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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
16章 永禄3年(1560年) 弘治6年(1560年)契約の化かし合いと、完璧なる蠱毒計
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146-2話 七つ目の関門 森可成の決断

146話は2部構成です。

146-1話からご覧下さい。

 これは信長達第一陣、佐久間軍第二陣が琵琶湖に渡った後の、足利義輝が突破出来なかった七つ目の関門である『ある部分』の話である。



【近江国南/織田家 森可成軍】


『も、森様! あの、その……』


 可成の近習、木下秀吉が極めて慌てた表情で報告を持ち込んで来た。


『どうした? お主らしく無い。落ち着かんか』


 可成が、秀吉の醜態に苦言を呈する。

 折角目を掛けてやっているのに―――

 そう思った矢先、秀吉の口からトンでもない名前が飛び出して来た。


『こ、近衛家から使者が参っております』


 その発言には、流石の可成も虚を突かれた。


『コノエケ? ……コノエケってあの近衛家か!?』


 落ち着けと言った口で、驚愕の声を上げる。


『はッ! あの近衛家です! 織田の殿と至急会いたいと、殿下自ら参っております!』


『殿下自ら!? 殿はここに居らぬが、そうなると次の責任者は……ワシか!?』


 森可成は当たり前の事を叫んだ。

 余りの大物の登場に狼狽えてしまう。


『どうしますか!?』


『会わぬ訳にもいくまい。……ただ、北畠殿は呼んでおいてくれ』


 森可成は無位無官である。

 近衛前久と面会するには、身分も礼儀も不十分である。

 しかし、北畠具教ならば不足は無い。


『あっ!? お、お待ち下さい!!』


 そんな可成の心配を吹き飛ばす秀吉の声が響く。

 何と近衛前久が秀吉の制止も聞かず陣幕内に入って来たのである。


『それではマズイ! 遅い! 今、この南近江にいる重臣全員集められよ!』


 身分の低い秀吉が立ち塞がる訳にも行かず、しかし勝手に進ませる訳にも行かず右往左往する。

 可哀想な程に困り顔を極めていた。


『森殿であるな? 私は近衛前久! 儀礼的な挨拶をしている暇が無い! 先だって貴殿にだけでも伝える! ―――!!』


 近衛前久は緊急の要件を、強引に森可成に伝えた。

 前久の登場に(おのの)く可成も、今度はその内容に恐れ(おのの)いた。


『急ぎ諸将を呼び戻せ!』


 可成は伝令を総動員させ、南近江に残る諸将を呼び寄せた。

 幸い、まだ遠方には散っていなかったお陰で、一刻も掛からず主要な武将が揃うだろうが、永遠にも思える短い時間を、呼び戻した諸将が揃うまで可成は味わう事になった。



【森可成本陣の外】


『伊勢守殿(北畠具教)! 彦右衛門殿!(滝川一益)』


 帰蝶が見知った2人を見て呼び止める。


『これは濃姫様。我らも今到着した所でしてな』


『伝令の只ならぬ様子からして不測の事態ですかな?』


『好事魔多しとも言いますしね。確認しましょう』


 斎藤帰蝶、北畠具教、滝川一益は揃って森可成本陣の陣幕に入る。

 陣幕内には既に主要な武将が揃って居た。

 森可成、後藤賢豊、進藤賢盛、蒲生賢秀、柴田勝家、塙直政。

 いずれも南近江担当軍の指揮官である。


『おっと、我らが最後でした……ッ!?』


 そこに戦場に相応しく無い公家衣装の人物に目を止める。

 具教と一益が、思わず同時に声を挙げた。


『近衛殿下!?』


 礼節も何もあったものでは無いが、不測の事態過ぎたが故の叫びだろう。


『えっ!?』


 一方、帰蝶は初対面なので、予想外の人物の名に驚くしかなかった。

 可成ら既に集まって居た諸将は、具教と一益のハモった声を聞いて『やはり本物なのか』と思わずには居られなかった。


 正直、近衛前久の登場も、前久が伝えた情報も信じられなかったし、或いは手の込んだ偽報の類かと疑ってもいた。

 この場に居る武将は、順次到着するなり可成から報告を受けたが、その内容の突飛さと、その内容を伝えた人物を測りかねていたからだ。

 ただ、真実なら極めて危険な状況ではあるが、罠の可能性は排除しなければならない。

 ならば断定するには、面識のある北畠具教か滝川一益が必要である。


 そう思っていたら、その具教と一益が陣幕に入るなり同時に『近衛殿下』と叫ぶモノだから、諸将は最悪を確信し顔色が悪くなる一方であった。


『濃姫様、伊勢守殿、彦右衛門殿。急に呼び立てて申し訳ない。既に二人が叫んだ通り、近衛殿下御自ら使者としてこちらに来られた。その内容を今から伝えるので対応を協議したいのだ』


