180-2話 御家騒動の余波 激変
180話は2部構成です。
180-1話からご覧下さい。
【飛騨国/山童村手前 斎藤軍、織田軍本陣】
上杉政虎から、『武田に近づき過ぎるな』と要請を受けた為、適度に手を抜いた攻撃で時間を潰す斎藤、織田連合軍。
例えるならば、『生かさず殺さず』が適当だろうか?
そんな攻撃を山童村に向けて行う。
村の周囲に点在する高所を制したので、後は本当に生かさず殺さず狙いを付けて狙撃するだけだ。
血気盛んな者は手足を射抜き、それでも抵抗するなら容赦なく射殺し、逃げ惑う者には体に当たらぬギリギリを狙って脅しをかける。
山童村の戦場は、もう戦いと言うより弓の訓練と化していた。
《これで飛騨制圧計画は一旦の終結か》
《そうですね》
当初信長は、武田の来襲を読み違えて焦って取り乱したが、新生斎藤家当主となった帰蝶が、思わぬ頼もしさを見せ、特に致命的なトラブルも無く順調に進んでいる。(170-4話参照)
飛騨の東部は武田が制圧しており、同盟を結ぶ関係上、同盟国の領土に侵攻はできない。
どうしても武田の侵攻スピードが速くなる都合上、斎藤織田が攻め込めるのはこの山童村までが限界だ。
これ以上は武田とかち合ってしまう。
『一緒に蟹寺城を攻略しよう』
武田からの困る提案を避ける為の、神速を旨とする信長らしからぬ超低速侵略だ。
(それにしてもコイツ、やはり嘘が下手じゃな。本当に問題ないならバカみたいに『そうですねー』と言う癖に。これは越前で何かあったな)
信長の勘の良さ、と言うよりは隠し事の下手クソさで、越前に問題が起きている事を看破されたファラージャ。
全くもってその通りで、朝倉軍の堀江館攻略に際し、不運にも七里頼周との遭遇戦となってしまい、これを何とか退けるも、今度は小松地方に取って返した頼周に、小松攻略軍を散々蹴散らされた。(176話、177-1話参照)
最悪なのは、そんな『七里頼周』を名乗る者が、信長達の目標地点である蟹寺城でも待ち構えている事か。
越前の七里頼周は八面六臂の活躍で朝倉宗滴の策を台無しにして朝倉延景軍の足止めに成功し、越中の七里頼周は神算鬼謀で武田信玄や上杉政虎を手玉に取っている。
いずれも歴史に燦然と輝く歴戦の武将を相手にしてだ。
(こんな時、極めて良くない事が起き続けてきた気がする……)
信長も各地方で起こっている悪夢の現状はまだ把握していない。
ただ、こんな気配や感覚には身に覚えがありすぎた。
桶狭間には黒衣の宰相太原雪斎が参加した。
近江攻略に破壊武神朝倉宗滴が暴れまわった。
その戦いに決着をつけた所に冷や水をぶっ掛けてきた日本の副王三好長慶は、蠱毒計にて敵諸共、自分達まで利用された。
飛騨防衛線は、上杉景虎に引っ掻き回され、飛騨は一向宗の手に落ちた。
蠱毒計で弱り果てたはずの朽木高島攻略では、予想外に成長を遂げた足利義輝と細川晴元に追い込まれた。
翌年、斎藤義龍の死病に際し、息子龍興が頑張り過ぎて破滅し、更に尼子水軍まで来襲する始末。
それらの悉くに関与した、帰蝶の暴れっぷりもある意味イレギュラーには違いない。
歴史改編の連続で予期せぬ事が起きるのは慣れたモノだが、慣れて予想しても上回ってくるのが傍迷惑なイレギュラーだと、何となくそんな感覚をモヤモヤしながらも掴みかけている信長。
ただし今回は、バタフライエフェクトにしても、蝶が羽ばたいて富士山大噴火な改変ぶりだ。
信長も、改変は良し悪しどちらであっても比較的歓迎してきたが、今度の改変は予想外過ぎるモノがきそうだと身構えた。
(何だ? 何が起きたら一番困る……?)
