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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
19-1章 永禄6年(1563年) 弘治9年(1563年) 
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187-3話 因果 飴と鞭

187話は3部構成です。

187-1話からご覧ください。

「それにしても、天下一の極悪人たる英林孝景公の真似を、子孫がより大規模にする事になるとはな。因果なモノよ」


「真似……まぁ確かに因果は感じますな。かく言う己も、英林孝景公は色々参考にはしましたが、今回はどちらかと言うと等価交換です。苦しいのは不良僧侶だけなれば、まずは丁寧に通達説明を行い、反論があれば遠慮無く英林公の真似を為さるが良いでしょう」


 延景が先祖代々の因果を感じれば、信長も因果を感じていた。

 英林孝景を参考にした因果もあるが、史実の義景は、形勢不利となれば延暦寺に逃げ込み、本願寺と共に信長包囲網の一角に居たのだ。


 史実では寺社と共にべったり歩んだ義景。


 それが、この延景は宗教の規制に乗り出した。

 歴史的にも、別次元的も、因果を感じざるを得なかった。


「それにしても良く出来た法よな……。その法の施行にて吉崎御坊を保証すると共に、北陸の戦を扇動する者だけを戦う対象として絞る訳だな?」


 この法の利点はすぐに伝わるだろう。

 この法度を守れば、彼らの聖地である吉崎御坊は傷一つ付けられる事無く守られる。

 

 一向宗たる浄土真宗が何より恐れるのは、吉崎御坊の陥落と消失だ。

 これを守る代わりに法度を受け入れ、頼廉は降伏すると言っている訳だ。


「その通りにございます。これから吉崎に戻って七里頼周の説得に入りますが、外部からやって来た拙僧と、10年苦楽を共にした七里の言葉。どちらに分があるかは明確ですが、それでも説得を試みます」


 史実の頼廉からは考えられない素直さと譲歩だが『北陸を何とかしたい』との思いは一致しているのだから、話し合えばとんとん拍子だろう。


「下間殿がこの法を受け入れる覚悟を見せたのだ。ならば、此方も下間殿が知らぬ情報を渡し、吉崎を守る保証を付け、その代わり対処なり知恵を借りるとするか」


 信長が改まって頼廉に向き直り尋ねた。


「対処? 知恵? 保障? 一体何でしょう?」


「まず武田家。信玄が引退し息子の義信が家を継いだ。一応、表向きには飛騨攻略失敗の責任を取った事になっておるがな。この武田家が今後本願寺とどう付き合うか全くの不明な点が一つ」


 本当は偽物だが、本物同様の実力者の偽信玄と、鮮やかな謀反を成功させた義信の功績については伏せた。

 偽信玄が偽信玄のまま本願寺と親密な関係を続けるのか?

 元々イレギュラーな武田家が、色々動いた上に謀反で体制が変わった。

 武田家がどう動くか分からないが、今まで以上に混乱の元だし、もはや武田は飛騨ルートでは一揆に関われない。

 越前側としては、武田はもう無視して良い存在だが、ただ、本願寺がどうしても武田を関わらせたいとなると、面倒が起きる可能性がある。


「そんな重大事項で、まず一つ目ですか! 拙僧も1年牢に居たので向こうの状況が分かりませぬが、武田家には本願寺から同行した頼照と証恵が同行しておりますので、連絡を取るしか把握が出来ませぬ。現状確認の為にも書状を出させて下さい」


「それは確かにそうだな。貴殿にとっては現状把握も必要だが……今、頼照と証恵と言ったが、それは下間頼照と願証寺の証恵の事か?」


「証恵の事はともかく頼照もご存じでしたか」


 頼照については3回目の人生だから知っている。

 何せ頼照は越前で織田軍と戦った歴史がある。

 だが、それは戦力の決定的差もあり大した問題では無かった。


 問題は長島を生き延びた証恵の方だ。

 その憎悪は以前の歴史よりきっと深いだろう。

 それが武田に同行しているのは『織田憎し』の一念と信長は見ている。

 だが、頼廉は意外な事を言った。


「長島の顛末は拙僧も聞き及んでおります。今の証恵は織田殿への憎しみを忘れぬも、どちらかと言うと、北陸を同じ目に合わせたくない一存で動いていると見ています。少なくとも出発から別れるまでは、その気持ちでいたハズです」


