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外伝56話 怨霊の4月1日

4月1日ですね!

1年経過するのが早い!


外伝55~57話の3部作です。

外伝55話からご覧ください。

【5次元空間/時間樹】


≪おまけに、我らの霊力は行使すれば、この物語は最早歴史ジャンルに非ず。人気ジャンル異世界ファンタジーに該当するじゃろう。ワシらを主人公にすれば、ちっともランキング入りしない『信長Take3』より、絶対にヒットする可能性は高かろうて! どうじゃ?≫


「ウグ……ッ!! た、確かに……!」


 そんな誘惑の言葉に、ファラージャは心が動いてしまった。

 小説もランク入りして、信長教も発生しない。

 全方面において誰も損をしない提案だ。


 だが、ファラージャは即座に思い直した。


(流石は怨霊! 人の心に付け入るのが上手い! ……でも!)


 もし仮に彼らの願いが叶ったら、未来には『崇徳教』『道真(どうしん)教』『将門(しょうもん)教』が勃興している可能性が極めて高い、と言うか、その光景がありありと脳内に浮かぶ上に、彼らは怨霊だから最初から不老不死で1億年後も存在し続ける事も可能だろう。


 何なら肉体を失った後からが本領発揮と言うべきか、明確な怨霊の力を持ったまま3次元の現世に留まり続けるかも知れない。

 そうなれば、除霊不可能な最強の怨霊が支配する、暗黒の世界史が3本出来上がるだけだ。


 作者の松岡も、彼らの個性は認めても、辿る世界の歴史に特徴が出し辛く、3人の辛気臭い恨みの歴史を1億年分書くのは嫌である。


 それに、何とか信長Take3を書き上げたいのだ!

 例えコミカライズ打ち切――イカン!

 危ないッ!

 言霊について、本編でしつこい程に説明したのに、自爆する寸前であった!


 ともかく、そんな寄り道をしては、こっちが病んで逆に怨霊になりそうである。

 せめて4月1日に活躍させ、この作品のテーマ通り、慰霊鎮魂するのが精一杯の配慮だ。


「……出来ません。ただでさえ貴方達が勝手に顕現する事態となってしまった5次元空間。他の怨霊が俺も私もと殺到しては対処出来ません。中には自我を失った厄介な怨霊もいるかも知れません。それに、今順調に進んでいる信長さん達のサポートもままなりません」


≪そうか。残念だ。我らの活躍なぞ10万字程度で足りるだろうにのう≫


≪まだ何百万字も書き続ける『信長Take3』を選ぶと言うのか≫


≪その心意気は怨霊の余であっても褒め称えたいが、我らもこの恨みの発散しなければ、怨霊として生きる意味も無ければ、沽券にも係わるからな≫


(怨霊として生きる? 怨霊から解き放たれたいのでは無いの!? やはり自我が狂っている!)


 ファラージャが突っ込みを抑えた。

 本当は突っ込みたかったが、崇徳天皇が妙な事をし始めたので抑えた。

 その当の崇徳天皇は血の涙を両手の指で拭い、流れる様な手付きで腕を回し、10本の指に付着した血で禍々しい陣を描く。

 

 それと同時に、悍ましい声で呪詛の様な和歌を詠みあげた。


≪『浜千鳥 跡は都へ通えども 身は松山に 音をのみぞなく……!!』 召喚! 出でよ! 惟喬親王に文徳天皇!≫


 血の呪術陣が、2人の魂を呼び出し形作った。


≪そうれ、もちっと()()()()だ! 『此の度は 幣も取り敢へず 手向山 紅葉の錦 神の随』 召喚! 六歌仙!!≫


 今度は道真が和歌を詠みあげると、雷撃と共に6人の人物が現れた。


≪ククク。紹介しよう。こ奴らは文徳天皇とその長子、惟喬親王。更に惟喬親王を後継者に推挙するも後継者争いに敗れた僧正遍昭、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、小野小町、大伴黒主だ!≫


