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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
4章 天文17年(1548年)修正の為の修正
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28話 北伊勢攻略遭遇戦

【伊勢国/北部 織田家】


 農繁期で碌な戦力を揃えられない北勢四十八家。

 織田家の侵攻に成すが(まま)に蹂躙され、降伏し兵糧と兵と親族一同を吸収され、先鋒に配置された後に同じ北勢四十八家の攻略に使われていった。


 織田家の侵攻が察知されるにつれて多少戦闘行為が発生したものの、無理して緊急招集された農兵では、訓練によって鍛えられた親衛隊に対し殆ど勝負にならなかった。

 打って出ても粉砕され、籠城してもあっという間に攻略され、その戦闘行為で負傷や戦死するのは、吸収した北勢四十八家が殆どなので楽な進軍であった。


 農繁期が終わる頃には目標の北伊勢半分を超えて8割以上を制圧する事ができ、同時に制圧した地域から収穫された兵糧が集まりだし、無事に兵糧不足は解消。

 完全に農閑期になれば、尾張から援軍が届き、伊勢の農兵も徴兵出来るようになる。


 ここで一旦進軍停止となった。


 頑張れば北伊勢完全制圧も可能ではあったが、それをしなかったのは、反抗のあった城の農兵を倒してしまった地域で、稲刈りの含めた手入れと、刈田を防ぐ為の警備、長期進軍の疲れを取る為である。


 信長の伊勢侵攻作戦は順調すぎる程に順調であった。



【伊勢国/亀山城 織田家】


 織田軍制圧地域の南方の、周辺のどこに行くにも利便性のある亀山城で軍議が開かれていた。

 柴田勝家や森可成の様に既に歴戦の武将はともかく、今回の遠征が初陣だった親衛隊の面々も一端の顔付きに変わっていた。


「皆この2ヶ月良くやった。目標を大きく超えて北伊勢を制圧する事ができた。じゃが、ここからが本番じゃ。相手は農閑期に入り、遠慮なく兵を揃えるであろう。とは言えそれはワシらも同じ。伊勢の農兵を揃える事が出来るので、北勢四十八家最後の一派、長野家との戦力差は縮まる所か開く一方じゃ。しかし、長野の領地を北畠も狙っている故に、今後は奪い合いとなる事が予想される」


挿絵(By みてみん)


 北勢四十八家は、それぞれが規模の小さい領主で、単独では農閑期でも大した兵は集められないので、何かあれば他の四十八家と合力して共同で対処するのが常であった。


 だが今回信長に農繁期に攻められて成す術がなく蹂躙され、北勢四十八家の最大勢力である長野家はプライドがズタズタにされた。

 しかし、どれだけ悔しがって恥辱にまみれても、現実的な戦力差はどうにもならない。

 それでもプライド故に抵抗か、降伏して生き残りを図るか長野家中は未だ紛糾していた。


「長野には降伏勧告をしておるがイマイチ手応えがよくない。これ以上、時を掛ける訳にもいかぬ。従って農兵が集まり次第、即座に攻城戦を仕掛ける。残りの長野領の規模からして限界まで徴兵して1500程であろう。対してワシらは余裕をもって合計8000は揃えられる。しかも尾張からは2000以上の援軍が来る予定である。良いか! 北畠には米一粒たりとも譲る気は無い! ここが功の稼ぎ所よ!」