「そうか。自分で言うのも何だか、あの惨劇の憎悪を晴らすのでは無く、北陸の同胞の為に動くか。この1年でその信念が変化していなければ良いがな」


 信長も言いながら『ワシなら絶対恨みは忘れぬがな』と思いつつ、証恵の歴史改変に期待した。


「そうですね。話は戻りますが、拙僧が送った書状の返送先は朝倉様の一乗谷城としましょう。この本多弥八郎が伝令として動いてくれます」


(本多……弥八郎!?)


 頼廉の言葉に一番反応したのは松平元康だった。

 三河一向一揆終結後、いつの間にか姿を消した配下だったが、約10年ぶりの突然の出現に激しく動揺した。

 だが、今は個人的な事情で話に割り込める身分でも無い。

 元康は懸命に感情を堪えた。


 そんな姿を信長も横目で確認した。

 本多正信とは、信長もそこまで顔馴染みでは無いが、一向一揆に参加して、徳川家に帰参した人間だとは知っていた。

 徳川家の重臣として手腕を振るう頃には、信長はとっくに本能寺を迎えていたからだ。


《ほう。あれが本多正信か。前々世でも一向一揆に参加したと家康に聞いていたが、まさに今、参加中だったか》


《どうします? 時間を取って対面させてあげますか?》


《難しいな。本多としても合わす顔が無いかも知れん。今の元康としても、裏切った憎い家臣なのかも知れん》


《じゃあ、後で、どうしたいかだけ聞いて、叶えられる要望なら叶えましょうか》


《うむ。それが良いだろう》


 思わぬ人間の思わぬ登場に、歴史変化の都合や、お互いの今の感情が憎悪なのか、懐古なのか分からない。

 とりあえず、後で対応する事とした。


「武田に滞在しているなら、『道が塞がれてしまった以上どうにも動けない』との返事が来るでしょう。また、拙僧の様に武田家から離れた場合はその旨を一旦、報告させ、何処にいるのか探らせます」


 実は『武田から動けない』や『上杉に活路を見出す』でも無く、一揆と合流してしまったのは誰も知らない。

 笹久根と名乗った武田信虎、信友親子が捕らえて一揆側に合流して、そのまま信虎親子は上杉軍に脱出したままだ。


 実は信虎も、彼らの名は聞かなかった。


 知っているのは『本願寺の使いの者』と聞いただけだ。

 これは名前を聞かなかった信虎のチョンボと言うよりは、北陸への退却道中、名前や身分は当然、飛騨の民とも退却中は接触させぬ、念の為の行為だったので仕方ない。(173-2話参照)

 その信虎達も飛騨に派遣され、武田への警戒と、飛騨復興を指揮している。

 すぐには詳細を確認出来ない。


「して、二つ目は何でしょう?」


「これは教えると同時に尋ねたいのじゃが、『七里頼周』とは何者なのか教えて頂きたい」


「七里頼周ですか? あ奴は、顕如上人に拾われた下級武士にございますが、見所があり、才覚も抜群であっ為、北陸の一機鎮圧に派遣されました。……結果は知っての通りなのですが」


 これは本当にその通りの何の変哲も無い話。

 史実通りでもある。

 史実と違うのはその先であった。


「そうか。実はその『七里頼周』がな? 最低でも2人以上その名を名乗っておる。ワシは飛騨で直接交渉もしたが、一方で、朝倉殿と斎藤殿が、この越前で干戈を交えた。七里頼周とは称号なのか? そうで無いなら同姓同名の人物が北陸に最低でも2人暴れまわっている事になる。しかも両者共に強烈な才覚を示しよる。そこでじゃ。下間殿が吉崎の牢屋越しに面会した七里頼周とは、本当に本物か?」


