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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
18.5章 永禄5年(1562年) 弘治8年(1562年)英傑への道
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185-10話 停戦交渉 信長達の驚き1、2、3、4

185話は12部構成です。

185-1話からご覧下さい。


今回は残り5話の内の3話だけ投稿し、年末には必ず残り2話を投稿します。

【山城国/京 近衛邸】


 あまり復旧が進んでいるとは言い難い京。

 その中でも、比較的邸宅として体裁が整っている近衛邸。

 そこで、織田信長が近衛前久との会談に臨んでいた。


「急な来訪に対応して戴き恐悦至極にございます」


「うむ。朽木攻防戦以来であるな」(146-2話参照)


 かつて織田軍による近江六角攻略に対し、蠱毒計で共食いしていたハズの六角義賢と当時の将軍足利義輝が密かに和睦し、共同して織田軍に対抗した。

 織田軍はその動きを察知できず、琵琶湖と比叡山延暦寺を挟んで、南北同時に攻略していたつもりが、一転分断された形となり、北部を担当した信長が窮地に陥った戦いがあった。

 この窮地を救ったのが近衛前久で、朝廷として六角と将軍に積年の不信感から、その思惑を砕くために織田家に情報を流した。

 その時、南側を担当してた帰蝶らが大急ぎで琵琶湖を北上し、浅井長政、足利義輝を倒し、遠藤直経に倒されたが、包囲と直経への説得が成功し、信長は無事救出された。


「その節は本当に助かりました」


「アレはこちらの鬱憤も溜まっておったからな。ここで織田殿に倒れられても困る。それで? そんな昔の礼を言いに来た訳ではあるまい? 礼の品々は受け取っておる。ならば別件なのだな?」


 史実でも信長と気の合う仲だったと言われる近衛前久。

 公家同士のやり取りにでも疲れてるのか、単刀直入にズバリ聞いた。


「仰る通りで。実は大至急都合して頂きたい官位がございます」


「官位? 上総守に至る前段階で弾正忠を授けたが、もう一段登るか?」


 信長は本来武家が就けぬ『上総守』を欲している。(129話参照)

 前久はその事についてかと思ったのだが違った。


「いえ、それはまた別の機会に。此度欲する官位は信濃守」


「ッ!? 信濃守!? それは……京にも信濃の争いは轟いておるぞ!? それを織田殿が名乗るのか!? しかも織田と武田は婚姻同盟も結んだとか!? 争いの種を自ら作るのか!?」


 武田は飛騨守に任じられ、それを根拠とした飛騨侵攻を行ってきた。

 信長が信濃守に任じられれば、意趣返しとして強烈なメッセージとなるだろう。

 だが、それも違った。


「まさか! 今、あの周辺地域は一向一揆と武田飛騨守、上杉家に属する村上信濃守と入り組んでおりましてな。拙者は一向一揆の指導者と約束しました。『飛騨に武田を侵入させない』と。拙者は約束したからには必ず守ります。その為の信濃守です。……ここから先はまだ情報も何も確定していない予測の話になりますが、恐らく武田は信濃全域を支配するでしょう」


「ほう? 上杉は負けると?」


「負けます」


 上杉の強さは都にも轟く程だが、それでも信長は断言した。


「今、上杉政虎がどこでどう対処しているかは不明ですが、武田は必ず今川の力を借りるでしょう。その上で、今、越後は北条にも狙われております。嫌でも軍を分けねばなりません。しかし、分けたら信濃は必ず取られます。いかに上杉政虎が超人的でも、武田、北条相手に両方守り通すは不可能の上、守備の優先順位は本国越後でしょう」


 この信長の予測は、あくまで予測なので実際の出来事とは違う部分も多い。

 まず、政虎は信濃を優先した。

 越後は谷川岳や三国峠の難所が存在し、多少の損害も許容した上での柿崎景家軍と斎藤朝信軍の両軍と、援軍で斎藤帰蝶と朝倉延景が防衛の任に当たった。

 しかも、上杉政虎は唯一武田クーデターを掴んだ勢力だ。

 むしろ、信濃を完全制圧する好機と捉えたのだ。


 それがまさか、影武者の武田信廉も息子の武田義信も、最低でも武田信玄や武田信繁にも匹敵する才を秘めるとは思わず、結果、手痛い反撃を受けてしまい、止むを得ず防御重視に切り替え、自身は信濃防衛を直江景綱と村上義清に任せ、己は単身越後防御に向かった。


