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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
19-2章 永禄6年(1563年) 弘治9年(1563年) 
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194-2話 因縁の本願寺 遠い将来の一手

194話は2部構成です。

194-1話からご覧ください。

「さて、それでは本題と参りましょうか。織田殿が北陸を離れ、今回、ワザワザ本願寺にいらっしゃった理由を聞きましょう」


 顕如が凛として言い放った。

 信長含め4人は一瞬、顕如の背後に仏の如き後光を感じる。


 これからが交渉としての本番だ。


 顕如としては、信長が北陸を離れて此処まで来た理由を探らねばならない。

 これの理由が顕如にも分からない、事も無い。

 察しは付いているが、信長自ら来る程の事態なのかが分からないのだ。


 近衛前久の書状は、信長との面会の願いのみであったし、頼廉の書状は北陸の状況と信長への信頼が綴られていたが、何の為に来たのかが記されていない。

 織田の行動は十中八九、三好の援軍だろうが、あの三好に援軍が必要な状況とも思えなかったのだ。


 日本の副王、三好長慶。

 顕如も一度面会した事があり、今思えば若さ故の過ちとでも言うべき、首と胴が離れても仕方ない危険な交渉を果たした。(106-2話参照)


 交渉は顕如の思い通りに進んだが、今思い出しても冷汗が出て来る。

 そんな三好に援軍が必要な状況とは、如何なる事なのか?

 興味と事態の深刻さが顕如にも伝わった。


「はい。今、中央では三好とそれに反発する者が争っております。これはご存じですね?」


 信長は特に深刻だったり、慌てるでも無く、極普通に話し始めた。

 その言葉ぶりには全く重大性が感じられない。

 それなのに、以前面会した三好長慶に匹敵する、覇者の佇まいだけは、顕如の全身に叩き付けられる。


「(こ奴……!?)ごほん! し、失礼……! ……はい。近隣の争いです。ある程度情報は確保しております」


 これには顕如も想定外の感情を、上手に隠せなかった。

 まだ修業が足りぬと自覚してしまった。

 だが、信長の思わぬ訪問と、思わぬ天下人候補の出現に内心驚愕するも、取り乱す真似を『咳』一つで抑えたのは大した胆力であろう。


「なれば情報が重複するかも知れませぬが、思いの他、大和国の反発が強く、三好も苦戦しております」


「苦戦……? 三好殿が?」


 顕如は違和感を持った。

 確かに優勢とは言えぬが、三好実休が出陣して劣勢との情報は入っていない。

 その食い違いを推察する前に信長が言葉を続けた。


「はい。それを打破すべく我ら織田軍に三好から援護の要請が参ったのですが、紀伊の畠山家も大和の援護に向かっており、現在その背後を潰すべく軍を分けて紀伊半島沿岸部を制圧しております」


「畠山家が? ふむ……」


 知っているのか知らないのか判然としない答えだが、勿論、顕如は知っている。

 その動きを把握出来ない本願寺では無い。

 しかし当然、その判然としない態度がウソである事を信長も歴史的事実で見抜いている。

 この顕如と言う男は、最後の最後まで徹底して心の底を見せない。


《全く……! 若いのに老人の様な惚けたヤツだのう。この辺の性格は前々世と変わらぬわ》


《そうなんですか?》


《あぁ。こ奴の性格、と言うよりは、若くして本願寺の頂点に立った者として、余りに素直過ぎる反応を控えているのじゃろう。何事に対しても一喜一憂していては長として頼り無い。或いは宗教的神秘性の演出かもな。若さで舐められるのは本意では無いだろうしな。やはりこ奴は生粋の戦国大名だ》