「……。……え?」


 この問いを理解するのに、頼廉と言えど時間を要した。

 寝耳に水過ぎる。

 何と言って胡麻化すか、では無く、意味が分からなかったからだ。


「七里が2人!? よ、吉崎で会ったのは確かに七里頼周でした。10年ぶりではありますが……あ奴……だったのか……?」


 北陸の騒乱に揉まれ『七里頼周』は劇的に進化した。

 気配も武力も、闘気も苦労が築き上げた顔付きに変貌していたが、確かに七里頼周だった――はずが、急速に自信が失せて行く。

 まさか偽物の可能性がある人物だったのか。

 あんなに話が合わせられる程、関係性を知った偽物なのか。


「幸か不幸か、いや、これは不幸寄りと言うべきだな。ともかく誰も『七里頼周』を見比べた事が無いのじゃが、どちらか、或いは両方が単なる偽物と決め付けて良いかと言うと違う。名前はともかく、その才能は確かなモノじゃ。越中の七里頼周は謀略で越中を守り切り、越前の七里頼周は戦で朝倉斎藤軍と互角に戦った。これは尋常な才では無い。本物なら当然、偽物も恐ろしき人物じゃ」


 信長も自分で言いながら、改めてとんでもない才覚だと感じざるを得ない。

 これで『七里頼周』は下級武士出身なのだから、やはり、今は木下秀吉と名乗る農民出身の武将の様に、登用の窓口は可能な限り門戸を広げるべきだと、変な所で改めて確信する。


「も、申し訳ございませぬ! 拙僧も初耳にございます! ……10年ぶりの挨拶にも何ら不自然な行動は無かった……ハズ……!」


 史実にその名を刻んだ頼廉と言えど、今はまだ成長途中。

 想定外過ぎる問いに、戸惑いが隠せない。


「少なくとも吉崎御坊で『七里頼周』が複数人いるなどと言う話は一切聞きませんでした。ただ、これは隠しているのか、その名を利用した戦略なのか、判断が付きません。民からは慕われておりまして何ら不自然な様子もありません」


 困惑とはこんな顔なのだろう。

 端正かつ鋭い顔だった頼廉の顔が『福笑いの如く』とまでは言わないが、乱れに乱れていた。


「そうか。信じよう」


 信長はあっさり信じた。

 他の者も同様だ。

 それ程までに頼廉の態度は困惑していた。

 これで嘘ならアカデミー賞モノの演技力だ。


「そうなると、本物の七里頼周がどこかに一人いて、その名を名乗るに相応しい人物にも名乗らせて居るのかもしれん。北陸全体で『七里頼周伝説』を作り上げる為に。あらゆる戦場に表れて、奇跡的な戦果を挙げておる。或いは民も『七里頼周は何人も居る』と知っておるかも知れぬ。その場合は『七里頼周の神通力を授けられた存在』なのじゃろう。……これはマズイな。このまま行けば奴は神話になるじゃろう。そうなると、民の支持が切り崩せ無くなってしまう」


 科学が絶対の世界でも、自分が何宗の信徒なのか知らない日本人が多い現代でさえ、神秘のパワーには弱い。

 ご利益が怪しくとも大晦日には神社に参拝するし、パワースポットは観光地として人気だ。

 ならば宗教が絶対の世界で『蓮如と蓮崇の意思を継いだ』と言い、圧倒的な戦果で北陸を支配する『七里頼周を名乗る者』を疑う者など居ない。

 或いは複数人いるのが当然と思っているかも知れない。


 頼周が神格化されたが最後。

 それは『頼周(らいしゅう)教』の誕生に他ならない。

 そうなれば、従う民は根切りにするしか無くなってしまう。


「下間殿。こちらでは法度を施行し、宗教の平等と権利を守る動きに入る。其方は、この事実を伝え、浄土真宗も同じ様に差別無く扱うと伝えて欲しい。これで聖地吉崎も守れるとな。その上で七里頼周の真相を調べて貰いたい。降伏するなら命の保証もする、とな。あれは死なせるには惜し過ぎる。北陸を混乱無く治める意味でも奴は必要じゃ」


「承知しました」


「2か月待つ。そこで、さっき言った保証だ。兵糧1万石分を預ける」


「1万石!?」


 1万石は現代換算で50億円。(1石=5万円計算)