「おぉっ!」


 信長は力強く宣言し、家臣も応えた。

 信長の先見性に魅了された家臣は、もはや『うつけ』であった事をすっかり忘れていた。


 しかし好事魔多し―――


 結果論ではあるが信長は1つ小さなミスをした。

 それは農閑期になったとは言え、長野家に考える時間を与えてしまった事である。

 先に述べた通り農兵を倒した地域の収穫もあるし、兵の休息は確かに必要ではあり複合的な理由があった。

 しかし、普通に戦えば長野家にも勝てるのに、親衛隊の損耗を惜しみ勝てる戦を止めて伊勢の農兵が集まるのを待ってしまった。


 そのお陰で確かに親衛隊の損耗は無かったが、それが伊勢侵攻の弊害に繋がる事を信長はまだ気付いていなかった。


 目標を大きく超えた成果がほんの僅かな油断に繋がっていたのだ。



【伊勢国/長野城 長野家】


 実は長野家では交戦する事で意見がまとまっており、その上で織田軍には家中の説得に時間が必要と説明していた。

 それは時間稼ぎの為であるが、それを知らない織田軍は諸々の事情もあり猶予を与えてしまった。


 仮に長野家が尾張に近い地域であれば、そんな申し出は一蹴されて即座に攻められただろうが、北伊勢の最南端で農閑期に入った事が有利に動いていた。


 その長野家は降伏よりもプライドを取り、ある事を決断し、当主の長野稙藤(ながのたねふじ)が家臣に向かって頭を下げた。


「織田の侵攻で北伊勢は我等長野だけになってしまった。このまま織田に与するのが賢い生き方かも知れぬ。しかし……与した所で北畠相手に使い潰されるのが関の山」


 信長の兵士吸収戦略は既に知れ渡っており、これが農繁期に進軍できた原動力と読んでいた。

 本当は違うのだが、結果として使い潰される未来しかないのは一緒である。

 これが降伏を拒む理由であった。

 それに―――


「ここまでコケにされて大人しく与しては武家の名折れ! 例え憎き北畠に臣従してでもワシは抵抗する! 伊勢を織田に断じて渡すわけにはいかん! 北畠からの援軍が到着次第打って出る!」


 家臣達も同じ思いで、生き恥に等しい現状が織田に頭を下げる事を良しとしなかった。

 今、北畠家に攻められて対抗できず降伏していた史実が、自ら北畠家に臣従してでも織田に抵抗する事に歴史が変わった。


 信長は既に戦う相手が北勢四十八家から、北畠家へ移っている事にまだ気付いて居なかった。



【伊勢国/亀山城と長野城中間地点】


 農民が年貢を納め農兵として徴兵された頃には、織田軍は8500人に届いていた。

 何故、この様な大量徴兵が出来たかと言えば、農民や水田に対する攻撃を一切行わなかったからである。

 乱暴狼藉略奪が当たり前の乱世で、信長軍の規律は民の信用を容易に得る事が出来た。

 それ故に長野家も農兵を揃えた所で、数の差は開く一方なので、多少の抵抗はあろうとも、城を取り囲んで降伏開城を促すだけである。

 長野家勢力地へ進軍中の信長は順調な侵攻に満足し、ファラージャと話し込んでいた。


《―――となる訳じゃ。そうじゃ! ファラよ。一つやって欲しい事がある。ワシらの記録を正確に保存して欲しい》


《大丈夫です。勿論やってますよ。映像もこの会話も信長さんと帰蝶さんが見た事、聞いた事、感じた事全て記録済みです。こんな超貴重な歴史的価値観のある物を、ほったらかしには出来ませんから! あ、そうそう安心してください。プライベートに踏み込み過ぎたりはしないので!》


《助かる。ワシの思想が捻じ曲げられて伝わるのはもう勘弁じゃ。ワシを政治的に利用して良いのはワシだけじゃ。転生の事は伏せつつありのままの記録を残す。いずれ今の会話と残す資料が間違いない証拠となる。信長教への対策の一つとしよう》