信長も色々とマズイ展開を察し、覚悟を固めるが、それを肯定しつつ打ち砕く程の凶報、と言うよりは迷報(?)が斎藤、織田軍の下に届く事になる。
上杉政虎が秘密裏に伝令を命じた加藤段蔵が現れたのである。
「失礼します。加藤段蔵殿と申す上杉軍からの伝令が参っております」
「(ほら来た! ……ん!?)加藤段蔵だと!?」
本陣を守る兵士が段蔵の来訪者の名を告げ、信長がその名に驚いた。
ますます嫌な予感が膨れ上がる。
「伝令? 経過報告でしょうか? それにしても加藤段蔵? 上杉殿の家臣にしては聞かぬ名ですな」
重治が首をひねる。
もう攻略速度を落とす要請は受けて、それは忠実に実行している。
そして勇名猛者揃いの上杉家臣の中で『加藤段蔵』の名に心当たりがない重治は、伝令の内容が特に注意するべき点も無い経過報告かと推測した。
だが信長は違った。
「聞かなくて当然だ。家臣なのかどうかは知らぬが段蔵は忍びなのだ。しかも恐らく噂に聞く風魔小太郎に並ぶ当代随一の使い手。そんな奴を伝令に送って経過報告なだけはあるまい……!」
「なんと!」
「成程。分かりました。何か重い事態が動いていると見るべきですな。よし通せ!」
己の無知を恥じる重治と、信長の驚愕に只ならぬモノを感じた良通は緊張した面持ちで、陣幕に通すように命じた。
良通の良く通る声を合図に、警護兵の後に続いて一人の男が警護兵の影の如くヌルリと本陣に入ってきた。
「!?」
三人ともその佇まいに驚いた。
目の錯覚なのか、黒いモヤが風に流れて動いている様に見え―――たのは気のせいなのか、突如輪郭が人の形を作り出したかの様にも感じたし、最初から普通に入ってき様に見える。
「お連れしま……した……? な、何か?」
案内の警護兵が暢気な声で役割を果たす。
己の背後で何が起きていたのか理解していなかった様で、信長達の驚愕の表情に『何かやらかした!?』と焦る。
「い、いや、大丈夫だ。下がってよい」
「はッ!」
怪訝な顔の警護兵が陣幕から退出すると、段蔵が早速名乗る。
「上杉軍より参りました。拙者は加藤段蔵と申します」
ごくごく普通の、何の怪しさも感じさせない環境BGMの様な目立たぬ声が、逆に怪しさを醸し出す。
『こいつは本物だ!』
そう納得させられる気配が確かにあった。
「やはり、あの加藤段蔵か。お主の腕なら、いきなりこの本陣に現れる事も可能ではないか?」
本題の前に、思わず信長が確認してしまう段蔵の胡乱な気配が、その質問をさせてしまった。
「拙者を存じて頂けるとは望外の喜び。ですが、今は伝令ですからな。やろうと思えば侵入もして見せましょうが、それでは不審者として切り捨てられましょう」
決して誇張ではない。
段蔵の実力を持ってすれば、いきなり信長と良通の目の前に出現する事も可能だが、それは流石に命を狙う刺客と勘違いされかねないので、正式な手順を踏んで普通に現れただけだ。
「そ、そりゃそうか。当然よな。だが、加藤段蔵が単なる伝令でこちらに寄越されるハズもあるまい。これは単なる経過報告ではない何かがあったのだな?」
面倒事を予知していた信長は、何が来ても言い様に、万全の心構えで聞く体制に入った。
「織田様は察しが良すぎて、説明するこちらとしては助かります―――」
段蔵は政虎の言葉をそのまま一字一句違える事無く伝えた。
七里頼周なる謀略の猛者が暴れており、当初の予定通りとは行かなくなった。
武田は既に退いており北信濃に向かった。
上杉軍の大半は越中を逆戻りして越後に帰還せざるを得ないが、政虎軍だけは蟹寺城を素通りし、武田が北信濃に向かう道をそのまま追走し、北信濃軍と挟み撃ちにする。
その時、蟹寺城から妨害の軍が出るだろうが援護して欲しい。
その上で、武田が去った跡地の管理をして飛騨統一に舵を切って欲しい。
段蔵は地図上の駒を動かしながら、丁寧に説明をした。
《えッ!?》
最初に、そして最大級に驚いたのはファラージャであった。
「ッ!?」
次いで、何が来ても言い様に、万全の心構えだった信長の体が仰け反った。
聞き捨てならぬ報告が混ざっていたからだ。
「武田が蟹寺城の攻略を失敗した場合は、我らと上杉で共同で攻める手はずだったが、今やそうも言っていられぬか! ……だが、そんな事よりもだ!」
確かに斎藤軍単独で落とすのも難しい。
