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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
19-2章 永禄6年(1563年) 弘治9年(1563年) 
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196話 信頼の大和攻防戦開戦前

【お知らせ】

今回の投稿より、月3回の投稿をやめ、不定期月2回の投稿に戻します。

10日で話を仕上げるには、私の実力では無理がありました。

このままでは話が破綻しかねないので、申し訳ありませんが以前のスタイルに戻します。

一応月2回が目標ですが、2回以上もあるかもしれません。

しかし1回、あるいは話を分割して2回投稿とするかもしれません。


スピードと質を両立するには、これが現在の最適だと判断しました。

申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

【大和国/送迎山(ひるめやま)城の櫓 織田信長】


「明智十兵衛、只今到着致しました。要望通りの雑賀衆、根来衆の合計200です」


「ご苦労だった。特に問題は無かったか?」


 明智光秀が鉄砲衆を率いて、織田軍陣地に戻り報告をした。

 ここ送迎山(ひるめやま)城は当然、畠山の本拠地高屋城とその周辺地域も、足立長輝(足利義輝)が、織田信広と北畠具教を指揮し、見事に制圧した。

 その制圧した地域に三好軍から戻った信長と細川晴元が合流し、送迎山城の櫓から眼前に広がる光景を観察し、異変を確認していた。


「はい。少々説得に時間が掛かりましたが、顕如上人の書状及び、同行した本願寺使者の僧が、根気強く交渉して下さり、拙者の出番は殆どありませんでした」


「そうか。本願寺は約束を守ったか。しかも根気強く交渉したとはな。仮に交渉失敗だったとしても書状と同行僧まで派遣したからには、背後は安全とみて良かろう。やはり雑賀も根来も100ずつなら許容範囲だったのだろう」


 前々世が前々世だけに万一の可能性はあったが、それも杞憂に終わった。

 本願寺は約束を守ったのだから、当面裏切りは心配無いだろう。

 特に難しいと思っていた雑賀衆、根来衆も兵を派遣した。

 彼らも蠱毒には入りたく無いが、東の壺たる織田の要請は、織田と三好の関係性を見ても無視出来ないが、かと言って、本格的に関わりたく無い。

 その落し所が『それぞれ100』と信長は読み、当たったのだった。

 また、兵を出したからには、織田の背後を突く計画は無いと見て良いだろう。


「えぇ。その様です。……正直半信半疑で、道中で拙者は暗殺されるんじゃ無いかと内心冷や冷やしておりました」


「フフフ。気持ちは分かる。済まなかったな。だが流石に暗殺は無いだろう。アノ話をした後では暴挙にも程がある」


「……確かに。余計な心配でしたな。それでも万が一が、どうしても頭をよぎりました」


「……気持ちは分かる。本当にご苦労だった」


 アノ約束――

 今年、来年の様な近い未来の約束では無いが、本願寺の存在意義を賭けた約束である。

 そんな簡単に反故にされるはずが無い。

 そう信長が賭けた約束だ。


《前々世は何度約束を破られた事か。ワシのやり方に反省する所があったかも知れんが、この歴史は一定の信頼をしても良かろう》


《そうですねー……(あっ。反省はするんだ。約20年見守ってきたけど、信長教の『他人に無条件の愛と信頼を寄せる人格者』って教えは、そんなに間違ってなかったのね。良くも悪くも)》


 今までも似た様な光景を何度も見てきたが、やはり信長は他人を簡単に信じ過ぎると思うファラージャ。


《(精神年齢がそうさせるのかしら? それとも……)》


 2度の死を経ての今である。

 これは精神の成熟なのか、生来から変わらぬ信長の価値観なのか、歴史に埋もれた真実なのか?