 従って、信長の思い描いたシナリオとは違うが、結果は同じだ。

 今川家は予測通り信濃で活躍し、信濃の殆どは武田家の手に落ちた。


「そこで信濃守です。村上義清には悪いですが、信濃の大部分を失った以上資格無しと判断し、ここで朝廷から改めて正式に任命してもらいます」


「成る程? 飛騨守と交換を持ち掛けるのだな?」


 ここまでの話を聞いて前久は信長が何を言いたいのか察した。


「ご明察に。武田が飛騨守を任官されているから面倒な状況になっており、かつ、今後も飛騨守を盾に侵攻されてはたまりません。少なくとも、理屈的には武田の飛騨侵略理由を封じなければ、この先永遠に一向一揆対策は進みません」


 今回の飛騨一向一揆対策は武田との競争だった。

 直接衝突する事は無かったが、危うい状況であったのは間違いない。

 七里頼周の策に助けられた面もあるが、ともかく、支配権の整理が必要だと感じたのだ。

 とにかく、武田に一向一揆に介入できる進路を与えてはならない。

 その為の信濃守要請であり、信長が動いた理由である。


「分かった。別にその程度の任官の要請はいつでも発給しよう。一向一揆は朝廷も頭を痛めている問題だからな。斎藤を飛騨守に、武田を信濃守で良いのだな?」


「はッ! よろしくお願いいたします。この礼は後日改めて」


 トントン拍子で話が進むので信長も改めて『こ奴とは本当に気が合うのだな』と思う。

 今はまだ若干ぎこち無さもあるが、それは時間が解決してくれるだろう。


「礼の事は良い。それよりもだ。上総守についての工作の目途が立ったぞ」


「ッ!」


 信濃守の事など前久にとっては造作も無い。

 だが、前久をもってしも造作が必要すぎる『上総守』についての話題が突如切り出された。

 しかも目途がたったからには、不可能への道をこじ開けたのだ。


「真にございますか!?」


 信長も、まさかここで上総守の話が来るとは思わなかったので、近衛邸の掛け軸を揺らす程、本当に驚いた。


「織田殿の大量の援助があっての事もあるがな。ただし、授けるには多数の条件がある。その中にはかなり厳しい条件もあろう」


「条件ですか。まぁ色々あるでしょうな。聞ける条件なら聞きましょう」


「それは―――」


 前久は条件を話した。

 一つではない。

 どれもこれも難題であったが、その一つが一向一揆の終息だった。


「ッ!! 成程。そうきましたか。ならば何れにしても、北陸一向一揆を何とかしてからになりますな」


 北陸一向一揆が今一番脅威だが、一向一揆は北陸だけでもない。

 史実では石山本願寺との戦いは熾烈を極めた。

 大小各地で簡単に勃発するのが一向一揆の恐怖。

 それら全ての一向一揆の封殺が条件の一つであった。

 ただし、信長は天下を取るに当たって『宗教の管理』を掲げているからには、避けて通れないし、避けるつもりもない。

 どうせやるつもりだった事が、改めて条件として提示されたに過ぎない。


「そうだな。期待しておるよ」


「お任せを!」


 他の条件もかなり厳しいが、これも避けては通れない。

 ならばやるだけだ。

 信長は自信を漲らせ、近衛邸を後にし近江岐阜城へ帰還するのであった。



【近江国南/岐阜城(史実名:安土城) 織田家】


「なッ!? ほ、北条綱成を倒しただとッ!?」


 信長は絶叫して驚いた。

 掛け軸は当然、襖すら吹き飛ばんばかりの声で。

 近衛邸で見せた自信が吹き飛んだ訳では無いが、武将としての自信は襖と共に吹き飛んだ。


 自分なりの今後の一向一揆対策を携え、近江岐阜城に帰還した所で、重症を負った帰蝶と合流し、事の経緯を知った。

 

「成る程。谷川岳や三国峠とやらは天然要害だったのか。それで仲裁が間に合い、なんやかんやあって北条綱成と一騎打ちと相成ったと。……良く分からんが!? そもそも義兄上と互角の綱成と戦って良くぞその程度の傷で済んだな!?」


 もう帰蝶が最前線で戦う事に対し驚く事はしないが、源平時代じゃあるまいし、一騎打ちなど戦の流れで自然発生するのはともかく、取り決めを定め一騎打ちなど、前々世でも聞いたことが無い。


 眉間の傷を塞ぐために額にサラシを巻き、両足は負傷のお陰で杖無しでは歩けない。

 信長は直接綱成と関わりを持った事は今も前々世も無いが、轟く噂を総合すれば、帰蝶は生きて帰ってきただけでも奇跡、なんなら手足や指の幾つかを欠損していてもおかしくない。