 前々世では信長の思想は捻じ曲げに曲げて伝えられ、何がどうなったのか5000万年後の信長教の設立に繋がってしまう。


《その為には乱世の勝者にならないといけませんね! こんな所で長野家に大逆転されない様にして下さいよ?》


《フン、流石にそれは無……い……ッ!!》


《どうしました?》


《今の我らと長野の状況が、かつての織田と今川の関係に似ておる……》


《え……!》


「全軍停止の太鼓を鳴らせ!! 鐘を鳴らして警戒態勢を取れ!! 斥候部隊は周囲を確認せよ! ワシも出る!」


 とんでもない油断をしていた事に気付いた信長は、急いで周囲の確認を行った。

 その時、前方にうっすらと見える森の上空を通過しようとした鳥が、不自然に森を迂回した。


 背中に冷たい物を押し当てられた様に、ゾワゾワと違和感が湧き上がる―――

 心地よかった秋風が、急激に寒気を感じさせる―――

 歴戦の経験が、慌しく心の警鐘を掻き鳴らす―――


「伝令!! 各部隊指揮官に伝えよ!! 全軍前方の森に対し鶴翼の陣を敷く! 長野の襲撃に備えると伝えろ!!」


「はっ!!」



【森林にて】


 長野稙藤は織田軍が急停止し部隊を展開した事で、森林奇襲部隊が看破された事を知った。


「な、なぜ我等が潜んでおる事がわかったのじゃ!?」


「そ、某にも分かりかねます……」


 家臣に聞いても答えは帰ってこない。

 信長の経験、危険察知能力、上空の渡り鳥の偶然があった事は流石に見抜きようが無い。

 ただ信長の油断が継続していたら、確実に横腹を貫く必勝の奇襲になったはずであった。


「止むを得ん! 伏兵は諦め我らが敵を引き付け、北畠の援軍が計画通り背後を突くのを待つ。旗を掲げて先鋒部隊は森の前に布陣! 合図を待て!」


 稙藤の指示で森から長野家の旗印が乱立し、信長隊の正面に位置する場所に陣取った。


挿絵(By みてみん)



【織田軍/信長隊】


「も、申し上げます!! な、長野稙藤が前方の森に陣取りました! その数6000!」


 斥候が信長本陣に転がり込んで、息を切らして報告する。


「6000!? 6000じゃと!? 長野家の規模で6000とは! 援軍が来たのでしょうか!?」


 軍議の為、隊長格が信長本陣に集まっており、若い池田恒興が驚愕する。

 8500対6000では、今までの様に楽な合戦にはならない所か、展開次第では負けも十分あり得る。


「静まれい! 森が見える位置まで物見に行く!」


 前に出た信長は仁王立ちで森を睨む。


《ののの信長さん! マズイですよ!?》


 ファラージャが、かつてないピンチにパニックに陥る。


《安心せい。見て確信した。やはり長野の規模で6000は有り得ぬ。事前の予測通り1500程度であろう》


 しかし信長は落ち着き払ってファラージャに告げた。


《でも、あの森の規模に旗の数! どう考えても……あ!》


 若干小高い丘になった森は長野の旗が乱立し、その規模からすれば、少なく見ても5000は潜んでいるように見える。

 しかしファラージャは以前、信長に軍勢の偽装方法を学んだ事を思い出した。


《そうじゃ。思い出したか。あれは、森に紛れて旗を掲げて兵の数を偽装しておるだけじゃ。この戦場には6000もの敵意がまるで感じられん。それに本当に6000いるなら露見した時点で突撃を仕掛ければ良い。勝算は十分ある》


《そ、そんな事解るんですね! じゃあ安心ですね》


《……そうとも言えぬ。少ない兵で勝つには森に罠を仕掛け誘い込むか、桶狭間のワシの様に本陣突撃しかない。しかし誘い込む動きも無ければ突撃の様子も無い。あれは別の何かを狙っておるはず! ……クッ!!》


「陣に戻る!」


 信長は思い当たる節があったらしく、斥候部隊に引き上げを命じた。


《どうしましたか!?》


《長野め! やりおるわ!》


 陣に戻った信長は、森の旗は偽装で長野に6000もの兵力は存在しない事を告げ諸将は安堵した。

 しかしそれは本当に束の間の安堵であった。

 次の信長の言葉に、自分達が完全に油断してい事を自覚する。


「気を抜くな! 長野は少数故の戦略を取っておらん! 誘い込みによる罠や突撃の気配がない! つまり我らを引き付ける事が目的! すなわち援軍、恐らくは北畠が来る! 奴らの動員兵力を考えれば我らに匹敵する軍勢が現れる!」


