172-5話 円巌寺攻略戦 代償の流血
172話は5部構成です。
172-1話からご覧下さい。
【円巌寺/対峙3日目明け方 円巌寺一揆軍】
円巌寺降伏前の話である。
帰蝶は織田軍の旗を掲げさせた。
織田軍旗の織田木瓜紋。
即ち地獄の紋章である。
民は恐慌状態に陥った。
帰蝶の狙い通り村長は毒に蝕ばれ、軍旗が止めとなった。
『幹円様! 今すぐ斎藤軍の旗を掲げて降伏を!』
『落ち着け! 慌てては思う壺ぞ!』
『そうやって長島は判断を誤ったのでしょう!?』
長島の二の舞は御免だとばかりに、民は強硬手段に打って出た。
刻が経過すればするほど、加速度的に地獄に堕ちていく。
チャンスは今しかないのだ。
半ば恐慌状態にある民の一人が刀を突き出した。
『グッ!』
幸いにも刃は胴体を貫く事無く逸れ腕を掠めた。
民も幹円に対する僅かな情も残っていた。
それが手元を狂わせたのだ。
『あっ……!? 幹円様!?』
刺した張本人が正気に返り幹円を気遣う。
刀を手放し駆け寄る民を手を突き出し制する幹円。
『愚か者が!!』
幹円は突き出した右手で落ちた刀を拾い上げ振りかぶる。
『え……? ひッ!?』
『何だ、そのへっぴり腰は! そんな様で人を殺せるか!』
幹円はそのまま振り下ろし、己の腹に突き立てた。
『な!? 何をッ!?』
『グッ……!! さ、斎藤家の旗を掲げよ! 降伏する! 肩を貸せ……!』
幹円は寺の門を開けさせると、刀が突き刺さったまま、障害物でうねった階段を降り力尽きて倒れた。
慌てた門徒が戸板で本陣まで運んだ次第である。
長島の惨劇の引き金が一揆内一揆だったと知っている帰蝶なれば、毒によって一揆内一揆が起こる可能性は当然想定した。
だが、幹円の言う通り規模の微調整は不可能だ。
ただそれでも、一揆内一揆が起きるとすれば、もっと北陸の新浄土真宗改の宗教汚染が酷い地域だと踏んでいた。
まさか、こんな一揆の歴史の浅い飛騨南部で起きうるとは思っていなかった。
説法によって揺さぶられ、降伏意見が多数派になれば落ちる―――
これは強いて言うなら、無神論者となってしまった帰蝶の弱点であろう。
認識齟齬が招いた悲劇だ。
信仰を失った帰蝶では、幹円の絶望を予測できなかった。
各種脅しは降伏への理由作りに過ぎないハズだった―――
しかし、陥落した先にある信仰の責任まで看破できなかった。
帰蝶だけが信仰揺らげば憑き物が落ちて一件落着だと、無意識に判断してしまった。
現代でもカルト宗教やセミナーから救い出そうとして失敗する事例が数多い。
相手の信仰を崩すのは細心の注意を払わなければ、相手はより意固地になるが、ソレで済めばラッキーで、最悪殉じてしまう場合もある。
【斎藤軍本陣】
民の話を聞き終わった帰蝶ら一同。
直経、重治、良通は神妙にしつつも疑問に思った。
(殿は何故こうも取り乱す? 犠牲は1人で済んだではないか)
(幹円殿も救いたかったと言う事でしょうか?)
(しかし、第四段階で落ちねば次の第五段階をも計画し決めたのは殿だが……?)
直経と重治は、帰蝶が何故そこまで悲痛に沈むのか理解できなかった。
第四段階が通じねば、火攻め根絶やしも辞さないと決めたのは帰蝶なのにだ。
(非常手段を選びはしても、我らが殿が優しい心の持ち主と言う事よ。だが……今後非情手段は我らが率先して手を汚さねばならんかも知れぬな)
年配の良通は一定の理解はしつつも、ある種の決断をした。
斎藤軍の中では、直経も重治も良通もこうなる覚悟を持って動いている。
帰蝶の意思に従い作戦を遂行したが、これ以上の手厚い配慮は考えてもいない。
今は戦国時代。
そんな優しい配慮は本来あり得ない無い。
仮にあるとすれば打算に過ぎず、従わぬのなら一刀両断にして切り離すのが当然である。
信長も長島での最後の一撃は、悪質に悪質を極めた屍を踏み潰すが如く一撃で葬った。
一方、帰蝶も戦では数々の兵を葬ってきたし、信長配下の時代には非情手段を実行したのも一度や二度ではない。
まだ大名として覚悟が足りないのか?
