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信長Take3【コミカライズ連載中!】  作者: 松岡良佑
15章 永禄2年(1559年) 弘治5年(1559年)謀神、副王、かつての覇者の思惑
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140-1話 信長の偵察 堺と京

140話は2部構成です。

140-1からご覧下さい。

【尾張国/人地城 織田家】


 信長は広間に家臣を集めた。

 その顔触れは、帰蝶、織田信広、九鬼定隆、北畠具教の地域責任者と、柴田勝家、佐久間信盛ら重臣級の家臣である。


「ワシはこれから病になる」


「……何か()さるのですか?」


 病になるといって、本当に病になるのは中々稀な事だろう。

 病になる宣言をするからには、裏で何かすると相場は決まっている上に、その宣言をするのは稀代のうつけ者(のフリをする)信長である。

 この面子が集められた時点で何か驚愕の発言があるのは、織田家の家臣なら即座に察せられるし、察せなければこの場に居られない。


「ほう。驚かぬか」


「何せ、あの『うつけ』の家臣ですからな。我々も鍛えられると言うもの」


 北畠具教が『もう慣れっこ』だと言わんばかりに軽口を叩く。

 外様の家臣がこれ程の口を叩ける位に、織田家は風通しが良かった。


「フフフ。頼もしいな。そうじゃ。先日、十兵衛(明智光秀)らを近江に偵察へ行かせたが、ワシも行く事にした」


「ッ……!!」


 思わず『何ですと!?』と言いたくなる口を、歯を食いしばって耐える家臣達。

 先程『鍛えられた』と言った手前、軽々しく驚く事は出来なかった。


「……明智殿達だけでは不足があると?」


 織田信広が疑問を挟む。

 家臣達から見ても、明智光秀、森可成、後藤賢豊、進藤賢盛、蒲生賢秀の人選には文句の付け様が無い。


「そうでは無い。不足があるとすればワシの認識か。仮に十兵衛達が、完璧な情報をワシに聞かせたとしても、何か間違っている感じがしてならぬのじゃ。この不安を抱えたまま近江に行くのは致命的な失敗を引き起こしかねぬ。杞憂ならそれで良いが、警戒し過ぎて損は無い」


「殿の認識が間違っている?」


 柴田勝家が驚きの表情を見せる。

 今迄の織田家の快進撃は、まさに信長の超人的な認識力の賜物である。

 やり直している人生だとは知らないので仕方ないが、奇跡的な成果を見せている信長が間違っているとは信じられなかった。


「うむ。お主等は近江六角の状況を、比叡山延暦寺の現状をどの様に把握している?」


「それは……。六角は将軍との争いでお膝元を留守にしており、後藤殿達の流出もあり、影響力が低下しております。正直、三好殿の計略の都合が無ければ、いつでも攻め取れるでしょう。延暦寺の腐敗は此方にも轟く有様は当然、武装も充実しており、また要害比叡山で守られており、倒すにしても願証寺の様に無傷で倒すとは行かぬと思いますが……?」