良通も聞き及ぶ蟹寺城の規模から、南北で挟み込んで攻めるが上策と思っていただけに、唇を噛んで当初の作戦遂行が不可能になった事を思い知った。
だが、そんな事よりも確認しなければならい事がある。
ファラージャが驚愕し、信長も気が付いた段蔵の話の不審な点に、良通や重治も当然ながら引っ掛かりを覚えた。
「だ、段蔵殿。いま、『七里頼周なる謀略の猛者が暴れている』と申しましたな?」
これこそが、何を差し置いても聞かねばならぬ事だった。
「えぇ。それが何か?」
段蔵も何か異常事態を察したが、その正体までは流石に看破できなかった。
そんな段蔵を無視して、重治が床几から降りて膝立ちで謝罪した。
「弾正忠様(信長)! 殿(帰蝶)が越前に向かったのは、某が越前に七里頼周と下間頼廉が向かったと予測し、越前に向かわせてしまいました! 申し訳ございませぬ!」
円巌寺攻略戦で得た情報から、『下間頼廉は七里を追った』との情報を得た斎藤軍は、その行き先を、吉崎御坊と予測した。(172-5話参照)
その予測は重治が行ったのだが、実に理論的で誰も意義を唱えない予測であり、可能性は高いと判断されたが、今、その予測が外れていた事を知った重治はショックを受けたのか顔色が悪い。
「読みが外れたか。まぁ仕方あるまい。確かに吉崎御坊を放り出す本願寺の坊主が居ると考える方があり得ない発想じゃ。ワシだってそう予想するわ。気にする程の失態ではない」
本命は帰蝶の向かった越前ではなく、こちら越中だった。
こんな行動を予測できる人間は誰もいないだろう。
これを失態としてカウントするのは余りにも酷だろう。
信長含め戦国武将で優秀な人間は神懸かり的読みや策を実行するが、しかし決して神ではない。
読み違える事は誰にでもある。
(低い可能性を引き当ててしまった。ただそれだけの事。……これがこの嫌な予感の正体なのか? ファラのあの驚き方は普通ではなかったぞ?)
こんな誰にでもあり得る読み違えが嫌な予感の正体とは思えない信長だったが、その正体は即座に晴れる事になる。
計ったようなタイミングで帰蝶からの伝令が来たのだ。
内容は当然ながら『下間頼廉は越前に居るが、七里頼周に拘束された。また、その七里頼周との戦でも翻弄され膠着を余儀なくされている』であった。
「!? どういう事だ!?」
「越中にいるとたった今報告がありましたのに!」
良通と重治が、目を見開いて段蔵に顔を向けるが、その段蔵もらしからぬ驚愕の顔で驚いていた。
「う、上杉の殿は間違いなく七里頼周と名を告げましたぞ!?」
《これが不安の正体か!! ファラ! 貴様のさっきの驚きはコレだな!? 七里頼周は越前に居るのだな!?》
《そ、そうです……! 堀江館への潜入調査で確かに七里頼周に捕らわれる下間頼廉を帰蝶さんを通して私も確認しました! その後の富田勢源さんとのタッグで頼周と戦うも決着をつけられず、その後の戦でも大損害を出したと聞いています!》
信長、帰蝶、ファラージャ3人のルールとして、お互いが離れた状態で、ファラージャを通して状況把握をする事は禁じている。
それをしたら、余りにも神懸かり過ぎて信長教の発生につながる恐れがある。
ファラージャは言いたくても言えない状況から解放され、余計な事をつい口を滑らした事に気が付いていなかった。
《……潜入調査? たっぐで戦う???》
《……。あっ》
ファラージャが見るものは、信長と帰蝶の体を通したものしか見る事は出来ない。
《頼周が頼廉を捕らえる光景を確認できたのも、そのあと戦ったのも、お濃自ら潜入し至近距離で確認したなら納得だ、ってたわけか!! えぇい! 後で聞かせてもらうぞ!?》
嫌な予感を察知し何が起きても覚悟を決めていた信長でさえ、複数人の七里頼周の存在と帰蝶の潜入調査には想像の遥か斜め上の吃驚仰天盛り沢山な内容であった。
信長は眩暈がする光景を振り払うと、大きく深呼吸をして考えた。
「七里頼周を名乗る者が2人いる……。一体どういう戦略だ? ここから導き出される答えは何なのだ?」
この広範囲に渡る北陸戦線で、唯一七里頼周の謎の一端を掴む事になった斎藤、織田軍と加藤段蔵はさっそく謎解きに掛かる。
「『噂をすれば影』なんて諺もありますが、むしろコレは『說曹操曹操就到』と評するのが相応しい気がいたしますが……」
重治が知恵者らしく『說曹操曹操就到』と明の諺を披露した。