それとも、これは美徳なのか?
《姉さん……?》
《何なのかしらね? この心の動揺は? 何で勝利が喜べないのかしら……? 武将をやっていた時ならこんな事は過る事も無かったのに……》
《幹円さんに価値を認めていたのですか?》
《価値? 価値……。そうね。そうかもしれないわ。分かり合える可能性はあったわ。ならこの感情は惜しい人を死なせる後悔? それは確かにそうだけど……》
この飛騨北陸では非情手段を取る事も辞さない腹積もりだ。
それなのに幹円一人にこんな感情を抱くとは自分でも意外であった。
(女性ならではの細やかな気配りよな)
一方で配下の3人は、帰蝶の態度をそう結論付けた。
正しくも、完全ではない結論。
今は勝ったからそれでも良いが、暗雲が立ち籠れば途端に『女だから』と決めつけられる危険な結論だ。
宗教が絶対の世界で信仰を失い、女ならではの何かが存在する帰蝶。
宗教が絶対の世界に生きる配下の、男ならではの闘争に生きる武将。
両者には明確な壁があった。
「……そうでしたか」
帰蝶は心乱れながらも、民の状況説明にやっと一言呟いた。
勝つには勝った。
しかも少人数で、敵味方含め損害軽微の大戦果。
しかしその勝利は、龍興が望みに望んで失敗した、鮮やかな勝利から乖離した失敗と同じ。
龍興と違うのは、他者に理解できる点が皆無な所か。
「そうでしたか……」
もう一度つぶやき、改めて長島での信長の戦果が激烈苛烈で阿鼻叫喚の地獄であったと、帰蝶は身をもって知った。
一方、命の灯が尽きかけている幹円は話を続ける。
その言葉が、龍興程の絶望では無いにしろ、打ちひしがれている帰蝶の意識を覚醒させる。
「本願寺本家から下間頼廉という高僧が派遣されております……!」
「えっ? 下間頼廉!?」
「下間ですか。しかし下間はともかく頼廉? その頼廉とやらを殿は知っているのですか?」
素っ頓狂な声を上げる帰蝶に対し、事情をよく知らない武将は疑問が浮かぶばかり。
「顕如の右腕とも称される僧よ。その武威は僧侶の範疇に収まらない!」
「なんと!!」
帰蝶が頼廉を知っている事に驚く武将達。
右腕と高評価をされる『下間頼廉』の名を、武将達は誰も知らなかった。
謎の高評価の無名の僧を帰蝶が知っている。
帰蝶の情報収集能力に驚くが当然勘違いだ。
下間頼廉の名は、帰蝶が病で横たわっていたTake1の頃でも知っている名だ。
信長がその生涯で最も恐れたのが武田信玄なら、もっとも信長を苦しめたのが本願寺だ。
その本願寺の中でも武の象徴が下間頼廉だ。
だが今は全く違う別次元の歴史。
頼廉はこれから名を上げていくのである。
それをウッカリ当然の常識の如く驚いてしまった帰蝶だが、幹円が今際の際の言葉を絞り出している今、訂正して取り繕っている場合でも無いし、そもそも前世の知識を披露した事を気が付いていない。
「あの下間頼廉……! マズイわ……!」
今後の侵攻予定を大幅に見直さなければならない最悪の脅威だ。
思わぬ大物の名に戸惑ったが、幹円はもっと戸惑う事を言った。
「下間様を何とか探し出して、協力を仰ぐのです……! 本願寺本家も北陸には憂慮している……! 北陸では七里頼周が本家の意向を無視しているのです! 下間様はそれを止めるべく向かいました……!」
「協力!? わ、分かったわ! 必ずや! 胸に刻んでおきます!」
「宜しくお願いいたします……。葉円は居ますか?」
帰蝶に対し言うべき事を言った幹円は、急速に萎む風船の如く覇気が消失していった。
その代わりに現れたのは、義絶した弟子を案ずる姿だった。
「呼んであります! もう間もなく到着すると思います!」
後方に待機していた葉円は決着と同時に呼び寄せられて、先ほど本陣に到着した。