「何と!?」


 この油断ははある意味、完全に信長の失策であった。

 尾張内乱から今まで全ての戦を、経験と転生のアドバンテージで進んで来たお陰で、どんなに気を付けても、勝利の味に酔いしれてしまっていた。

 信長の人生においてもこんな連戦連勝、しかも損害が殆ど無いのは経験が無い。


 かつて武田信玄が『戦は五分の勝ちを持って上となし、七分を中とし、十を下とす』と言った。

 完全勝利は怠りを生んでしまい大敗につながってしまい、五分勝てば次への励みに繋がり結果的に最良の結果を生むのである。


 信長と信玄では、あらゆるシチュエーションが違うので、完全に当てはまる言葉ではないが、それでも今の状態を表すに最適な言葉であった。


(クッ! 今この軍は最弱の状態じゃ! どうする!?)


 大将が緩めば下は大将以上に緩まる。

 仮にどんなに大将が律していたとしても、下の兵はどうしても緩むもの。

 勝ち続ける事が毒となって蝕んでいたのだ。


(そんな事は決まっておる! 弱いまま勝つしかない!)


「聞け! 今より軍を分ける! 新助(毛利良勝)、小平太(服部一忠)、勝三郎(池田恒興)それぞれに1000与える! 両翼には更に茜と葵に200ずつ弓部隊を与える! これら部隊は全て親衛隊とする! 小平太にはワシの旗印を与え、長野にここを本陣と思わせ誘い込む! 小平太は囮に加えて鶴翼陣の要になる故に敵を受け止める事となる! 防御重視の戦法を取れ! それと同時に茜と葵の弓部隊で先制攻撃し敵の勢いを殺す! その中でも弓の精鋭は可能な限り指揮官を狙え! あとは機を見て両翼の新助と勝三郎と弓部隊が入れ替わり挟み込んで包囲殲滅せよ!」


 自軍が弱いなら作戦で勝つしかない。

 それには陣形による効果的な攻撃が不可欠である。


「長野に対してはこの対応で蹴散らす事が出来よう! 入れ替わった弓部隊はワシの陣の後ろに付け! 北畠への遊撃隊とする」


「はっ!」


「次にワシは小平太の、三左衛門(森可成)は新助の、権六(柴田勝家)は勝三郎の背後に布陣し北畠に備える! 鶴翼陣に逆鶴翼を重ねる形じゃ! 北畠がどこから攻め寄せるか分らぬ。しかし恐らくはワシの陣を狙うであろうが、仮に違った場合でも攻め寄せられた部隊を起点に鶴翼を組みなおす! 前後どちらの部隊が破られてもこの遠征は失敗となり得る! 後世の笑い者になりたく無ければ奮起せよ!」


「はっ!」


「小平太達は長野を蹴散らしたら、そのままこちらの鶴翼陣の背後に着け! ワシらの鶴翼陣は背後の準備ができたら、部隊は進路を空けて突撃の補佐をせよ! それで北畠を追い払う! 此度の野戦は敵を追い払うだけでよい! 逃がした敵の深追いを禁ずる! 良いな!」


 信長の号令の下指揮官が持ち場に戻り陣の再構成が行われ、長野北畠連合軍対織田軍の火ぶたが間もなく切られようとしていた。


挿絵(By みてみん)

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[良い点] なんか色々ワクワクします。 PS4の戦国無双5をやりつつifの小説はないかと検索して 読んで見たらすごくハマりました! 読み応えあるし、展開もスムーズで頭に入りやすいし、登場する人物魅力…
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