意味は『曹操の噂をすれば曹操が現れる』である。
三国志の英雄の一人である曹操の神出鬼没さを表す言葉である。
先に述べた『噂をすれば影』と同じ意味だが、今の七里頼周を表すには曹操で例える方が適切だと全員が思った。
「言いたい事は分かるが、越中と越前では距離が遠すぎる。これらは同時期の出来事なのだ。七里が妖怪の類で無いと説明がつかぬぞ?」
「黒眚とか言う妖怪が足が大層速いそうですぞ」
「妖怪か。だが敵が宗教と考えれば韋駄天の化身かもしれぬな。段蔵殿なら勝てるかね?」
「流石に拙者も黒眚や韋駄天には勝てませぬが、そんな者が居るとは信じられませぬ……!」
黒眚とは中国から日本に伝承された妖怪で、風の様に素早い獰猛で危険な妖怪である。
韋駄天は増長天の八将の一神で、奪われた物を走って追いかけ取り返した事から足の速い神様と崇められ、現代でも俊足の者を『韋駄天の○○』と例えるのはよく聞くフレーズだ。
ところで、この緊急事態に妖怪だの韋駄天だの、こんな呑気な会話をしている余裕はあるのか?
答えはNO。
余裕は無い。
だが彼らは必要だからしているのであって、決してふざけてはいない。
宗教が絶対の世界である。
物理的にあり得ない事でも、謎の現象としての可能性を検討するのが普通の時代である。
そしてその答えは妖怪や神仏にたどり着く。
史実の信長にしても、領地の湖に妖蛇がいると聞くと湖の水を抜き、その作業に埒が明かないと判断するや否や自ら湖に飛び込んで存在の有無を確認した。
事実なら退治しなければ、領地の安全を脅かす存在だからだ。
現代人なら笑い話かもしれないが、これがこの時代の常識で、神仏妖怪の可能性を選択肢から外す事は出来ないし、外してはいけないのだ。
その中で、人として出来る事を実行し、神仏や妖怪を退けるのだ。
「いや、これは七里頼周を名乗る者が複数いると断定して動くべきであろう」
一方、宗教を心中では『まやかし』と断ずる精神を持つに至った信長は違う。
怪奇現象を真っ先に否定し、人間がこんな長距離を瞬間移動出来ないのに、現実には存在しているのだから、答えは複数人だと辿り着いた。
「どうやら『七里頼周』の名は、我らが思っている以上に北陸では絶大な様だ。何ヵ国にも跨り、統率も取り難いこの一向一揆を纏めるのに複数人の七里頼周がいても何ら不思議ではない。七里が地域を纏めるのに相応しい者に名乗らせているのか、あるいは……七里は既に死しており、その意思を継いで何人かが名乗って共同で支配しているのかもしれぬ」
妖怪や神仏より、よっぽど現実的な路線の信長の考えに、良通、重治、段蔵も即座にその可能性を理解した。
「確かに。影武者的存在でもあり、実力も備えていると。越前では武で暴れ、越中では謀で欺いている、と。一種の分身の術、いや分身の計とでも申しましょうか」
段蔵が忍者らしい見解で、七里頼周の謎を分身の計と名付けた。
「しかもそんな者が何人もいる可能性すらある。黒眚や韋駄天だった方がマシですね……」
「段蔵よ。上杉殿にこの情報を今すぐ届けるのだ。その上で蟹寺城を素通りして信濃に行きたいと言う希望は叶えてやる。我らは少々無理してでも蟹寺城にいる『七里頼周』の情報を集め、あわよくば倒す、とな」
「わ、わかりました。ご武運を!」
段蔵も余程驚き慌てたのだろう。
信長達の眼前で気配を空気に溶かし、視認し辛い姿のまま陣幕を退出した。
「朝倉軍と殿にもこの情報を伝えよ! 非常事態ではない! 異常事態が起きているとな!」
竹中半兵衛が殴り書きで上杉軍からの情報を書状に認めると、良通と信長にも連盟での署名を求めた。
信長に至っては『天下布武』の印まで押した。
これでこの書状は間違いないと信じてもらえるハズである。
「全軍に通達! 今より総攻撃にて山童村を攻略する! 降伏する者の保護方針は変わらぬが、時間稼ぎには一切応じぬ!」
武田の一向一揆介入に手助けする本願寺。
そうはさせじと、一致団結する斎藤、朝倉、上杉と織田。
その思惑を全て跳ね返し、存在感を存分に見せつける七里頼周。
そんな戦略の裏で密かに遂行された、武田義信による武田家簒奪と、方針転換による北信濃侵略。
さらにその武田に同調し、昨年の借りを返すべく動き出した北条。
この未だ全ての動きを把握している者は居ない北陸戦線。
一体誰が主導権を握っているのか?