今頃は事情の説明を受けているはずである。
「師よ! ……父上ッ!!」
葉円は本陣内に通されるや否や、戸板に横たわる幹円を確認し叫んで駆け寄った。
「葉円……。済まなかったな。我は民を欺いた責を取る、いや取った後だな……ハハハ」
明らかに致命傷の腹の傷。
流血も夥しく、幹円の執念の成せる業なのか、生きているのが不思議な程だ。
「分かりました! 分かりましたから、どうか諦めないで!」
「無茶を言いよる……ッ!!」
幹円は大量の血を吐いた。
急速に目から光が消えうせる。
どんなに贔屓目にみても諦めるしかない状態だ。
「聞け……さっ沢彦殿の説法は恐らく、たった正しい。いつか本願寺本家も態度を改める日が……! そっその時お主は地域を真に正しい教えでみっ導き、斎藤殿とれれ、連携するのだ……!!」
もう呂律も回っていない。
余りに壮絶で、しかし美しさも感じる幹円の遺言に、葉円は当然、斎藤家の武将も感じ入るものがあったのか静かに見守る。
「最後に……ぎ、ぎぎ……! 義絶を解く。正しき道を進み王法と共に歩むのだ……!」
「父上!!」
そんな中でも最後の言葉を弟子にして実子の葉円に託し幹円は逝った。
泣き崩れる葉円の側を離れた帰蝶は、幹円の遺言を検証するべく沢彦に確認を取った。
泣くのは当然、後悔している暇も無い。
決着したのなら次の行動に移らねばならぬのが、国を預かる大名の辛い所だ。
「……所で沢彦殿。七里頼周については何かご存じで?」
幹円の遺言には驚く事ばかりであったが、この『七里頼周』については何もピンとくるモノが無かった。
幹円に問い質せる状況でも無いので流してしまったが、帰蝶にとっては完全に謎の人物だ。
「うぅむ。下間の者ならば無名でもその格は理解できますが、七里なる者となると……申し訳ありませぬが存じませぬ」
下間頼廉はこの歴史ではまだ無名だが、『下間』の姓が持つ意味は極めて大きい。
下間の姓は、本願寺においては別格の意味を持つ。
下間氏の初代は源宗重とされ、後鳥羽上皇に討たれた源頼茂に連座して処刑される所を親鸞に救われた事を契機に代々仕える事となる家柄。
例えるなら、伊達家における片倉家。
毛利家における吉川家と小早川家。
徳川家における本多家。
あるいは源義経における武蔵坊弁慶。
それ位の重鎮である。
しかし七里頼周については誰も知らなかった。
「し、七里については拙僧が」
葉円が泣きはらした顔でやってきた。
今は悲しみに暮れ、いずれは怒りや憎悪に傾きそうな危うさがあるが、こうして話してくれるなら斎藤軍に仇なす事は無さそうだと感じられる程度には落ち着いていた。
「七里頼周は北陸大将とも称される者で―――」
葉円は、幹円が頼廉に語った事と、ほぼ同じ事を語った。
親子で頼周の言葉を聞き、頼周の権勢を見てきたのだろう。
そのほぼ同じ事を語った後、顔を歪めて吐き捨てた。
「奴はッ……奴は、化け物です!」
「ば、化け物?」
「あの男は一種の化け物としか思えませぬ! 80年続く一揆を途中から引き継いだのに、その手腕は見事としか言い様がありません。もはや浄土真宗の風上にも置けぬ奴ではありますが当初は羨望の眼差しで拝んだのが悔やまれます……!」
葉円は父の死も相まって感情が乱れているのか、憎みつつもその力を認めていた。
「認めるのも悔しいですが、戦になれば鮮やかに敵を屠り、敵の策には敏感で、尚且つ自ら最前線でも戦い、それでいて思慮深く民に寄り添い、苦痛と共に歩む理想の為政者! しかも一揆を継戦し続ける治世も併せ持つのです! まさに戦国武将! こんな為政者を拙僧は他に知りませぬ!」
葉円は最大級の賞賛で憎き七里頼周を称えた。
「な、何なのその評価!?」
聞く限り正に化け物。
味方陣営ならば強烈なカリスマで嘸かし頼もしかろう。
