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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
18.5章 永禄5年(1562年) 弘治8年(1562年)英傑への道
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185-4話 停戦交渉 勝算

185話は8~10部構成予定です。

185-1話からご覧下さい。


今回は185-7話までを投稿し、残りは12月15日までに投稿します。

「こうまで利点を並べられて3は当然、4を選ぶ奴などおりませぬ」


 氏政が3、4は無いと言った。

 やはり10万石1250貫に見合う成果を4は当然、3でも達成は不可能だ。


「まぁそうじゃな。ならば1と2、どちらを選ぶ? 当主はお主じゃ。選べ」


 その辺は当然氏康も分かっている。

 その上で氏政が何を選ぶか聞いた。


「2です」


 1、2は選んだ時点で10万石1250貫確定で、勝負に勝てばさらに倍。

 対戦相手が帰蝶だというのが油断ならないが、こちらは綱成ならば、高確率で倍額得られるだろう。


「左衛門(綱成)なら負けはしないでしょう。ならば濡れ手に粟でありましょう」


 氏政の楽観的なセリフとは裏腹に、顔は上気している。

 実は、濡れ手に粟とか綱成なら負けないとかは全て建前。

 氏政は帰蝶の戦いが見たいのだ。

 飛騨で魅せられた、あの鬼神の如き戦いを間近で見られる。

 ならば見て勉強するのが当然の選択だ。


「そこまで魅入られているのか……」


 一方、氏康は息子が強欲なのか何なのか理解に苦しむが、確かに斎藤帰蝶の噂は尋常ではない。

 一見の価値はあるのかも知れないが、それでも『そこまでか?』との疑問は氏康にもある。

 そこで、一騎打ちに指名された綱成に視線を向けた。


「左衛門……は聞くまでも無いか」


「はッ!」


 綱成も一騎打ちを申し込まれた時は、流石に仰天したが、今は戦闘準備万端で闘志に満ち満ちている。

 義龍の遺言を叶えようとする心意気、そして、先ほどから帰蝶自身が発する殺気に当てられ嫌でも血が騒ぐ。

 

「……はぁ。勝ったら兵糧20万石(100億円)と2500貫(3.75億円)か。左衛門、言うておくが、お主を失うは当然、今後の政務や戦に支障がでる傷を負っても、今回得られる価値に見合わぬぞ? わかっておるな?」


「某にそこまでの価値を付けてくださいますか!」


 氏康と綱成は兄弟同然に育ってきた仲だ。

 実力は当然、信頼できる人材として失うのは、北条家として痛すぎる損失である。


「ですが、この一騎打ち、某は100万石の価値があると思っております!」


「100万石でも釣り合わんと思うておるが、そこまで言うなら、もう何も言わん。必ず勝って見せよ! 斎藤殿、朝倉殿」


「はい」


「一騎打ちを受けよう。勝って倍額もらって帰る事にする」


「良き判断です!」


「だが、いくつか条件がある。まずは一騎打ちの日取りじゃ。今日ではない。上杉軍が集結してからだ。証人は多い方が良い。上杉政虎もその頃には間に合うだろう」


「殿は……」


 信濃に居て来られない―――

 政景がそう言おうとしたが、帰蝶が手で制した。


「私も来る様な気がします。良いでしょう。とはいえ無制限にも待てませんので、3日と区切りましょう」


「よかろう。では3日後に一騎打ちを行う。そこで我らが勝てば物資倍増。負けても引き分けでも通常のコ米と銭、人質の返還と越前の名品を受け、その代わり3年は一向一揆対策の邪魔はせぬ。如何なる結果になろうとも遵守しよう」