 歴史改変は目的に違いないが、歴史学者としての興味が尽き無いファラージャであった。

 なお余談であるが、未来世界では歴史は絶対的に確定しており、異論は異端となるのでファラージャは自称歴史学者である。

 無論、あの世界に関わるつもりは無く、事実を発表する気など全く無いので趣味学者である。

 

「して殿。戦況は如何でしょうか?」


「うむ。まず見ての通り高屋城と周囲一帯は藤次郎(足利義輝)が制圧した」


「ほう。藤次郎殿が」


 光秀は足立長輝の正体を知っているが、高島の戦いからの敗北から数年のブランクを経て、どう成長したかは知らない。

 それが結果を出したのだから、驚くかと言えばそこまででも無い。

 かつて足利義輝が朽木家に間借りしつつ、朽木と高島を統治したが、織田家に敗れた後に引き継いだのが光秀だ。

 丁寧に行き届いた発展と政治は、引き継いだ光秀が何か特別手を加える必要性を感じなかった程だった。


 政治の腕は間違い無い。

 戦も、かつては信長を後一歩まで追い詰めたのだから、下手なはずも無い。(16章参照)

 光秀は義輝の実力を、半ば確信を持っていたのだ。

 信長の言葉に驚いて見せたのは、半分演技、半分は素直に驚いたのが正直な感想だ。


「全く問題なかったな。ワシは三好実休の陣に行った後に合流したが、口出しする隙も無かったわ」


「頼もしい限り、なのは良いのですが、それにしては戦闘行為があった感じが見受けられませんな。まさか……?」


 周囲は、戦中の国とは思えない光景が広がる。

 三好家と大和国は一進一退の攻防を繰り広げていたが、三好家がこの周辺まで攻め寄せた事は無さそうであった。

 それにもう一つ。

 

「それだ。紀伊沿岸部と同じ状況だった。藤次郎は実力を見せられず残念がっていたが、軍を規律乱さず動かしたのは、それはそれで将器であろう。奴はこれで独り立ちしたと見て良かろう。織田の一翼としてな」


《(また無条件に信頼している……。案外、詐欺に引っ掛かりやすいタイプかも?)》


 一応、信長を通して、これからの動向は全て把握しているファラーシャ。

 信頼が悪いとは言わないが、こうも簡単に信じる事を貫くと、大胆不敵にも程があると思ってしまう。

 大胆不敵に信じるから、良い方向に進めば際限無く良い結果をもたらすが、一歩狂うとあっと言う間に崩れ去る。


《(それが本能寺につながったのかしら……?)》


 ファラージャの心配をよそに信長は話を続ける。


「また見ての通り、ここから見える範囲でだが、散らばる拠点に圧力を感じぬ」


「あ、圧力ですか……? ……言われてみれば、出陣中の城にしては気配が大人しいですな」


 信長程に正確に殺気探知など出来ない光秀であるが、それでも言われれば気づく。

 大和国の主要な勢力、即ち、筒井家、越智家、十市家、箸尾家も、畠山同様に戦力を総動員している気配なのだ。

 三好の狙いは興福寺だが、大和の諸勢力は実質的な大和守護の動向には従わざるを得ない。

 それ程までに興福寺とは強大なのだ。


「興福寺が援軍を要請したと言うより、畠山が援軍を申し出たのだろうな」


「そうですね。自ら動いたのでなければ、全城の守備放棄などありえますまい」


「うむ。その通り。それで肝心の畠山についてだが、奴は狂ったと断定する」


「狂った? まぁ、そうですな……。こんな領地を顧みない戦略は聞いた事がありません」


 一応、信長も領地をガラ空きにして戦に向かった事は、史実でもこの歴史でもある。

 但し、何が起きても良い様に最低限の準備や、周囲が絶対の安全地帯である事を条件に、ガラ空き戦法を使う。


 しかし畠山は、ついに全領地で兵を総動員して動いている。

 正確には、山岳地帯の領地の状態は不明で、間者を使って探らせているが恐らく空だろう。

 中途半端は、それこそ最悪の手。

 やるなら、狂うなら、総動員のはずなのだ。


「うむ……いや、狂ったと言うと少々語弊があるが、しかし畠山は、自ら本気で狂いに行って、本気でこの戦局で何かを狙っておる。ワシの直感に過ぎぬが、そう見ないと足元を掬われるだろう」


「では……狂わなければ出来ない事を狙っているとして、何を目論んでいるのでしょう?」


 狂気を演じて得る物とは何か?