 可成は一旦呼吸を整え、何度も繰り返し説明した事を告げる。


『六角と将軍が和睦した』


『は? 何―――』


 帰蝶、具教、一益の『何ですと!?』との言葉を遮り可成は続ける。


『延暦寺から多数の僧が還俗脱走し、将軍陣営に加わっている』


『なん……ッ!』


『和睦した六角と将軍、興福寺僧兵が朽木に向かっている』


『なッ!?』


 帰蝶、具教、一益は、その余りにも予想外の内容に言葉を失った。


『正直、方面軍大将程度の某では、この苦境に対する判断が出来ぬ! 恥を忍んでの妙案を絞り出す為に協力して頂きたい!』


 可成は頭を下げた。

 能力の足りなさを隠したり取り繕っては致命傷になる。

 そう判断したが故の招集でもあった。


《将軍と六角の和睦!?》


 一方、帰蝶は帰蝶で叫ばずにはいれれなかった。

 長い間、脳内でモヤモヤしていた霧が一気に吹き飛んだからだ。


《これだわ! ずっとこの可能性を忘れていたんだわ!! 何て事ッ……!! ちょっと魔が悪過ぎるし多過ぎるわ! これも言霊なの!?》


 つい先程まで冗談めいて『好事魔多し』と言った事を、信仰心を無くした帰蝶が後悔する。

 長い間悩んでいた正体不明の懸念が晴れ、突如現れたやり直し人生終着に血の気が引く。


《あぁッ!?》


 ファラージャも遅れて事態の深刻さに驚き、負けぬ音量で叫ぶ。

 だが叫んだ所で手出しも出来ない。

 援助も出来ない。


 かなり絶望的な内容であった。

 但し絶望的ではあるが、それは『かなり』で表現されるレベルであって絶体絶命では無い。

 ファラージャも今の信長本体が孤立している訳でも無いのは、信長を通して把握している。

 これを帰蝶に伝える事は出来ないが、高島攻略の為の兵も援軍も随伴しているので絶対絶命程に危機的状況では無い。


 ―――但し、高島の状況次第では、本当に絶体絶命のマズイ事になる。


 しかもその可能性も極めて高い。

 信長は事前に『もし、高島が閑散とし、拠点にも兵が不足しているなら分散して攻略する事になろう。時は掛けたく無いからな』と言っていた。


『今の進軍計画は蠱毒計が機能している事を前提にしたモノ。その前提が崩れていると発覚した今、急いで救出に向かわねばならぬ!』


『も、もし、殿が軍を分散させ、単独で動くとなると……!』


 将軍、六角、興福寺の兵力がまとまっているなら、1万は軽く超える兵が高島に殺到する事になる。


『と、殿が率いている軍勢は!?』


『殿、明智殿、京極殿で3000、援軍の佐久間殿が3000、現地で合流する不破殿、斎藤(利三)殿、丹羽殿が2000だ……!』


 高島では編成が変わった事を南近江の武将は知らない。

 だが、それは大した問題では無い。


『総勢8000か……! 相手は寄せ集めの連合軍。常なら問題も有るまいが……!』


『しかし殿が想定している敵は朽木の将軍陣営の残留軍だけだ!』


『皆、落ち着いて下され! 我らが慌てた隙に六角が攻め寄せるかも知れませぬぞ!?』


『何と!?』


 この発言には前久も驚いた。

 自分の訪問が敵の策かも知れない事に。


『殿下! 六角は間違いなく朽木に向かったのでしょうか!?』


『そのハズ……だ!』


 前久も直接見た訳では無い。

 情報を集めた末の判断である。

 戦における策謀に関しては、六角義賢の方が上手なのは間違い無いだろう。

 故に、前久が六角に操られている可能性は否定出来ない。