 信長も、若年の顕如を見るのは初めてである。

 それが、初めて若い顕如を見て、前々世で見た時と全く同じ感想を持ったのだから、それが顕如の生き方なのだろうと判断した。


「我ら三好の援軍として、紀伊熊野参詣道を使って大和国に行くのも手段ですが、雑賀や根来に狙われては一網打尽ですからな。この道は使えませぬ」


 本願寺と雑賀は、信長と本格的に争う前から結び付きが深い――のは前々世の事実。

 雑賀も根来も基本手的には自治傭兵集団。

 侵略や歯向かうは勢力は当然、雇われれば誰とでも戦う。


 根来衆などは信長と繋がりが深く、力を借りた事もある。

 一方雑賀衆は味方になったり敵になったりと政治状況で陣営を変化させ、本願寺にも打撃を与えた事すらあったが、最終的に本願寺に付き、本願寺完全降伏まで信長を苦しめた。


 だが、この歴史ではまだ違う。

 願証寺を滅ぼした直後ならともかく、あれから時間も経ち、北陸鎮静へ協力してくれる織田軍を問答無用で攻撃対象になどしない。

 その様に信長は賭けた。

 勿論、その賭けに準ずる本願寺の内情は間者を使って、現状の本願寺を調査済みである。


「成程。確かに雑賀や根来が興福寺に雇われていた場合は、参詣道を通過するのは危険ですな」


 顕如が同意するが、本心ではそこまで思っていない。

 本当に潜んでいたら確かに危険だが、雑賀や根来がここで反三好に付くとは思え無い。

 それの意味する所は、自ら蠱毒計に飛び込む様な愚を犯す事になるのだ。

 信長も顕如もそれは理解しているが、念の為の意見擦り合わせである。


「別に雑賀や根来で無くとも畠山が隠れているかも知れません。故にどんな場合でも参詣道を使うのは論外なのです。逆にお聞きしたい。雑賀や根来にそんな動きはありますか?」


 織田が入手した情報もあるが、よりご近所さんの本願寺は違う判断材料を持っているかも知れない。

 それが本当でも嘘でも、今後の本願寺対策には影響するだろうが、今の本願寺なら、織田を騙して旨味が無い。

 そう信長は思っている。


「いえ、その様な動きは聞きませんな」


「えっ!?」


 4人は驚いた。

 事前情報では、雑賀も根来も畠山に同調している情報を掴んだ。

 それを警戒しての紀伊熊野参詣道の使用を禁じたのだ。


「……誤情報、いや、流言を掴まされた、と言う事か?」


「ならば、参詣道は逆に安全だと?」


 光秀が推測を述べた。

 雑賀や根来の鉄砲衆を警戒しての沿岸部中心の侵攻作戦だ。


「恐らくそうなるだろう。……そうか。畠山は参詣道を使って背後を取られたくなかったのだ。やられたな……!」


 情報戦で後れを取る、騙される、欺かれるのを完全に防ぎきるのは難しい。

 万が一を考慮しなくては支配者失格だ。

 だから流言が効いてしまうのは、ある意味宿命でもある。


 情報の真偽確認は念入りに行うが、やはり、時間との勝負であり、時間が取れない場合は、一か八かで罠を承知で突っ込むか、念の為の安全策を取るかしかない。

 今回の場合で言えば、安全策を取った訳だが、領地の蹂躙と言う畠山ブランドの失墜に重きを置いた沿岸部侵攻である。

 騙される条件が整い過ぎていた。


「畠山は、ワシの性格や戦略を読んだな。侮った訳では無いが、これで増々懸念が確信に変わる。畠山は、何らかの勝算を持って動いている!」


「民を捨て、土地を捨て、北陸を見捨て、帰る場所も失う。本当なら究極の捨て身ですな」


「それに加えて勝算も確保しているとなると、この三好援軍は最悪の展開もあるえるかと」


 晴元や長輝が、信じ難い事実を並べ、自分で言いながら驚愕する。

 織田の面々が苦渋に歪む。

 まだ織田軍として致命傷を負った訳では無い。

 何なら瀕死なのは領地を失う畠山だ。

 なのに、この重苦しい雰囲気は、畠山の不気味さが効いていた。


 そこに救いの手を差し伸べたのは顕如であった。

 まるで阿弥陀如来の差し伸べる手の如き柔らかい言葉に聞こえる声で言った。


「何なら、雑賀や根来に、織田殿に加勢する様に拙僧から依頼致しましょうか? 北陸鎮静のお礼とでも思って下されば幸いです。雑賀や根来が動いていないなら使わせて貰いましょう」