誰がこの戦場と混迷の主役なのか?
当初は全員が主役は自分だと思っていたが、蓋を開けてみれば今は全員が脇役に落とされた。
何か一つバランスが崩れたら一気に趨勢は傾くのか?
バランスを崩してなお、更なる混乱に陥るのか?
七里頼周が複数人と割れた今からが本番と言えるこの戦場。
最初に動きがあるのは、越後を守る為に撤退と、武田を追走する上杉政虎であった。
その援護をする為に、織田援軍を指揮する信長。
「直子は兵200を率いてワシの援護をせよ! 産休後の実践復帰初戦じゃ! 無理するなよ!」
「はい!」
将来の織田信正を産んで8年。
他の妻たちも続々と子を産んで子育てに奔走していたが、この度、復帰する事になった。
実子は8才で、教育は母親よりも傅役の平手政秀の仕事だ。
「茜は弓の精兵を率いて討ち漏らしを始末しつつ、指導者的坊主を狙撃せよ! お主も産休復帰初戦じゃ! 無理は禁物じゃぞ!」
「はい! ありがとうございます!」
将来の織田信孝を産んで4年。
直子らと共に子育てに奔走したが、同じく復帰を果たした。
信孝はまだ4歳で母の手は必要だが、義理の母には事欠かない。
実はこの二人、信長が慌てて呼び寄せた援軍だ。(170-4話参照)
織田家も人材に余裕がある訳ではない。
近江方面に配置した武将は常に西の動きを警戒させねばならないし、尾張や伊勢も開発や政治を疎かに出来ないほど活発化している。
となると、産後から時間も経過し体力の回復している直子と茜しかいなかった。
なお、瑞林葵は昨年、将来の相応院を産んでおり、まだ実践に復帰できる体ではない。
「小平太(服部一忠)、新助(毛利良勝)! ワシと共に村の防壁を突破する! 行くぞ!」
この2人に加え、一忠と良勝を今まで斎藤織田軍が通過し開放してきた村の復興を命じつつ、後方待機をさせてきたが、今こそ必要な武将として呼び寄せたのだ。
「はッ! ようやく出番ですな!」
「お任せを! 待ちくたびれましたぞ!」
三好長慶の下から一時的な帰国をしている2人。
この2人も尾張では領内治安警備位しか役目がない。
今、この2人を役立てずして、歴史から救う事は出来ない。(110話参照)
《葵は居らぬが、またこ奴らを側において戦うとはな。人生とはこんな面白かったかのう? 3回目なのに全く飽きさせてくれんわ!》
《お、怒ってます?》
《怒っとらん! 嬉しくて楽しくて悔しくて驚いて……! こんな感情を何と表現していいのか分からん事には怒りを覚えるがな!》
今回も今までも決して楽観視などしてこなかったが、それら想定を軽々上回って楽しませてくれる転生やり直し人生に、俄然やる気を出す信長であった。
相変わらず痔のお陰か執筆は快調です。
もしかしたら9月中に次話が投稿できるかも?