「まぁ、やりたい事の予測は付く。三好とワシの邪魔する事なのは間違い無い。問題は何故邪魔をしようとしたかじゃが、三好の行動の行き先の『禁忌』に気が付いたのじゃろうな」


 人それぞれ『禁忌(タブー)』と感じる事があるだろう。

 それが人類で統一出来ているなら良いが、決してそうでは無い。


 問題はその禁忌が『そんな事で!?』なのか、『成程!』と思うのかは、これまたその人次第。


 但し、戦国時代では、その禁忌がある程度共通認識だ。

 宗教が絶対の世界なのだから当然だ。

 その上で『畠山高政は己にとっての禁忌が破られる事を危惧している』と信長は読んだ。


「ワザワザ蠱毒に入り込んだのだ。丁度良く壺側の立場だったのにな。畠山がここから逆転するなら、京に雪崩れ込んで六角を退けるか取り込むかして、紀伊国と大和国の総力で三好を跳ね返して天皇家を抑える以外に手段はあるまい。つまり、三好に対する『朝敵詔勅』を引っ張り出す以外考えられん。それと同時に、このどさくさで織田が掠め取った領地の返還を、朝廷を通じて打診するかも知れぬ」


「な、成程。まさに一発逆転ですな」


「その要請を今のワシらは退ける事が出来ぬ。和睦案として多少の条件は付けられるかも知れんが、基本的には骨折り損となりそうだな」


「では、ここで畠山を完全に潰してしまえば、その心配も無くなりますな?」


 光秀は、この局面に憂慮するのでは無く、好機と捉えていた。

 信長はその答えを聞いて満足げに頷いた。


「そう言う事だ。ただ言うは易し、行うは難し。畠山の禁忌を侵す我らだ。相当の損害を覚悟せねばならん。しかも、ここまで無傷で侵略出来たのが最悪。どれだけ警戒しても兵の心に油断がある。難しい戦いになるのは間違い無い。また、今も遠くに感じる気配から、三好を押し込む優勢状態なのも間違い無い。間者の情報もそれを裏付けておる」


 かつて、北勢四十八家を連戦連勝で攻略した末の長野家攻略で、勝ち過ぎた弊害から、軍が最弱になった事があった。(28話参照)

 それと同じで、無傷の快進撃を続けて来た今の織田軍は最弱の状態だ。

 体力や武芸はともかく、どんなに己を律しても、ここまで無傷の侵略が、心の隙をどうしても生む。


「我らの状態を理解した上で、それでも我らが背後を取っても厳しいと?」


「厳しいと思って行動せよ。そうで無いと必ず痛い目を見る。痛い目を見なければ本当に幸運と思え」


 送迎山城の櫓に上って、見えない遠方の戦況を想像する信長と光秀。

 遥か遠方では、三好軍と大和国の勢力が戦っているであろう。

 間者の報告では『三好実休が指揮しているだけあって、粘りを見せているが、決して優勢では無い』との情報は既に得ている。

 

「良し。では広間で待たしている諸将の所に行き、すぐに陣を整え出発する」


「はッ! ……一応聞きますが、今の我らの状態を知って、なお行くのですな?」


 光秀は一応の確認を取った。

 勇んで三好の援護に駆け付けたら蹴散らされた、何て事になっては存在意義に関わる。


「そうだ。だが安心しろ。策はある。……策か?」


「え?」


「いや自分で言うのも何だが、コレは策なのかと思ってな。フフフ」


 信長は何か策を持っているが、自分で言っておきながら笑ってしまった。

 それ程、突拍子も無い事をやるつもりなのだと光秀は察した。

 長年の付き合いで、もう理解出来てしまうし、止める事も出来ないだろうと思っている。


「さ、行くか」


「はい」


 光秀は粛々と信頼する主に付き従うのであった。



【送迎山城/広間】


 織田軍の武将級が勢揃いする広間。


「もう知っての通り、高屋城を落とし周辺も平らげた我らは、完全に畠山他、大和勢力の背後を狙える位置にいる。畠山が領地を荒らされた情報を得ているかどうかは不明だが、帰るべき場所の殆どを潰して尚、全く背後を気にしていない様子から、こうなる事も織り込み済みで動いている。その覚悟が、三好との互角の戦いを繰り広げているのだろう」


 諸将は頷き同意した。

 

「興福寺や大和国の勢力が加勢しているとはいえ、驚きの光景だ。自ら背水の陣を敷く戦術は理解出来るが、ここまで思い切って徹底したのは見た事が無い。ここまで土地への執着を無くした武家をワシは知らぬ。故に相手は最強の背水の陣状態だと思え」