「はい。失われる命は多くて2人で済みます。一揆対策の為にも最小限の流血で済みましょう」


 その失われる命の1人の可能性である帰蝶が、何の憂いもなく了承した。


「一つ忘れておったが引き分けはどうする?」


「そうですね。その可能性も十分あります。その場合は、勝利と敗北時の中間の額でどうでしょう? 人質の返還と越前の名品は当然進呈します」


「中間か。兵糧15万石に1875貫だな。まぁ妥当な所か。では、内容を書状に認め、北条、斎藤、朝倉、上杉の期間限定の条約を結ぶとしよう」


 こうして奇妙な条約が結ばれ、あとは上杉軍の到着を待つ事となった。


「斎藤殿、朝倉殿、長尾殿、少し良いか?」


「はい? 何でしょう?」


「まだ不明な点でも?」


 書状を交わしそれぞれの陣へ帰還しようとした時、氏康が帰蝶と延景と政景を呼び止めた。


「不明な点もあるが、それは後で良い。その前に斎藤朝倉両家に一つ聞きたい。何故上杉の為にそこまでする? 上杉の存在は物資も命もそこまで賭けるに値するのか?」


 氏康の目から見ても、上杉は、と言うより政虎の行動は無秩序に見えて仕方ない。

 利用もしにくいし、かといって、結ぶにも不安が大きい。

 そんな勢力に、斎藤、朝倉は全幅の信頼を置いている。

 正直、不思議で仕方がない。


「上杉の為ではありませぬ。これは一向一揆対策の延長なのです。言わば日ノ本の為。上杉に消耗されては困るのでこうしてお願いしています。この機会を逃しては、北陸は永遠に騒乱続きとなりましょう」


 帰蝶は単純明快とばかりに答えた。

 その眼、残っている左目は曇りなき(まなこ)だ。


(上杉にとっても一向宗は邪魔。ならば敵の敵は味方の理論か? 斎藤、朝倉には上杉の行動原理が理解できていると?)


 一度、手痛く裏切られた北条としては、簡単に信じる事が出来ない相手だ。

 余りの信頼度に、氏康は『上杉政虎』と言う同姓同名の別人について、同じ人物と勘違いしたまま話している様な気がしてくる。


「……そこまで民の為を思うのか? ワシらも善政を心がけておるがそこまでの覚悟か。理由は分かった。だがわからん理由がある。その主張を賭けた一騎打ちの提案はともかく、それなら上杉側の誰かが戦うのが普通ではないか?」


 氏康の言う事は至極当然である。

 上杉と北条の利益を賭けた争いなのだから、両家の代表が出てくるのが基本だ。

 ここに斎藤家が割り込む余地などない。


「そこはですね、斎藤家の都合になります。最初の話に繋がりますが、兄の遺言を果たす為でもあるのです」


「我ら上杉は、仲裁方法を全て一任しておる。どんな方法であろうとな。今回の結果に関しても従う準備はできておる。斎藤殿に戦闘を任すのは、難しい仲裁を引き受けてくれた礼の一部とでも考えて頂こうか」


 帰蝶が答え、政景が補足した。

 これは柏崎から三国峠までに至る道中で、帰蝶が上杉側に提案した事だ。(184-2話参照)