 佐久間信盛が己の把握している要点を話した。


「うむ。そうじゃろう。ワシもそう思う」


 他の家臣も同様で、特に訂正や追加の話は挟まれなかった。


「その認識に誤りがあると? では我らも間違っていると言う事ですな?」


 九鬼定隆が当然の疑問を持つ。

 己の認識が間違っていると判断している信長が、家臣の自分達と同意見ならば、この場にいる全員が間違っている事になる。


「いや……。お主等は正しいかも知れぬ」


「意味が分かりませんが……」


 帰蝶も堪らず口を挟む。

 信長が間違っている=家臣の認識は信長と同じ=ならば全員間違っている。

 この図式に成るハズが成らない。

 家臣が間違っているなら、まだ理解が及ぶが、信長が『己だけが間違っている』と判断している。

 正直『何を言ってるんですか!?』とセリフが飛び出しかけた。


「ともかく、認識の違いが有るかも知れぬ。無いかも知れぬ。それを確認する為にワシが動く」


「はぁ……。まぁ警戒し過ぎて損はありますまい」


 信長の警戒を過剰な反応と眉を(ひそ)める家臣もい居たが、楽観して油断するよりはマシだと思い反対する事はしなかった。

 そもそもが、ここまで意思を固めている信長が止めて聞くとは思っていない。


 更に大前提として、仕方ない話であるが、帰蝶以外の家臣達には信長の真の警戒を分かるはずも無い。

 信長は前々世の経験で知っている。

 現在の六角は殆ど未知の姿だが、延暦寺に関しては知っている。

 身に染みて知っていると言っても過言では無い。


《要するに、知っている事がマズイって事ですねー?》


《そうじゃ。知っているワシが間違っている気がしてならんのじゃ》


 ファラージャだけが信長の真意に辿り着いたのも、やむを得ない話であった。

 一方、家臣達も念の為の確認を取った。


「その確認の為に殿が行くと。行く事を引き留めはしませぬ。その上で何となく察していますが……一応聞きますぞ? ……まさか単身ですか?」


「大当たりじゃ」


「駄目です」


「駄目か」


「はいはい! じゃあ私が一緒に!」


「駄目じゃ」


「駄目です」


 家臣に一刀両断に斬り捨てられた信長と、面白そうだと同行を申し出た帰蝶もついでに斬られた。


「仕方ない。まぁ予想の範疇じゃ。では彦右衛門(滝川一益)を連れて行く。奴は近江出身で忍びの心得もある。適任じゃろう」


 もう身軽に動ける身分で無い事は、信長も把握している。

 一縷の可能性に賭けて聞いてみただけである。

 だから、次善の策として滝川一益を指名した。


「まぁ妥当な人選でしょうな」


 一方、帰蝶は断固抗議した。


「何で私はダメなんですか!?」


「何でってお主、その眼では悪目立ちし過ぎじゃ。眼帯を外したとしても、傷も塞がった眼も目立つ」


「あっ……」


 ほぼ隻眼を克服した帰蝶は、自分の客観的な姿を忘れていた。

 逆に怪し過ぎてカムフラージュになるかも知れないし、戦国の世において刀傷など珍しくも無いが、いずれにしても帰蝶には役目を課すつもりだったので、最初から選択肢に無かった。


「於濃。お主は病で伏せているワシが存在する様に振る舞え。尾張守(織田信広)、志摩守(九鬼定隆)、伊勢守(北畠具教)も同様じゃ。無いとは思うが、有事の際には動く事を許可する。権六(柴田勝家)らは普段の任をこなしつつ、近江侵攻に備えを怠るな」


「どの様な経路で偵察に向かわれるので?」


「まず熱田から堺に渡る。そこから京を通過して近江に渡り帰還する。遅くとも秋迄には帰還するから留守は任せた」


「全て見て来るのですな。承知致しました。しかし殿、某も同行させて戴きたく。某は近江の隣接地域として長年関わって来ました。いざ後詰に動く際にも見ておく必要があると判断します」