 それがまさかこの程度の負傷で、しかも勝って帰還するとは予想外にも程があった。


「殿、本題はそんな事ではありません! 北条殿から斎藤家に対し養子縁組の提案が来たのです!」


 帰蝶は興奮気味に『そんな事』と話すが、信長にとっては『そんな事』こそ非常事態だった。


「養子縁組? まぁ珍しい事では無いが……」


 なので、反応は薄い。


「あ、あれ? そんな程度の反応ですか?」


 戦国時代は活発な養子縁組が盛んな時代である。

 何なら、史実では信長と吉乃の間に生まれた信忠を、正室帰蝶の子として養子に迎えたと伝わるぐらいに活発だ。

 それを知る信長は特別驚く事無く、帰蝶との温度差は開いていた。

 大体、北条綱成を倒した事の方が、報告として異次元すぎるのだ。

 薄い反応も仕方ない。


「そう言う話が来ると言う事は、我らに近づきたい狙いがあるのだろうな。遠方の強大な勢力が織田と斎藤に利用価値ありと見ているのだろう」


 ある意味正解で、不正解の部分もある。

 北条家は三好家に北条氏照を人質に差し出している。(外伝38話参照)

 一方で、織田との繋がりが極めて深い斎藤家にも繋がりを求めた。

 帰蝶の血筋を心配したのも本音に違いないが、保険を掛ける意味合いもあったのだ。


「それで? ワシとお主の子としての養子か?」


「いえ、そういう訳では無く斎藤家へとの事で、将来殿との子が生まれたら縁組との事で、必ずしも織田や斎藤の家督を譲れとかでは無い、との事です」


「ふむ? 養継嗣では無いと?」


 養継嗣とは、家督相続権を持った養子の意味である。


「実力が全てだとも言っておりましたので、家督乗っ取りの類ではないと思います」


 思います―――

 そう言われても簡単に信じるわけにはいかない言葉だ。

 そんなつもりは無い、と言いつつ、そうするしか無い状況に追い込んでしまう話は掃いて捨てる程に聞く話だ。


「乗っ取り……のう?」


 史実では、当の信長が己の子を養子として送り込み、今は頼もしい味方と化している北畠家や神戸家を乗っ取った事実がある。

 北畠家などは、具教が信雄を養継嗣として迎えても信長に敵対する姿勢を取り、武田信玄に協力したり、織田に敵対する勢力に対し蜂起を促し、結果、一族諸共誅殺された。


《こちらで話そう。信忠が最低でも史実通りに成長するなら、織田の後継者最大候補は信忠だ。歴史が変わっても、あの信忠を排除する人材は中々育たんと思うぞ》


《前世の私は信忠殿の活躍をあまり知りませんが、それ程でしたか?》


 信長の中で信忠の評価がかなりの高評価である事を知った帰蝶。

 もちろん後継者に指名した事実は知っているので、無能では無い事は知っている。

 だが、比較対象が信長であり、家督を譲った後も実権は信長が握っていたので、帰蝶視線の信忠の真の実力は正直未知数だ。


《奴は2代目として必要なモノを全て兼ね備えておった。武勇だけなら信孝も優秀だったが、ただ単に武勇に優れていれば良いと言う訳でも無い。その上で、もし北条の子が信忠を上回るなら別に家督を譲ってもワシは構わんがな》


《えっ! 良いんですか?》


 高評価の信忠を上回るならば、との条件付きだが、実子以外の継承も認めた。


《前々世なら、断ったか継承権の無い扱いだっただろうが、この歴史の目的は信長教の撲滅だからな》


 信長の目的は天下統一だけではない。

 その後の未来も見据えた政治をしなければならないのだ。

 ならば、実子以外も十分候補の可能性はある。


《今回の場合ワシらの血も入るしな。優秀なら織田の家督を譲っても良いぞ。信忠を抑える程に優秀ならな。だが信忠の壁は高いとだけ言っておこう。なんなら信忠がその養子と競ってさらなる成長に繋がるやも知れぬ》


