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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
18.5章 永禄5年(1562年) 弘治8年(1562年)英傑への道
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185-9話 停戦交渉 血筋

185話は12部構成です。

185-1話からご覧下さい。


今回は残り5話の内の3話だけ投稿し、年末には必ず残り2話を投稿します。

【越後国/三国峠 近隣の寺】


 帰蝶の療養場所として提供された寺。

 そこに北条氏康、北条綱成、斎藤帰蝶、朝倉延景が集まった。

 他には遠藤直経、浅井長政、織田於市が帰蝶に付き添っている。


「その足では床に座るのも一苦労じゃろう。床几を用意したからそちらに座られるが良かろう。左衛門(北条綱成)も辛いなら楽な姿勢で構わぬ」


 氏康が床几を用意して帰蝶に勧めた。


「心遣い、感謝します」


「はっ。拙者は首さえ動かさなければ大丈夫です」


 やはり帰蝶は一騎打ちには勝てども、肉体のダメージは綱成よりも重傷だった。

 左肩を長政に支えてもらいつつ、右手は杖を利用しで移動する帰蝶。

 戦っている時はアドレナリン全開で痛みを封じ込めていたが、戦闘が終わった今、痛みはより明確に主張激しく体の内部から暴れまわる。


「では失礼して……痛てて……!」


 血はすでに止まっているが、縫い合わせた皮膚が、動く度に引っ張られたり引きつってまぁまぁ痛い。

 帰蝶は苦痛に顔を歪めつつ、慎重に床几に座り杖で体を支えた。


「……その体で本当に左衛門に勝ったのだな」


「恐れいります」


 今の帰蝶は、当然殺気など放出していない。

 ただの女大名の斎藤帰蝶だ。

 決して小柄では無いが、男には劣る体格。

 もちろん女でも男を殺す手段など幾らでもある。

 不意打ちや、遠距離での射殺、女の武器を駆使だろうと、なんでもござれだ。


「以前、娘がな。今川の太原雪斎に教えを受け、闘争における真理を授けられたのだ。その内容はな―――」


 かつて太源雪斎が北条涼春に真理を説いた。


『残念ながら女は男より強くなれないのです。どんな理想や幻想を抱こうとも勝手ですが現実は非情なのです』(118-2話参照)


『勝てないとは申しておりません。強くはなれないと申したのです。強さと勝負の結果は簡単に結びつく物ではありません。それに男に勝つ方法が無いとは申しませぬ』


 女が男に勝つなら、男より強い武器を、より長い武器を、より有利な地形を、より卑劣な手段を。

 女が男に勝つには、絶対に同じ土俵に上がらない事が肝要なのだ。

 これが雪斎の教えだった。


 それを帰蝶は真っ向から打ち破った。

 女の身で男を倒した。


 しかも、その男はただの雑兵や貧相な男ではない。

 浅井長政や足利義輝の様な、まだ発展途上の武将でもない。

 正真正銘、日本に名を轟かす豪傑中の豪傑、地黄八幡北条綱成をだ。

 想像を絶するにも程がある。


「そんな事を教わったらしいのだ。ワシもその通りだと思う。それを真っ向から否定できる存在が居たとはな。今も夢でも見てたのかとおもっておるわ。ハッハッハ!」


「私も勝てたのは夢じゃ無いかと思っております。偶然も偶然、薄氷も薄氷、何か一つ掛け違いがあれば、私は負けていたでしょう。決して謙遜ではありません。兄上が決着を付けられなかったのも納得の強さでした」


「義龍公ですか。あの時は指揮しながらの戦闘でしたからな。ただ条件が違えば勝てる負けるの様な勝負だったとは思っておりませぬ。義龍公には引き分け、斎藤殿には負けた。結果が全てであり何の文句もありませぬ。以前は『負けて悔いなし』など負け犬の遠吠えだと思っておりましたが、今考えを改めました。負けて悔いなしです」