「文徳!?」


≪ほう? 気が付いたか? 崇徳帝同様に『徳』を追贈された文徳天皇だ! ハハハ!≫


 将門も何が楽しいのか笑うと、周囲の生首達も釣られて笑い出した。

 脊髄剝き出しで、流血しながら笑い飛び交う生首は非常にグロい。


≪ここは……? 何じゃ?≫


 長き眠りから覚醒した文徳天皇が周囲を見渡す。

 何もかもが知らない光景ばかりだが、見知った人物は7人いた。


惟喬(これたか)ではないか……? それにお前達……これは……?≫


文徳(もんとく)帝≫


 戸惑う文徳帝に崇徳帝が声を掛けた。


≪うぉっ!? 何だお前は……ちょっと待て!? 今『もんとくてい』と言ったか? それは余の事を言っておるのか? まさか『とく』とは……≫


 崇徳帝の余りの異形の姿に驚くも、聞き捨てならない言葉が引っ掛かり問い返した。


≪はい。私は崇徳。貴方より20代後の天皇です。貴方同様『徳』の字を追贈された者!≫


≪余の諡に『徳』の字だと……! ……ッ!? 思い出した! ワシは藤原良房の奴に権力を奪われ毒殺され……ッ!!≫


 最初は戸惑っていた文徳天皇達も、恨みの記憶を思い出したのか、急速に怨霊化し怪異としか表現出来ない姿に変貌する。


≪六歌仙だと……!?≫


 また『六歌仙』と称された6人も、文徳帝と同じく怒りの余り異形と化し始めた。

 

≪何が六歌仙か!!≫


≪侮辱にも程がある……ッ!!≫


 六歌仙とは『歌の仙人』、つまり歌の名人として称えられた称号だが、実の所、歌の腕前は別に特別優れていた訳ではなかった。

 紀貫之には結構ボロクソに批評されるも『その他の古今和歌集に掲載されている歌よりはマシ』と言う扱いで、一刀両断に切り捨てられている。

 遍昭は『歌のさまは得たれども真少なし(歌の風体や趣向は良いが、風情に乏しい)』とブッた斬られた。


≪我らは別に歌を誉められた覚えも無いのにか!?≫


 文屋康秀は『詞はたくみにて、そのさま身におはず、いはば商人のよき衣着たらんがごとし(下賤な商人の如く、身の丈に弁えず立派に着飾っているだけだ)』とコキ下ろされている。


≪権力闘争に敗れた我らを嘲笑しておるのか!?≫


 大友黒主は『歌の形が見すぼらしい。薪を背負った人が花の影で休憩しているだけ』とバッサリ切り捨てられた。


≪それで六歌仙と称え鎮魂したつもりかえ!?≫


≪何たる屈辱か!?≫


 小野小町も世界三大美人とは思えぬ面構えだ。

 また、在原業平も絶世の美男子と称されたが、どう見ても怪異だ。


 小町の意味は『美人』だが、その由来は『小野小町』が美人だからだったと言われる。

 だが、怨霊観点から考察すると、小野小町と在原業平も、後継者争いに敗れた人間を不細工だったと追い打ちするのも怨霊化の恐れがあるから『2人は美人、美男子だった』との説もある。

 また小野小町は歌も『いつもの作風である。情趣あるが、強さが無い。女の心労。自惚れ。力強く無い。女の歌だからか』とメタクソだ。

 在原業平に対しても『その心余りて言葉足らず』と一刀両断にされた。


 そんな2人が揃って美男美女として六歌仙に加わっている。


≪ワシなぞ殆ど歌っておらんのにか!?≫


 喜撰法師は六歌仙と歌の名手と称えられておきながら、『コイツの歌は数が少ないから上手いのか下手なのかよう分からん』と低評価と言うより評価不能としている。


 この様に六歌仙は紀貫之に滅多切りに評された。


 なお余談だが、彼ら全員の無念には大なり小なり『藤原氏』が関わっている。

 日本の怨霊の歴史は『だいたい藤原氏のせい』といっても、そう間違いでは無い。


「クッ!? どうすれば!?」


「何を困っておるファラージャ殿よ」


「宗滴さん!」


 初めての異常事態に、どう対応すれば良いか困っていたファラージャに声を掛けたのは、朝倉宗滴であった。


「ほほう。この方々が日本の三大怨霊に六歌仙、それに文徳帝に惟喬親王か。中々に壮観な光景よな」


 斎藤道三が、不敵な笑みと共に現れた。


「えぇ。背後の時間樹と合わさって、まさにこの世の光景ならざる怪異」


 斎藤義龍が、両手を腰に当てて物珍しそうに話す。


「成程? 怨霊が現世に現れる事が無いのはファラージャがシールドを張った歴史があったからか。存在しない者に怯えていたとはな。いや? 存在しないから恐ろしかったのか」