「はっ!」


「だが、残念ながら末端の兵士は、我らがどれだけ『気を付けろ』と言っても、必ず心の何処かで油断する。これは避けられん。絶対に敵の力に驚き怯む。これは断言する。今の我らは最弱の状態だと知れ」


「……はッ!」 


「だが、それでも勝たねばならんのが辛い所じゃ。しかし策はある。この策と我らの攻撃によって敵は散り散りになって貰う。しかし、敵は背後から襲われるのも想定済みと判断する。違ったとしても最悪の事態に備える。故に今から陣の組み換えを行う。十兵衛は朽木兵500と借りてきた鉄砲兵200の指揮を任せる。本隊から離れ自由に行動せよ。狙う個所はどこでも構わぬ。効果的だと思う所を自由に狙え。ついでに鉄砲の運用方法を学び、取り入れられそうな事を学んでおけ」


「はっ! 殿は全体指揮に入るのですね?」


「いや。このまま総大将は藤次郎に任せる」


「えっ……!?」


 長輝が驚いた。

 全軍合流したなら、自分はお役御免だと思っていた所へ、継続の命令なのだから驚くのも仕方ない。


「藤次郎の実戦指揮も見ておきたい。それに、お主も物足り無いじゃろう?」


 長輝は侵略はしても戦闘行為はしていない。

 その不満を信長は察したのだ。


「そ、それは、まぁ……。承知しました。全軍の指揮采配を取らせて頂きます」


「うむ。任せた。但し、先の十兵衛とワシだけは、ワシの策で動く。ソレだけは覚えておけ」


「それは如何なる策で?」


「あぁ。なに、大した事では無い。――するだけだ」


 信長が大した事が無いと言った時点で、一同嫌な予感がしたが、その予感は的中した。


「そ、それは……! あっ!? その行動で、軍に緊張感を持たせるのですな?」


「その通り。最弱の軍を率いるのはワシの得意分野よ。畠山の真意を感じ取るのにも丁度良い。……それに於濃の事もあるしな」


「あっ……成程。お止めするのが家臣の仕事でしょうが、斎藤家の殿もあの有様ですからな。自分の主君と殿の奥方様に対する表現として適切では無いのは重々承知ですが」


 晴元が笑顔で言った。

 釣られて皆も笑うし、信長も笑った。

 晴元が『あの有様』と言う帰蝶を思い出したのだ。

 本来なら侮蔑的表現であるが、そう表現するしか無いのが帰蝶だ。

 むしろ『あの有様』は本人にとって誉め言葉だろう。


「良し。策によってワシの陣は当然固定となる。その他の配置を藤次郎が決めよ!」


 今、この広間には主な武将として、織田信長、織田信広、北畠具教、足立長輝、細川晴元、佐久間信盛、金森長近、明智光秀、蜂屋頼隆、水野信元、水野忠重、坂井政尚、木造具政、鳥屋尾満栄、藤方朝成、織田信包、織田信治、九鬼定隆、九鬼嘉隆がいる。

 具教や信広の家臣も当然いるが、それらの配置を含めた裁量権が与えられた。


「承知しました。殿の策からして陣形は、魚鱗陣、鋒矢陣、偃月陣に絞られましょう。その中で某は、偃月陣を選びたいと思います」


「理由を聞こうか」


「殿の策の意図は理解出来ますので、次々と雪崩れ込むと共に、一番の緊急事態、つまり殿の危機に対応出来る陣だと判断します!」


「うむ。それで良かろう。良かろうと言うたが、それが正しいのか間違ったのかは、お主の指揮次第だ。但し、ワシも魚鱗、鋒矢、偃月のどれかが妥当だと思う。そこは安心して陣立てせよ」


「ありがとうございます」


 こうして長輝は総大将として各武将の配置を決めると、送迎山城を下り、戦場に向かうのであった。


挿絵(By みてみん)

【お知らせ 8/17追記】

現在、洒落にならない歯痛で苦しんでおり、睡眠から生活までままならない状態です。

歯科医院では、暫く痛みは続くと言われ、とても次話を執筆する余裕がありません。

痛みが和らぎ次第、執筆開始しますが、月末の投稿は間に合わないかもしれません。

申し訳ありませんが、投稿が無かったら、「歯痛で苦しんでいる」と思ってください。


【8/24追記】

何とか執筆を始められるレベルまで回復しました。

9/15までには投稿出来るように頑張ります!

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