 帰蝶と綱成がお互いを称えあう。

 試合が終わればノーサイド、とは違うかもしれないが、確かに2人は分かり合った。

 そんな様子を見て氏康は愉快そうだった。


「良い物を見せてもらった。ワシも若かりし頃は相当無茶をしたが、左衛門に勝つには訓練でも苦労したものだ。本当に100万石の価値のある一騎打ちよ」


 氏康は己の顔に刻まれた傷痕に触れつつ、同じタイプの武将として帰蝶を褒め称えた。


「だから正直、10万石と1250貫など貰いすぎだ。故に米か銭、どちらか半分は辞退致そうと思う」


「えっ!? あ、いえ、我らは上杉と結んでおりますので余り声高には言えませんが、我らも将軍家などに価値を見出せない勢力です。北条家が被った損害を考えれば貰えるものは貰って地域の復興と関東足利家を潰す費用に充てて頂きたい。そもそも、一度提供した物を返されても困ります!」


「わかっておる。面子の問題もあろう。だからその代わり、一つ願いを聞き届けてもらいたい。これは願いなので断ってもらっても構わぬ。その時は10万石と1250貫はちゃんと貰い受ける」


「……一体何が望みでありましょう?」


「斎藤殿は織田殿とは夫婦の一方で、斎藤家の家長でもある。しかし未だ後継者が居りませぬな? まさか妊娠したまま戦ってはおりますまい?」


「それはそうですが……例え私の血筋で無くとも他の兄上の子もおりますし……」


「それはイカン! イカンぞ!?」


「えっ!?」


「帰蝶殿の直系の血筋が途絶えるなど言語道断! 日ノ本の損失であるぞ!?」


 氏康が早口でまくしたてる。


「え、その、ありがとうございます……???」


「斎藤殿、ワシの願いとはソレよ。万が一にも直系の血筋が途絶えるなどあってはならん。故に北条家から男と女一人ずつ養子を貰ってくれぬか? いつか、織田殿との子が生まれたら将来の婿、あるいは嫁にでもしてくれればありがたい!」


 氏康は滅茶苦茶な申し出をしている。

 まだ帰蝶には子を設ける猶予は十分残っているのに、養子を取れと要請している。

 また、警戒しなければならないのは、北条家による斎藤家乗っ取りだ。

 帰蝶に女子が生まれ、氏康の男児と結び、北条家一派が斎藤家の政治に割り込んでくる。

 戦国時代には履いて捨てる程にあり触れた話だ。

 

「諸問題があるのは十分承知しておる。だが、別に必ず織田や斎藤の後継者にしろ、と言うつもりは無い。実力が全ての戦国じゃ。適さぬ者を継がせて滅んでは元も子もない。だが、血筋が途絶える可能性は減らせる! 今日だって、もし討ち取られていたらと思うとゾッとするわ!」


 氏康は帰蝶が勝ったからこそ価値を認めているが、討ち取られた場合の損失を恐れる。

 勝利したからこその恐れと損失に対する不安なので、因果が逆転してしまっているが、氏康は本気で帰蝶の血筋の断絶を恐れていた。


「……ッ!!」


「と、殿、いくら何でも、その申し出は即断即決できますまい。最低でも織田殿とも相談が必要でしょう」


 綱成が余りに興奮して熱弁する主君を窘める。


「そ、そうですな。そんな無茶は良く考えてからにした方がよかろう」


 延景も助け船を出す。


「何なら、ワシだって子を斎藤家の養子に出したいですぞ!?」


「朝倉殿!?」


 助け舟ではなく追撃だった。


「2人とも冷静になられよ!」


 綱成が痛む首を抑えながら絶叫する。

 上杉政虎がこの場に居なくて良かったのだろう。

 政虎は帰蝶自体を欲している。

 話がまとまる所か混乱の極みに達していたであろう。

 なお直経も自分の息子か娘に、帰蝶の子を貰えないかと考えていたのは内緒の話だ。


「さ、さすがに斎藤家当主と言えど、コレばかりは独断で決められません」


 帰蝶も予想外の展開に傷の痛みも忘れあたふたする。

 ついさっき、見ただけで卒倒しそうな殺気を出していた人物とは思えない、その慌てぶりに4人は人間らしい帰蝶の姿を垣間見て、少しだけ安心する共に意外なギャップに魅力を感じずには居られなかった。