 北畠具教が了承しつつ提案した。

 信長も具教の申し出は最もだと感じた。

 基本的に調略で落とす近江だが、後詰が必要な場合の一番手は間違い無く北畠具教であろう。


「伊勢の統治を家臣に任せて問題無いなら動向を許す」


 具教は剣術の達人であり、織田家においても5指に入る実力者である。

 信長の護衛として不足は無い。

 それでいて政治家としての能力も申し分なく、近江を見る意義はある。


「身軽に動くには、これ以上の同行者は必要無い。後の者達は任務に励む様に」


 偵察旅には信長と滝川一益、北畠具教が向かう事になり、旅先で各人の思惑を知り驚く事になる。



【摂津国/堺 織田屋敷】


 堺に到着した一行は、さっそく織田家常駐役の村井貞勝を訪ねた。

 尾張の軍事施設兼用の屋敷と違い、商業地ならではの利便性を追求しつつ金を掛けた屋敷でもあり、恐らく織田の関係場所では一番の豪華な建築物であろう。

 そんな屋敷の広間に4人が集まって、貞勝が三好の物資輸送経緯について話した。


「そう言う事か。堺に対し三好の要請があったのだな?」


「はい。物資の全てが三好殿ではありませぬ。その内訳はご存じでありますか?」


「いや知らぬ。堺衆が捻出したのも今初めて知ったのだからな」


 三好から送られた物資。

 現在織田家が単独で動員可能な兵1万を、2年運用出来る兵糧が80万石。

 更に1万貫の軍資金。


 そのおよそ半分を、堺衆が捻出したのであった。


「送った物資はお互いが半分ずつ負担しました。堺衆も最初は渋りましたが、堺は三好殿と昵懇(じっこん)です。譲渡ではなく借り入れとの事なので……」


「何!? 矢銭では無いのか?」


 矢銭では無く、借り入れと言う事実に信長は驚いた。

 それは同行者の滝川一益、北畠具教も同様で、大名の側面も持つ具教の驚き様は、後世に伝わる程であった。


「はい。拙者も驚きましたが、あの物資の半分は堺に対する三好殿の借金であります。しかし三好殿と堺の底力を思えば無理の無い物資だと思います」


 矢銭とは臨時の税であり、史実で信長は堺に対し2万貫の矢銭を要求した事がある。


 資料や解釈によって現代価値換算に多少の差はあるが、1貫=約15万円として計算すると、2万貫は30億円となる。

 田舎の地方侍がいきなりこんな要求すれば、当然断るだろう。


 信長のこの要求に対し、堺は断固拒否し防備を固める事になる。


 堺は自治都市であり、どこかの支配者とは懇意にはしても支配は受け付けて居なかったのだから、当然の流れである。

 紆余曲折あって堺は折れて織田家の支配下に組み込まれるが、前々世で信長が武力で脅して毟り取った税金が、長慶はお願いで済ませた辺り、実力と信頼の差が如実に感じられた。


 今回送られて来た1万貫(15億円)は、そう言った経緯と力が感じられる支援である。

 更に兵1万人の2年分の兵糧も同様だ。


 兵糧と動員兵力についても諸説あるが、1万石あたり250人が1年間消費する兵糧と計算すると、兵1万人分の兵糧は石高換算で40万石である。

 現代価値換算もこれまた時代によって諸説あるが、1石5万円で計算するならば、40万石は200億円の価値がある。

 これが1年分の兵糧で、2年分送られて来る。

 これ程の量の兵糧は流石に一度に送られていないが、順次運び込まれる予定である。


 長慶はその負担した半分の5000貫(7.5億円)と兵糧1年分40万石(200億円)を織田に送り、不足分を借りた上で送っても無駄にならないと判断した。


 矢銭は税金なので返却の必要が無いが、借入なら話は別である。

 長慶は堺に対し215億円以上の借金をした上で、問題無いと判断した。

 だから信長は驚いたのである。

 天下人三好長慶の底力と、計算は一体どうなっているかと。


 また、商人、商売、貸し借りは信用取引である。


『三好長慶に貸しても回収可能。三好長慶は最終的に勝つ』


 堺衆はその様に判断したのである。

 そこからも絶大な信頼が伺える。


「天下を制してしまえばは端金(はしたがね)かもしれん。返済して尚、釣りが来る程度の出費じゃろう。織田を使って何を企んでおるのじゃ……? それとも、やはり狂って居るのか?」