だが、帰蝶はこんな評価を得ている人物をTake1で知らなかった。
病気だったので全ての出来事を把握している訳ではないが、それでもこの評価で知らなかったのは異常だ。
「皆は七里頼周について何か掴んでる!?」
「も、申し訳ありませぬ。恥ずかしながら初耳です!」
重治が恥じ入りながら否定し、直経と良通も驚愕の顔で同意した。
彼らも寝耳に水だったのだろう。
一揆を手強いとは認識しても、それは信仰による死兵の破壊力による手強さ、あるいは数の暴力。
それが泥沼の戦いを繰り広げているに過ぎないと思っていた。
まさか指揮官も優れているとは思ってもいなかった。
《七里頼周について教えて!?》
誰も知らないなら、ファラージャしかいない。
《え、えっと、私の知る七里頼周は、加州大将と称えられるも意に添わぬ者を処刑する、粗暴で増長した人物で信徒からも人望を失い、下間頼廉宛に弾劾状が届く有様だったとか……! 北陸大将!? ほ、本当に同一人物ですか!?》
ファラージャも知りうる情報を話す。
いずれは帰蝶や信長から聞かれるかも知れないと思い調査はしたが、実績を見る限り取るに足らない小物だと思っていただけに、とんでもない現実の評価にファラージャも戸惑っていた。
《同一人物なら歴史の変化って事!?》
思わぬ歴史改変に帰蝶は戸惑う。
斎藤、朝倉、上杉の連合軍が敗れるとは思わないが、決して楽観視は出来ない一向一揆勢力に、更なる強敵が加わったと思い知った。
「わ、分かったわ。いえ、全然理解が追い付かないけども。どうする……!」
帰蝶は考えた末に決断する。
「正体不明の七里については後回しよ! 今は遺言通り下間頼廉との接触を優先します! 半兵衛、頼廉の行先の予測はつく!?」
「はッ! 尾山御坊(金沢御坊)か吉崎御坊が有力拠点でしょう!」
重治は作戦参謀として、ここで適切な発言が出来なければ存在意義が無い。
思わぬ難題に対応するべく脳をフル回転させて答えた。
「後は鳥越城という強固な拠点もありますが、尾山は一向一揆最大の拠点と聞きます。一方で吉崎は蓮如が最初に拠点を構えた聖地とも言える場所。その上で判断するならば、下間頼廉が向かった先は吉崎御坊の可能性が高かろうと思います」
「何故だ? 尾山が最大拠点ならそこで七里は指揮を執っている可能性が高いのではないか?」
良通が率直な疑問をぶつけた。
尾山が最大拠点ならば、そこで指揮を執るのは指導者の立場的に当然の様に思える。
「幹円殿の遺言通り、頼廉は七里に接触するのが目的の模様。しかし、ここから尾山と吉崎では、若干尾山の方が遠いです。確かに七里なる者は尾山に居る可能性が高いでしょうが、そこが空振りだった場合は大幅に刻を無駄にします。故にまず勢力的にも端に位置しつつ重要拠点の吉崎に向かうと思われます」
重治の予想も単純明快だった。
効率と信仰を考えればこのルートしか考えられない。
「それもそうか。頼廉からしてみれば七里の居場所は未確定。ならば近い場所から巡るのが当然か。急がば回れと言う奴だな」
直経も重治の推理に納得した。
「補足するならば、朝倉軍の最初の目標は吉崎です。殿の言う通りに頼廉が名将ならば、七里の所在確認を兼ねて立ち寄った吉崎で指揮を執るかも知れません。吉崎は浄土真宗の聖地の一つでもありますれば、可能性としてはこれが高かろうと思います」
「成程ね。頼廉は七里に会うのも目的だけど、信徒を見捨てられない可能性は高いわね。ならば吉崎御坊に行く価値はあるわね」
帰蝶も複雑な要因の整理が着いたのか、吉崎に向かう妥当性を考える。
「また、斎藤軍が尾山に行くには一揆の拠点を強行突破せねばなりません。しかし吉崎方面は山々が連なるだけで障害は少ないです。進路を北西に向け吉崎に向かうが良策かと」