《こ奴!?》


《ど、どうしました!?》


《協力的過ぎて気持ち悪い!》


 信長の人生の大半は宗教勢力との争いだった。

 顕如率いる本願寺は、信長最大のライバルと言っても過言では無い相手。

 協定や一時休戦を結んだとて、最終的には戦いに発展した。

 それが、歴史改編の影響か、完全では無いだろうが、信頼を得ている事に信長は気持ち悪さを感じたのだ。


「……悪く無いですな。いや、これは暗闇に差し込む光が如く案! 是非依頼の仲介をお願いしたい。但し、派遣兵は鉄砲衆100ずつで構いませぬ。勿論、その費用は我らが持ちまする」


「随分と少数ですな? あ……成程。安全確認ですか。少数でも味方してくれるなら、少なくとも興福寺や畠山に雇われている可能性は無いと判断出来る」


「ご明察に。鉄砲衆は強力なれど、()()()()で使うのが常識。今回の場合は総動員も大軍も必要ありませぬ。200で丁度良い位でしょう」


 信長はワザと間違った認識の常識を語った。

 一応、『ここ一番』も間違いでは無いが、まだまだ連射射撃を世間に広める訳には行かない。

 当面は一撃必殺の、要所で使う武器と認識したフリをしておいた。


「承知しました。では、織田軍が本願寺に到着する頃には合流する様に依頼しましょう。その上で軍勢が揃ったら、そこで本願寺を素通りさせて欲しいとの事ですな? 雑賀も根来もオマケ。本願寺を通過する事こそが狙いだったのですな?」


「その通りにございます。この後、紀伊沿岸を制した部隊が到着しますが、本願寺の横を通り抜け三好の援護に回りたいのです。その許可を頂く為に参った次第です。それともう一つ」


「もう一つ? ……ここで北陸の礼を返さねば、宗教や仏様云々の前に人として問題ですな」


 顕如は信長が意外に欲張りだと感じたが、そうではなかった。


「いえ、礼は無用にござる。素通りに加え、雑賀と根来を取り持って下さった。それで礼は十分にござる。今から話す事は、今すぐには関係しませんが将来必ず対峙する場面での布石として協力のお願いに参りました」