 これをポンと出すと約束する信長。


「これは、下間殿の誠意に対するこちらの誠意。つまり織田軍が居ても吉崎に対し兵糧攻めを行わない証。これを持って帰って交渉の成果とし、七里と一揆衆に対し発言力を確保してほしい」


 勿論、誠意の中身の殆どは建前。

 真意は脅しだ。

 信長は暗に『1万石を譲渡しても問題ない準備を整えている』と言ったのだ。

 勿論、その中には様々な策も含まれている。

 その一つが、頼廉の為だ。


「な、成程……! 手ぶらでは説得力も何も無いのは間違いないですが、それにしても1万石……!」


 何の成果も得られないでは、七里頼周は揺るがない。

 頼廉派を作らねばどうにもならない。

 その為の1万石だ。

 本願寺への貸しにもなるし、この1万石は痛くも痒くも無い。


「それでじゃ。まずは法度による保護を七里に納得させ、その上で七里頼周について知った情報を教えて欲しい。手紙でも直接でも何でも良い。帰り道には兵糧運びの人員に間者を紛れさせるから、直接が無理ならその者に頼んでも良い」


 もう一つが、頼廉公認の間者の潜入。

 七里説得が無理だった場合、頼廉は自由が利かなくなる公算が高い。

 その不都合を無くす為の運搬人足であり、潜り込む間者である。


「仮に、どうしても連絡が取れなかったら、下間殿がまた牢に入れられたとみなし2か月後には軍を動かす。下間殿と取り交わした書状もあるこれで約定違反の恐れは無くなったも同然だ」


 一揆衆との約定が軽いとは言わないが、より上位に位置する者が認めた書状があるのだから、何にも遠慮する必要はない。

 それなのに2か月待つのは、朝倉側の法度施行期間もあるが、慈悲と頼廉を評価しての事である。


「それとは別に懸念点だが、下間殿との約定が無くとも、必ず暴走する輩が出現するだろう。或いは越前国で施行される朝倉殿の新法度に反発し、そちらに合流する僧も少なからず居るだろう。そうなった時、こちらは防御に専念する。そこに七里頼周が加わった情報を得たら、完全な交渉決裂とみなし、吉崎を守りつつ攻める事になるだろう」


 信長の懸念は尤もで、上同士の決め事を、何も知らない下の者が破る例は現代でも多々ある現象だ。


「そうならぬ様、努力します」


「うむ。こちらも当面は法度の説明と施行を手伝いつつ、迎撃の準備も整える。その頃には今川殿の追加の援軍も到着する頃だろう」


 今川家からは後3000が来る事になっており、そちらの総大将は義元自らだ。

 駿河に残っていると、北条や武田に援軍を請われる恐れがある為、逃げてしまう意味もある。


「繰り返し言うが、吉崎には攻撃を加えない様にする。但し、ここで最悪の場合を言っておく。七里次第では保証が出来ぬ。それは奴が吉崎御坊に籠城したら攻めるしか無いからな。吉崎御坊を攻めぬと勘違いして籠城されても困る。あくまで。なるべく吉崎御坊を戦場にせぬだけの約定じゃ。戦う道を選んで吉崎を守りたいなら、それは野戦しか無いと伝えて欲しい」


 信長が、考えられる逃げ道の一つを封じる共に、決戦するなら野戦だと告げた。

 そうで無い場合は吉崎御坊の保証もしないとも。

 そう語る信長の顔は『間違い無く実行する』と断言出来る恐ろしい顔であった。 


「また下間殿は話の分かる御仁だ。失うのは惜しい。どうか説得を頑張って欲しい。その間、我らも法度での平等を示し、宗教の平等に嘘は無い事を証明しよう。ただ、そちら側でどうしても説得が平行線となったならば、説得に応じた民だけを率いて吉崎に籠城し、救援の密使を送るが良い。こちらから同行させた間者を使っても良い。合図があれば救護依頼と受け取る」