『殿下、一つ聞かせて下さい。何故、こんな値千金の情報を我らに?』


 前久の内容は確かに値千金だが、何故京を飛び出してまで織田軍に伝えたか分から無い。

 その理由如何では、六角の罠の可否判断が出来るかも知れないと思い、可成は尋ねた。


『……織田殿には随分助けられておるからな。あの男ならこの世を何とかしてくれると思った個人的願望もあるが……。だが、一番の理由は六角も足利も帝を蔑ろにし過ぎた事だ。朝廷としては奴らを叩き出してくれる勢力の出現を望んでいる、と言う事なのだ』


『な、成る程!』


 この答えによって一つ疑念が晴れたが、信長の危機が回避出来た訳では無い。

 むしろ、より危険な可能性すらあり得る。


 だが―――

 これこそが義輝の挟撃失敗の原因である―――

 

 この『帝を蔑ろにし過ぎた』過去の汚点の清算が出来ていなかった事こそが、近衛前久を動かす事になり、七つ目の関門として立ち塞がり挟撃失敗となる。


 六角も足利も、朝廷の、帝の居る御所周辺地域で不毛な争いを続け過ぎた。

 蠱毒計を仕掛けられたのも原因だが、戦国時代は弱肉強食。

 三好長慶と、蠱毒計に加担した信長が悪いのではなく、地域を支配する陣営が弱いのが悪い。


 ともかく、この前久の発言では六角の罠の可否判断は出来なかったが、少なくとも前久が悪意を持って現れた訳では無い事は理解出来た。


『―――!!』


 あっと言う間に可成本陣は喧騒に包まれた。

 余りにも緊急事態過ぎる。


『森殿! 貴殿がこの南近江の総大将! 決断を!』


『……!!』


 方面軍のテスト運用で、とんでもない決断を迫られた可成。

 何せ主君の救出と言う、これ以上の危機は無い中で、意見は求めたとしても最後は結局独断で行動を決めるしか無い。


(これが大名の重みか!!)


 可成は思わず北畠具教を見た。

 この場で唯一の現役大名である具教は、落ち着いて居た。

 その上で、可成の視線を感じて具教は頷いた。


(北畠殿! ……よし!)


 可成は一度目を閉じ、軽い瞑想、と言うには力の入り過ぎた表情から目を開いた可成は、決断を下した。


『……皆の者、真偽の判断が出来ぬ今、ここは最悪を想定しよう』


 可成が下した決断は極めて普通であった。

 しかし悪手でも暴走でも無い、冷静な判断であった。

 本来なら議論さえ惜しい今、最善手段は最悪の想定である。


『その想定する最悪は、どんな想定なので?』


『近衛殿下の報告は真実と見なす。しかし六角がこの地を狙っている可能性も捨て無い』


 六角は将軍と連携して朽木高島に向かったので杞憂ではあるが、確認が取れない以上は脅威である。

 せっかく奪った南近江を再奪取される訳にはいかない。


『で、では殿の救出には向かわ無いので!?』


『違う。……向かいたくても向かえぬのじゃ』


『何故!?』


『船が無い』


『あっ』


 極めて明快単純な理由であった。

 余りの緊急事態に全員忘れていたが、動こうにも船が無かった。

 今、南近江にある軍船は全て琵琶湖を渡ってしまい、あるのは伝令用の小早が10隻程あるだけだ。

 とても大軍輸送は出来ない。

 一応、北に渡った船をもう一度南に渡してくれれば行けるが、悠長に待っている暇は無いし『今すぐ戻せ』と要請する手段も無い。


『坂本に押し入って陸路を向かう手段もあるが、延暦寺は許可せぬだろう。不可侵の約定を我等から破る訳にもいかん。あの約定は破らせる事に意味があるのじゃ。我らから破っては今後の戦略が破綻する」