「願い? 僧兵の出兵をお望みですか? しかし天下布武法度では……」


 顕如は渋い顔をした。

 もう『この顔で察しろ』と言わんばかりの顔だった。

 天下布武法度では僧に兵力を持たせない云々以前に、本願寺として蠱毒計に飛び込むなど、自殺行為だし、関わるのも極力避けたい。


「法度をご存じでしたが。それなら話が早い。僧兵は必要ありませぬ。将来の布石とは織田が天下を取った時、本願寺が力を失っていてはとても困るのです」


「困る!?」


《えっ!?》


 顕如は当然、ファラージャも驚いた。

 信長は当然、本願寺と敵対すると思っていたからだ。

 まさか信長の口から、よりによって『本願寺が力を失っては困る』とは予想外過ぎる言葉だった。


「政治に宗教を利用しない織田殿が、我らの衰退が困ると!?」


「大変困ります。これは政治問題でもありますが、政治を破壊する宗教問題に必ずなります。勿論今すぐの話ではありません。その理由を今から話します――」


 信長は理由を語った。

 理由は至極簡単な話で、内容も必要性もすぐに納得出来た。

 ただ、余りにも遠過ぎる将来の布石で、仮に織田が途中で倒れても無視出来ない内容であり、確かに本願寺としても捨て置けぬ内容だ。

 顕如、ファラージャ共に理由()()納得した。


「――画餅。今、拙僧の頭にある感想です」


「でしょうな。正直な感想だと思いますぞ」


 信長も想定済みの返答だったので、全く動じ無い。

 その気配が、成功する気配しか感じさせない。

 何の根拠も無いのにだ。


「……しかし頼廉が歎異抄について話してしまった。それならば、この餅は食える様にしなければならぬのは理解しました」


《ほう。内容を話しただけでこの変化。タンニショーはそこまで急所だったか。ワシらは写本すら入手しておらんのにな》


《聖典系には背けないモノですよ。普通は》


《それをやった蓮如と蓮崇、顕如に七里はある意味英雄なのだな》


 信長が感心する一方で、顕如は少々誤解している。

 信長も歎異抄原本は見た事は無い。

 ただ、蓮崇写本が存在し、沢彦宗恩の仮説を頼廉が認めてしまっただけである。

 その早とちりを信長は利用しているが、頼廉が認めている以上、歎異抄の真偽については、今は関係無い。


 歎異抄に基づいて、本願寺が目を覚ますかどうかが重要なのだ。


 そして、信長はその賭けに勝った。


 半ば勝ち確定まで状況証拠や話や事情を聞いての行動だったが、それでもやはり1%位でも失敗の可能性がある限り、油断は出来ないし、安心も出来なかったが、今信長はようやく心の中で一息ついた。


「我らにも、それ相応の努力が必要でしょう。それに()()()()()と援助をして下さるとは。こんな提案を我らに約束したのは織田殿が初めてです。今となっては願証寺を正しい理由で滅ぼし、これまた正しき理由で吉崎を無傷で保護した織田殿に報いねば僧侶失格でありましょう」


 もし信長の言った事が実現するなら、願証寺に対する暴挙など、どれだけマイナス印象でもプラスでお釣りまで来る。

 この歴史での元々の発端は願証寺の枝寺院による稲作妨害と、桶狭間の戦いの隙を突いた侵略だ。

 顕如にとっては仏法優先が常識の世界なので、信長の行為は、本来は捨て置けぬ蛮行だが、今回の信長の提案はその仏法世界を後回しにして、と言うより、仏法世界に生きる顕如だからこそ、仏法を後回しにしなければならない。


「その全てを達成する為の第一歩として、本願寺領地を通過させて頂きたい」


「勿論。ご自由に通過なさって下さい。地域の寺にも手出し無用と厳命しておきます」


「忝い。それでは将来のその日まで、どうかお待ち下さい」


 信長は書状を書き上げると、顕如に渡した。

 言った言わないを避ける、必ず守るとの約束の保証だ。

 織田が消滅したら意味が無いが、反故にした場合、織田は大義を失う。

 それを信長自ら内容を明記して認めた。


 それの意味する所の大きさと、歴史を知る者なら、誰でも感じるだろう。

 信長と本願寺が、上部では無い硬い約束で結ばれるなど、特大の歴史変化だ。


「それでは、これからどうしますか? 紀伊沿岸を攻撃中の部隊は到着に時は掛かりましょう?」


「待つのは、この長輝に任せます。拙者と右京は、三好実休殿の陣に向かいます。藤次郎!」


「はッ!」


「お主は、全軍合流したら河内国の高屋城とその一帯を攻略しろ。ここが畠山の最前線にして、紀伊国や越中国を放置してでも守りたい城だ。ここを落とせば畠山は完全に帰る地を失う。合流する伊勢守(北畠具教)や尾張守(織田信広)を上手く使って見せよ!」


