表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
369/447

外伝57話 激闘の4月1日

4月1日ですね!

1年経過するのが早い!


外伝55~57話の3部作です。

外伝55話からご覧ください。

【5次元空間/時間樹】


「良し。では誰から行く? 立候補が無いなら、ワシから行かせてくれんか?」


 朝倉宗滴が『良いよな? 頼むから一番手で行かせてくれ!』と言外に言わんばかりの期待を込めた声で言った。

 未来式超特訓を受けた所で、その力を試す相手が居ない中、現れたのは日本最強の怨霊達だ。

 厄介極まり無い一方で、待ち望んだ死をも賭けた力の試し所だけに、相手に不足は無い。


「仕方ないのう」


「気持ちは分かります。ここはお譲り致しましょう」


 道三や義龍ら好戦的な人物が、宗滴のはしゃぎっぷりに苦笑しつつ順番を譲った。

 皆、帰蝶が受けた特訓よりも、レベルの高い未来式超特訓をクリアして来たのだ。

 誰でも身に着けた力や技を、試せるなら試したいに決まっている。

 殺人が日常の戦国時代の人間なら猶更だ。


 年長者(と言う概念はもう無いに等しいが習慣での)配慮と、やはり現時点でも最強の宗滴がどこまでやれるかは、後の順番待ちの人間にとっても、良い指針となる。


「あ、あの、私は肉体から魂を抜き出す操作をしなければならないので、最後でお願いします」


 ファラージャが言った。

 勿論、理由としては正しいが、実戦経験が皆無故に、戦う前に決着が付く事を願っての発言であるのは言うまでも無い。


「当然ね。では雪斎殿、信秀殿、家の夫と息子が出撃したそうなので、我らは後半組でよろしいかしら?」


 深芳野が確認を取った。


「そうですな。人間では無く怨霊相手ですからな。まずは見るのも手でしょう」


「はい。拙僧に異存はありません。どの順番でも構いません」


 別にその提案に文句は無いし、(誤解の面が強いが)深芳野の事は、逆らってはならない危険人物だと認識している信秀と雪斎も、その言葉に従った。


「そうね。じゃあ私は6番目で、殿方に4、5番目はお譲りしますわ」


(これから怨霊と戦うと言うのに、肝が座り過ぎている!)


 人外の怨霊と初めて戦うとは思えぬ闘志と自信に、戦国武将の狂戦士ぶりを再確認するファラージャであった。 


≪決まった様じゃな? では宗滴殿、私に向かって強く念じれば、その武具に変化して見せよう。但し、同時に変化出来るのは一種類だけじゃ。例えば剣と盾には同時に変化出来ぬ。そこは注意して戦うが良かろう≫


 惟喬親王が変身に際し注意事項を述べた。

 平将門などは複数の生首を飛ばしているが、あれで一つ扱いなのか、怨霊だから複数操作も可能なのかは分からないが、惟喬親王は正気を保っている分、変身にも限度がある様であった。


「心得ました。では大身槍に変化して頂けますかな?」


≪心得た。これ位か?≫


 宗滴が願った瞬間には惟喬親王は既に変化していた。

 その槍を手に取って宗滴は驚愕の表情を浮かべる。


「これはッ!? な、ならば、柄は某の身長と同じで、穂先は4尺(121.2cm)でも可能ですかな!?」


 何やら興奮した様に宗滴が注文を付けた。


≪よかろう≫


「4尺!?」


 一方、ギャラリーは4尺の大身槍を要求した宗滴に驚いた。

 これは刃物の分だけで4尺(121.2cm)ある要求。

 普通の刀でさえ二尺少々(約70~73cm)程度だ。

 刃物がメートル超えの槍は尋常では無い。


 一応、花岡八幡宮に納められている、幕末に作られた『破邪の御太刀』は、何を狂ったのか、刃長は345.5cm、全長465.5cm、重さ75kgと、狂戦士(ベルセルク)でもなければ振れない刀も現存する。