《で、では斎藤家に迎えても良いと?》


《ワシは反対せぬ。斎藤の家臣と話して決めるが良い。その決定に難癖付ける事はせぬ。で、誰が来るのか聞いているのか?》


《それはまだ。あちらでも現当主の氏政殿の意向もあるでしょうから、決まり次第連絡するとの事です》


《そうか。楽しみにしておこう》


 帰蝶にとっては意外な展開となった、北条家からの養子提案。

 特に問題もなく信長から承諾がおりた。


「それよりもだ。お主か斎藤家臣の誰かに飛騨守を任じさせるぞ。その代わり武田に信濃守を与える―――」


 聞かれても問題ない話となった所で、テレパシーから通常の会話に切り替わった。

 信長は飛騨を緊急離脱してまで入手した信濃守の官位と今後の展開を帰蝶に話した。


「―――そうですね。武田が飛騨守である以上、安心はできません。関係が拗れては奇妙丸殿と松殿の婚姻にも響きかねませんし、信濃守を提案するのは良いと思います」


「うむ。では武田に使いを出し、当主会談の要請をしよう。今川を仲介として善徳寺に北条も読んで一挙に諸問題を片づけてしまおうか。お主の怪我が治る時期を目安にな。それにそろそろ直子達も戻る頃だろう。信濃の戦況の様子を聞かねばな。武田相手では何が役に立つか分からんから用心に越したことは無い」



【近江国南/岐阜城 織田家】


「武田信繁の反逆だとッ!?」


 今度は掛け軸、襖どころか屋根まで吹き飛ばずが如くの、帰蝶が綱成を倒した報告以上の声で驚いた。

 帰蝶も同時に驚いたから尚更だ。

 今川家の隠密特殊部隊として派遣されていた塙直子らが戻ってきたが、とんでもない驚愕情報を持ち込んできた。


「は、はい! 駿河様(今川義元)の陣に帯同しまして、終戦の折に甲斐守様(武田義信)が話されておりました―――」



【信濃国/武田本陣 武田義信】


 切っ掛けは、義元が不思議に思った事が始まりだった。

 こんな重大な戦に、武田信繁が出陣していないのだ。

 不信感を抱いた訳ではない。

 武田の戦に信繁が出ないなど、今まで聞いた事が無いからだ。

 何か病気なのかと、何とは無しに聞いて発覚した事実であった。


『叔父上は……信繁は、もう一人の叔父である信廉と共に父に対し反旗を翻し、武田乗っ取りを企た上、上杉方に鞍替えしたのです』


 苦渋の表情で義信は語った。

 もちろん、悔しい、無念の思いでは無い。

 真実がバレないかの心配だったが、それが良い塩梅で演出となった。


『何と!? あの典厩殿(信繁)が!?』


 義元の驚愕は今川家の歴史資料にも残る程だったと伝わっている。

 それ程までに武田信繁の兄への忠誠は本物だと思っていただけに、上杉への寝返りは寝耳に水にも程があった。


『父上も裏切られた心労から、先ほど撤退となりました。戦線も伸びて維持が難しいですし、丁度良いとは不謹慎ですが、ここらが今回の成果として奪った地域の管理に軍を動かそうと思います。今川駿河殿の援護は誠に有難く、膠着を崩し上杉を蹴散らす切っ掛けとなり申した。後は我らで大丈夫ですので、駿河に帰還し体を休めてくだされ』


 義元も信じられないが、こうして嫡子義信が説明するのだから、嘘と断定するなど出来ない。

 言われるがまま駿河に帰還し、偵察に派遣された直子達に、事実を事実のまま伝える様にと言うに留め、信長の反応を待つ事に決めた。



【近江国南/岐阜城 織田家】


「―――との事で、信濃のほぼ全域は武田の支配下になりました」


 直子の報告を、口をあんぐりと開けて聞いていた信長。

 義元が思っていたのと同じで、武田信繁の兄への忠節は信長も知っている。

 この歴史では、直接対面を果たして、人となりも知る事ができた。(168-1話参照)