 政景は冷静を装っているが、帰蝶が負けたら切腹も辞さない覚悟である。

 仲裁を頼むのはともかく、物資まで都合してもらい、女を戦いの代表にして負けたら大汚点間違いなしの判断ミス。


 もう一つ上げるなら、上杉にも豪傑の武人は少なからず存在するが、必ず間に合う保証もない。

 3日後との提案が出た時は、小島弥太郎などが一騎打ち候補に浮かんだが、間に合っても、万全である保証も無い。

 政景や長敦もそれなりに戦えるが、それなりだ。

 政景は全盛期を過ぎ、長敦はどちらかと言うと外交に才を発揮する人物。

 (いくさ)の指揮采配はともかく闘いは不向きだ。


 それに、帰蝶からはどうしても可能性を感じてしまう。

 だから賭けたのだ。

 どうせ話はまとまらない。

 しかも自ら望んでいる。

 ならばその願いを聞き届け、一騎打ちとするのが最も損害が少なく後腐れなく解決する一番の方法だ。


『お願いします。これは慰霊にして兄の遺言でもあるのです!』


 それに遺言と言われては断るのは難しい。

 兄の遺言を叶えるべく行動を起こすのは、極めて強力な死者に対する慰霊になるだろう。

 斎藤義龍の遺言に絡めた一騎打ち。

 宗教が絶対の世界である。 

 心動かされて当然である。


 もちろん打算もある。

 仮に帰蝶が敗死しても、今度は織田家が斎藤家を引き継いで一向一揆にあたるだろう。

 今の上杉は信濃からも関東からも侵略を受けている最大級のピンチなのだ。

 勝っても負けても上杉の負担は人質の返還のみで、ピンチを脱し最低限の損害で済む。

 ならばこれがベストなのだ。


「成程。最初の不自然な桶狭間の話は、全てこの為であったか。それに、そうでしたな。貴殿は、気長足姫尊おきながたらしひめのみことの化身」


「お、気長足姫尊の化身?」


 気長足姫尊こと神功皇后は女性にして武神として称えられる神様である。


「娘がな。貴殿をそう表現して絶賛しておるのじゃよ」


 涼春は帰蝶を気長足姫尊の生まれ変わりと信じて疑わない。


「娘……。涼春殿がですか。涼春殿とは良き関係を築かせて頂いております。若狭湾では助けられましたしね」


「それは何よりじゃ」


 氏康は『何よりじゃ』と言いつつ、娘が化け物を目指してる事には頭痛を覚えて仕方がない。


「何はともあれ全て条件も決まったので、両軍揃った所で始めるとして、私からも一つ聞いて良いですか?」


「何かな?」


「左京殿(氏康)は越後侵略したのに全く急いでいませんね? 電光石火で動くどころか、昨日は1日の休息を提案し、今も上杉軍が揃うのを待っている。何故ですか? もう当初の戦略は破棄していらっしゃいますよね?」


 帰蝶は率直な疑問を尋ねた。

 どうも氏康からは焦りや緊張を感じられない。

 越後に来た目的が破壊略奪ならば、のんびりとした行動は理解不能だ。

 だが氏康は明確な意思をもってのんびりとしていた理由を語った。


「その通り」


 いうや否や、氏康の雰囲気が激変した。

 信長や三好長慶が見せる強烈な覇気や殺気とはまた違う、関東の覇者たる威厳に満ちた荘厳な気配があふれ出す。

 一種の神秘性すら感じるが、口から出る言葉は恐ろしかった。


「町や村を攻撃しても良いが、設備を幾ら破壊しても損害は大した事は無いだろう。だから方針を変えたのじゃよ。……人を殺せば話は変わる、とな」


 明確な殺人を口にする氏康。

 感じる神秘性とは真逆の虐殺宣言を淡々と言うので、なお恐ろしい。


「だってそうじゃろう? 越中から遠路はるばるやってくる疲労困憊の軍を倒すなど造作もないわ。全て殺せば三国峠の撤退中の背後を気にする必要も無くなるしな。それにそうした方が後々まで損害は響くであろう。年貢から生活、兵役に至るまで、回復には何年もかかる。これ即ち関東の安全に繋がる訳じゃ」