「……よし!」
帰蝶は数瞬だけ考え込んで今後の対応の為に、侵攻作戦を変更する事を決めた。
「彦四郎(稲葉良通)、貴方に兵8000預けます。当初の予定通り沢彦殿を伴って、このまま北上して村や拠点を開放しなさい」
「はっ。では殿は250で吉崎に向かわれるのですね?」
ここに至って良通も軍を分けざるを得ないのは把握している。
本願寺直接の関係者を確保できる可能性があるなら、失敗したとて分ける価値はある。
250人は少なすぎる気もするが、単身で歩む頼廉に追いつくには、少なければ少ないほど確実だ。
「ええ。浅井兵250と喜右衛門で吉崎に向かいます! 織田殿が追い付いたら……どちらを追うかは任せると伝えて」
「わかりました。お任せを」
「半兵衛には左京(武田信虎)に対する判断を全て任せます。事前に練った策は当然、臨機応変に動く事も許可します」
「はッ!」
「ようし! 軍を編成しなおす! 迅速に整えよ!」
良通の指示が飛び、斎藤軍は慌ただしく動き出した。
それを見届けると帰蝶は葉円に対し、改めて問いかけた。
「葉円殿」
「はい」
「幹円殿を弔いたい気持ちはわかります。ですが、どうか私と同行して頂けませぬか?」
吉崎に行くなら葉円の存在は重要だ。
幹円の子にして意思を継ぐ者。
円巌寺で幹円と頼廉が何を話したかは分からないが、幹円が帰蝶に託す程度には話が通じるハズだ。
その為には、宗教が絶対の世界において、師と父の葬儀を後回しにしてでも対処してもらいたい所。
本当なら無理強いしても連行したいが、幹円の最後を思えば強くは言えなかった。
「……そうですね。弔いはいつでもできますが、父の……師の遺志に沿うには今しかありませぬな。分かりました。同行いたします」
葉円は快く応じた。
そうする事が己に課された使命だと決意に満ちていた。
「ありがとう。では我らはこれより吉崎に向かい、朝倉軍と合流する!」
こうして斎藤軍は飛騨南西部に位置する円巌寺周辺までの地域を開放し、新たな局面に対し行動を開始するのであった。
【飛騨国/北東部 光念寺一向一揆軍】
「負ければ我らは武田の奴隷! 今の苦しみから解放を目指す浄土真宗の信仰とは相容れぬ! 支配下に組み込まれれば重税に次ぐ重税! 労役に次ぐ労役! 降り注ぐ理不尽な罰! 死ぬまで毟り取られ死んでも他の者が連帯責任に問われる! 父母子息を思えばここが踏ん張りどころぞ!」
武田信虎は激を飛ばして一揆勢を鼓舞していた。
信虎は武田軍を足止めする為に単身北東部に乗り込み、住民に対し扇動を行った。
北陸からの監視も居たが、やはり『武田の統治』と言うのは住民にとって寝耳に水の衝撃であった。
あっと言う間に数千人規模の一揆軍が集結し、信虎と共に武田軍に牙を剥くのであった。
(さて愚息はどうでるか? 貴様の真の資質を試させてもらうぞ! ワシを追放してまで奪い取った武田当主の座! 相応しくなければここで死ね!)
信虎は獰猛な笑みで武田信玄率いる真田軍を迎え撃つのであった。
【???国/一揆軍】
「ぬん!!」
一人の豪傑が颯爽と現れ、豪槍の一閃と共に敵兵がまとめてなぎ倒された。
「大丈夫か!?」
「は、はい! ありがとうございます!」
飛び込んできた豪傑は、敵を押しのけつつ指示を飛ばす。
「よし! お主等は後方に下がって態勢を整えよ! ここはワシが引き受ける!」
「七里様! ご武運を!」
「任せよ!」
七里頼周は愛用の槍を構え直して声高に名乗りを上げた。
「汝ら異端者に後れを取る七里頼周ではない! せめて我が槍による救済を受けて浄土へ行くがいい!!」
咆哮の如き名乗りで敵軍は総崩れとなり、追撃とばかりに七里頼周は飛び込み蹴散らすのであった。