 宗滴の要求した穂先は『破邪の御太刀』にこそ届か無いが、大身槍である上に、重量は刃が4尺の特注品。

 普通の大身槍で重くて6kg。

 これは軽く30Kgを超えて来るだろう。


 だが宗滴は、その超巨大な自分の身長より大きい大身槍を、難無く振り回し筋力でピタリと止めた。


「おぉッ!?」


 生きているギャラリーは信じられない光景に驚くしか無い。


≪そこの臨済宗の僧侶よ。読経の前に宣誓する言葉があるじゃろう? あの一節を頼む≫


「えっ? は、はい。『南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ)……!』こ、これで良いですか?」


 槍に頼まれるとは思っておらず、雪斎は戸惑いながらも、生前では毎日行って来た念仏を唱える。

 これは臨済宗において、読経をする前の挨拶みたいなモノであり『お釈迦様に帰依します』と言う宣誓でもある。

 その言葉が終わると共に、槍が輝きだした。


 宗滴が槍を振ると、美しい軌跡が残像として残る。


≪うむ。これでこの武具にはお釈迦様の神聖な力が宿った。普通に攻撃するより効果的じゃろう!≫


 槍になった惟喬親王が頷く。

 刃と柄の付け根が首なのだろう。

 そこが曲がって頷いた。

 

「……何か色々と凄いが、一応、この作品は歴史ジャンルじゃぞ? これでは5次元ならぬ異世界ファンタジーじゃ無いか? ジャンル違いにならんか?」


「そ、そうですな。ジャンル違いは重罪と聞きますぞ?」


「一発垢BANもあるやも知れませぬ……!」


 道三と義龍と信秀が心配そうにキョロキョロと周囲を見渡し、何か怯えた表情で心配する。


「ま、まぁ、怨霊の概念は間違いなく日本の歴史でもありますし、今日だけは許されます……多分」

 

 雪斎も不安ながら大丈夫だと分析する。

 まさか自分の念仏が神聖魔法の如く効果を発揮するとは思わず、驚きつつも自分に言い聞かせる様に言う。

 下手したら、怨霊よりも強力な存在(運営)から罰せられる恐れもあるので、言葉は慎重だ。

 一応、野球もバイオパニックも潜り抜けたので、大丈夫だと信じたい。


 一方、朝倉宗滴はノリノリだ。


「我こそは越前にその人ありと言われた朝倉宗滴! ワシの相手は誰じゃ!?」


≪では、我が相手して進ぜよう≫


 返事をしたのは文屋康秀だ。

 肌寒い風を巻き起こす怪異と化し文屋康秀が進み出た。


「ほう。風を操るか。無の5次元空間で風を巻き起こすとは、対した恨みよな」


≪そうだろう? 我らは惟喬親王の為に懸命に働いたのだ。それなのに惟喬親王がそちらに着くとはな……! 許せぬ!『吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐といふらむ……!! 暴れよ! 山嵐風烈乱舞やまあらしふうれつらんぶ!』≫


 文屋康秀が歌を詠むと、周囲一帯が暴風に晒される。

 魂では無く肉体だったら、とっくに遥か彼方に吹き飛ばされているだろう。

 だが『魂ならば大丈夫』と言う訳でも無く、宗滴の魂にもこの暴風は影響を及ぼしている。

 この暴風を魂が『真』と判定すれば、魂も飛ばされ5次元の彼方を彷徨う事になるだろう。


「うおッ!? ぬッく……!」


 宗滴は懸命に足腰に力を入れ、槍を足場の無い5次元に突き立て堪える。

 宗滴の魂が、この暴風を認め始めてしまい、立つのがやっとの様子だ。


「宗滴さん! 気を確かに! これは超強力な幻術です! でも、言わばプラシーボ効果です! 本来なら実害は無いのですが、思い込みが肉体や魂の自壊を促すのです!」


 ファラージャが対策を叫ぶ。

 3次元世界の怨霊は、所詮は『気のせい』である。

 精神の弱い人間程、自責の念に苦しみ、怨霊の的にされたと判定される。

 怨霊全盛期の平安時代などは、恨まれる心当たりのある生者が、勝手に精神を病み倒れ、自滅して死んでいく。

 