「!!」


 氏康は軽く言うが、全員がその凄みに恐れ戦いた。

 今初めて北条氏康の正体が見えた気がした。

 政虎抜きとは言え、疲労困憊の軍相手とは言え、敵地にて相手を全滅させるつもりだったのだ。


 氏康は三国峠を越えて思ったのだ。

 こんな峠を越えて何度も越後へ攻め入るのは『冗談ではない』と。

 ならば、この一回で全て済ます。

 その上で、今、上杉が一番困るのは人への攻撃だと。

 氏康も善政家だから分かる。

 人は何より貴重な財産なのだ。

 ならば報復対象に一番ふさわしい。

 安全にも繋がるなら一石何鳥になるか分からない程に効果的だ。

 だからのんびりと待ったのだ。


「それを諦めたのは、貴殿に対する敬意と興味が勝るに他ならん。左衛門が倒されるとは思わぬが、是非ワシを驚かせてくれ」


「ご期待に添える様に頑張ります……!」


「さて、集結するまでの間、ちょっと世間話でもせぬか?」


「せ、世間話……!? わ、私は一度斎藤の本陣に帰り準備をしますのでお待ち頂ければ……」


「わかった。待っておるぞ。では朝倉殿、先ほどの不明な点について尋ねたい」


「分かりました」


 嫌に上機嫌な氏康は、鼻歌を歌いながら北条本陣を後にし延景を伴い北条本陣に向かった。

 どう戦うのか興味津なのが全く隠せていないのか、色々確認したい様だった。



【越後国/三国峠出口 斎藤、朝倉本陣】


「すみません。戦いに備えて少し瞑想をしたいので、しばらく一人にさせてください」


 帰陣した帰蝶はそう言うと、床机に腰掛け目を閉じた。


《……良いわよ。つなげて―――》


《バカタレッ!》


 帰蝶が言うや否や、体が引っ繰り返りそうになる怒声が飛んできた。


《誰がお主にそんな事を頼んだかッ!?》


 聞こえてくるのは義龍の声。

 テレパシー越しにも鼓膜を破りにくる怒声だった。

 帰蝶が一騎打ちを提案した時から、義龍は吠えまくっていた。

 余りの煩さに、ファラージャに頼んで一旦テレパシーを切ってもらい、今、再度繋げたのだ。


《綱成と戦う!? 全盛期のワシでも倒せなかったのじゃ! 綱成は、お主がどうこう出来る相手では無いわ!!》

 

《お言葉ですが!? 私もそれなりに武功を挙げて参りました! 武田信繁、足利義輝、浅井長政、遠藤直経、吉川元春、七里頼周とも戦い生き残りました! 訓練では一番最初の稲葉良通殿から始まり、宗滴殿や延景殿、父上や兄上ともやりました! もちろん織田の諸将もです!》


 帰蝶の闘いの歴史は稲葉良通から始まった。(外伝3話参照)

 それ以降、訓練から真剣まで、様々な場所や条件で戦い生き抜いてきた。


《訓練はともかく、真剣勝負の勝敗は!?》


《真剣勝負となると……えぇと……2勝1敗3分け……ですかね?》


 少々痛い所を突かれたのか、やや小声のテレパシーで返す帰蝶。

 

 帰蝶の真剣勝負は合計6戦。

 武田信繁とは右目を失う激闘を繰り広げるも勝負はつかなかった。(122-2話参照)

 足利義輝と浅井長政はそれぞれねじ伏せたが、遠藤直経には胸骨を折られ負けた。(146-1、2話、147-1話参照)

 吉川元春とは遠藤直経とのタッグと、北条涼春の狙撃援護を受けて戦うも、押し切る事叶わず時間切れとなった。(159-1、2、3話参照)

 七里頼周とは富田勢源とのタッグで戦うも、これまた時間切れで倒せなかった。(174-5話参照)


 これで6戦2勝1敗3分けだが、勝った相手は未熟で、負けた相手は強すぎた。

 だが引き分けた相手は戦いが延長していたら、恐らく負けていたかも知れないとは思っているが、もちろん口には出さない。

 どんな条件であれ、決着つかなければ引き分けなのだから。


 訓練限定では勝ったり負けたりの繰り返しだが、所詮は訓練であり殺し合いではない。

 ただし、織田軍の帰蝶より強い柴田勝家ら豪傑達から一本とる実力は備えている。

 太原雪斎の引退試合などは、武器こそ殺傷力を落としてあるが、全身全霊で戦い勝利をもぎ取った。

 所詮訓練であっても、されど訓練。

 訓練の積み重ねあっての勝利だ。


《お主が弱いとは言わん。お主が受けた未来式超特訓、ワシも受けてみたが、あれをクリアするとは本当に大したものよ!》


《あ、アレを受けたんですか!?》


《あぁ! 時間は無限にあるからな!! お主の凄さは認めよう!》


 未来式超特訓の内容が判明するのはもう少し後の話である。


《しかし悲しいかな、それだけの苦労をしてなお、お主には決定力が無い!》


 実力がある人間を倒し切るのは難しい。

 何故か?