『しかし殿が生きていてこその織田家ではありませぬか!』


『それは最も。じゃが、あの武装要塞を今から攻めて仮に突破出来たとしても、到底陸路では間に合わぬ」


 僅かに見える比叡山は、絶望的な規模で要塞化されている。

 攻略は年単位で必要であろう。

 どうにか突破出来た所で、信長は首と胴体が切り離されているのがオチである。


『ではどうすれば……!』


 完全に八方塞がりであった。


『……某の策を聞いて欲しい』


 何か良い案が出るかと期待していた可成であったが、そんな都合の良い話が出る事もなく、仕方なく絞り出す様な声で口を開いた。

 先程の瞑想の時から考えていた、可成なりの最善手を聞かせる為に。


『本来なら作戦には精査が必要じゃが、そんな暇は無い。まず斎藤家に更なる援軍を出して貰う』


 ただ、援軍の実現は難しいだろう。

 斎藤家は一向一揆の国となった飛騨の警戒が忙しい。

 仮に出せたとしても、到底間に合いはしないだろう。

 それは可成も理解している。

 これは軍の大将として、やるべき事を形に残しているに過ぎない。


『もう一つ。こちらが本命の策、と言える程上等な物では無いが……。北畠殿、柴田殿、塙殿、濃姫様。死地に赴いては貰えませぬか?』


『……ほう?』


 名前を呼ばれた中で、北畠具教が唯一可成の言いたい事を察した。


『北畠殿らの援軍はこのまま某に預けて頂きたい。この軍はこの地域の鎮静化を図り、六角に対し隙を見せぬ様に振舞う。どの道、大量の兵を輸送する手段が無いのだから、むしろ都合が良いと考える』


 六角へ心配は実際には杞憂なのだが、確認が取れ無い以上、備えは怠れ無い。

 せっかく取った南近江を再奪取される訳にはいかない。


『その上で、殿や北近江の将に面の割れている貴殿ら4人が、兵の指揮を放り出して伝令に行く程の危機が迫っていると、殿を探し出して伝えて貰いたい』


『成程。伝令を挟んで内容の審議判断が遅れても困る。高島では味方は分散している想定で、我等は分散軍を纏めて殿の救出を果たす』


『運良く殿の元に最初に辿り着いた者は、即座に撤退を申し出て判断を仰ぐ、と言う事ですかな?」


 可成の言いたい事を察した柴田勝家と塙直政が後を継いだ。


 一方、可成の表情は苦渋に満ちていた。

 思い付く限りの最善手を取ったが、その結果、具教らを死地に送る命令を下すのに衝撃を感じていた。

 雑兵下っ端には突撃を命令出来ても、同格の顔見知りを死地に送る命令は初めてである。

 命に価値を付ける考えであるが、戦国時代で人類皆平等などあり得ない。


 あらゆる面を考慮した人選であった。

 森可成は、南伊勢全体の防備責任者で動く事は出来ない。

 後藤賢豊、進藤賢盛、蒲生賢秀は地域調略を任されているので動けないし、仮に向かわせた所で、六角の元家臣との立場で信用されるかが、一刻を争うこの緊急事態では不安が残る。