 だが今、宗滴が食らっている暴風は、ファラージャ達から見ても、現実の光景に見える。

 そこまで強い幻術作用は当然、肉体にも影響を及ぼすだろう。


「そう言う事か……! ならば! 見せてくれよう!」


≪その長尺槍をこの暴風の中で振り回せるならやってみるが良い!≫


「言われるまでも無いわ!」


 宗滴が槍を頭上で猛烈な勢いで旋回させ、宗滴を中心に竜巻を発生させる。

 文屋康秀の暴風がエリア全体の範囲攻撃なら、宗滴の槍は個人だけを守る竜巻。

 風の密度が違い、宗滴個人に集中している分、暴風は竜巻に反らされていく。


≪ば、ばかな!? この暴風で身動きなど取れぬはず!? しかもこの暴風を取り込んで竜巻を作り出すじゃと!?≫


「意外か? それは勝手な思い込みじゃのう。これ位の暴風、耐え切れずして、あの訓練をクリア出来ると思うてか! そして見せてやろう! この技はこれで終わりでは無い! 行くぞ! これぞ越前朝倉家槍術奥義、九頭竜乱気流槍烈閃くずりゅうらんきりゅうそうれつせん!!」


 宗滴が奥義の名を叫ぶと、槍を頭上回転から、体の前方での回転に切り替え、今までは宗滴を守っていた竜巻が、文屋康秀目掛けて倒れ動きを封じる。

 宗滴は作り出した竜巻の流れに飛び乗り、螺旋状に一気に間合いを詰めると、槍で文屋康秀を滅多突きにした。

 九頭竜の名が示す通り、越前九頭竜川の勢いの如く、同時9発の神技にして乱気流の名の通り、螺旋まで加えた9発の突きだ。

 食らえばひとたまりも無い。


「むぅ! あれは名称こそ違えど、臨済寺錫杖術奥義、昇龍乱気流しょうりゅうらんきりゅう錫杖護陣(しゃくじょうごじん)!」


「知っているのか雪斎!?」


 雪斎の知識に、道三が驚いて尋ねる。

 それと何故か、彼らは劇画調気味の風貌に変質していた。


「うむ。この技は――」


 昇龍乱気流錫杖護陣――

 ある日、旅の僧侶が立ち寄った村で台風に襲われた時、念仏と共に錫杖を頭上で旋回させると、徐々に風が集まり竜巻を作り出し台風に備えた。

 僧は村人全員を竜巻の中に集めると、一晩中錫杖を回し続け、台風を退ける竜巻で村人を救った。

 この死傷者ゼロで収まった奇跡を称し、村人は昇龍僧正と称えた。

 なお、現代における、台風直撃の際に傘を差そうとして裏返しになる光景は、竜巻を作り出そうとして失敗した姿である事は言うまでも無いだろう。 

 また、飛行機に乗って乱気流に遭遇した際、地上でこの技を使っている者が居るので注意されたし――

氏朋(しほう)書房 『風と共には去らぬ』 より――】


「――むぅ。そんな奥義が朝倉家に伝わったのか独自に編み出したのかは分らぬが、朝倉宗滴……味方ながら恐ろしい男よ」


「あぁ。ワシはとんでもない男と戦っていたのだな……!」


 道三と義龍が、驚愕しつつも宗滴の頼もしさに『味方で良かった』と安堵した。


「……貴方達? 一体何を言っているの?」


 深芳野が、突然画風が変わったかの様な、意味が分からないやり取りに困惑していた。


「深芳野殿、これはお約束と言う奴でしてな? こう言う場合はこうするのが作法なのです。まぁ深くは突っ込まんで下され」


 信秀が、深芳野を窘めた。


「そ、そうなのですか……? 男の世界は分からないわね……???」


 一方、朝倉宗滴と文屋康秀の勝負は決着がついていた。

 9か所もの刺し傷が、神聖念仏と合わさって、急速に怨霊成分が蒸発し、真っ赤な鮮血の如く飛び出し文屋康秀の体から抜けていく。


≪グググ!? こ、これしきで我が恨みが……!≫


≪康秀! 恨みを忘れる事は出来ぬかも知れぬ! だが我らの時代は終わったのだ! 確かに後継者争いには負けた! だが、我らの恨みはこの者らが晴らしてくれるのだ!≫


≪私は……! 貴方を……! 天皇に……!!≫


≪魂を汚す怨霊よ! 康秀の体より退去せよ!≫


≪グ……ズ……ギャァァァァム!? ……私は一体?≫


≪正気を取り戻した様だな康秀よ≫


≪え? その姿はともかく御声は惟喬親王!? おぉッ!? この風景は一体? ぬおっ!? 何じゃあの妖怪共は!?≫


 正気を取り戻した文屋康秀が、見た事の無い光景に戸惑う。

 特にさっきまで仲間だった者達の姿を見て腰を抜かした。


≪詳細はあちらの者達に聞いて、落ち着いて歌でも詠むが良かろう≫


≪え、えぇ……分かりました≫


≪ククク……! 文屋康秀がやられたか。奴は六歌仙の中でも最弱!≫


 喜撰法師が裂けた口で瘴気を輩出しながら、愉快そうに笑っている。

 