「これからの近江侵攻を後押しする為でしょうが、殿はその認識に疑いを持っているのですよね?」


 滝川一益が確認を取る。


「まぁ、有体に言えばそうなるな。その為の確認旅じゃ」


 一益も、信長が何に疑問を持っているのか、イマイチ把握出来ない。

 別に疑問の入る余地は無いと思うが、当の信長が疑問を持つなら従うだけだ。


「判りました。次は京ですな。京では、ちと立ち寄りたい場所が御座います故に、付き合い頂けませぬか?」


 北畠具教が提案をする。

 信長は具教が同行する理由は、近江に関する事で同行するのだと思っていたので、急な提案に驚いたが断る理由も無い。


「何ぞあるのか? ま良い。京の確認も重要じゃ。異論は無い」


 具教の提案に従い、一行は京に足を向けるのであった。



【山城国/京 本能寺】


 応仁の乱と天文法華の乱で灰燼と化した京。

 しかし、ぼちぼちと再建の進んでいる京。

 三好長慶が天皇の御所を再建し、現在は六角義賢が後を引き継ぎ京の復興を担っている。

 とは言っても、懐事情の苦しい六角家であるので、復興スピードは恐ろしく遅い上に滞っている。


 そんな中で、辛うじて寺として体裁を整えた場所に信長達一行は立ち寄った。

 正確には具教が導いて来た場所である。


《……お、おぉ。何と……!》


《アッハッハ!》


《何を笑っとる! 来る途中で何となく察したが、よりによってココか!》


《いやぁ、もうコレは笑うしか無いですよ! だって本能寺ですよ!》


 ファラージャの言う通り、具教が案内した場所は本能寺であった。

 信長にとって因縁深い本能寺。

 その門が死の国への門に見えて仕方ない信長であったが、ファラージャの爆笑に我に返った信長は一喝した。


 本殿に通された信長は、何故か落ち着かない。

 事情など知る由も無い具教は、この場に来た経緯を話し始めた。


「殿。以前某が提案し、殿が注文を付けた事を覚えていらっしゃいますか?」


「伊勢守が提案し……。まさかあの件か!?」


 具教が提案した件とは、信長の官位問題である。(129話参照)

 現在、信長は無位無官で、織田家中でも最底辺てある。

 家臣全員同じ立場ならともかく、伊勢守や尾張守など、信長を凌駕する官位を授かっている者が居る中で、自ら無冠を貫いている。


 これでは色々困ると具教が画策し、信長が注文を付け要求したのが『上総守』である。


「流石に、いきなり上総守は無理ですが、とりあえずの第一歩として官位を授かって参りました」


「ほう。何を授かった?」


「それは、某の口より使者の方より告げて頂きましょう。お通しして頂け」


 具教が寺の僧侶に告げると、寺の住職が一人の公家を連れて本殿に入室した。

 僧侶の後に続く人物に信長は心当たりがあった。


「……近衛殿下!」


 現れたのは前々世でも多大な関りを持ち、今回でも早くから関わった近衛前久である。


「以前、織田殿が上洛した際以来ですな。あの時は賊討伐の忙しい場でしたが、今回は静かな場所で何よりですな」


「静か……。確かに静かですな。本当に静かな本能寺ですな。これで六角の兵が幅を利かせて居なければ更に良かったのですが」


 あの燃える本能寺の現場に比べたら、今の本能寺は耳が痛い位の静寂だ。

 当然、前久には何の事か分からない。


「……? それは織田殿が何とかしてくれるのであろう?」


「ッ!? 殿下は三好殿の支援をご存じなので?」


「ああ。私の口からも堺に対して要請を出したのだ」


 三好長慶の底力。

 その力が単独であっても納得はしたが、更に朝廷の実力者の口添えがあった事で、更に今回の支援物資の謎が解明出来た。


《成程……。成程な。三好の要請に堺が応じ、その陰には近衛も関わっておったか。尾張で感じた違和感の一端は解明出来たが、更なる疑問が沸くな。これは流石に念入り過ぎる》


《そうですか? まぁ、それ位、蠱毒の圧迫と延暦寺に憂慮してるんじゃ無いですかね?》


「《そうではあろうが、完全な納得は出来ぬな》成程。多大な援助に感謝致します。必ずやその期待に応えて見せましょう」


「うむ。その件で北畠殿からも話を聞いておる。上総守を希望しておるとな」


「ッ!?」


 信長は思わず具教の顔を見る。

 要請はしたが、武家の上総守は朝廷にとっても禁忌である。

 それを『馬鹿正直に話す奴があるか!』と言いかけたが寸での所で止まる。

 具教の顔は真剣そのものである。


「近衛殿下に隠し事は悪手です。我等に期待をして頂けるお方なれば。今後も良好な関係を築くのであれば尚更です」


「上総守と聞いた時は驚いたモノだが、現実問題として上総守が機能しているとは言い難い現状、戦乱を収める実力者に授けるのは朝廷の一手として悪く無いと私個人は思う。無論、反対する公家が大多数だろうがな」