 滝川一益は渡っても問題無い人選であるが、後藤らの調略を補佐する立場でもあり、南近江の織田軍担当者を減らすのも危険である。


 そんな判断の中、北畠具教、柴田勝家、塙直政、帰蝶の4人は、緊急性と今の役割から南近江から割いても問題無い、と言うよりは、割かざるを得ない人選であった。


『お気に召されるな。その判断こそが支配者に求められる資質。最大級に勝つ可能性を高めるには躊躇ってはなりませぬ。柴田殿、塙殿、濃姫殿。お付き合い頂けますかな?』


 全てを察していた具教が、同じく死地に向かう3人に尋ねた。


『無論です! 殿に報いるは今!』


『フフフ。こう言うのも悪く無い気分ですぞ?』


『異論はありまん。皆様、よろしくお願いします!』


 呼ばれた三人は命を捨てる事を了承した。


 こんなやり取りがあった後、帰蝶らは大急ぎで琵琶湖を縦断する事になる。

 小早を全速で漕がせ、どうにかこうにか高島の安曇川河口に上陸すると、周囲の安全を確認し4人は甲冑を脱ぎ捨てた。

 少しでも馬の速度を上げる為の軽量化と、非戦闘員である事、誰からも顔が視認しやすい事をアピールして、少しでも早く各軍の大将に伝える為であり、帰蝶が丸裸で浅井輝政と足利義輝と激突したのはコレが理由である。


 琵琶湖を北上した4人の内、帰蝶が信長の下に辿り着いた。

 帰蝶は信長に危機を伝える事に成功したのである。

 足利義輝が背後を急襲するよりも、際どいタイミングだった。


 ここからの信長は早かった。

 細い安曇川沿いを、大群で移動する事は不可能なのは、前々世で知っている。

 背後も精々義輝率いる足利軍だけで、挟撃があるのも察した。


『於濃! お主には兵100を預ける! これで本陣に残り挟撃軍を相手しろ! ワシは川上から来る軍を相手する! 伊勢守らが佐久間らを引き連れて来るまで粘れば勝つ! ……死ぬなよ!』


『お任せを!』


 こんなやり取りの後、帰蝶は本陣に残り義輝の来襲を待ち構る事5分程経過した後、浅井輝政が乗り込んで来る事になる。


 本当に間一髪と表現するしか無い、危険なタイミングであった。

 逆に、この絶好機を潰された義輝は、運が悪かったとしか言い様が無い。

 タッチの差で信長を逃がす不幸。

 六つの関門を突破しても届かない運の悪さが、足利義輝の持って生まれた星の巡りであった。



【織田信長本陣】


「一つ聞かせろ! 何故この奇襲に対応出来た!?」


 義輝が吼える。


「殿は足利軍の存在を知らなかった。だけど私達は知ったのよ! 近衛殿下のお陰でね!」


「近衛……殿下だと!?」


「貴方達は朝廷を蔑ろにし過ぎたのよ!!」


「ッ……!!」


 帰蝶の言葉を聞いて義輝は察してしまった。

 心当たりがあり過ぎる。

 朝廷に、京の民に嫌われるに十分な事をした。


 幾ら強大な軍事力を持っていても、庇護すべき者達に嫌われた支配者に未来は無い。

 どんなに主義主張の違う国であっても、宗教と同等に重い全世界共通の摂理である。


 それを自覚した義輝は、体から力が抜けるのを止められず、また、その好機を見逃す帰蝶では無い。


 長巻の攻撃力を最大限利用した斬撃が義輝を襲う。

 肩口から鎧に向けて刃が1/3程通過し、鮮血が滲みだす。


 しかし、義輝の体から力が失せ蹌踉(よろ)めいた事と鎧の防御力が幸いし、致命傷には至っていなかった。

 それに、義輝の眼は光を失っていない。

 斬られた事で逆に眼を覚まし、反撃を―――頭部に強い衝撃が走り、義輝は昏倒した。


 衝撃の正体は、帰蝶が養老山で編み出した、隻眼のハンデを無くす為の組み打ち技術の一つ、上段回し蹴りである。

 長巻を振り下ろした勢いと態勢を無駄にしない、また、拳法着であったからこそ出来たコンビネーションであった。

 実戦では初披露だったので冷や汗噴出モノの技だったが、体が自然に反応し動いた。

 切れ味鋭いその蹴りは、兜の上からでも義輝を昏倒させるに充分な威力であった。


「フゥゥゥ!! 足利義輝打ち取ったり!」


 帰蝶は震える声で、しかし遠く信長まで届く大声で、叫ぶのであった。


挿絵(By みてみん)

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[一言] 柴田「アレ?ワシらの活躍は⁉︎」
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