。(185-6、185-7話参照)

 北条綱成で勝てないなら、上杉軍では小島貞興しかいない。


「ほう。弥太郎殿とは鬼小島と名高い小島殿ですな。相手にとって不足無し」


「某は鬼小島などと称されておりますが、貴殿の方がよっぽど鬼に見えますぞ? いや、鬼というか、毘沙門天や不動明王と言った方が適切か? 阿弥陀如来を信奉する貴殿を例えるには不適切かもしれませぬが」


 そう言いながら、貞興は全力で相手を観察した。

 斎藤帰蝶も未知なる戦いを見せたが、女ゆえの非力をカバーする様々な工夫は、北条綱成との一戦で即座に見抜いた。

 対して能登守頼周はどうか?


(盲目で右足喪失した能登守が、一体何を見せるのか? あの双杖は何か仕掛けがあるのか?)


 いわゆる松葉杖を両脇に抱えて持つ七里頼周だが、ただの杖とは違い、先端は馬の蹄程に巨大だ。


(先端は鉄。鉄杖いや、もはや鉄棍か。厄介だな。しかも……)


 鉄杖、あるいは鉄棍に切れ味は無いが、刃物よりも頑丈だ。

 刃であれば、狙いを付けて切らねばならないが、鉄の杖、棍なら、多少狙いが不確実でも問題ない。

 盲目故の工夫なのだろう。

 更に当たれば一撃必殺なのだ。

 鎧も兜も粉砕する威力を出せるし、鎖帷子で守られている部分で受ければ骨折間違いなしだ。

 その分、重くて扱い辛いのが弱点だが、その武器を選ぶ以上、重さを克服した戦いが出来るのだろう。


(しかも、あの素早い斎藤殿を、あの鉄棍で捉えたのか!? 盲目で!?)


 帰蝶を倒した以上、並みの者ではない。

 もはや、南蛮人含む世界に自慢できる勇者だ。

 観察すればする程、驚愕の感想しか出てこない。


「さて、観察はお済かな?」


 能登守頼周が余裕の態度で尋ねた。


「あぁ。正直どんな攻撃がくるか見当もつかん。だから勝てる」


 貞興は断言した。

 戦力分析で、不確定要素まみれである事を自覚した後なのにだ。


「ほう? 悪くない判断だと思いますぞ?」


 貞興が勝ちを宣言し能登守頼周も認めた。

 分からないなら、全てに対応する心構えを持つ。

 想定外も含めた全局面対応。

 結局そうするしかないが、そうしようとしても出来ないのが一般人。

 しかし戦場を潜り抜け生き残ってきた武人には、予測で対応する事ができる。

 意識の隙間を突かれても、体が反応するはずだ。


 こうして一騎討ちの為に舞台が整えられた。

 小島貞興はオーソドックスな、槍と刀の大小のみ。

 七里頼周は松葉杖2本と刀の大小のみ。

 装備は両者ともに甲冑である。

 七里頼周が杖である以外は、極めて普通の武装だ。


 七里頼周は普通では無い杖の先端同士を叩いた。

 富田勢源と同じく、音の反射で地形を把握した。


「では……七里流(しちりりゅう)双杖術(そうじょうじゅつ)! 参る!」


 こうして七里能登守頼周vs小島弥太郎貞興の一騎討ちが始まった――

【念の為の忘れた人用】

前書き部分をちゃんと老若男女に拡散お願いしますね☆彡

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