 答えは簡単、相手も実力者だからだ。

 だが、それでもキッチリ倒すのが豪傑なのだ。


 倒せないからには何かが足りない。

 義龍はそれを決定力だと指摘した。


《足技やら流星圏やら工夫をしておるようじゃが、綱成は小手先でどうにかなる相手ではない! 桶狭間から13年。奴の単純な腕力は衰えが有るかもしれぬが、そんなモノは熟練の技術で当然補っておろう! いや、宗滴殿の様な化け物もおるからな! 何か歴史変化が起こって更に強いかもしれん! いずれにしても桶狭間より弱いハズがないわ!》


《こ、今度は薙刀にも工夫を凝らしましたし、他にも体術にも磨きを掛けました! 決して勝算が無い訳ではありませぬ!》


《そんな小細工を正面から叩き潰してきたのが、地黄八幡北条綱成だと言うのが何故分からん!?》


《小細工!? 兄上は、可愛い妹の慰霊を喜ばないのですか!?》


《えぇい! 5次元に居るワシが今更宗教的慰霊を受けて喜ぶと思うてか!? 大体可愛い妹って貴様もう27歳じゃろうに!》


《なっ!? 女性を歳で判別するのですか!?》


《そうじゃない! いくら何でも可愛いという表現範囲には収まる歳じゃ無かろう!?》


 もはや何についての話なのか分からなくなって来た所で、別のテレパシーが割り込んできた。


《まぁまぁ。良いではないか義龍殿。そこまでにしておかんと帰蝶殿の集中力を削いでしまうぞ?》


 見かねた織田信秀が割って入った。


《妹が心配なのは分かるが、そこまで絶望的な差では無いと思うぞ? 日本最強のワシが保証してやるわい》


 朝倉宗滴がかつての帰蝶との訓練を思い出し、義龍が心配する程の差は無いと判断する。 


《そうですな。帰蝶殿は未だ成長中です。拙僧は勝つと思いますぞ?》


 訓練とは言え帰蝶に全力で挑み負けた太原雪斎が太鼓判を押す。


《皆、適当な事を言っとらんか!? ち、父上からも言ってやってください!》


《まぁ……何とかなるじゃろう……》


 何故か、若干疲れた表情を見せる道三が、呑気な事を言うので義龍はさらに頭に血が上る。


《うぬぅぅぅッ! 帰蝶! お主、死ねばやり直せるとか考えておらんだろうな!?》


《失敬な! た、確かに2度目の人生ですけど、負けを前提に勝負を挑んだ事はありません!》


《クッ! ヌヌヌ!! はぁ……。いいか? 体力勝負に持ち込まれたら勝機は無い! ワシが桶狭間で奴と戦った時、ワシは疲労困憊で倒れたのに、奴は戦った後に悠々と退却しおったからな! 一撃だ! 一撃入れる事に集中して、その一撃で倒すのだ!》


《……! ありがとうございます!》


 義龍は桶狭間の時点でマルファン症候群を発症していた。

 体力の差が出てしまったのは確かに事実かもしれないが、あの時は己の軍勢も指揮しながらの戦闘でほぼ乱闘に近い。

 一騎打ちとはまた性質が違うので参考にならない部分も多いが、確かに体力的には綱成は優れているかもしれない。


「さて、北条殿に呼ばれているので行ってまいります」


 5次元での話し合いを終え瞑想と解いた帰蝶は、約束を果たすべく床几から立ち上がった。


「お一人ですか!? 護衛に某を連れて行ってください!」


「左京殿がそんな真似をするとは思えないけど、じゃあ、喜右衛門(遠藤直経)お願いね」


 こうして帰蝶は一騎打ちの時間まで、各軍の陣を回り、色々話し込んだり、北条相手にも個人的に友好を結ぶのであった。


 あと数日で、壮絶な殺し合いが始まるとは思えない空気が、越後の寒空を覆うのであった。

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