「織田殿や家臣の意見も聞かねばなりません。即答は出来かねますが、遠からず返事は致しましょう。なのでとりあえずは10万石と1250貫を持って関東に帰還していただきたい」


「わかった期待しておこう。ところでもう一つ。朝倉殿にも確認せねばならなかったのじゃが越前の名品とは一体?」


 最高20万石2500貫を賭けた勝負がメインだったので、副賞の名品とやらは余り眼中に無かった。

 だが、自ら名品と言うからには自慢の一品なのだろう。

 言いたい事も言ったので、興味本位で聞いてみた。


「おぉ。そうじゃった。見て驚くなかれ。コレじゃよ」


 延景が側に置いていた木箱を前に出し開けた。


「こ、これは!?」


「びーどろ製の酒飲み椀じゃ。南蛮人は『ごぶれと』と称しておったがな」


 延景の自慢の一品とはゴブレット。

 ゴブレットはワイングラスよりも持ち手が短く太い杯だが、今に至っては千差万別なのでワイングラスとの区別が付きにくいものもあるが、『聖杯型』と呼ばれるタイプもあるので、そちらを想像すると理解しやすいだろうか。


 史実では、一乗谷城の遺跡からゴブレットの一部と思われる物が発掘され、復元されている。

 ベネチア製のゴブレットと推測されており、南蛮人から入手した一品だったのだろう。


 かつて信長に国産ガラス製造の野望を話した延景である。(131話参照)