 信秀が何か納得した様に言った。

 時系列としては、『帰蝶信長復活』→『信長フライング転生』→『時間樹シールド付与』→『シールドを潜っての信長帰蝶転生』→『信秀、道三、宗滴、雪斎復活』→『義龍復活』→『深芳野復活』→『三大怨霊の自力復活』の順番である。

 ここで面白いのは、未来のシールド防御行動が過去を守った形となる、不思議な時系列とでも言うべきだろうか。

 時間を無視出来る5次元空間ならではの現象と特徴だろう。


「3次元の世界では怨霊は発生しない。これを守り通さねばなりませぬな」


 3次元の現世で、どんな怪現象が起きたとしても、それは気のせいか、科学的に証明出来なくても証明待ちである。

 妖怪怨霊、悪鬼に怪物など存在してはならないのが3次元だ。

 それを止めるのが今の役目と太原雪斎は心得た。


「それにしてもまぁ、怨霊とは見るに堪えないわねぇ。私も小野小町と美貌を比較されたモノだけど……フッ」


 深芳野が意味ありげに笑う。

 小野小町が怨霊に変化する前は、それなりと感じたが、美の価値が時代毎に異なるとも言われるので、本当の良し悪しは判別不能だが、人間の要素が少ない怪物となった今は、満場一致で美しくないし、仮にこの場面を作画担当先生に書いてもらう場合、どう注文するか私も困る。


「崇徳帝に道真公、将門公よ! ではこうしはどうかな? 転生したければさせてやっても良い」


≪ほう? 物言いはともかく話の分かる奴よのう? で? 何か条件があるのじゃろう?≫


 崇徳天皇も無条件での転生が叶うとは思っていない。

 必ず条件があると踏んで、詳細を訪ねた。


「流石鋭いのう。六歌仙に、文徳帝、惟喬親王。三大怨霊ぷらす8名。これからワシらが相手してやるから、満足したら大人しくしてくれんか?」


≪ほう? 勝ち越したなら転生をさせて貰えるのかな?≫


「あぁ。倒せたならな」


「宗滴さん!?」


「まぁ、任せておけ。我らも未来式超特訓を受けた身じゃ。そう簡単にやられはせんよ」


「い、いや、そうじゃなくて、物質の肉体を持つ我々の攻撃は彼らの肉体に傷付けられませんよ!? 逆に彼らの起こす怪奇現象は確実に我らの肉体に影響を及ぼすでしょう!」


「……えっ。そうなの!?」


 武士として、妖怪退治は仕事の一つだ。

 大猿から鵺や大蛇、天狗から妖魔まで、討ち取ってこそ武士だ。

 だが真実はともかくとして、3次元空間に肉体を持って存在するから倒せるのであって、霊体の怨霊を倒す事など出来ない。

 出来ないから、死後に鎮魂をし、神に祭り上げ、『徳』の字を送り慰霊するしか無いのだ。


 勢いよく啖呵を切ったのに、攻撃が通じ無いでは気恥ずかしい所の話では無い。


「じゃあ、我らも魂だけになれば互角では?」


 雪斎が代案を出した。

 ファラージャの技術で、肉体と魂の分離は自由自在。

 魂同士なら条件は互角となる。


「それは出来ますけど、あの怪異に素手で戦うつもりですか? 槍や刀に魂はありませんよ!? 幾ら魂込めて鍛えたと言っても比喩ですからね!? それに魂の負傷は体に直結しますからね!?」