 紀伊国沿岸部の総大将は北畠具教で、織田信広と軍を分けて侵攻する作戦を取った。

 その上で、畠山の領地の止めの役割を長輝に任せた。

 総大将の変更であり、テストでもある。

 お飾り将軍からどれだけ成長したか、ここが長輝の勝負所になる。


「……はッ! 必ずや!」


 なお、史実の高屋城は、中央権力闘争に数多く巻き込まれた地で、基本的には畠山氏の城だが、三好が占拠したりと城主交代が忙しい城だった。

 だがこの歴史では蠱毒計が発動しているので、三好も積極的に中央には攻め込ま無い。

 あくまでも壺に徹している。

 だが今回、畠山が壺を割らんとする勢いで、越中も紀伊も捨てて中央に飛び込んで来た。

 その勢いを落とすには高屋城とその周辺を制圧するしか無い。


「成程。分かりました。では藤次郎殿は軍の到着までお寛ぎ下さい」


「ありがとうございます」


「忝い。十兵衛は本願寺の使者と共に雑賀と根来に向かい、その兵を率いて長輝の陣へ参れ。鉄砲兵を迎え、高屋城を落としたら、本格的に織田軍も三好と共闘する!」


「はッ! 承知しました!」


 こうして信長と晴元、光秀は退室し、長輝だけが残った。


「藤次郎殿。このままこの一室に滞在なさいますか? それとも沿岸部の寺院にて待ちますか?」


「そうですな……。沿岸部の寺院で待つ方が迅速に動けましょう。そうさせて貰います」


 長輝がそう話すと、すかさず顕如が切り込んだ。

 勿論刃物では無い。

 言葉だ。


「左近衛中将様」


「うむ。……あっ!? い、いや何でもありませぬ……!!」


「フフフ。藤次郎殿には影武者の素質が本当におありの御様子ですな」


「お、お戯れを……!」


「分かっております。他人の空似でしたな。藤次郎殿に聞かせる話ではありませぬが、13代様と縁深き御顔の方だからこそ、少々話を聞いて頂けますか?」


「そ、某如きに上人がお言葉を賜るなど勿体なき事です!」


「良いのです。そんな藤次郎殿だからこそ聞いておきたいのです。拙僧は、織田殿は全ての宗教が憎いのだと思っておりました。しかし今日話した限りでは、決して憎いだけでは無い様子。これについてどう思われますか?」


「……。これはあくまで、某の意見であり殿の御考えではありませぬ。そこを前提とした上でお聞き下さい。間違っても左近衛中将様の意見などと混同しないで頂きたい」


「勿論です」


「……憎いのだと思います」


「ほう?」


「しかし、為政者として『好き嫌い』で差別はしないのでしょう。差別が有るとすれば『良い悪い』の場合と見ています」


「『好き嫌い』では無く『良い悪い』。成程、似て非なる解釈ですな。では何が悪いのだと思いますか?」


「これは簡単です。顕如上人にはこの言葉の方が理解出来ましょう。それは『王法為本』に他なりません」


「成程。これは耳が痛い。願証寺でも北陸でもソレを証明したのですな。織田殿は」


「そうだと思います。某はそのどちらにも参戦はしませんでしたが、顛末は聞き及んでおります。聞いた時は驚いたモノですが、聞けば聞く程、殿の言い分に利がありました。上人の前で言うのも何ですが」


「願証寺を預かっていた証恵の名誉の為に言うなれば、指導力が行き届かなかったとの事で、枝寺院の暴走は知らなかった。が、責任は責任者が負うモノ。願証寺の消滅は避けられぬ事だったのでしょう」


「殿は、王法為本に大変期待している感じが致します。それが国を救うとも。某如きでは、殿の大計は計り知れませぬが、本願寺及び顕如上人には、殿の天下布武に即した寺院運営を願うばかりです。これは本願寺が浄土真宗だからこそだと思いますぞ」


「浄土真宗だからこそ、ですか。全く、油断ならないですな。織田殿も、将軍、いえ藤次郎()も。良く分かりました。ありがとうございます。それでは沿岸地域の寺に案内させましょう」


「承知しました」


 顕如は、配下の僧侶に長輝を送らせると、瞑想に入った。

 入らざるを得なかった。


(もう歎異抄については、漏れている前提で動かねばなるまいな)


 頼廉の手紙には、蓮如の弟子、蓮崇写本の歎異抄の存在に触れていた。

 その蓮崇写本が、朝倉連合軍の手に渡っているとは書かれていなかったが、信長の話ぶりから、今更、違うとも言え無い。


(これから長い期間正念場となり続けるだろう。ひとつ間違えたら本願寺は潰える! こんな急に正念場が表れるとはな! ……正念場? これは本当に正念場か? 正念場には違いないのか……?)


 顕如はこの先の展開を読み、どう動くべきか?

 懸命に考えるのであった。

挿絵(By みてみん)

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