≪(古今和歌集に一句しか掲載されていないお前が、最弱とか言うのか……)≫


 三大怨霊から、文徳天皇、残りの五歌仙が心の中で突っ込んだ。

 例え怨霊と化しても、醜悪な化け物となっても、突っ込まずには居られない状況に遭遇したら突っ込まざるを得ないのは、怨霊も人も同じなのだろう。


 一方、宗滴は二番手に名乗りを上げた義龍に槍を渡した。


「こ、これは!?」


 義龍は、手渡された惟喬親王が変化した槍を受け取って驚く。


「驚いただろう? 驚異的に軽いのに、適度に重量も感じるのだ。魂で出来た武具だからなのだろうな」


「成程。だからあんな大技を繰り出せたのですな?」


「うむ。そう言う事だ。本物の大身槍ではあんな事は出来んわい」


 まるで軽い槍ならば、3次元の現世で竜巻を作り出せる言い草だ。


「しかしこの槍は凄いな。9段突きと言わず、やろうと思えば10でも100でも突けたじゃろう」


 物質から解放された魂の状態だ。

 想像力でどうとでも何とかなる。


「ん? なら、何故突かなかったので?」


「技名が九頭竜とあるからな。9回以上突いては締まらんじゃろうて」


「……そ、それもそうですね」


「ま、その9回は1000回突く以上の力を込めてやったわ。ハハハ!」


 宗滴は豪快に笑って見せた。

 一方義龍は『よく現世で戦って死ななかったなと』冷や汗をかいていた。


「な、成程。……と言う事は惟喬親王。――と言う事は出来ますか?」


≪出来るぞ。任意のタイミングで合図するが良い≫


 義龍が惟喬親王と作戦会議をしている一方で、怨霊陣営は次に誰が出るか協議して――いる様に見えて、喜撰法師が9怨霊の視線を集めていた。

 目玉が2以上存在する怨霊もいるので、9怨霊と言いつつ、視線換算の人数は数えきれない視線だ。


≪次は喜撰法師に行ってもらうのが適当かと思うが、どうかな皆の衆?≫


 崇徳帝の提案に、全員が頷いた。


≪えっ!? な、何故!? い、いや、行けと言われれば行きますが……皆さんの視線が何か突き刺さるのは気のせいでしょうか? ちょ、道真公、痺れる……!≫


 敗れた者を侮辱した行為を怨霊は嫌う。

 何故なら自らも敗れた末の怨霊なのだから。

 喜撰法師は先程、負けた文屋康秀に対し失言をしてしまった。

 故に、『そこまで言うならお前が行け』と圧力を掛けられていたのだ。


≪怨霊たる者、怨霊の気持ちを理解出来ねばならぬ! 喜撰! 次に仲間を侮辱すれば怨霊失格としその怨力を没収するぞ!?≫


≪は、ははぁ! 拙僧の失言と失態、次の戦いで必ずや汚名を雪いで見せまする!≫


≪うむ。分かれば良い。では行け!≫


 こうして始まった斎藤義龍vs喜撰法師。


≪怨霊六歌仙が一人、喜撰法師参る! 『わが庵は都の辰巳しかぞすむ世を宇治山と……≫


「遅い! 美濃斎藤家槍術奥義! 八岐大蛇咬殺槍やまたのおろちこうさつそう!!」


≪なっ!? 詠唱中の攻撃はお約束違反……ぐわぁぁぁぁッ!≫ 


 義龍の必殺奥義が喜撰法師に炸裂し勝負は決した。

 義龍は槍を突くのでは無く斬撃に使用したが、八岐大蛇が一斉に標的に咬み付くが如く滅多切りにした。