 事実を聞いても、信じられないのが本音で、また、それならそれで、妙な事に気が付いた。


「ん!? ちょっと待て! お濃は左京(武田信虎)から聞いておらんのか!? 左京! 貴様、その報告をせんかったのか!?」


「き、聞いていません。さ、左京殿!?」


「あ、いや、某は皆知っているモノとばかり……!? 申し訳ござらん! 仰る通り武田で謀反がありました!」


 これは少々致し方ない事情がある。

 越後の寺で北条氏康と帰蝶が会談した折に、信虎は報告しようとしたのだ。


『むっ! その御様子ですと(武田の内紛や信濃の危機を)事情を知っているようですな?』


『えぇ。たった今(信濃の危機を)聞いたわ。上杉殿は?』


 風魔からの報告は信濃の戦況だけだったが、それを色々早とちりしてしまった結果だ。

 それを聞いた信長は、体から力が抜け、ドスンと座った。


「成程。伝達の齟齬か。まぁ良い。良くある話だし、現状致命的な事にはなっておらん。今後気をつければ良い。はぁ……良かった」


 信長はミスは起こる物として常に計算している。

 今回の伝達ミスは、無くは無い話しだったし、少々遅れた報告になってしまっただけで挽回は可能と判断した。


「少し対応を考える。暫し待て―――」


「お、お待ち下さい!!」


 報告ミスには驚いたが、それは良い。

 だがその内容は聞き捨てならない驚愕の内容なだけに、テレパシーで考え様とした所で信虎が割って入った。


「何だ?」


「今の直子様の報告、間違っておりますぞ!」


「え? わ、私は直接甲斐守様が話すのを聞いていますが!?」


 自分の報告を間違い、しかも直に聞いた事を間違いと判断されるのは面白くない。

 だが、直子が義信から直接聞いた以上に、信虎は木曽福島城から、我が子の武田信玄と信繁が救出された現場を自ら見たのだ。

 信虎は、直子の報告を『何か変だ』と思いつつ聞いたが、やはり肝心な所が抜けていると判断し割って入った。


「信繁の謀反は体裁的にそうなのですが、今の武田信玄は影武者です! 義信が影武者信廉と共謀し、信玄を影武者信廉として、信繁を反逆首謀者として追放したのです!! 上杉殿が飛騨から信濃に入った途中の木曽福島城の牢で囚われていた2人を救出したのです! あの越後での一騎打ち、信玄と信繁は上杉殿の護衛として混ざっておったのです!」


「えぇッ!?」


「そんな!?」


「な、なんじゃと!?」


 帰蝶と直子と信長の驚愕の声が、掛け軸や襖や屋根は当然、城の塀まで吹き飛ばす如くの声で驚く。


「え……と、何じゃ? では今の武田は、武田信廉が信玄に扮し、義信と共に武田を乗っ取ったが、その情報は上杉しか知らず、義信は今川にも嘘を付いたと言う事か?」


「そうなります!」


「まぁ今川に限らず誰にも真実は言えぬか。わかった。もう他に聞くべき情報は無いな? ならば少し考えるから待て」


 信長は大きく深呼吸してテレパシーでまくし立てた。


《どういう事だ!? 歴史が変わって義信の謀反が成功し、しかも信繁の謀叛に変化したのか!?》


 歴史改変は積極的に、同時多発に起こすのを是としている信長だったが、あの信玄が、信繁が、まんまと謀反を許し、上杉に救出されていたなど、史実を知る身としては、信じ難いにも程がある。

 まだ『実は神仏は実在する』と言われた方がマシな位の衝撃だ。


《そ、そうなりますね。史実の義信さんの謀反は失敗に終わりましたが、歴史変化の結果成功してしまったと言う事になりますね》


 ファラージャも冷静を装いつつ、やはり驚いている。

 なんなら、より武田家が強大になって立ち塞がる改変は想定していたが、まさかこんな事になるとは想定外だった。


《な、なんで今度は成功したのかしら?》


 帰蝶も当然の疑問を発する。

 以前の謀反は今川家に対する扱いに反発したのが理由、というのは病気で寝ている時にも話題として聞いた。

 今の歴史は今川家が健在なので仲が悪くなる要素がない。

 信玄義信の親子間の仲が史実と変化し良くなる位はあると想定していた。

 3人とも見事に肩透かしを食らってしまったが、ただ透かされるよりも厄介な可能性があるだけに困った。


《多分じゃが、甲斐の政治が史実より悪化したのが理由ではないか? 要は信虎が追放された事の再現だ》


 信長はそう予測した。

 正解の予測であるが、周辺の勢力状況を考えれば、これしかあり得ないと気付く。


《それでもまさか、あの信玄が謀反を許すとはな。そう言えばお濃、お主は信玄と面識があるな!?》


《え、えぇ。あります。善徳寺にて直接見ました。》(164-2話参照)


《よし!》


 信長は瞑想を解くと、決断した。


「先にお濃が帰還した時、当主会談を要請する事にしたのじゃが、それは武田に信濃守を贈呈し、北条に養子の件での話を改めて通すつもりであったが、お濃は幸い本物の信玄と面識がある。左京も供をせよ! 間違いなく入れ替わっているかどうかそこで判断する!」


 こうして、今川家に三国同盟の当主を集める会談を要請する事になった。

 今度は斎藤に加え織田も入る、五か国会談となる。

 そこで、信長はとんでもない事実に気が付く事になる。

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