「す、素手か……。多少の負傷は織り込み済みじゃが、あの怪異を素手で潜り抜けるのはチト厳しいか」


 義龍が困った表情をする。

 だが、決して諦めている訳でも無く、ちょっと難易度が高くなったなと困っていた。

 そこに突如声が掛かった。


≪宜しいかね?≫


 やる気マンマンの所を挫かれて、イマイチ格好がつかない宗滴がどうしようかと悩んでいると、惟喬親王が話し掛けて来た。

 まだ人の姿を保った魂で怨霊化していない。


「惟喬親王! 貴方は怨霊にならないので?」


≪まぁ、藤原に恨みが無いと言えば噓になるがな。だがお主等は私が恨みを晴らしたい相手では無いのだ。それなら三好某や織田某の活躍を見物している方が、楽しい死後ライフを送れるし、ワシを武具として使って戦えば、奴ら怨霊に肉薄出来るのでは無いかね?≫


「武具として扱う!? そんな事ができるのですか!?」


≪ああ。問題無い≫


「それは有難いですが、で、でもよろしいのですか?」


 ファラージャが怨霊達に視線を向けると、父の文徳帝が憤怒の形相で睨んでいた。

 口内の犬歯がメキメキと鋭く伸び、徐々に人の形が崩れていく。


≪惟喬! 貴様、裏切るのか!? ワシは、お主を次の皇太子にしたかったのに、藤原の姦計に狂わされたのだぞ!?≫


≪裏切りではありませぬ父上。それに天皇にはなれませんでしたが、醜い争いの絶えぬ朝廷の闘争から離れられたと思えば、そう悪く無い人生でした。それに、そもそも恨みを晴らす相手がいるとすれば藤原一族であって、彼らでは無い。相手が違うと言っているのですが、もうそんな判断も付かない怨霊となりましたか。ならば崇徳帝、道真公、将門公! こちらの生者は7名。そちらの召喚者も7名。戦って勝ち越した陣営の要望を聞く、と言うのでどうかな? 転生して恨みを晴らしたい気持ちもわかるが、今まさに戦国時代は崇徳帝が望んだ結果が生まれ様としているのだぞ? それを見てからでも遅く無いのでは? そう、どうやらこの次元には時間の概念が無いのだ。何なら一緒に応援して盛り上がっても良かろう?≫


≪面白い事を言うのう。確かに座興よな。主の言う通り、今の朝廷が苦しむ様を見るのも悪く無い≫


 今の崇徳達なら、3次元の現世に舞い戻ったなら、朝廷を滅ぼすなど造作も無き事だ。

 一瞬で恨みを晴らせるだろう。

 それで心はスッキリするかも知れないが、ジワジワ苦しむ様を見るのも怨霊の愉悦であり活力の元。

 ならば、どう転んでも損は無い。


≪相分かった。その条件を飲もう。それに、戦いも久方ぶりの意識ある状態での運動じゃ。さぞ快感であろうて≫


 崇徳陣営は納得し受け入れた。

 一方、ファラージャ陣営は困っていた。

 主にファラージャが。


 予想外に理知的な惟喬親王が味方側に着いたお陰で、何とか戦える体制が整いつつある。

 しかも、いつの間にか三大怨霊を抜いた7対7での決戦だ。

 3人までなら負けられる。

 そこまで計算してファラージャは気が付いた。


「……私も人数に入っています?」


 怨霊陣営は六歌仙に文徳天皇の7人。

 ファラージャ陣営は、朝倉宗滴、斎藤道三、太原雪斎、織田信秀、斎藤義龍、稲葉深芳野の6人。

 一人足りないのだが、一斉に集まる視線が、『何を当然の事を』と雄弁に語っている。


「そりゃそうじゃろう? 初期の我々を完封した強さは見事じゃった。修業した今でも我らと最低でも互角じゃろう?」


 道三が娘の強さを信頼して言った。

 ファラージャも彼らに未来式超特訓を施し、己から一本取るまでに成長させた。

 だが、それでも単純な強さだけなら、彼らを鍛えた上で、まだファラージャの方が強い。


 ただ、ファラージャは致命的な弱点があった。

 実戦経験皆無なのである。

 誰も殺した事は無い。

 練習と修練の達人なのがファラージャ。

 屍の山を築き死線を潜り抜けて来たのが宗滴達なのだ。


 訓練と実戦の差は天地の差。

 ファラージャは、己が戦う前には決着が付くのを祈る他なかった。

外伝57話に続きます。

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