 頼廉が吉崎に籠城し、頼周が包囲する形なら、睨み合い以上になる可能性は低い。

 頼周にとっても聖地を攻撃は出来ない。

 その吉崎包囲を、更に外から急襲すればカタは付く。


「その上で最悪を想定し、戻ったら吉崎周辺の戦えぬ女子供を吉崎御坊に退避させよ。野戦になったらいちいち区別確認など出来ぬからな。これは七里も納得してくれるだろう。兵糧も渡すのだから兵糧攻めも無いしな」


「承知しました。戦えぬ民が血を流すのは最悪です。避難出来る様に致します」


「もう一つ、出来れば七里と会談をしたい。下間殿の意見は今知ったが、あ奴の出方、正直な気持ちも直接聞いてみたい。下間殿には、その御膳立てを頼みたい」


 これは本当の事でもあるが、越中の七里頼周を知る信長が、2人を見比べたい思惑もあった。


「し、承知しました。2カ月以内に返事が出せる様、動き備えます。その為に、まずは会談の意向を伝えます」


 こうして会談を無事に終えた頼廉は退出し、広間には朝倉に味方する者だけが残った。


「流石は織田殿じゃな。法度施行も勿論大事じゃが、万が一も大事。更には我らによる吉崎御坊の防衛。これでどう転んでも問題なかろう。あわよくば越前から一向一揆と不良僧侶を加賀に追いやり、加賀の情勢にも影響を与えてやろう」


「七里頼周も下間頼廉も大事ですが、やはり吉崎御坊は人質(?)として確保出来るに越した事は無いですからな」


 信長が悪い顔をしながら言った。

 七里頼周と言う神性を得ようとする存在。

 本願寺本家の高僧たる下間頼廉の説得。

 どちらも重要には違いないが、吉崎御坊の歴史的価値には敵わない。

 そこに戦えない人員を押し込んだ。

 建物も人も、人質として切り札にもなりうるからだ。

 

 朝倉側としても、頼廉との書状取り交わしで正当性は手に入れた。

 後は数で押し潰すか、運良く説得が通るかだ。


 諸将も帰蝶も、若手武将もその真意に気づき呆れるやら、これが政治かと納得したりと様々だ。

 ただ、諸将も含め、説得の成功に賭けている者は居なかった。

 何か問題が起きる事を想定している顔付きだ。


「フフフ。まぁ民の血を流したくない思いに嘘は無い。だが、我ら朝倉の支配で加賀やその先まで、朝倉に従えば楽が出来ると思わせられれば勝ちじゃな。織田殿が願証寺相手にやった様に、暮らしの充実ぶりを見せ付ける。七里頼周の奇跡とどちらが現実的か? ここを勝負の分かれ目にしたい。その為の法度受け入れでもあるしな」


「全くもって異論はありません。苦しい一揆には、余裕と贅沢を見せ付けるのが一番です」


 延景と信長の言葉に諸将もようやく気が付いた。

 七里頼周が苦慮に苦慮を重ね下間頼廉を派遣した時点で、延景と信長はこの先の展開を、かなり明確に思い描いていると。


《わ、私もそれ位は即座に看破しないと行けないわね……!》


《そうじゃな。この歴史の義景ならぬ延景は優秀だ。頼りになる。ワシもうかうかしておれんわ》


 武術は圧倒的だが、政治的駆け引きはまだ甘い帰蝶であった。

 信長もさっきまでのやり取りの中ではすっかり忘れていたが、史実の義景は本当に失策を繰り返し、そのお陰で信長は助かった部分もある。

 前の歴史ではポンコツで助かったが、この歴史では頼りがいある同盟者として見ていた。


 こうして越前では法度の施行と共に、不良僧侶の一掃に動くのであった。


「おっと、そうだ。此度の援軍には幸か不幸か女武将が多数参戦しておる。もし、七里との交渉の場が立ったら全員参加してもらうので、そのつもりでな」


「えっ? それは一体……」


「フッ。ある意味長島の再現よ」


 信長は不敵に笑った。

 実に悪そうな顔だ。

 帰蝶には、一体何の効果があるのか分からなかったが、一揆にダメージを与える何かなのは理解するのであった。


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