 その際、槍が義龍の合図に従いぐにゃりと曲がり、軌道を読めなくした。

 怨霊らしく不気味に優雅に歌を詠むのに集中していた喜撰法師は、義龍の槍をまともに食らって浄化された。


≪拙僧は一体……?≫


 あっけなくやられたが、その代わり正気を取り戻した喜撰法師は文屋康秀に促され、今起きている事を説明された。


≪ほほう。まさかセリフの途中に攻撃とはな。怨霊の我でさえドン引きの卑劣な行為。時代も変わったのだのう? ハッハッハ! 良いぞ! そう来なくてはな!≫


 その後も戦いは続き、4勝先取のハズがいつの間にか全員戦っていた。

 ルールがいつの間にか変わっているのは、週刊連載では良くある事だ。


「美濃斎藤家槍術奥義! 遠呂智燐魂(おろちりんこん)!」


≪馬鹿なぁぁぁぁッ!?≫


「尾張織田家刀剣術奥義! 虎顎斬鋼剣(こがくざんこうけん)!」


≪そんな……ぐぎゃあぁぁぁ!≫


「臨済宗善徳寺錫杖術奥義! 真法断罪(しんぽうだんざい)! 般若波羅蜜多陣はんにゃはらみったじん!」


≪この恨みがッ……アァッ!!≫


「美濃稲葉家暗器術奥義! 幻朧扇美舞踊斬げんろうせんびぶようざん!」


≪こ、こんな醜女にぃぃぃッ!!≫


「え、えーと? 未来斎藤家? 体術奥義、斎戒霊魂滅心気功拳さいかいれいこんめっしんきこうけん……///」


≪こ、こんな恥ずかしがりながら叫ぶ奥義で余の恨みが……!?≫


 六歌仙と文徳天皇は次々に浄化されていった。

 実戦に不安を感じていたファラージャも、いざ戦ってみれば、余裕で文徳天皇を完封した。

 足りないのは実戦経験だけであって、陣営最強のファラージャなのだから、余程のポカをしなければ当然の結果だ。

 これが乱世を暴力で生き抜いてきた者と、策謀だけで生き抜いてきた者の差なのだ。


「さぁ! これで残りはあなた達3人だけよ!」


 若干、頬を赤らめながら、ファラージャが崇徳帝達に向かって指さしながら言い放った。


≪奴らも善戦した気がしたが、流石戦国の世で鍛えられし剛の者よ。我らの時代とは戦い方が違うのう≫


≪うむ。やるな。これは侮れぬ。まさか全員敗退するとはな≫


≪しかも中々の試合運びよ。話が長ったらしくなりそうと見るや否や、ダイジェストにするとはな≫


「次は日本最強の三大怨霊です。誰が行き――」


≪良し! 止めじゃ! 2人はどうじゃ?≫


「……えっ!?」


 崇徳天皇の宣言にファラージャはつんのめった。

 後3人倒せば終わりなのに、拍子抜けである。


≪そうですな。こんな楽しい催し、他の怨霊にも楽しんで貰わねばなりますまい≫


 菅原道真が興奮した面持ちで、落雷を四方八方に放電させる。


≪ここは後日、いや来年再戦がよかろう。まだまだ顕現させたい怨霊は山程おるからのう≫


 平将門がそう言うと、周囲を飛び交う生首も同意した様に笑う。


≪聞いての通りじゃ。エイプリルフールだからと、年甲斐無くはしゃぎ過ぎてしまったわ≫


 血涙の竜巻が、高速回転し過ぎて血が飛び散る。

 竜巻がはしゃぐと、こうなるのだろうか?