 あれから4年。

 お隣の明からも技術を取り入れ、ついに国産ガラス製品を作り出したのである。

 まだまだ透明度も形も歪だ。

 均整が取れているとは言い難い。

 ゴブレットっぽい杯だが、その歪さが味となって非常に魅力的に見える。

 そもそも『透ける個体』など、氷以外には存在しない時代だ。

 現代では透明な物体など当たり前だが、戦国時代では魔法の物体同然の代物だ。


「熱にも衝撃にも弱い。扱いには細心の注意が必要じゃが、これを進呈しよう」


 延景が名品として提案したのは、全てこの為。

 自国の技術力の高さの宣伝である。

 噂が噂を呼び、自国の経済を潤してくれる事を期待しての贈呈である。


「朝倉以外でこれを持ちたるは今の所、北条殿しかおらぬ。大切に扱ってくれると、頑張って製造した甲斐があると言うモノよ」


「た、大変貴重な物の様だ。ありがたく受け取りましょう」


 帰蝶の武術には圧倒されたが、こんどは朝倉の技術力に圧倒された北条家。

 このゴブレット一つで、この場の主役が簡単に入れ替わる程の衝撃だった。


 だが、その衝撃を軽く上回る報告が飛び込んできた。

 現れたのは風魔の伝令。

 息を切らし酸欠状態だが、それでも冷静を装って氏康に報告する。


「殿、急ぎお伝えしたい事が」


「……緊急か?」


「はい!」


 忍者は目で氏康の退室を促した。

 この場で話して良いかの判断は氏康にしか判断できないから、まずは氏康と言う事だ。


「皆すまぬが、少々席を外させて頂こう。何やら良くない事が起きた様なのでな」


 氏康が席を立ち、何となく話す事が無くなり沈黙が訪れたが、すぐにその沈黙は破られた。

 氏康が血相を変えて戻ってきたのだ。


「先の報告は皆に伝えて構わぬと判断した。だから結論から言おう。武田が信濃の大部分を制覇したらしい」


「えっ!? 上杉殿曰く、膠着状態に持ち込んだと聞いておりますが、破られたと言う事ですか?」


「戦力は互角だったハズ! それを防御重視の上杉方を武田が破ったのですか!?」


「その様だ。武田が今川の力を借りたらしい。三国同盟の効果から考えれば、これは朗報じゃな。斎藤殿にとっては悲報かも知れぬが……」


 朗報と言いつつ氏康は難しい顔をしている。

 三国同盟の一角たる北条家としては、武田が伸びるのに不満はない立場。

 だが、一向一揆対策を考えた場合と、斎藤家との接近を果たしたい今となっては『朗報』ではなく『悲報』に近い。


 今回、武田の信濃から越中侵攻と、北条の越後侵攻には両者とも今川の力を借りていない。

 背後を守る位置に居てくれるだけで十分だし、余り借りも作りたくないのが本音。

 だが事実として武田は今川の力を借りた。


 これは一体どういう事なのか?


 これこそ本物の武田信玄の、最後の足搔きが炸裂した証。(182-2話参照)

 信玄が木曽福島城から救出された際、武田の忍者に伝令を頼んだ。

 ただし、この伝令は義信派なので、信玄が救出された事も伝えたが、武田家そのものの危機として、今川家に救援の伝令に向かったのだ。



【駿河国/駿府城 今川家 しばらく前の話】


 義元としても三国同盟の維持を信長から命令されている以上、織田の利益に反する事になろうとも動かない訳には行かない。

 それに、織田と武田が婚姻同盟を結んだ事も知っている。

 今、武田が滅んでは信長の意思に反すると判断した。


『全く。織田も武田も北条も、今川を便利屋か何かと勘違いしとりゃせんか?』


『ち、父上、誰が聞いているか分かりませんので、その辺で……!』


 義元の愚痴に、氏真が慌てて止めに入る。


『これ位言わせて欲しいのう。まぁ、頼られる勢力と認められていると考える事にしようか』


 今川家は専門兵士を導入し、いつでも動ける準備は整えてある。

 何せ東は北条、北は武田、西は織田に斎藤と、救援要請は引っ切り無し。

 だが、お陰で争いに巻き込まれない立地ながらにして、専門兵士の経験値は爆上がり状態の今川家。

 古参の武将は当然、氏真、松平元康、朝比奈泰朝ら若手、果ては北条涼春まで武将としての地位を確立してしまっている。


『よし。出陣じゃ! とりあえず武田を救援しつつ様子を探る事にする』


 こうして今川軍が武田救援に向かうが、現在の武田支配者である武田信廉と武田義信は、信玄が今川に救援を頼んだ事は知っていたが、自分達が発した救援依頼ではないのでどう扱うか困った。

 何なら、本物の武田信玄救出に来たかもしれないのだ。


 だから、今川家の応対は義信が一手に引き受け、信玄に化ける信廉は、なるべく遠ざけた。

 家臣や実の子でさえ見分けが難しい信玄と信廉だが、大名クラスでは何か違和感を察知するかもしれない。


 そんな今川軍を義信は上手く扱った。

 城攻めには3倍の兵力が必要故に手詰まり感が漂っていた所に今川勢2万の救援だ。

 一方、信濃上杉勢にとっては寝耳に水だ。

 膠着状態のまま武田の時間切れを待つハズが、一気に形勢不利となってしまった。

 いくら直江景綱や村上義清が優秀な武将だとしても、数の暴力には対抗できない。


 結局、北信濃の大部分を失う撤退を喫する事になり、風前の灯となった所で武田の攻勢も止み九死に一生を得る。

 今川軍が役目を終えたとして引き上げたのだ。

 実際には義信が『これ以上御手を煩わせるのは申し訳ない。それに父の具合が優れぬのでこれ以上の経戦は難しい』と言う体で追い返したのだが、戦果としては十分でもあり、信廉と義元を面会させる訳にはいかぬ判断であった。

 あとは単純に戦線が伸びすぎて、維持にも限界があった。

 