「……。そうですな。当然の反発でありましょう」


 朝廷は、言い換えれば伝統の担い手である。

 様々な伝統が崩れ去った今でも、極力守りたい伝統である。


「しかし、それでも欲すると?」


「欲します!」


「フー……」


 前久は口に手を当てて考える。

 苦悶の表情、とまでは言わないが、それでも重い思案があるのだろう。

 閉じた瞼には力が籠っていた。


「それを約束するには、私も覚悟を決めねばならぬ。決めねばならぬが、それには何よりも織田殿が力を付けねば画餅も画餅。あの三好を圧倒し誰にも文句を付けさせない力を得てもらわねば不可能と理解しておるな?」


「当然です」


 信長の、余りに確定確信しているかの様な返事に、前久は根拠は無いのに頼もしさを感じた。


「分かった。その時が来たならば上総守を授けられる様に手配する事を約束しよう。その約束と前段階の官位として正六位下弾正少忠を用意した。織田家は伝統的に弾正少忠を名乗って居たのだったな? 自称であるが。しかし今、それを正式に与える」


「……! はッ! 有難く!」


「それ以上の官位が与えらるかどうかは織田殿次第。滅びの兆候が見えたなら上総守の件は当然ご破算。私も織田家とは距離を取る。心して挑まれよ」


「心得ました」


「さて。威圧的な話はこれまで。ここからは近衛前久個人の話。以前の上洛の際には私に多数の支援を約束し、実際に十分な支援を頂いた。正直あの時は、狂言、誇張の類と思うたよ。確かにあの時点で、今川を退け朝倉と渡り合い実力に不足は無い。しかし、三好を倒すと言い放った時は、尾張のうつけに偽り無しと思ったのも事実」


 斎藤義龍と近衛前久を交えた、極秘の三者会談での話である。(91-1話参照)

 いくつか話をした中で、これから上洛し面会する相手を、将来倒すと信長は宣言した。

 近衛前久ならず、誰が聞いても誇大妄想だと判断しただろう。

 仮に尼子晴久が言い放ったなら説得力抜群の強弁であるが、たかが地方の、しかもポッと出の成り上がり大名の言葉である。

 話半分でも良い方で、話0.1でも多いかも知れない。


「しかし、その後も勢力を減衰させる事なく、三好と渡り合った事実は無視出来るモノでは無い。私への支援も相当な物。お陰で関白の地位を守れていると言っても過言では無い」


「お褒めに預かり光栄です」


「ならば私に何を望む? まさか上総守程度の話ではあるまい?」


「……。その望みは聞き入れられるモノでは無いかも知れませぬぞ?」


「その時は、また狂言、誇張と思うかも知れぬな」


「……。伊勢守、彦右衛門。少し外せ」


 只ならぬ雰囲気に具教、一益は圧倒される。

 今から話す事は、この国を左右する言葉なのは間違い無いが、聞いてみたい半面、聞いてはいけない思いも半面であった。


「分かりました。終わりましたらお声掛けを」


 2人が退出し本能寺に静寂が訪れる。

 周囲に人の気配がしないのを確認し、信長は口を開いた。


「―――」


「それは一体……? ……まさかッ!? 馬鹿なッ……!」


「―――」


 短いのに永遠とも感じる信長の提案が続いた。


「敢えて濁しました。当然これは飽くまで現時点での方針。世が変われば修正も入りましょう。それに天下を制しなければ画餅も画餅。先程、殿下が言った通りです」


「……ッ」


「ではこれにて失礼致します。官位の件は後日改めて返礼の品を送ります」


 信長も本殿を退出した。

 一人残された前久は呟いた。

 呟くしか無かった。


「尾張のうつけに偽り無し……か……」

140-2話はしばらくお待ち下さい。

遅くとも12/11には投稿致します。

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