「このまま大人しく5次元に霧散すると言うのなら、異論はありません。それに外伝55~57話で20338文字と多過ぎです!」


≪じゃろう? じゃからまた来年と言う事よ。その時まで、よく人を恨んで暗き情念を貯め込んでおくのじゃぞ?≫


 崇徳天皇が怨霊としての心得を説く。

 まるで『元気で健やかに過ごせよ』との言い草だ。


「え……!? 来年もやるんですか……?」


≪今はそのつもりじゃがな。同じ展開では読者も飽きるからのう。何か考えておくかのう≫


 学問の神の一面をもつ道真が、真面目に考える。

 放電も静電気程度に収まっている。


≪自分で言うのも何じゃが、怨霊の言う事などまともに信じるなよ? 約束など平気で破るからのう!≫


 将門も武士らしい(?)言葉で不安を煽った。

 三大怨霊はそれだけ伝えると5次元に霧散して行った。


「……来年はもっと楽なネタだと嬉しいんだけど」


 ファラージャが疲れ切った顔で言うが、異議を唱える声が続出する。


「何を言う! それは困るぞ!?」


 朝倉宗滴が大反対を表明した。


「せっかく鍛えた肉体を発揮出来るのに勿体ないぞ妹よ!」


「そうじゃのう。色んな可能性が広がった訳じゃし、これは楽しめそうじゃて」


 斎藤親子も同調する。


「まぁ、気持ちは分かります。こんな快感そうそう無いですしな」


「困った煩悩ですが、これは抗えませぬな」


 信秀に雪斎も同意した。


「殿方は腕力に頼って美しく無いですわねぇ。所で胡蝶ちゃん? 私、新しい必殺技を思い付いたんだけど?」


 深芳野が男共にあきれつつ、自身は必殺技の開発に余念が無い。

 余程楽しかったのだろう。


「……六歌仙の方々、惟喬親王と文徳天皇は如何ですか?」


 ファラージャは何となく嫌な予感を察しつつ、この場に残る浄化された魂立ちに聞いてみた。


≪我ら六歌仙は惟喬親王に従うまでです≫


≪父上は如何致しますか?≫


≪彼らには世話になった。来年のエイプリルフールまで、恩返しのつもりで強化訓練の相手をしたり、歌術を教えても良いかも知れぬな≫


「おお! 有難い! 呪文ならぬ歌術か! 新しい力には興味があるぞい!」


(やっぱり……)


 ファラージャは頭を抱えた。


(信長さん達も毎年大変だったのね……。外伝25話では怒鳴ってごめんなさい。……ってこの記憶も意味が分からない! 一体何が起きているの!?)


 ファラージャは5次元空間と時間樹を確認するが、不審な点も無ければ、覚えの無い分岐の枝が発生している訳でも無い。

 もう異常が無いのが異常としか思えなかった。

 


【1563年 4月2日 岐阜城(史実名:安土城) 織田家】


「と、殿。この武具類は片づけて宜しいのですね?」


「あ、あぁ。頼む」


 馬鹿みたいに武具を揃えた部屋に閉じこもっていた信長と帰蝶は、目覚めると共に、眼前の状況に混乱した。

 何でこんな武具をそろえて、こんな所で寝てたのかも分からない。


「私達、籠城戦でもしてたんですかね?」


「分からん……」


 こうして、信長と帰蝶は何も分からぬまま、また新しい日々を過ごし、天下布武を目標に歩みを進めるのであった。

 年に1回、不審な事をしながら――

コミカライズ化記念、大長編エイプリルフール物語でした。

全体的にメタい事を実験的に取り入れ、使ってみたかった伝説のネタを使いました!(・ω<) テヘペロ

では、また来年!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 民明書房かよ。 おふざけが過ぎるww 続きが出るのを楽しみにしていますが、ちょっと進みが遅いので辛いです。 私は古希を過ぎましたので、最期まで読み切る自信はありませんが、作者さんも健康に気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