 こうして結果としては、北信濃の9割以上は武田の手に落ち、残りの1割未満の越後国境近辺の城は奪えなかったが、国境付近の山岳地帯の城は拠点としては厄介だが、上杉が一向一揆に乗り出せば、いつでも横槍を入れられる形を作り上げる形で終戦となった。

 


【越後国/三国峠 近隣の寺】


「斎藤様!」


 帰蝶らが滞在する寺に、武田信虎と子の六郎が飛び込んできた。


「むっ! その御様子ですと事情を知っているようですな?」


「えぇ。たった今聞いたわ。上杉殿は?」


「北信濃に向け単騎で向かいました。越後の軍も後を追っています」


「えっ。あの距離を……? いえ、仕方ないとは言えコレは辛い……」


 越中から260kmを移動して三国峠まで来た政虎だが、また260kmの超長距離の大返し返しを敢行する事になってしまった。

 その心中は察するに余りある。


「また、我々親子は斎藤殿との連携として預けるとの命令が下されましたので、このままお供いたします」


 今、この場には北条家の者が居るので『連携』と濁したが、本当はお役御免故の処置である。

 信虎と信友は斎藤家の家臣に戻ったのだ。


「目的は果たせたの?」


「奴の吠え面と哀れな現状を見て溜飲は下がりました。今はこれで良しとしておきましょう」


「そう。今までご苦労様です。またの活躍を期待します。では、今すぐ美濃に帰ります!」


 帰蝶の宣言に、氏康が驚いて一応(いさ)める。


「その足でか? 馬の操作もままなるまい、と言いたいが、寝てる場合でもなかろうな」


 だが、帰還せねばならないも大名として理解はできる。


「これを渡しておこう。小田原名産の外郎(ういろう)薬だ。万能薬として痛みの緩和にも効果がある。帰還の途中途中で服用すると良いだろう」


「ありがとうございます《そうなの?》」


《成分を分析します。まぁ飲んでも害は無いでしょう。漢方薬の一種ですしね》


 現在、ファラージャは信長と帰蝶が触れた相手の遺伝子情報を読み取る事が出来る。

 薬効成分を分析するなど造作も無い事だ。

 矢傷に効果があるかと言われれば怪しいが、人間本来が持っている自然治癒力を高める効果もある。

 まったくの見当違いの処方と言う訳でも無いだろう。


 帰蝶はさっそく一粒口に放り込んで水で飲みこんだ。

 何故か滑舌が良くなった気がしたが、気のせいだろう。


「だが一つ気になるのが、この有事に織田の動きが判明しておらん。あの織田殿が何の手を打っておらんとも思えん。急いで帰るに越した事は無かろうが、心配しすぎる事もあるまい」


 氏康と信長の直接の面識はないが、共に三好長慶の面接をクリアした身である。

 そんな才覚を認められた者が、この非常事態に動いていないハズがない。


「そうですね。必ず何かしら手を打つ人ですから動いていると信じます」


 氏康と帰蝶の信頼通り、信長は動いていた。

 しかも武田が信濃を制圧する前の話だ。

 別に何か決定的な情報を得て動いている訳では無い。

 しいて言うなら『勘』や『キナ臭さ』に対する感知能力の鋭さと言うべきか。

 武田の不審な動きを感じ取り、できる限りの手を打つ為に、稲葉良通と竹中重治に対し相談して動いている。(182-1話参照)


 その一つが、塙尚子、坂茜、毛利良勝、服部一忠、前田利益の今川家派遣だった。

 信長は必ず武田が今川の力を借りると踏んだのだ。

 特に、塙尚子、坂茜は今川家特殊隠密部隊『不破一族』の顔も持っている。(外伝16話参照)

 今川軍に合流させ、信濃がどうなるか見極めを託したのだ。


 一方で信長は京に向かっている。

 飛騨から美濃、美濃から尾張、尾張から船での京への道中。

 目的は近衛前久との会談だ。

 ここで必要な物を手に入れる為に動いている。


 信濃がどうなろうと、仮に100%武田の手に落ちようとも、最低限の被害で済む様にする為の交渉をする為に。

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